QIDS-J とは?(目的と使いどころ)
QIDS-J(キュー・アイ・ディー・エス ジェイ)は、簡易抑うつ症状尺度( Quick Inventory of Depressive Symptomatology – Japanese )として知られる日本語版自己記入式・うつ病評価尺度です。過去 7 日間のうつ症状を 16 項目で自己記入し、DSM の 9 領域(睡眠・抑うつ気分・食欲/体重・集中・罪責感・自殺念慮・興味低下・活力低下・精神運動変化)に対応した合計 0〜27 点で重症度を判定します。厚生労働省の資料でも「簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)」として紹介されている、代表的な簡易抑うつ症状尺度のひとつです。
外来・在宅・リハ場面での経時モニタリングに適しており、診断のための専門評価というよりは「治療反応や経過」の把握に向いたツールです。評価ハブと組み合わせておくと、他の抑うつ尺度や身体機能評価との再評価導線をまとめて整理しやすく、カンファレンスでの共有にもそのまま使いやすくなります。
評価表(16 項目)早見表
下表は QIDS-J の各項目が「どの領域を見ているか」と、おおまかな重症度の目安を整理したものです。実際に使用する際は、原版の日本語版質問紙と採点マニュアルを必ず参照してください。特に睡眠(Q1〜Q4)・食欲/体重(Q6〜Q9)・精神運動(Q15〜Q16)は“各群で最大値”を採用し、9 領域の合計で重症度を判定します。
| Q# / 領域 | 設問の趣旨 | 0 点 | 1 点 | 2 点 | 3 点 |
|---|---|---|---|---|---|
| Q1(睡眠) | 入眠にかかる時間・入眠困難 | 問題なし | 軽度の入眠困難 | 毎晩気になる | 眠れない夜が多い |
| Q2(睡眠) | 中途覚醒の頻度 | なし | ときどき目が覚める | 毎晩 1〜2 回 | 頻回の中途覚醒 |
| Q3(睡眠) | 予定より早い覚醒 | なし | やや早い | かなり早い | 大幅に早く、それ以降眠れない |
| Q4(睡眠) | 過眠傾向 | いつも通り | やや長く眠る | 明らかに睡眠時間が増加 | ほとんどの時間を寝て過ごす |
| Q5(抑うつ気分) | 悲哀感・抑うつ気分 | ほぼ感じない | ときどき落ち込む | 1 日の半分以上で落ち込み | ほとんど常に強い抑うつ感 |
| Q6(食欲) | 食欲低下 | 変化なし | 少し落ちた | 明らかな低下 | ほとんど食べられない |
| Q7(食欲) | 食欲増加 | 変化なし | やや増えた | 明らかな増加 | 過食傾向が目立つ |
| Q8(体重) | 体重減少 | 変化なし | 小さな減少 | 中等度の減少 | 大きな減少 |
| Q9(体重) | 体重増加 | 変化なし | 小さな増加 | 中等度の増加 | 大きな増加 |
| Q10(集中) | 集中困難・注意の続きにくさ | 問題なし | やや落ちる | 仕事・家事に支障あり | ほとんど集中できない |
| Q11(罪責/自己評価) | 自己批判・無価値感 | 通常通り | 自分を責めがち | かなり強い自己否定 | 耐え難い無価値感 |
| Q12(自殺念慮) | 死についての考え・自殺念慮 | 考えない | たまに頭をよぎる | 頻繁に考える | 具体的計画や試みがある |
| Q13(興味) | 興味・活動性の低下 | 通常通り楽しめる | 楽しみが減った | 以前ほど楽しめない | ほとんどの活動への興味喪失 |
| Q14(活力) | 易疲労感・活力低下 | 疲れは通常レベル | 疲れやすい | 日常活動が負担 | ほとんど何もできない |
| Q15(精神運動) | 焦燥・そわそわ感(促進) | なし | やや落ち着かない | 周囲からも気づかれる | 強い焦燥でじっとしていられない |
| Q16(精神運動) | 動作や話し方の遅さ(制止) | 通常通り | 少し動作が遅い | 周囲にも遅さが分かる | 著明な制止で生活に支障 |
採点方法・重症度の目安
- 9 領域の合計(0〜27 点)で判定:睡眠(Q1〜Q4)・食欲/体重(Q6〜Q9)・精神運動(Q15〜Q16)はそれぞれの群で最も重い 1 項目のみを採用し、残りの項目はそのまま加点して合計します。
- 重症度の目安:0〜5 点=正常〜最小、6〜10 点=軽度、11〜15 点=中等度、16〜20 点=重度、21 点以上=極めて重度。
- 再評価は、治療開始・変更直後は2 週ごと、症状が安定してきたら4 週ごとなど、臨床状況に応じて間隔を調整します。
- カットオフの目安:簡易抑うつ症状尺度としての QIDS-J の点数は、合計6 点以上でうつ病の可能性ありとする基準が厚労省資料などで引用されることが多く、研究場面では11 点以上を「中等度以上(要介入)」のカットオフとして用いる報告もあります(施設ごとの運用基準に従ってください)。
簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)の信頼性・妥当性
日本語版自己記入式 QIDS-J(QIDS-SR-J)は、国内研究でCronbach の α ≒0.86 前後と良好な内部一貫性を示し、BDI など他の抑うつ尺度との高い相関も報告されています。また、QIDS-J の点数と就労継続や抑うつ症状の重症度との関連を検討した報告もあり、簡易抑うつ症状尺度としての信頼性・妥当性は概ね支持されています。日常診療では、単回の診断というよりも、同一患者での点数の推移と症状プロファイルを見ることで真価を発揮します。
迷いやすい項目の判断ポイント
- 睡眠領域:入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒・過眠の 4 項目のうち、患者さんにとって一番困っている症状を 1 つ選び、その点数のみを採用します。複数が中等度以上であれば、その中で最大値を取ります。
- 食欲/体重:食欲低下と増加が混在する場合は、「体重変化」と臨床的負担(食べられない vs 食べ過ぎ)を合わせて評価し、総合的に患者負担が大きい方を採用します。体重は直近 2 週間程度の変化を具体的に確認すると誤差が減ります。
- 自殺念慮(Q12):「死にたい気持ちが時々出てくる」など曖昧な表現の場合は、頻度・具体性・計画性・準備行動を丁寧に聞き取ります。点数に迷ったときは、安全配慮を優先して高めに評価し、必ず医師や多職種へ共有します。
現場の詰まりどころ(よくあるつまずき)
QIDS-J(簡易抑うつ症状尺度)では、合計点だけを追って「どの領域が悪化しているか」を見落とすケースが少なくありません。たとえば同じ 12 点でも、睡眠と食欲が中心のパターンと、罪責感・自殺念慮が中心のパターンでは介入の優先順位がまったく異なります。また、認知機能低下がある方への自記式運用では、家族やスタッフの補助なくそのまま記入させると信頼性が下がりやすい点にも注意が必要です。「点数の大きさ」だけでなく、領域ごとのプロファイル+記入状況をセットで確認することが、現場の“詰まり”を減らすポイントになります。
PHQ-9/GDS-15 との使い分け
- QIDS-J:DSM の 9 領域をカバーするため、症状プロファイルと重症度の経時変化を追うのに適します。薬物療法や精神療法の効果判定、増悪時のモニタリングに有用です。
- PHQ-9:プライマリケアや一般病棟でのうつ病スクリーニングと、カットオフ(例:10 点以上)を用いた臨床意思決定に向いています。QIDS-J より短く、身体科外来などでも導入しやすい尺度です。
- GDS-15:高齢者や認知機能低下を伴う場面に親和性があり、高齢者うつの拾い上げに強みがあります。施設・在宅高齢者では QIDS-J よりも GDS-15 を入口にする選択肢もあります。
FAQ
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップすると閉じます。
Q1. 所要時間はどのくらいですか?
患者さん自身が読む場合で5 分前後が目安です。視力低下や読字に不安がある場合は、医療者が読み上げて一緒にチェックすることで、理解度と信頼性が高まりやすくなります。
Q2. 再評価の間隔はどのように決めますか?
治療開始直後や薬物調整中など変化が大きい時期は2 週ごとの再評価が実務的です。状態が安定してきたら4 週ごとなどに延長し、外来フォローのタイミングと合わせてルーチン化すると記録と共有がスムーズになります。
Q3. 評価表の配布や転載はどう扱えばよいですか?
QIDS-J/QIDS-SR16 の原版質問紙や採点表には著作権があります。院内配布や教育目的で利用する際は、必ず原著論文や公式配布元のライセンス表記を確認し、その指示に従ってください。ブログ等で紹介する場合は、本記事のように「構成要素や解釈」を自分の言葉で解説し、原文の丸写しは避けるのが安全です。
おわりに
抑うつ症状の評価は、状態の安全確認 → 簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)でのスクリーニングと重症度把握 → 介入方針の共有 → 経時モニタリングと再評価というリズムで回すと、日々の診療やリハの中でも「変化の見落とし」を減らしやすくなります。点数だけでなく、どの領域が悪化・改善しているのかをチームで共有し、身体機能評価や ADL 評価と合わせて見ていくことが、生活機能の維持・向上につながります。
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参考文献
- Rush AJ, Trivedi MH, Ibrahim HM, et al. The 16-Item Quick Inventory of Depressive Symptomatology (QIDS), clinician rating (QIDS-C), and self-report (QIDS-SR): A psychometric evaluation in patients with chronic MDD. Biol Psychiatry. 2003;54(5):573–583. https://doi.org/10.1016/S0006-3223(02)01866-8
- Brown ES, et al. The Quick Inventory of Depressive Symptomatology–Self Report. Prim Care Companion J Clin Psychiatry. 2008;10(6):451–456. PubMed
- QIDS-SR16(配布資料・採点基準). University of British Columbia.(重症度区分 0〜5/6〜10/11〜15/16〜20/21 以上)PDF
- Wada K, et al. National survey using the Japanese version of QIDS-SR. Ind Health. 2010;48(6):xx–xx. PubMed
- Sugishita K, et al. A validity and reliability study of the Japanese version of the GDS-15. Psychogeriatrics. 2017;17(2):206–214. PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


