SPPB(Short Physical Performance Battery)とは?
SPPB は、高齢者の下肢機能を バランス・歩行速度・いす立ち上がりの 3 要素で総合評価(0–12 点)する信頼性の高いパッケージです。簡便で再現性が高く、移動障害・転倒・入院・死亡などのアウトカムとも関連することが示されています。臨床や研究だけでなく、介護・地域包括ケアでも広く利用されています。
評価全体の流れや他の標準評価との組み合わせは、評価ハブもあわせてご覧ください。
実施手順(日本語の声かけ例つき)
1. バランス(最大 4 点)
- 両脚並行(10 秒):「足を揃えて立ち、今から 10 秒数えます。腕は体側で。」10 秒保持 → 1 点/10 秒未満 → 0 点。
- セミタンデム(10 秒):「片足を半歩前に出し、かかとと土踏まずをずらして 10 秒。」10 秒保持 → 1 点/10 秒未満 → 0 点。
- タンデム(最大 10 秒):「かかととつま先を一直線に 10 秒。」10 秒=2 点、3–9.99 秒=1 点、3 秒未満=0 点。
※ 安全第一。支えが必要・危険を感じた場合は中止(0 点)。
2. 歩行速度(最大 4 点)
- コース長:原則 4 m(環境制約時は 3 m)。普段の速度、2 回測定して短い方を採用。補助具使用可(記録)。
- 4 m の得点域:> 8.70 秒=1/6.21–8.70=2/4.82–6.20=3/< 4.82=4。
- 3 m の得点域:> 6.52 秒=1/4.66–6.52=2/3.62–4.65=3/< 3.62=4。
3. いす立ち上がり(最大 4 点)
- 準備:背もたれ付き椅子、座面高を記録。腕を組み、足底接地。
- 単回:「腕を使わずに 1 回立てますか?」不可なら 0 点(連続試行は実施しない)。
- 5 回連続:「合図で立って座るを 5 回、できるだけ速く。途中で止まっても構いません。」
得点域= ≥16.70 秒:1/13.70–16.69:2/11.20–13.69:3/≤11.19:4/不能・>60 秒:0。
採点早見表(0–12 点)
項目 | 条件 | 点 |
---|---|---|
バランス | 両脚並行 10 秒/セミタンデム 10 秒/タンデム 10 秒=2、3–9.99 秒=1、3 秒未満=0 | 0–4 |
歩行 4 m | >8.70=1/6.21–8.70=2/4.82–6.20=3/<4.82=4 | 0–4 |
歩行 3 m | >6.52=1/4.66–6.52=2/3.62–4.65=3/<3.62=4 | 0–4 |
5 回立ち上がり | ≥16.70=1/13.70–16.69=2/11.20–13.69=3/≤11.19=4(不能・>60s=0) | 0–4 |
判定の読み取りと変化量の目安
0–6=低機能、7–9=中等度、10–12=高機能の目安が広く用いられます。カットオフは研究により異なりますが、≤9〜10 点で移動能力の低下・転倒や死亡などのリスク上昇が示される報告が多いです。変化量は、一般高齢者では MCID ≈ 1 点がよく引用されます(集団により 0.5–1.5 点程度の幅あり)。
印刷用スコアシート(A4・そのまま使える)
評価記録と合計点の算出に便利な A4 版 HTML を用意しました。印刷ボタン付きです。
→ 新しいタブで「SPPB スコアシート(A4・HTML)」を開く
よくあるミスと安全対策
ミス | 対策 | 記録ポイント |
---|---|---|
スタート姿勢が毎回違う | 足位置・腕組み・視線を統一し、声かけを固定化 | 椅子座面高、靴の有無、補助具の種類 |
歩行の計時が曖昧 | 「第1歩が出た瞬間」から「胸部がゴールラインを通過」までに統一 | コース長、折り返しの有無(なしが基本) |
危険時に続行 | ふらつき・胸痛・SpO₂ 低下などは即中止(0 点) | 中止理由を記録、再評価の条件をメモ |
タンデム姿勢の許容誤差が大きい | 足列を一直線に合わせ、ずれたらやり直し | 達成秒数(小数 2 桁) |
5 回立ち上がりの腕逸脱 | 腕組みを保てない場合は中止・減点を徹底 | 逸脱の有無、途中停止、合図の理解 |
FAQ(よくある質問)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
SPPB の評価用紙を自作して PDF/HTML で配布しても大丈夫?
はい。SPPB は NIA(米国国立老化研究所)が公開している評価バッテリーで、使用許可やロイヤリティは不要と案内されています。プロトコルの要点を要約したオリジナルの様式として配布するのは問題ありません。出典(NIA など)の併記を推奨します。
3 m と 4 m、どちらで測るべき?
可能なら 4 m が標準です。スペースがない場合は 3 m を用い、その場合は3 m の得点域を採用してください(本文の早見表を参照)。
点数の変化はどのくらいで「改善」と言える?
研究では一般高齢者で 約 1 点が最小臨床重要差(MCID)の目安として報告されています。対象や背景により幅があるため、ベースラインの機能水準・併存症・介入内容も併せて解釈します。
参考文献
- National Institute on Aging. Short Physical Performance Battery(SPPB). 外部リソース(英語)。NIA
- Perera S, Mody SH, Woodman RC, Studenski SA. Meaningful change and responsiveness in common physical performance measures in older adults. J Am Geriatr Soc. 2006;54(5):743–749. PubMed
- Guralnik JM, et al. Lower-extremity function and subsequent disability. 代表的な SPPB 研究。PubMed
- Vasunilashorn S, et al. SPPB による予後予測に関する研究。PubMed