相対的喉頭位置(RLP)と GS グレードの評価手順|嚥下筋の測定・喉頭下垂の目安・記録シート付き

栄養・嚥下
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摂食嚥下の理学療法評価:相対的喉頭位置(RLP)と GS グレードの手順

嚥下評価を「手順」で学ぶ流れを見る(ST キャリアガイド)

本記事は、嚥下リハに関わる理学療法士・作業療法士・言語聴覚士を対象に、相対的喉頭位置(Relative Laryngeal Position:RLP)舌骨上筋群の筋力評価(GS グレード)の測定方法・解釈・嚥下筋力評価のポイントをまとめたものです。実施にあたっては、各施設の手順書・安全基準に必ず従ってください。

RLP は喉頭下垂の程度を、GS グレードは顎引き保持能力を通じて嚥下筋力低下の有無をとらえる評価です。相対的喉頭位置 測定方法や喉頭 下垂 基準・喉頭 下垂 触診の具体的なコツ、顎引き 嚥下 効果の見方まで、できるだけ “明日から使える手順” を意識して整理しています。

相対的喉頭位置(RLP)とは

相対的喉頭位置(Relative Laryngeal Position:RLP)は、嚥下に関わる喉頭・舌骨の高さを、オトガイ(下顎骨先端)/甲状軟骨上端/胸骨上端(頸切痕)の 3 点から数値化した指標です。式はRLP = GT ÷(GT + TS)で表され、値が大きいほど喉頭が上方に位置していることを意味します。嚥下 筋力低下や姿勢変化に伴う喉頭下垂の “全体像” を把握しやすい点が特徴です。

RLP の測定方法(側臥位・頸部伸展)

  1. 肢位:ベッド上側臥位(通常は評価側が上)。痛みのない範囲で頸部をやや伸展位とし、枕やタオルで支持します。
  2. ランドマーク触診:①オトガイ(下顎骨先端) ②甲状軟骨上端 ③胸骨上端(頸切痕)を、喉頭 下垂 触診も兼ねて丁寧に確認します。
  3. 測定器具:柔らかいメジャー(裁縫用など)を使用し、皮膚を強く押さえず軽く密着させます。
  4. 測定部位:GT(オトガイ—甲状軟骨上端)と TS(甲状軟骨上端—胸骨上端)をそれぞれ 0.1 cm 単位で計測します。
  5. 再現性確保:側臥位の左右、頸部角度、メジャーの当て方をメモし、同じ条件で再評価できるようにしておきます。
オトガイ 甲状軟骨上端 胸骨上端(頸切痕) GT TS (GT + TS)
ランドマークは皮膚上から触知し、柔らかいメジャーで皮膚を引っ張らないように計測します。

RLP の計算式と計算例

RLP = GT ÷(GT + TS)

  • 例)GT = 7.5 cm、TS = 5.5 cm のとき:RLP = 7.5 ÷(7.5 + 5.5)= 7.5 ÷ 13 ≒ 0.58喉頭は比較的上方に位置していると解釈できます。
  • 文献報告(高齢者)では平均 RLP が0.41 ± 0.05 とされますが、測定姿勢やランドマークの取り方で値は変動するため、各施設で自前の「院内基準」を作っておくと安全です。

【RLP 簡易計算】 GT と TS を入力すると RLP が自動計算されます。

RLP:

RLP 評価でのよくある誤りと是正ポイント

RLP 評価の誤りと是正のポイント
場面 NG OK 理由
頸部位 過度な頸部伸展で測定 中間〜軽度伸展で統一 過伸展では喉頭が相対的に低くなり、喉頭 下垂 基準を誤って判定しやすい
肩の緊張 肩すくめを許容したまま計測 肩周囲を十分にリラックスさせてから計測 僧帽筋の過緊張でランドマークが触れにくくなる
ランドマーク 甲状腺腫大や皮下浮腫を考慮しない 必要に応じて舌骨体の位置も併記 膨隆部を甲状軟骨上端と誤認し、GT/TS を誤測定する危険
条件再現性 一口量や食形態が毎回バラバラ 普段の食形態・一口量で統一 嚥下負荷が変わると RLP 値の比較が困難になる

RLP の記録と前後比較のコツ

  • 測定条件の記録:側臥位の左右、頸部角度、枕・タオルの高さ、一口量・食形態、介助量をできるだけ具体的に記載します。
  • 所見の書き方:「喉頭の上方移動が乏しい」「嚥下 2 回目で再挙上」「嚥下後に湿性嗄声」「嚥下 筋力低下が疑われる」など、動き+音声+安全度をセットでまとめます。
  • 再評価:時間帯や食事場面をそろえて再測定し、RLP の数値だけでなく、RSST や水飲みテストなど他の嚥下 筋力評価とも合わせて経過を追いましょう。

舌骨上筋群の筋力評価:GS グレードとは

GS グレードは、顎引き(chin tuck)をしたまま頭部を保持できるかを 4 段階で評価する指標です。嚥下筋(舌骨上筋群)評価の一つとして、嚥下 筋力低下や頸部屈曲保持の難しさを簡便にモニタリングできます。gsグレード 嚥下の評価は、リハ室だけでなくベッドサイドでも実施しやすいのが利点です。

GS グレードの測定方法

  1. 肢位:ベッド上で背臥位。枕を外すか薄くして、頸部の中間位〜軽度屈曲位から開始します。
  2. 他動屈曲:検者が後頭部を持ち上げ、頸部を他動的に最大前方屈曲位まで誘導します。
  3. 口頭指示:下顎を引いたまま、今の頭の位置をキープしてください」と伝え、顎引き 嚥下 効果を意識させます。
  4. 観察:検者が手を離した後の頭部の落下の程度・速度・保持時間を観察し、以下の 4 グレードで判定します。

GS グレードの判定基準(4 段階)

GS グレードの判定基準
グレード 定義
1:完全落下 頭部の落下を途中で静止できず、そのまま床上まで落下してしまう。
2:重度落下 頸部屈曲可動域のおおよそ 1/2 以上まで落下するが、床上に付く前に静止して保持できる。
3:軽度落下 ある程度は落下するものの、頸部屈曲可動域 1/2 以内で静止し、その位置を保持できる。
4:静止保持 落下せず、最大前方屈曲位を維持したまま保持できる。

GS 評価での誤判定と対策

  • 代償の見落とし:腹直筋・股関節屈筋の収縮で「起き上がり動作」になっていると、実際よりも嚥下筋の筋力が強く見えます。骨盤を軽く固定し、胸郭が丸く起きてこないかを確認します。
  • 起点のずれ:頸椎ではなく胸椎屈曲が起点になっている場合、正しい GS グレードとは言えません。後頭部を支え、首だけが動くように意識づけます。
  • 疼痛の影響:頚椎症や肩関節周囲炎があると、疼痛で保持できず「筋力低下」と誤判定しやすくなります。痛みが強い場合は無理に測定せず、体位調整や別日の再評価を優先します。

RLP × GS の組み合わせでみる臨床判断のヒント

RLP と GS グレードを組み合わせることで、単なる「喉頭下垂の有無」ではなく、姿勢・嚥下筋力・全身状態を含めた嚥下障害のプロファイルを立体的にとらえられます。嚥下筋 評価を他の指標(RSST、水飲みテスト、食形態、FIM など)と統合して考えることが重要です。

RLP と GS グレードの組み合わせと示唆
RLP 値 GS グレード 示唆 対応の例
低値(喉頭下方) 1〜2 喉頭下垂+舌骨上筋群の筋力低下が強い可能性 姿勢再設定(頸部・体幹)、嚥下促通、食形態・一口量調整、全身筋力訓練・栄養介入の検討
中等度 2〜3 体調や姿勢によってばらつきやすいゾーン 同条件で再評価し、RSST・水飲みテスト・誤嚥性肺炎歴との関係を確認
高値(喉頭上方) 3〜4 喉頭位置・嚥下筋力とも比較的保たれている可能性 疲労や注意低下での変動に注意しつつ、在宅での姿勢・食事環境指導を中心にフォロー

RLP・GS をまとめて書ける嚥下評価シート

最後に、RLP と GS グレードをまとめて記録できる簡易シートです。GT/TS を入力すると RLP が自動計算されます。「印刷する」を押すと印刷用ページが表示されます。

基本情報
RLP(相対的喉頭位置)
RLP:
参考:高齢者の報告値 0.41 ± 0.05(測定条件に依存)。各施設での基準値に置き換えて解釈してください。
GS グレード
併用評価
総合所見・方針

安全配慮・中止基準

RLP・GS は比較的安全に実施できる評価ですが、嚥下障害のある方ではわずかな負荷変化でも誤嚥や呼吸状態の悪化につながる可能性があります。以下のような所見があれば、無理に続行せず中止・延期を検討してください。

実施を控える/中止する目安
状況 対応
強い頸部痛・めまい・嚥下時痛 即時中止し、バイタルと疼痛を再評価。必要に応じて主治医へ報告します。
SpO₂ 低下(目安 3%以上)・チアノーゼ 活動を中止し、体位・呼吸を整えます。改善が乏しい場合は吸引・医師への報告を検討します。
強いむせ・吸気性喘鳴・湿性嗄声の持続 同条件での再試行は避け、負荷を下げた評価に切り替えるか、別日に再評価します。

現場の詰まりどころ

実際の現場では、「RLP は測ったが解釈に迷う」「嚥下 筋力評価をどこまでルーチンに入れるか」「食形態調整とリハビリ介入の線引きが難しい」といった悩みが多く聞かれます。RLP や GS はあくまで一つの指標にすぎないため、嚥下内視鏡(VE)・栄養状態・ADL・既往歴などと組み合わせて「全体像」を描くことが重要です。

特に、喉頭下垂が強い高齢者では、姿勢調整(座位での頸部屈曲・体幹前傾)だけで安全度が大きく変わることがあります。評価のたびに RLP・GS・姿勢・食形態をセットで振り返り、「どの要素をいじると安全度が変わるのか」をチームで共有しておくと、介護スタッフや看護師とも協働しやすくなります。

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップすると閉じます。

RLP のカットオフ値はどのくらいを目安にすればよいですか?

文献では高齢者で平均 0.41 ± 0.05 などが報告されていますが、姿勢やランドマークの取り方で値は大きく変わります。施設内で 10〜20 名ほど連続症例を集めて分布を確認し、「自施設のハイリスクゾーン」を決めるのがおすすめです。例えば「0.35 未満なら要注意」「0.30 未満なら VE 検査の相談」など、運用しやすいカットラインをチームで決めておくと共有しやすくなります。

喉頭 下垂 基準として RLP だけで誤嚥リスク判定をしてもよいですか?

RLP は喉頭の高さを反映しますが、燕下反射のタイミング・咽頭クリアランス・呼吸状態などは評価していません。RLP 単独で「安全/危険」を決めるのではなく、RSST、水飲みテスト、食事観察、既往歴(誤嚥性肺炎など)と合わせて総合的に判断する必要があります。RLP が低値でも、体位調整だけで安全に経口摂取できるケースもあれば、高値でも認知機能低下や注意散漫で誤嚥リスクが高い症例もあります。

GS グレードが低い場合、どのような訓練につなげればよいですか?

GS グレード 1〜2 では、頸部屈曲保持そのものが難しいため、無理な頭部挙上訓練はかえって疼痛・疲労を強めます。まずは座位での顎引き練習、頸部周囲のストレッチ、全身のレジスタンストレーニングや栄養介入などから段階的に進めます。必要に応じて VE 所見をもとに嚥下訓練内容(シャキア訓練など)を選択すると、安全性の確認にも役立ちます。

おわりに

RLP と GS グレードは、「姿勢調整 → 段階的な嚥下刺激 → スケールでの見える化 → 再評価」という嚥下リハのリズムを作るうえで便利なツールです。喉頭位置や嚥下筋力だけでなく、栄養・ADL・認知機能も含めてチームで共有していくことで、誤嚥性肺炎の予防や在宅移行の質の向上につながります。

一方で、こうした評価・訓練を継続するには、教育体制や人員配置が整った職場かどうかも重要です。もし「今の職場では嚥下リハを学びにくい」「NST や嚥下チームで経験を積みたい」と感じている場合は、嚥下リハに力を入れている病院・施設を探してみるのも一つの選択肢です。マイナビコメディカルの資料請求ページでは、リハビリ職向けの職場比較やチェックリストをまとめて入手できるので、次の一歩を考える際のヒントとして活用してみてください。

参考文献

  • Yoshida T, Uchiyama Y. Clinical characteristics of swallowing disorders caused by cerebrovascular disease: A study using newly-developed indices for the basic elements of swallowing movement and neck range of motion. J Jpn Phys Ther Assoc. 2007;10(1):11-15. doi:10.1298/jjpta.10.11. PubMedDOI
  • Shiozu H, Higashijima M, Koga T, et al. Association of sarcopenia with swallowing problems, related to nutrition and activities of daily living of elderly individuals. J Phys Ther Sci. 2015;27(2):393-396. doi:10.1589/jpts.27.393. PubMedDOI
  • Tashiro M, Honda Y, Ohkubo M, Sugiyama T, Ishida R. Influence of cervical, thoracic and lumbar spines, and shoulder girdle range of motion on swallowing function of dependent older adults. Geriatr Gerontol Int. 2017;17(12):2565-2572. doi:10.1111/ggi.13097. PubMedDOI

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコル・施設基準の整理を発信しています。脳卒中リハビリテーションや褥瘡対策、嚥下リハなどで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、嚥下リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング

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