カルテを書く目的
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診療業務にもれなくセットでついてくるカルテ記載についてですが、カルテを書く目的は大きく 3 つに分類することができます。
①法律上の義務
医師法第 24 条 1 項に「医師は診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。」と定められております。
こちらの法律は医師法ではありますが、医師以外の医療従事者においても診療した場合には、診療における記録をカルテという形で残す必要があります。
また、厚生労働省が作成した「診療情報の提供等に関する指針」によると患者本人や家族に希望された場合、医療従事者等は原則としてカルテ開示に応じる必要があります。こういったものに、きちんと応えるためにも日々の診療記録はカルテ記載していく必要があります。
②臨床で必要になる
カルテには、現在に至るまでの患者の状態とそれに対して提供されてきた医療行為、及びその根拠たる分析や考察の経緯が時系列で記録されています。そのためカルテには「何か必要な情報があればカルテを確認すればすぐにわかる」このような機能が求められています。
例えば、リハビリテーション専門職の働き方として、100 人いる入院患者を 5 人の理学療法士で 20 名ずつ担当制にして日々の診療に臨むような方法があります。そして時には、そのうちの 1 名の理学療法士が家庭の都合で急に退職してしまい、急な話であったため申し送りの時間も作れないようなこともあるかもしれません。
こんなことも時にはあるかもしれませんが、そんな時でもカルテを見れば今までのリハビリテーションの記録や患者が入院に至るまでの記録がわかります。むしろ、カルテ記載にはそういった記録が求められています。引き継いだ理学療法士が今までの経過がろくにわからない、なんてことになるカルテは診療録として不十分になります。
③診療報酬請求の根拠になる
介護保険制度によるリハビリテーションのカルテも同様かもしれませんが、医療における保険診療においては、診療報酬明細書(レセプト)に記載されていることの根拠はすべて診療録等に求められることになっています。
診療報酬の請求及び支払が行われた後であっても診療録等に不備があると、時に行政指導等で多額の返還を求められることがあります。
日々忙しい診療業務の合間にカルテを記載するのは、なかなか大変な作業ではありますが、以上のようにカルテ記載は目的が明確にありますので、目的に沿った記載方法で記録を残していく必要があります。
SOAPとは(カルテ記録)
カルテを書く目的がわかったところで、続いてはカルテの記載方法について解説させていただきます。
カルテは SOAP という考え方に従って記載するのが最もわかりやすいと筆者は考えています。SOAP の考え方とは「対象者の問題点を見つけ、医療従事者としてどう対応するべきかを考えるためのカルテ記載方法」になります。
SOAP は本来、情報共有に用いられるツールであるため、誰が読んでもわかるように記載してある必要があります。そのため、わかりやすく情報共有できるように「型」を決めておくことで、書かれているものが何を表しているのかを瞬時に判断することができます。
その「型」は S・O・A・P それぞれの項目ごとの役割があるだけでなく、4 つが一連の流れとして機能していることが特徴となります。イメージとしては、物語の構成に用いられる「起承転結」のような型と同じになります。つまり、SOAP は患者様に提供した医療の効果を示すストーリーの型であるともいえます。
SOAPを項目ごとに解説
前項で SOAP の型について解説しましたが、こちらでは型の中身について深掘りして、項目ごとに考察していきます。
SOAP の特徴は、対象者の問題点を抽出し「S(subjective):主観的情報」「O(objective):客観的情報」「A(assessment):評価」「P(plan):計画・治療」の 4 つの項目に沿って記載していく点になります。
「S:主観的情報」1 つに対し、情報を整理して書くことが大切なポイントになります。複数の「S:主観的情報」が混在し、選択する「O:客観的情報」が増加してしまうと、「A:評価」が曖昧になり、効果的な「P(plan):計画・治療」の実践が難しくなります。
記録を端的に記載することは最初は難しく、上手くいかないことがあるかもしれません。しかし、対象者の状態・経過を記録するだけでなく、自らの治療・援助における思考過程をまとめ、矛盾点はないか妥当性があるかを振り返る機会にもなります。
この一連の思考は、理学療法士にとって重要な「臨床推論(クリニカルリーズニング)」という思考過程と共通した部分になります。つまり、「P:計画・治療」の立案のための自らの意思決定に及ぶ過程であり、医療・援助者側からの思考のみならず、対象者自身が症状その他をどのように捉えているのかを考慮しながらリハビリテーションを展開していくことが重要となります。
S(subjective):主観的情報
主に対象者が訴えていることになります。対象者の生活に関係することであれば対象者家族の訴えも含まれます。決して 1 つに絞る必要はなく、複数の主観的情報を記載しても構いません。ここには、私たち医療従事者の言葉や考えは一切必要ありません。対象者および対象者家族から発信された訴えだけを記録します。
例えば、人工膝関節置換術術後の患者様のお部屋に訪室した際に、訴えで「膝が痛くて辛いんです」と膝を指して話したとします。その際の「S:主観的情報」は、「膝が痛くて辛いんです」になります。
対象者が良く話す人だったと仮定して、対象者が話していることをそのまますべて記載する必要はありません。対象者の日常生活や病態を捉えるうえで優先順位の高い事象、関係性の高い出来事について記載します。
対象者にとって重要となる「S:主観的情報」を引き出し、それを客観的情報やアセスメントに繋げていくためには、高い問診能力が必要になると考えられます。重要性が高い「S:主観的情報」を引き出し、「O:客観的情報」や「A:評価」に繋げていくためには、聞き取り側のスキルが必要になります。
注意点として「S:主観的情報」は、患者が話した言葉以外にも、筆談や手話などの非言語コミュニケーションも含まれます。そのため、失語症や気管切開術後により話すことができない場合でも、非言語コミューケーションができるのであれば、患者からの訴えをそのまま記録します。
O(objective):客観的情報
「S:主観的情報」に挙げた訴えに関し、見たもの(視診)、触れたもの(触診)、検査・測定項目など、客観的な指標を記録していきます。医療従事者の主観的な考えは含めず、結果をそのまま記載することが重要になります。
「O:客観的情報」を挙げるこの過程は、客観的情報を整理しながら、問題点を抽出するための「A:評価」を行う前段階の手続きになります。
「O:客観的情報」を挙げるうえでのコツとしては、「S:主観的情報」にかかわる情報から、重要性が高いと判断した項目から選択して記載す
ることになります。
「O:客観的情報」は「A:評価」のための根拠となるものであるため、常に仮説を立てることを意識しながら記録していくと良いと思います。
A(assessment):評価
ここでの評価とは、「O:客観的情報」に挙げられる「測定・検査」内容ではなく、それらをもとに「判断」した内容になります。つまり、「O:客観的情報」で記載した内容を統合・解釈し、導かれた解釈を述べる段階になります。
また、「A:評価」の結果によって「P:計画・治療」をどうするべきなのかが変わってくるため、まさに各専門職による知識や経験が最も求められる項目になります。
基本的には「A:評価」で記載する項目は、「O:客観的情報」に基づいたエビデンスに由来するものであるべきと考えます。この過程は難しいと思いますが、「P:計画・治療」を実行するための理由づけとなる部分であるため、医療従事者として適切な「A:評価」を記録できるようにする必要があります。
P(plan):計画・治療
「A:評価」に基づいて作成された計画・治療内容を記載します。適宜、今までの計画を修正・変更するのかを自らに問う意識が必要になります。
医師のカルテであれば、各種検査等の「O:客観的情報」から「A:評価」を行いエビデンスに基づいた「P:計画・治療」を実行するという流れになりますので、カルテ記載のイメージもしやすいと思います。
一方、リハビリテーション専門職などのカルテ記載では、既に「P:計画・治療」を実行していますので、少し混乱することが想像されます。しかし、ここでは「P:計画・治療」を実行してはいるものの、その結果から次回以降の「P:計画・治療」を継続するのか、修正・変更を加えるのかについて検討して記載すると綺麗に整理できるはずです。
SOAPによるカルテの書き方:リハビリ
それでは、SOAP によるカルテ記載を実践してみます。
カルテ記載日:令和 7 年 4 月 1 日
診断名:廃用症候群(令和 7 年 3 月 27 日)
算定区分:廃用症候群リハビリテーション料 I
実施時間:10:00 〜 10:40
理学療法プログラム
-
- 歩行動作練習
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- 立位バランス練習
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- 筋力増強練習
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- 階段昇降練習
「S(subjective):主観的情報」
「病院の中を1人で歩いてもいいですか?」
「O(objective):客観的情報」
血圧:124/68mmHg、脈拍:68回/分、血中酸素飽和度:97%
身長:162cm、体重:38kg、BMI:14.48、適性体重:57.74kg、上腕周囲長:17cm、下腿周囲長:24cm、食事摂取量:1400kcal/日
血清アルブミン値:3.3 g/dl、総リンパ球数:1400 mm3、総コレステロール:120 mg/dL、CONUT値:5(中等度異常)
寝返り動作:自立、起き上がり動作:自立、座位保持:自立、起立動作:見守り、歩行動作:軽介助、階段昇降:中等度介助
握力(Rt/Lt):13kg/8kg、筋力(MMT):上肢4/4 体幹4 下肢4/3、10m歩行テスト:15秒、TUG:18秒、BBS:42/56点
「A(assessment):評価」
現在病棟内での移動方法は軽介助での歩行となっている。介助方法としては左側方からの介助であり、対象者の左手に軽く手を添える程度の軽介助である。身体計測の結果より、体重:38kg、BMI:14.48と痩せの傾向が強く、手足の筋肉も萎縮している。血液・生化学検査から判定するCONUT値でも中等度異常という判定結果になっており、身体計測と血液・生化学検査の結果より低栄養状態といえる。歩行能力の低下には栄養状態も深く関わっていることが予想され、リハビリテーションだけではなく栄養管理も併用して行なっていく必要がある。また、握力やMMTの結果より筋力低下も認めている。10m歩行、TUG、BBSの結果からも歩行能力およびバランス能力の低下を認めており、歩行を自立させた場合の転倒する危険性は高いと判断できる。そのため、歩行の介助量は今までと変化させずに軽介助が適切であると考える。
「P(plan):計画・治療」
運動プログラムとして #1 歩行動作練習 #2 立位バランス練習 #3 筋力増強練習 #4 階段昇降練習を継続して実施する。今後は、栄養管理を強化する必要があるため、 #5 栄養アセスメント を加えて理学療法を実施する必要がある。
例1:脳卒中・回復期(片麻痺/立ち上がり練習)
S:「左膝が折れそうで怖い。立つ前から力が入ってしまう」
O:TUG 24.9 s/杖+短下肢装具。立ち上がり 5xSTS 21 s。立位で左荷重 38 %、体幹前傾不足、患側股・膝屈曲の保持困難。
A:患側荷重恐怖と体幹前傾不足が立ち上がり困難の主因。課題特異的練習により成功体験の積み上げが必要。
P:①段階的重心移動(鏡・体重計フィードバック)②前傾ファシリテーション③5xSTS を 2 セット/日。次回:患側荷重 45 % 目標。
例2:急性腰痛(外来/屈曲パターン優位)
S:起床時痛 8/10、前屈困難。長時間座位後の立ち上がりで増悪。
O:SLR 左 60°、指床間距離 20 cm、座位で屈曲誘発。神経学的異常なし。
A:屈曲ストレスの過負荷+恐怖回避的行動。自己管理教育と段階的負荷が有効。
P:伸展系セルフエクササイズ 10 回×3/日、立位休息導入、職場での座位中断ルール。次回:痛み 4/10 以下で前屈可を目標。
例3:COPD 増悪後の在宅(呼吸リハ)
S:階段で息切れ、家事後の疲労強い。「息が上がるのが怖い」
O:mMRC 2、6MWT 280 m、SpO₂ 94→90 %(室内気)。呼吸補助筋過活動、口すぼめ呼吸未定着。
A:呼吸筋耐久低下と活動量低下。呼吸パターン再学習と有酸素の漸増が必要。
P:IMT 30 %PImax 2×15 回/日、口すぼめ呼吸訓練、歩行 10 分/日から漸増。次回:6MWT 300 m 以上。
SOAP 記録テンプレート(A4・印刷用)
| 項目 | 記入欄 |
|---|---|
| 患者ID/氏名 | |
| 日付・時間 | |
| 実施者(署名) | |
| S(主観) | 症状の訴え/困り事/達成したいこと/家族からの情報(情報源も) |
| O(客観) | 検査値・観察(例:TUG、6MWT、ROM、筋力、歩容、SpO₂、痛み誘発テストの結果 等) |
| A(評価) | 臨床推論:問題点・原因仮説・改善度・リスク・今日の反応 |
| P(計画) | 目的/内容(量・強度・時間・頻度)/自宅課題/次回予定・目標 |
OK / NG 記載早見表
| 区分 | OK(望ましい) | NG(避けたい) |
|---|---|---|
| S | 患者の言葉を引用/情報源(本人・家族)を明記 | 解釈や推測を書いてしまう |
| O | 数値・観察事実・動画や計測の結果 | 「良い感じ」「だいぶ改善」など主観表現 |
| A | 事実→解釈→方針のロジックを簡潔に | 所見の羅列だけで結論がない |
| P | 目的+内容+頻度+次回目標まで具体 | 「自主トレ指導」など抽象語のみ |
S/O/A/P の線引きメモ
- 痛み(NRS/VAS)は数値でも「主観」→S(測定手段は O に併記可)。
- 機能テスト(TUG・6MWT など)やバイタルは O。
- 家族・介護者の情報は S(情報源を明記)。
- 臨床推論やリスク評価は A、実施計画は P。
記載ミニチェック(監査で見られやすい点)
- 日付・時間・実施者署名(または記名押印)の欠落なし。
- 訂正は二重線+訂正印+日付で追記(上書きしない)。
- 実施時間・実施内容・患者(家族)への説明と同意の痕跡。
- 危険兆候や中止基準に触れた場合は判断と対応を記録。
- P が目標・量・頻度まで具体か(自宅課題も)。
- 次回予定・評価指標(例:次回 TUG 測定)を明記。
FAQ
Q1. フォームは毎回同じで良い?
A. 症例により P の量・強度・リスク管理が変わるため、テンプレは枠組みだけに使い、内容は毎回具体化してください。
Q2. 写真・動画はどこに位置付ける?
A. O(客観)の補助資料です。本人同意と保存先のルールを遵守してください。
Q3. バイタルが不安定だった時は?
A. O に数値推移、A にリスク評価、P に中止・連絡・再評価の計画を具体的に残します。
参考文献
- 厚生労働省. 診療情報の提供等に関する指針の策定について(医政発第0912001号, 2003年). mhlw.go.jp
- 厚生労働省. 参考資料:診療情報の提供等に関する指針(PDF, 2005年). mhlw.go.jp
- 厚生労働省. 診療情報の提供等に関する指針について(周知, 2018年). mhlw.go.jp
- 厚生労働省. 「診療情報の提供等に関する指針」の一部改正について(2023年). mhlw.go.jp
- e-Gov法令検索. 医師法(診療録の記載・保存 等). laws.e-gov.go.jp
- 日本理学療法士協会. 理学療法士の職業倫理ガイドライン(PDF). japanpt.or.jp
- Weed LL. Medical Records That Guide and Teach. N Engl J Med. 1968. DOI:10.1056/NEJM196803142781105
- Donnelly WJ. Why SOAP Is Bad for the Medical Record. JAMA Intern Med. 1992. DOI(掲載ページ)
- Aronson MD. The Purpose of the Medical Record: Why Lawrence Weed Was Right. Am J Med. 2019. 掲載ページ
- Wright A, Sittig DF. Bringing Science to Medicine: an Interview with Larry Weed. J Am Med Inform Assoc. 2014. PubMed Central


