SPPB 評価とは?手順・採点早見表・評価表(A4)

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SPPB 評価とは?(手順・採点早見表・評価表)

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SPPB ( Short Physical Performance Battery )は、高齢者の下肢機能を バランス・歩行速度・いす立ち上がり の 3 要素で総合評価( 0–12 点 )する標準バッテリーです。所要は目安として 10–15 分。椅子と 4 m (環境制約時は 3 m )の歩行コース、ストップウォッチがあれば実施できます。

本記事では、 SPPB 評価のやり方(日本語の声かけ例)と、採点早見表( 0–12 点)判定の読み方・変化量を 1 ページで整理します。評価設計の全体像(どの評価を追加するか)は 歩行・バランス評価の選び方 にまとめています。

SPPB 評価表(A4・記録用)

記録と合計点の算出に便利な A4 版 HTML(印刷ボタン付き)を用意しています。点数が“ぶれない”運用のために、まずは 条件(椅子・補助具・靴)介助量をシートに残すのがコツです。

→ SPPB 評価表(A4・HTML)を開く

実施対象者(誰に使う?)

厳密な適応疾患の限定はありませんが、バランスや移動能力の低下が疑われる方のスクリーニング/重症度把握/経時変化の追跡に適します。代表例は、地域在住高齢者フレイル・プレフレイルサルコペニア転倒ハイリスク、在宅・通所・施設利用者などです。

疾患横断で活用でき、脳卒中・パーキンソン病・骨折術後(股関節 / 脊椎)・心不全 / COPD など 移動機能の低下を伴いやすい病態で有用です。ベッドサイド〜外来・地域まで同一指標で共有しやすく、チームでの目標設定やリハビリテーション介入の妥当性評価にも役立ちます。

準備(物品・環境・安全の決め方)

測定値がぶれる最大の原因は「条件の不一致」です。椅子(座面高)靴の有無補助具見守り(近接・手添え)を固定し、毎回同じ条件で縦比較できる状態を作ります。

SPPB 実施前に決めること(条件固定と安全)
項目 決め方(おすすめ) 記録ポイント
椅子 背もたれ付き椅子を固定(可能なら同一椅子) 座面高、肘掛けの有無
歩行コース 原則 4 m (難しければ 3 m で固定) コース長、床面状況、混雑
補助具・介助 補助具は可。介助量は「近接」「手添え」など固定 補助具の種類、介助量、声かけ量
中止基準 ふらつき増悪、強い息切れ、胸痛、めまいなどは中止 中止理由、再評価条件

実施手順(日本語の声かけ例つき)

実施は バランス → 歩行速度 → いす立ち上がりの順で回すとスムーズです。危険を感じた場合は無理に続行せず、その項目は 0 点として安全を優先します。

1. バランス(最大 4 点)

  1. 両脚並行( 10 秒 ):「足を揃えて立ち、今から 10 秒数えます。腕は体側で。」
    10 秒保持 → 1 点/ 10 秒未満 → 0 点。
  2. セミタンデム( 10 秒 ):「片足を半歩前に出し、かかとと土踏まずをずらして 10 秒。」
    10 秒保持 → 1 点/ 10 秒未満 → 0 点。
  3. タンデム(最大 10 秒 ):「かかととつま先を一直線にして 10 秒。」
    10 秒= 2 点、3–9.99 秒= 1 点、3 秒未満= 0 点。

※ 安全第一。支えが必要・危険を感じた場合は中止( 0 点 )とし、無理に継続しないようにします。

2. 歩行速度(最大 4 点)

  1. コース長:原則 4 m (環境制約時は 3 m )。普段の速度で 2 回測定し短い方 を採用。補助具使用可(種類を記録)。
  2. 計時の統一:第 1 歩が出た瞬間に開始し、胸部がゴールラインを通過した時点で終了(施設内で固定)。

3. いす立ち上がり(最大 4 点)

  1. 準備:背もたれ付き椅子。座面高・靴の有無を記録。腕を組み、足底接地。
  2. 単回:「腕を使わず 1 回立てますか?」不可なら 0 点(連続試行は実施しない)。
  3. 5 回連続:「合図で立って座るを 5 回、できるだけ速く。」( 60 秒超は 0 点 )

採点早見表( 0–12 点 )

採点は、各項目 0–4 点を合計して 0–12 点で示します。歩行速度は 4 m 3 m で得点域が異なるため、施設の標準を決めておくと比較がぶれにくくなります。

SPPB 採点早見表(計測値は原則として短い方を採用)
項目 得点域(目安) 補足(条件固定)
バランス 0–4 両脚並行 10 秒( 1 )+セミタンデム 10 秒( 1 )+タンデム( 0–2 ) 危険なら中止( 0 点 )
歩行速度( 4 m ) 0–4 > 8.70 秒= 1 / 6.21–8.70= 2 / 4.82–6.20= 3 / < 4.82= 4 補助具は可(種類を記録)
歩行速度( 3 m ) 0–4 > 6.52 秒= 1 / 4.66–6.52= 2 / 3.62–4.65= 3 / < 3.62= 4 3 m を使う日は 3 m の得点域で統一
いす立ち上がり( 5 回 ) 0–4 ≥ 16.70 秒: 1 / 13.70–16.69: 2 / 11.20–13.69: 3 / ≤ 11.19: 4 / 不能・> 60 秒: 0 腕逸脱が起きやすい(腕組みを固定)

判定の読み取り(目安)と変化量の考え方

0–6=低機能、7–9=中等度、10–12=高機能の目安が広く用いられます。カットオフは研究により異なりますが、 ≤ 9〜10 点で移動能力低下・転倒や死亡リスク上昇が報告されています。

変化量は、一般高齢者では MCID ≈ 1 点がよく引用されます(対象により幅あり)。臨床では「点数」だけでなく、どの要素(バランス / 歩行 / 立ち上がり)が変わったかと、条件(椅子・靴・補助具・介助量)が固定できているかをセットで解釈します。

印刷用スコアシート(A4・そのまま使える)

評価記録と合計点の算出に便利な A4 版 HTML を用意しました(印刷ボタン付き)。 SPPB 評価表として、そのまま印刷してご利用いただけます。

→ SPPB 評価表(A4・HTML)

現場の詰まりどころ(よくあるミスと安全対策)

SPPB は一見シンプルですが、「歩行距離の取り方」「いすの高さ」「計時のタイミング」「 5 回立ち上がりの腕の使い方」など、運用が施設ごとにバラつきやすい評価です。ここが曖昧なまま運用されると、前回との比較や多職種間でのスコア解釈が難しくなり、フレイル評価や介入効果判定の精度が下がってしまいます。

下表では、PT・OT・看護師など多職種が関わる場面で起こりやすいエラーを「ミス・対策・記録ポイント」に分けて整理しました。とくに「スタート姿勢の統一」「いすの条件」「危険時の中止判断」をチームで共有しておくと、安全性と再現性の両立につながります。

SPPB 実施時に起きやすいエラーと対策・記録ポイント
ミス 対策 記録ポイント
スタート姿勢が毎回違う 足位置・腕組み・視線を統一し、声かけを固定化 椅子座面高、靴の有無、補助具の種類
歩行の計時が曖昧 第 1 歩が出た瞬間」〜「胸部がゴールライン通過」で統一 コース長、測定回数、採用値(短い方)
危険時に続行 ふらつき・胸痛・強い息切れなどは即中止( 0 点 ) 中止理由、再評価条件(介助量の変更など)
タンデム姿勢の許容誤差が大きい 足列を一直線に合わせ、ずれたらやり直し 達成秒数(小数 2 桁が望ましい)
5 回立ち上がりの腕逸脱 腕組みを保てない場合は中止・減点を徹底 逸脱の有無、途中停止、合図の理解

FAQ(よくある質問)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

3 m と 4 m、どちらで測るべき?

可能なら 4 m が標準です。スペースがない場合は 3 m を用い、その場合は 3 m の得点域を採用してください。日常診療で継続的に使う場合は、施設ごとにどちらを標準とするかルール化しておくと比較がしやすくなります。

点数の変化はどのくらいで「改善」と言える?

一般高齢者で 約 1 点が最小臨床重要差( MCID )の目安として報告されています。対象や背景により幅があるため、ベースラインの機能水準・併存症・介入内容も併せて解釈します。フレイル高齢者では、小さな変化でも ADL や生活空間の広がりの変化とセットで評価することが重要です。

「点数」だけで判断していい?

点数は便利ですが、臨床では「どの要素が落ちているか」が次アクションを決めます。バランスが落ちる人、歩行速度が落ちる人、立ち上がりが落ちる人で、優先すべき介入は変わります。合計点に加えて、下位項目の弱点と条件固定(椅子・靴・補助具・介助量)をセットで共有するとブレが減ります。

おわりに

安全の確認 → 条件固定 → SPPB 実施 → スコア記録 → 再評価のリズムで回すと、SPPB 評価は「点数をつける」だけでなく「介入を選ぶ」ための材料になります。忙しい現場ほど、主に変えない条件(椅子・靴・補助具・介助量)を決めておくだけで、縦比較の信頼性が上がります。

まずは SPPB 評価表(A4)を使って、条件と結果を同じフォーマットで残す運用から始めるのがおすすめです。

参考文献

  • Guralnik JM, Simonsick EM, Ferrucci L, et al. A Short Physical Performance Battery Assessing Lower Extremity Function: Association With Self-Reported Disability and Prediction of Mortality and Nursing Home Admission. J Gerontol. 1994;49(2):M85-M94. doi:10.1093/geronj/49.2.M85
  • Perera S, Mody SH, Woodman RC, Studenski SA. Meaningful change in performance measures in older adults. J Am Geriatr Soc. 2006;54(5):743-749. doi:10.1111/j.1532-5415.2006.00701.x
  • Vasunilashorn S, Coppin AK, Patel KV, et al. Use of SPPB to predict incident mobility disability. J Gerontol A. 2009;64(2):223-229. PubMed
  • National Institute on Aging. Short Physical Performance Battery(英語、公式リソース)。NIA

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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