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この記事は「Scale for Contraversive pushing(SCP)」をキーワードに内容を構成しております。こちらのテーマについて、もともと関心が高く知識を有している方に対しても、ほとんど知識がなくて右も左も分からない方に対しても、有益な情報がお届けできるように心掛けております。それでは早速、内容に移らせていただきます。
Pusher 症候群はリハビリテーションの進行具合にも多大な影響を来たす症状の 1 つであり、Pusher 症候群が出現した患者は、Pusher 症候群が出現していない患者と比較して、リハビリテーション実施による運動機能および日常生活動作能力の改善効果は半分程度になると先行研究により報告されています。
Pusher 症候群は脳卒中後遺症の予後を不良にする重大な要因になりますが、Pusher 症候群の程度や回復具合については、患者さんごとに個人差があります。だからこそ、Pusher 症候群を生じている患者様のリハビリテーションを進めるうえで重要なことは、Pusher 症候群の症状を適切に評価、アセスメントすることになります。そこで、こちらの記事では Pusher 症候群の評価に有用な Scale for Contraversive pushing(SCP)について解説していきます。
こちらの記事で Pusher 症候群についての理解を深め、臨床における脳卒中診療の一助になると幸いです。是非、最後までご覧になってください!
【簡単に自己紹介】
30代の現役理学療法士になります。
理学療法士として、医療保険分野と介護保険分野の両方で経験を積んできました。
現在は医療機関で入院している患者様を中心に診療させていただいております。
臨床では、様々な悩みや課題に直面することがあります。
そんな悩みや課題をテーマとし、それらを解決するための記事を書かせて頂いております。
理学療法士としての主な取得資格は以下の通りです
登録理学療法士
脳卒中認定理学療法士
褥瘡 創傷ケア認定理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
福祉住環境コーディネーター2級
【理学療法士の転職はマイナビコメディカル】
理学療法士は 2013 年頃より毎年 10,000 人程度が国家試験に合格し続けています。これは医療系の専門職の中では看護師に次ぐ有資格者の増加率となっており、1966 年にはじめての理学療法士が誕生した歴史の浅さを考えれば異例の勢いと言えます。
人数が増えることは組織力の強化として良い要素もありますが、厚生労働省からは 2019 年の時点で理学療法士の供給数は需要数を上回っていると報告されており、2040 年度には理学療法士の供給数は需要数の約 1.5 倍になると推測されています。このような背景もあり、理学療法士の給与、年収は一般職と比較して恵まれているとはいえず、多くの理学療法士の深刻な悩みに繋がっています。
しかし、給与や年収などは職場や企業に大きく左右されるものです。今、働いている環境よりも恵まれた、自分が納得できる労働環境は高い確率で身近にあります。100 歳まで生きるのが当たり前といわれる時代を豊かに生きるためには、福利厚生や退職金制度なども考慮して就職先を決定するべきです。しかし、理学療法士が増え続けていくことを考慮すると恵まれた労働環境も次第に少なくなっていくことが予想されます。だからこそ、今のうちに自分が理学療法士として働く上で納得できるような就職先を探すべきではないでしょうか?
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Pusher(プッシャー)症候群とは
病巣と反対側に向かって押す現象(Contraversive pushing)、いわゆる Pusher 症候群は脳卒中急性期に出現することの多い姿勢調節障害になります。
Pusher 症候群は Davies により最初に提唱された現象となり、Davies は「あらゆる姿勢で麻痺側へ傾斜し、自らの非麻痺側上下肢を使用して床や座面を押して、正中にしようとする他者の介助に抵抗する」と説明しています。
Pusher 症候群の発症メカニズムについては、未だ解明されていない部分が多く、いくつかの仮説があるものの正確な機序はわかっていないというのが、現状になります。
損傷半球による発生率の相違については、右半球損傷で多いという報告と半球間で差がないという報告があります。
また、Pusher 症候群に関与する脳領域としては、島・中心後回・上側頭回・下頭頂小葉等が考えられています。
中側頭回の病巣が視覚による主観的な鉛直定位に関連し、上側頭回が視覚と触覚の複合感覚による主観的な鉛直定位に関与することが示唆されており、これらの鉛直定位に関する脳損傷に起因する姿勢制御の誤学習が Pusher 症候群の発症と関連する可能性が想定されています。
Pusher 症候群はリハビリテーションの進行具合にも多大な影響を来たす症状の 1 つであり、Pusher 症候群が出現した患者は、Pusher 症候群が出現していない患者と比較して、リハビリテーション実施による運動機能および日常生活動作能力の改善効果は半分程度になると報告されています。
また、3 ヶ月程度経過しても Pusher 症候群が消失せずに、Pusher 症候群が長期化した場合にはリハビリテーションの効果はより低くなると考えられています。
プッシャー現象 臨床症状
自らの非麻痺側上下肢を使用して床や座面を押すことで、病巣と反対側に身体が傾斜するプッシャー症候群ですが、この症状は日常生活において、本人にも介護者にも多大な影響を来します。
脳卒中患者のベッドから車椅子などへの移乗動作を介助する場合、一般的に非麻痺側方面に車椅子を配置して行うことで、残存機能を発揮し、安全かつ介助量を軽減させることができますが、プッシャー症候群を認める場合には、非麻痺側上下肢で押し返すため、移乗動作自体が難しくなります。
プッシャー症候群の影響により残存機能を上手く活用することができなくなったり、非麻痺側方面に車椅子を配置するより、麻痺側に配置して全介助で移乗してしまった方が安全という結論になることもあるため、身体機能であったり日常生活動作能力の改善を阻害することになります。
車椅子に乗車した後にも、非麻痺側上肢でアームレストを強く押すため、身体が麻痺側へ傾いてしまうことがあります。更に、体幹を正中位に戻そうとすると、非麻痺側方向へ倒れそうになる恐怖心から、非麻痺側股関節を外転・外旋し、非麻痺側足部で麻痺側方向へ押し返します。そのため、非麻痺側の膝は外方へ開き、下腿は上部が外側へ傾斜します。
立位でも、非麻痺側方向への体幹の運動や体重移動に抵抗を示すため、起立、立位保持、歩行などの動作の介助量は増大します。プッシャー症候群を呈した症例では、側方への体重移動が困難となることから身体が傾いてしまい、適切なアライメントで歩行することが困難となり、積極的な歩行練習に繋がらないことが多くなります。
このようにプッシャー症候群は脳卒中後遺症の予後を不良にする重大な要素となります。プッシャー症候群を認める患者の多くは重度の運動麻痺、重度の感覚障害、左半側視空間失認、病態失認などを伴うことも多いですが、症状の合併や程度については個人差があります。
また、主観的視覚垂直(subjective visual vertical:SVV)や主観的身体垂直(subjective postural vertical:SPV)が偏倚していたり、偏倚する方向が異なる場合があったり、プッシャー症候群の症状は多岐にわたります。
そのため、プッシャー症候群のリハビリテーションとして重要なことは、まずプッシャー症候群の症状を適切に評価、アセスメントすることになります。
プッシャー症候群の評価指標の中でも古くから、最も一般的に使用されていると考えられる Scale for Contraversive pushing(SCP)について説明していきます。
Scale for Contraversive pushing(SCP)とは
Pusher 症候群の評価指標はいくつか種類がありますが、本邦で最も浸透しているものは Karnath らが提唱した Scale for Contraversive pushing(SCP)であると考えられます。
Scale for Contraversive pushing(SCP)は Pusher 症候群の有無と重症度を評価することができる指標になります。
Pusher 症候群の症状は脳卒中発症後 3 ヶ月程度で消失する可能性が考えられています。Scale for Contraversive pushing(SCP)を活用することで脳卒中発症直後の Pusher 症候群の程度を評価し、その後の経時的変化を追うことは、予後予測にも繋がるため、有用な指標となります。
SCP 評価項目
Scale for Contraversive pushing(SCP)の評価項目は、「姿勢の対称性」「非麻痺側上下肢の外転および伸展」「抵抗」の 3 項目から構成されています。
こちらの 3 項目に対して、それぞれ座位姿勢と立位姿勢で Pusher 症候群の有無と重症度を判定します。
3 項目と少ない項目で場所を選ばずに評価することができるため、日々のリハビリテーションのアウトカム評価として使用できる評価指標となっております。
SCP 評価方法
Scale for Contraversive pushing(SCP)の評価方法についてわかりやすく解説していきます。
姿勢の対称性
介助なしで座位保持、立位保持を行っている時に姿勢が左右に傾くことなく保持できているのかどうかを評価する項目になります。
評価は 1 点、0.75 点、0.25 点、0 点の 4 段階で判定します。
- 1 点:麻痺側への重度の傾きがあり転倒する
- 0.75 点:麻痺側への重度の傾きがあるが転倒はしない
- 0.25 点:麻痺側への軽度の傾きがあるが転倒はしない
- 0 点:傾きなし(垂直位)
非麻痺側上下肢の外転および伸展
Pusher 症候群では姿勢の不安定感が生じることが多く、非麻痺側上肢を突っ張らせて姿勢の安定を図ることがあります。
こちらの項目では、非麻痺側の上下肢を伸展や外転させることで接触面積を増やそうとするのかどうかを 1 点、0.5 点、0 点の 3 段階で評価します。
- 1 点:休んでいるときから出現する
- 0.5 点:姿勢を変えると出現する
- 0 点:出現しない
安静座位姿勢、安静立位姿勢では判断が難しい場合には、姿勢を変えることで上下肢が伸展・外転するかを評価します。
姿勢の変更方法は、座位姿勢の評価の場合、臀部の側方移動をした時に上下肢の伸展・外転が出現するかどうかを確認します。
立位姿勢の評価の場合では歩いてもらい、歩行に合わせて下肢が外転および伸展するようであれば 0.5 点と判定します。
抵抗
Pusher 症候群の典型的な症状として、姿勢の傾きを修正しようと他動的に動かそうとした時に、その修正に対して抵抗するという特徴があります。
こちらの項目ではその抵抗感が生じるのかどうかを 1 点と 0 点の 2 段階で判定します。
- 1 点:抵抗あり
- 0 点:抵抗なし
以上の 3 項目について座位姿勢と立位姿勢でそれぞれ判定します。各項目最大 1 点、最低 0 点で座位と立位姿勢の 2 パターンで評価を行うため、Scale for Contraversive pushing(SCP)の得点範囲は 0 点~ 6 点となります。
SCP カットオフ値 結果の解釈
Scale for Contraversive pushing(SCP)の最高得点は 6 点となり、得点が高いほど Pusher 症候群が重度であるという判定になります。
一方、最低得点は 0 点となり、得点が低いほど Pusher 症候群は軽度(0 点の場合は症状なし)という判定になります。
Scale for Contraversive pushing(SCP)のカットオフ値には諸説ありますが、Baccini らが報告したカットオフ値によると、各項目> 0 点で Pusher 症候群と判定するとしています。
つまり、3 項目中 1 つでも異常がない項目(0 点)があれば Pusher 症候群という診断には至らず、全項目で異常を認めた場合に Pusher 症候群となります。
SCP 評価用紙 ダウンロード
Scale for Contraversive pushing(SCP)の評価用紙はこちらより無料でダウンロードできます。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!
この記事では「Scale for Contraversive pushing(SCP)」をキーワードに解説させて頂きました。
こちらの記事が、Pusher 症候群についての理解を深めることに繋がり、臨床における脳卒中診療に少しでもお力添えになれば幸いです。
参考文献
- 沼尾拓,網本和.Pusher現象の評価方法.理学療法ジャーナル.54巻,6号,2020年6月,p644-653.
- 小宮山純.体側方突進と pusher 現象.Equilibrium Res.Vol. 82(1),p3-15,2023.
- 鈴木誠.高次脳機能障害がある方への作業療法②プッシャー症候群—プッシャー現象に対する評価と支援.作業療法ジャーナル.55巻,8号,p845-848,2021年.