CDR とは?(目的と使いどころ)
CDR(Clinical Dementia Rating:臨床的認知症尺度)は、記憶・見当識・判断/問題解決・社会事象・家庭/趣味・身の回りの 6 領域を 0/0.5/1/2/3 の 5 段階で評価し、重症度(グローバル CDR)を決める半構造化面接です。CDR-SB(Sum of Boxes)は 6 領域の素点合計(0–18)で、経時変化の追跡に有用です。
外来・入院いずれでも実施でき、疾患横断で重症度を比較できる点が利点です。平均点ではなく記憶の重み付けを踏まえたアルゴリズムで最終重症度を決めるため、採点規則に沿った面接・判定が重要です。
CDR の早見表(6 領域×重症度の目安)
正式判定は面接内容の総合判断に基づきます。下表はスマホ閲覧を想定した簡潔な目安です(教育・文化差を考慮)。
領域 | 0 | 0.5 | 1 | 2 | 3 |
---|---|---|---|---|---|
記憶 | 障害なし | 軽い物忘れ(反復で想起) | 近時記憶低下(出来事保持困難) | 顕著な近時記憶低下(再学習困難) | ごく限られた記憶のみ |
見当識 | 時間・場所とも良好 | 時間で軽度の乱れ | 時間の見当識不良 | 場所も不良 | 人物も不確か |
判断/問題解決 | 適切に判断可 | 複雑課題で非効率 | 日常問題で援助を要す | 安全配慮が常時必要 | 判断不能に近い |
社会事象(Community Affairs) | 社会活動を自立 | 複雑な役割で軽度困難 | 重要な用事は同伴が必要 | 外出活動はほぼ不可 | 社会的役割は喪失 |
家庭/趣味 | 家事・趣味とも自立 | 複雑な作業で質低下 | 家事・趣味の実行が困難 | 簡単な作業のみ可能 | ほぼ実行できない |
身の回り | 完全自立 | 段取りの乱れ・忘れ | 一部見守り/部分介助 | 広範な介助が必要 | 全面介助 |
CDR-SB(Sum of Boxes):6 領域の素点合計(0–18)。最終のグローバル CDRは単純平均ではなく、記憶を重視した規則で決まります。
実施手順(半構造化面接のすすめ方)
① 対象者面接:最近の出来事、日課、金銭・服薬・移動・趣味の実行などを具体例で確認。② 介護者/同居者からの情報:実生活の変化、見守り量、失敗の頻度と一貫性。③ 観察:時間・場所の回答、見当識の揺らぎ、遂行機能の破綻。④ 6 領域に割り付け:各領域を 0/0.5/1/2/3 に一次評定。⑤ 最終重症度を決定:下記アルゴリズムに従いグローバル CDR を確定します。
面接は教育歴・生活歴の影響を受けます。単発の失敗より一貫した機能低下を重視し、抑うつ・せん妄・感覚障害の影響を除外します。
重症度の決め方(アルゴリズム要点)
グローバル CDR は「記憶に重み付け+他領域の多数決」で決まります。実装の目安は以下です(原著の採点規則を簡約)。
- 記憶の評点を基準案とする。
- 同じレベルにある領域が3 領域以上(記憶を含む)あればそのレベルを採用。
- 多数決が割れる場合は、記憶の評点に 1 段階寄せて最終レベルを決める。
- 正常と軽度の境界で揺れるときは 0.5 を検討。
例)記憶 1、その他 4 領域が 0.5、身の回り 0 のような境界例では、1または0.5を検討。平均点では決めない点に注意します。
CDR-SB の使い方(0–18 点)
CDR-SB は 6 領域の合計で、微小な変化の追跡に向きます。臨床研究で用いられる区分例:
グローバル CDR | CDR-SB の目安 | 臨床解釈のヒント |
---|---|---|
0 | 0 | 症状なし |
0.5 | 0.5–4.0 | ごく軽度。境界域のフォローが重要 |
1 | 4.5–9.0 | 軽度。IADL の支援設計 |
2 | 9.5–15.5 | 中等度。安全・介護負担対策が中心 |
3 | 16–18 | 重度。全介助レベルの調整 |
研究や集団により閾値は異なります。同一個人の経時比較で解釈することを基本にしてください。
判定・記録のコツ(臨床メモ)
- 0.5 の判断:単発の失敗ではなく、日常に軽い実害が生じ始めた一貫した低下を重視。
- 併存症の影響:うつ・睡眠不足・せん妄・難聴/視力低下で過小評価/過大評価が起きやすい。
- 文化・教育:学歴や役割で基準が変わり得る。家族情報を必ず突き合わせ。
評価運用の全体設計は 臨床フロー も参考にしてください。
よくあるミス(回避ポイント)
よくあるミス | 何が問題か | 対策 |
---|---|---|
6 領域の平均点で重症度を決める | CDR は平均ではなくアルゴリズム | 記憶重視+多数決の規則に従う |
0 と 0.5 の付け分けが曖昧 | 境界判定の再現性が下がる | 「実害の一貫性」を面接で具体例確認 |
併存症(うつ・せん妄等)を加味しない | 誤判定のリスク | スクリーニング併用・経時で確認 |
記録テンプレ(例)
領域 | 0 | 0.5 | 1 | 2 | 3 | 根拠メモ |
---|---|---|---|---|---|---|
記憶 | ||||||
見当識 | ||||||
判断/問題解決 | ||||||
社会事象 | ||||||
家庭/趣味 | ||||||
身の回り |
最終重症度:CDR ( ) / CDR-SB:( ) / 要点:(例:IADL の見守り増加、金銭管理で反復ミス 等)
よくある質問(FAQ)
CDR と CDR-SB の違いは?
グローバル CDR は 0/0.5/1/2/3 の重症度カテゴリ、CDR-SB は 6 領域の合計 0–18 の連続値です。重症度ラベルが必要なら CDR、微小変化の追跡には CDR-SB が向きます。
0.5 の付け方で迷います
「軽い物忘れ」自体は加齢でも起こります。CDR で 0.5 を検討するのは、日常生活で軽微だが一貫した機能低下が観察される場合です。単発よりも頻度と持続を重視します。
所要時間と訓練は?
半構造化面接で概ね 15–30 分。採点の一貫性確保のため、標準化マニュアルの共有と事前トレーニングを推奨します。
参考文献
- Hughes CP, Berg L, Danziger WL, Coben LA, Martin RL. A new clinical scale for the staging of dementia. Br J Psychiatry. 1982;140:566-572. https://doi.org/10.1192/bjp.140.6.566
- Morris JC. The Clinical Dementia Rating (CDR): current version and scoring rules. Neurology. 1993;43(11):2412-2414. https://doi.org/10.1212/WNL.43.11.2412
- O’Bryant SE, Waring SC, Cullum CM, et al. Staging dementia using Clinical Dementia Rating Scale Sum of Boxes scores. Arch Neurol. 2008;65(8):1091-1095. https://doi.org/10.1001/archneur.65.8.1091