UPDRS/MDS-UPDRS の位置づけ(まず結論)
パーキンソン病の包括的重症度評価は、現在は MDS-UPDRS が標準として広く用いられています。旧来の UPDRS と構造は似ていますが、各項目のアンカーポイント( 0–4 )が明確化され、再現性と感度が高められた点が大きな違いです。本記事は 実施のコツと運用 に特化し、設問本文は掲載しません。原著は Goetz ら(2008) をご参照ください。
UPDRS と MDS-UPDRS の違い|早見表
| 観点 | UPDRS | MDS-UPDRS |
|---|---|---|
| パート構成 | Part I〜IV(非運動/日常/運動診察/合併症) | Part I〜IV(I=非運動 EDL、II=運動 EDL、III=運動診察、IV=運動合併症) |
| 採点レンジ | 0–4 だが基準がやや曖昧 | すべて 0–4 で定義が明確(アンカーポイントが厳密) |
| 回答様式 | 面接・観察が中心 | 患者自己記入+面接・観察を組み合わせ |
| 臨床での推奨 | 歴史的に広く普及 | 現行標準(研究・縦断評価で推奨) |
実施条件(再現性を高めるコツ)
- 薬剤状態:ON/OFF を毎回そろえて記録します。治療反応の確認では両条件の比較も有効です。
- 刺激治療:DBS などの設定や有無を明記します。
- 補助具:Part III は原則「能力」を評価します。杖・歩行器の使用有無を記録し、同条件で再評価します。
- 所要時間:初回は 20–30 分、運用が整えば 10–15 分程度まで短縮できます。
- 導線固定:椅子・歩行路・指タップのスペースを固定し、日内・日差のばらつきを抑えます。
関連:Hoehn & Yahr 重症度 / パーキンソン病ハブ
評価プロトコル(手順書:この記事だけで進められます)
- 準備(2分):ON/OFF、補助具、DBS の状態を確認しカルテへ記載。評価スペース(椅子・歩行路・回転スペース・安全確保者)を整えます。
- 説明(1分):評価の目的・所要時間・休憩可を説明し、普段どおりの動作で行うことを伝えます。
- 自己記入と面接(Part I/IIの補助;3–5分):患者に自己記入部分を進めてもらい、面接で具体例を引き出します(過去1週間の頻度・困りごと)。
- 運動診察(Part III;7–15分):代表的タスクを決めた順番で連続実施。各タスクの声かけ・観察ポイント・安全対策は下表を参照し、左右差・代償の有無を記録します。
- 合併症の確認(Part IV;2–3分):日内の波、wearing-off、dyskinesia の持続時間と支障度を分けて把握します。
- 集計と共有(2分):パート別合計と所見を集計し、介入目標(転倒・すくみ・服薬調整など)を患者と共有します。
運動診察タスクの実施要領(代表例)
| タスク | セットアップ | 声かけ例 | 観察ポイント(例) | 安全対策 |
|---|---|---|---|---|
| 発語・表情 | 静かな環境、正面に座位 | 「普段どおりに話してください。笑顔もお願いします。」 | 声量・明瞭さ、単調さ、表情の乏しさ、口唇舌の可動 | 誤嚥リスクのある患者は水分テスト等は別途実施 |
| 上肢反復運動(例:指タップ) | 肘を体側に近づけ座位 | 「できるだけ大きく・速く・一定のリズムで続けてください。」 | 振幅の減少、途中での失調、リズムの乱れ、側差 | 机面を使い転落物なし、疲労時は休憩 |
| 前腕回内外(回内回外) | 肘屈曲 90°、前腕前方 | 「手のひらを返す動きを繰り返してください。」 | 可動域、速度、途中の減速、左右差 | 椅子は背もたれ付き、足底接地 |
| 下肢反復運動(例:つま先タップ) | 座位、膝 90° | 「つま先を持ち上げて下ろす動きを続けてください。」 | 振幅、速度、減衰、左右差 | 滑りやすい床材を避ける |
| 椅子からの起立 | 肘掛けなし椅子、足底接地 | 「普段どおりに座位から立ち上がってください。」 | 準備動作、立ち上がり時間、前屈過多、代償(手支え) | 後方保護者 1 名、周囲に障害物なし |
| 歩行(回転を含む) | 直線 6–10 m、回転スペース確保 | 「普段の速度で歩き、向こうで向きを変えて戻ってください。」 | ストライド、両側腕振り、前傾、回転時のすくみ | 歩行帯は混雑禁止、保護者 1–2 名 |
| 姿勢反射(引き戻し試験) | 立位、後方に十分なスペース | 「今から軽く後ろへ引きます。準備はいいですか?」 | 反応の有無・歩数・保護要否 | 必ず保護者 2 名(後方と側方)、転倒保護具 |
| 姿勢・体幹 | 立位・座位を観察 | 「普段どおりの姿勢で楽に立ってください。」 | 前屈、側弯、前傾の程度、軀幹の柔らかさ | 長時間立位は避け、椅子を近くに配置 |
| 振戦(安静/姿勢/動作時) | 安静座位、上肢挙上、指鼻運動など | 「力を抜いて楽にしてください。次に腕を前に伸ばしてください。」 | 部位、振幅、持続、誘発条件 | 長時間の保持は避け、休憩を挟む |
※上記は代表例です。施設の標準手順に従い、回数や時間設定は院内で統一してください(例:一定回数・一定時間など)。
声かけスクリプト集(短文・再現性重視)
- 共通冒頭:「普段どおりにお願いします。疲れたらいつでも休憩できます。」
- 反復運動:「できるだけ大きく・速く・一定のリズムで続けてください。」
- 歩行:「普段の速度で歩き、向こうで向きを変えて戻ってください。」
- 引き戻し試験:「今から軽く後ろへ引きます。準備はいいですか?」
よくあるミスと対策
- ON/OFF が混在:評価時刻と服薬時刻をテンプレに記録し、次回も同条件にします。
- 評価順序が毎回違う:タスク順を固定(上→下→体幹→歩行→回転→姿勢反射)。
- 代償の記録漏れ:手支え・補助具の有無は必ずメモ。
- 安全管理の不足:引き戻し試験は二人体制・後方スペース確保をルール化。
集計と記録(ダウンロード可)
注:本シートは記録補助のみを目的としており、尺度の設問本文は掲載していません。実施時は公式版に従ってください。
FAQ(現場でよくある疑問)
Q1. 旧 UPDRS と MDS-UPDRS、どちらを使うべきですか?
現在導入する施設では MDS-UPDRS で統一するのがおすすめです。縦断評価や介入効果の検出力が高いとされています。
Q2. 評価は薬の ON/OFF どちらで行いますか?
目的に合わせて選び、毎回同じ条件で再評価します。治療反応をみる場合は両条件の比較も有用です。
Q3. 所要時間を短縮するコツはありますか?
自己記入(Part I/II)の事前配布、評価スペースの固定、評価順序のテンプレ化で 10–15 分程度まで短縮できます。導線づくりは こちら が参考になります。
参考文献
- Goetz CG, Tilley BC, Shaftman SR, et al. Movement Disorder Society-sponsored revision of the Unified Parkinson’s Disease Rating Scale (MDS-UPDRS): Scale presentation and clinimetric testing results. Movement Disorders. 2008;23(15):2129–2170. doi:10.1002/mds.22340
- Movement Disorder Society. MDS-UPDRS 概要ページ。MDS 公式サイト
- Hoehn MM, Yahr MD. Parkinsonism: onset, progression and mortality. Neurology. 1967;17(5):427–442. PubMed:6067254
- Jenkinson C, Fitzpatrick R, Peto V, et al. The PDQ-39: development and validation. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1997;67:308–312. PubMed:9351479
著作権と実務メモ
本記事は解説と運用に限定し、尺度本文の転載は行っていません。運用時は各公式の利用条件(Permission/License)をご確認ください。


