理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の違い【比較】

制度・実務
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結論: PT ・ OT ・ ST は「得意な支援の軸」が違います

理学療法士( PT )、作業療法士( OT )、言語聴覚士( ST )は、同じ「リハビリの療法士」でも主戦場(得意な支援の軸)が異なります。迷ったときは「基本動作(移動)」「生活の作業(暮らし)」「話す・聞く・食べる(コミュニケーションと嚥下)」のどこに一番ワクワクするかで、向き不向きが見えやすくなります。

本記事では、 PT / OT / ST の仕事内容の違い、人数や国家試験の話題、年収の考え方までを一気に整理し、「どっちがいい?」を自分の言葉で説明できる状態を目指します。

療法士キャリアの全体像を見る(進め方)

理学療法士( PT )とは:基本動作と移動の専門家

理学療法士は、寝返り・起き上がり・立ち上がり・歩行など、生活の土台となる基本動作を中心に評価と介入を行う専門職です。筋力、関節可動域、痛み、バランス、持久力などを整え、「移動の自立」や「安全な活動量」を回復させます。

歩行練習、立ち上がり練習、移乗練習に加え、運動療法や物理療法を組み合わせて、日常生活の行動範囲を広げるのが PT の強みです。急性期〜回復期〜在宅まで、どの領域でも「まず動ける身体を作る」視点で貢献します。

作業療法士( OT )とは:「その人らしい作業」を取り戻す専門家

作業療法士は、食事・更衣・整容などの ADL から、買い物・料理などの IADL 、仕事、余暇、地域活動まで、人の生活を形づくる幅広い活動を作業として捉え、その再獲得を支援します。身体機能だけでなく、認知、感覚、心理、環境調整まで統合して介入できるのが特徴です。

同じ「歩く練習」でも、 OT は「その歩きで何をしたいか(買い物に行く、料理をする、仕事に戻る)」に焦点を当て、道具や手順、環境の工夫まで含めて具体化します。「生活を回す」視点が OT の核になります。

言語聴覚士( ST )とは:「話す・聞く・食べる」を支える専門家

言語聴覚士は、失語症や構音障害などのコミュニケーション、聴覚、発声・発音、認知面の問題に対して評価と訓練を行います。さらに、摂食・嚥下障害にも専門的に対応し、「安全に食べる」「家族や周囲と意思疎通する」ことを支援します。

現場では、脳卒中後の失語・嚥下、認知症のコミュニケーション支援、小児のことばの発達、耳鼻科領域の聴覚など、対象が広いのが ST の特徴です。チーム医療の中で「食べる」「話す」の要を担います。

PT / OT / ST の違いを 1 表で整理

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PT ・ OT ・ ST の違い(役割の軸と代表例)
職種 支援の軸 得意な評価・介入 代表的な対象 臨床の例
理学療法士( PT ) 基本動作・移動 筋力・可動域・痛み・バランス・歩行 運動器、脳血管、呼吸循環、廃用など 立位・歩行の再建、転倒予防、活動量の設計
作業療法士( OT ) 生活の作業( ADL / IADL ) 上肢・巧緻、認知、感覚、環境調整、福祉用具 脳血管、整形、認知症、精神、小児など 更衣・トイレ・家事の再獲得、復職・復学支援
言語聴覚士( ST ) 話す・聞く・食べる 失語・構音・高次脳、嚥下、聴覚、発声 脳血管、神経難病、認知症、小児、耳鼻科など 嚥下評価と食形態調整、失語の訓練、家族指導

人数・国家試験の話題は「難易度」より「学びの適性」で考える

検索では「 PT と OT はどっちが難しい」「 ST 国家試験 落ちた」など、難易度や人数の話題がよく出ます。実務では、難易度そのものよりも、興味が継続する領域か臨床で伸ばしたい専門性があるかで中長期の満足度が決まりやすいです。

人数は年ごとに増減しますが、概ね「 PT > OT > ST 」になりやすい傾向があります。以下は、公表資料で示される「国家試験取得者数」等をもとにした目安として整理します。

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PT ・ OT ・ ST の人数の目安(公表資料ベースの一例)
職種 人数の目安 見え方のポイント 臨床での含意
理学療法士( PT ) 約 21 万人(例: 2023 年時点の報告) 養成校数が多く、領域が幅広い 求人は多い一方、職場で役割分担が進みやすい
作業療法士( OT ) 約 11 万人(例: 2023 年時点の報告) 領域が広く、生活支援の文脈で強い 「退院後の生活」を任される場面が増えやすい
言語聴覚士( ST ) 約 4 万人(例: 2023 年時点の報告) 養成校が限られ、専門領域が明確 嚥下・失語などで希少性が高く、チームの要になりやすい

年収・給料の考え方:職種差より「領域・役職・施設差」が効きます

「作業療法士 給料」「言語聴覚士 年収」などで検索されますが、同じ医療・介護の枠内では、職種差よりも勤務先の種別(急性期/回復期/老健/訪問など)役職地域評価制度の影響が大きいことが多いです。

公的統計(賃金構造基本統計調査など)を参照しつつ、「自分が伸ばしたい専門性が評価される環境か」「昇進・評価のルールが明確か」を合わせて見ると、納得感の高い選択につながります。

ダブルライセンスは「強い」より「使いどころ」を決めると活きます

ダブルライセンス(例: OT + ST など)は、希少性が出る一方で、診療報酬・介護報酬の枠組み上、資格がそのまま手当に反映されないケースもあります。価値を出すコツは「どの場面で二つの視点を統合して成果を出すか」を具体化することです。

たとえば、嚥下支援( ST )と生活環境調整( OT )をつなげて「食べる環境の再設計」まで担う、移動( PT )と嚥下( ST )をつなげて「安全な食事姿勢・活動量」まで担う、など、職場の課題に直結すると評価されやすくなります。

現場の詰まりどころ:ここで迷うと「違い」が一気に分からなくなります

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PT / OT / ST で迷いやすいポイントと整理のコツ
詰まりどころ なぜ迷う? 整理のコツ 判断の一言
実施内容が似て見える 同じ患者さんに同じ時間枠で介入するため 「目的(何を取り戻すか)」で見分ける PT は動く土台、 OT は暮らしの実装、 ST は話す・食べるの安全
ADL は誰が担当? 施設やチームで分担が変わるため ADL を「移動」と「作業」に分解する 移動要素は PT 、手順・環境・上肢要素は OT が強い
ST は「嚥下だけ」なの? 嚥下支援が目立ちやすい領域だから 失語・構音・認知、聴覚、小児も含めて把握する ST はコミュニケーションと摂食・嚥下を横断する
「どっちがいい?」が決められない 給与や難易度で比較しがちだから 興味が続くテーマを 1 つ決めて逆算する 続く興味=伸びる専門性=選んだ後の満足度

よくある質問

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PT と OT の違いを一言で言うと?

ざっくり言うと、 PT は「移動と基本動作」を軸に、 OT は「生活の作業( ADL / IADL )」を軸に支援します。同じ動作練習でも、 PT は動作の成立条件(筋力・可動域・バランスなど)から整え、 OT は生活場面での実装(道具・手順・環境調整)まで落とし込みやすいのが違いです。

ST は少ない理由はありますか?

養成校数や専門領域の特性などが影響しやすく、相対的に人数が少なく見えやすい傾向があります。現場では「嚥下」「失語」など代替しづらい領域を担うため、チームの中で希少性が高い役割になりやすいです。

国家試験はどれが難しいですか?

試験の難易度は年によって変動し、単純比較は難しいです。実務的には「学びが続く領域か」「臨床で伸ばしたいテーマがあるか」で学習の伸びが変わりやすく、結果的に合格までの体感難易度も変わります。

年収は PT / OT / ST で差がありますか?

職種差よりも、勤務先の種別、地域、役職、評価制度の影響が大きいことが多いです。同じ職種でも、領域の選び方やキャリア設計で差がつきやすいので、「どこで何を強みにするか」を先に決めるのがおすすめです。

ダブルライセンスは転職で有利になりますか?

場面によります。資格が手当に直結しない職場もありますが、二つの視点を統合して「職場の課題を解く」形で成果を出せると強みになります。応募先が求める役割(嚥下強化、在宅強化、復職支援など)と噛み合うかを確認すると失敗しにくいです。

おわりに

迷ったときは、情報収集→見学で現場の空気を確認→比較→条件のすり合わせ→決断、の順で進めるとブレにくくなります。もし「職場選びの軸」や「面談前に整理する観点」を短時間で整えたい場合は、マイナビコメディカルのチェックリストを使って準備しておくと、次の一手が出しやすくなります( こちら)。

参考文献

  1. 公益社団法人 日本理学療法士協会. 統計・データ(理学療法士に関する公表資料). https://www.japanpt.or.jp/activity/data/
  2. 厚生労働省. 令和 4 年賃金構造基本統計調査(職種別賃金等). https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2022/
  3. 日本作業療法士協会. 2019 年度 日本作業療法士協会 会員統計資料. 2020. https://www.jaot.or.jp/files/page/jimukyoku/kaiintoukei2019.pdf
  4. 上田敏. 理学療法の 50 年. 理学療法学. 2015;42(8):742-743. https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/42/8/42_42-8_067/_pdf

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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