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理学療法士として以下の経験と実績を持つリハビリくんが解説します♪
摂食・嚥下評価を多職種で行うべき理由
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嚥下障害の原因は様々であり複数の要因が関与しています。その要因の中でも運動障害が原因となる比率は高く、口腔期の舌運動と咽頭期の舌骨および喉頭の運動の重要性が認識されています。
特に、外部から運動が観察・触診できる喉頭運動は、嚥下反射運動を捉える上で有用な対象となります。
しかし、喉頭運動の定量的指標は、嚥下造影検査(VF)から得られるものが中心であり、臨床で簡便に利用できる喉頭運動の定量的指標が存在するのであれば、それは摂食・嚥下における貴重な情報源となります。
摂食・嚥下評価については、当然言語聴覚士が最も専門性が高く臨床能力に秀でていると考えます。筆者は理学療法士でありますが、マンパワーの問題などにより全ての患者を言語聴覚士が関わることは難しいと考えています。
そのため、理学療法士や作業療法士が臨床で摂食・嚥下の評価を行うことができて、課題がある対象者について言語聴覚士を含めた多職種に相談することができれば、今後の医療や介護に大きく貢献できるのではないかと考えております。
そこで、この記事でリハビリテーション専門職に限らず、医療従事者や介護に携わる方々が簡便に使用することができる摂食・嚥下評価についてご紹介します。
摂食・嚥下障害の評価項目
それでは、嚥下造影検査(VF)等の機器がなくても実施できる簡便かつ有効な評価について考えていきます。
- 意識(覚醒)の評価
- 反復唾液嚥下テスト(RSST)
- 相対的喉頭位置
- 舌骨上筋群の筋力評価(GSグレード)
意識(覚醒)の評価

意識(覚醒)状態の評価の 1つに、Japan Coma scale(JCS)を挙げることができます。JCS 1桁(覚醒している)は脳梗塞後の早期リハ介入可否における判断基準の1つであったり、離床プログラムを実施する際の基準にもなります。
また、JCS 1桁は経口摂取を実施するうえでの判断基準にもなります。対象者が持つ嚥下反射を生じさせるポテンシャルを最大限に発揮してもらうためには「飲み込め」という指令が発せられる状態、つまり覚醒状態が保たれていることが求められます。
1日のなかで覚醒状態にムラがある対象者もいると思いますが、少なくとも食事の際には覚醒している必要があります。この覚醒の目安についてが JCS 1桁になります。
意識障害については、他の記事で更に詳しくまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【意識障害の評価方法についての記事はこちらから】
反復唾液嚥下テスト(RSST)
反復唾液嚥下テスト(RSST)は水も食べ物も使用しないスクリーニングテストになります。空嚥下を行うことで、機能を評価することができるため安全性にも優れています。冒頭で説明したような、まさに理学療法士や作業療法士が実施するのに相応しい評価といえます。
測定方法
測定肢位は座位で行うことが推奨されています。「30秒間にできるだけ多く(ゴックンと)唾を飲み込んでみてください」と指示し、嚥下反射(空嚥下)の回数を計測します。
嚥下反射は第2指と第3指の指腹で喉頭隆起と舌骨をそれぞれ触診し、喉頭挙上・下降運動を確認します。
判定基準
30秒間に3回をカットオフ値とし、2回以下を陽性とします。実施を試みたけど0回だったパターンと、そもそも測定自体が不能であったパターンは『0回と実施不能』で区別して記録します。
測定における留意点
実施前に「30秒間テストに集中し途中で発語しないこと」「口腔内に唾液がなくなっても続けること」を説明します。
カウントにおける注意点としては、簡便な検査であるからこそ、嚥下の回数をいかに正確に数えることができるかどうかになります。
検査時には、対象者の喉頭隆起(甲状軟骨)と舌骨を触診しながら、嚥下をしてもらいます。第2指と第3指の指腹で喉頭隆起と舌骨をそれぞれ触診し、喉頭挙上・下降運動を確認し、喉頭隆起が指腹を十分に超えて挙上した場合を、1回の嚥下と数えます。
反復唾液嚥下テスト(RSST)については、他の記事で更に詳しくまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【反復唾液嚥下テスト(RSST)についての記事はこちらから】
相対的喉頭位置(T-position)の測り方

- 測定肢位:頸部最大伸展位
- 手順
- ①オトガイ–甲状軟骨上端距離=GT
- ②甲状軟骨上端–胸骨上端距離=TS をテープで測定
- ③T位置=GT / (GT+TS) を算出
- 信頼性は高く(GT, TS の ICC 0.84–0.94、T位置で加齢差あり)、若年 0.34±0.04/高齢 0.41±0.05 が基礎資料として報告されています。臨床では 0.34未満=上方群/0.47 超=下方群を外れ値の目安として全体像を捉えます。
解釈のコツ
- 下方位(>0.47)
- 加齢や頸前筋弱化の関与が強く、喉頭挙上遅延や UES 開大不全に注意
- 上方位(<0.34)
- 頸部筋緊張異常・可動域制限の関与が示唆され、平均群より問題増
- いずれも RSST / MWST 等のスクリーン+バイタル・聲質と合わせ、介入で修正可能かを判定します。
GSグレード(舌骨上筋群の筋力)

- 測定肢位
- 背臥位
- 手順
- 頸部を他動で最大前屈位にし「下顎を引いて保持」を指示
- 手を離して頭部の落下程度で 4 段階評価(低スコアほど筋力低下)
- 検者間 ICC 0.94 と高信頼。嚥下障害あり群では GS が有意に低いこと、サルコペニア関連の嚥下機能低下との関連も報告されています。近年は 5 段階の修正 GS 案も提示され、舌圧との関連が議論されています。
典型所見と対処
- GS低下 + T位置下方
- 舌骨上筋群の筋力強化(CTAR/頭挙上系)
- 一口量・粘度調整
- 再評価を短サイクルで
- GS低下 + T位置上方
- 頸部筋緊張是正と可動域改善(伸展・回旋・側屈)
- 座位支持と枕高の最適化で誘発タイミングを整える
- GS保たれ + T位置偏位
- 姿勢要因優位
- 座位・骨盤ポジショニング
- 頸部枕・頸部角度の微調整を先行
T位置×GSで決める実務フロー
- 観察(姿勢・頸部ROM・聲質・咳嗽)
- T位置とGS
- スクリーニング(RSST/MWSTなど)
- 姿勢・筋機能介入(必要に応じ粘度 / 一口量調整)
- 再評価
外れ値(<0.34 or >0.47)+ 臨床所見不一致なら VFSS / FEES 連携で病態を確定し、PAS や MBSImP で所見を構造化します。
記録テンプレ(コピペOK)
- 体位/支持: ◯◯座位(骨盤◯°・頸部◯°)
- T位置: GT◯cm、TS◯cm、T=GT/(GT+TS)=◯◯
- GS: Gr.◯(頭部落下◯◯)
- 併用所見: 聲質(湿/乾)、随意咳(強/中/弱)、RSST◯回/30秒、MWST◯点
- 介入: 姿勢◯◯、頸部ROM◯◯、舌骨上筋トレ◯◯、粘度◯、一口量◯
- 再評価: ◯分後/◯日後。必要時VFSS/FEESを依頼。
その他の摂食嚥下機能の評価スケール
- 改訂水飲みテスト
水飲みテストについては、他の記事で詳しくまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【水飲みテストの種類と評価結果についての記事はこちらから】 - フードテスト
- 咳テスト、簡易咳テスト
咳テストについては、他の記事で詳しくまとめておりますので、こちらもご覧になって頂けると幸いです☺️ 【咳テストの評価方法についての記事はこちらから】 - 簡易嚥下状態評価票(EAT-10)
EAT-10 については、他の記事で詳しくまとめておりますので、こちらもご覧になって頂けると幸いです☺️ 【EAT-10:摂食嚥下障害のスクリーニングについての記事はこちらから】 - 聖隷式嚥下質問紙
摂食嚥下障害のスクリーニング検査は、簡便性や信頼性に加えて妥当性(感度と特異度)が高いことが重要になります。近年、摂食嚥下障害のスクリーニング検査の重要性が認知されるとともに、妥当性(感度と特異度)を考慮した上で、様々な施設から独自の評価方法が報告されています。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!
この記事では「摂食・嚥下の理学療法評価」をキーワードに考えを述べさせていただきました。
こちらの記事が摂食・嚥下障害における診療やリハビリテーションに少しでもお力添えになれば幸いです!
参考文献
- 久保高明,宮本明.嚥下機能に着目した理学療法評価.PTジャーナル.2023,Vol.57,No.2,p150-155.
- 高橋浩平,高橋萌.嚥下機能に着目した在宅理学療法.PTジャーナル.2023,Vol.57,No.2,p171-178.
- 吉田剛,内山靖,熊谷真由子.喉頭位置と舌骨上筋群の筋力に関する臨床的評価指標の開発およびその信頼性と有用性.日摂食嚥下リハ会誌.2003,7(2),p143-150.
- 荒川武士,石田茂靖,佐藤祐,森田祐二,新野直明,下川龍平,煙山翔子,岡村唯.脳血管障害者の嚥下障害に関連する運動要因の検討.理学療法学.2019,第46巻第1号,p1-8.