この記事でわかること(結論)
意識障害は「覚醒(眼を開け維持できるか)」と「内容(見当識・反応の質)」の障害です。JCSは3-3-9度方式で覚醒レベルを迅速共有、GCSはE(開眼)・V(言語)・M(運動)の最良反応で3–15点化する世界標準。
失神は一過性の全脳低灌流による一時的意識消失で、多くは短時間で自然回復します。安全な初期対応はABC→意識レベル(JCS/GCS)→病態推定の順が基本です。
▶ 早見表(保存版)|▶ 失神との違い|▶ 評価の流れ|▶ JCS|▶ GCS|▶ JCS↔GCS換算(目安)
※本記事は医療専門職向けの教育目的です。個別の患者評価・治療は施設手順書と主治医の指示に従ってください。
早見表(保存版)
領域 | 点 | 定義 |
---|---|---|
E(開眼) | 4 | 自発的に、または普通の呼びかけで開眼 |
3 | 強く呼びかけると開眼 | |
2 | 痛み刺激で開眼 | |
1 | 痛み刺激でも開眼しない | |
V(言語) | 5 | 見当識が保たれている |
4 | 会話は成立するが見当識が混乱 | |
3 | 不適切な単語(会話は成立しない) | |
2 | 意味のない発声 | |
1 | 発語みられず(挿管は V=Tと記録) | |
M(運動) | 6 | 命令に従って四肢を動かす |
5 | 痛み部位に手を持ってくる(定位) | |
4 | 痛みから引っ込める(逃避屈曲) | |
3 | 異常屈曲(除皮質姿勢) | |
2 | 異常伸展(除脳姿勢) | |
1 | 反応なし |
群 | コード | 定義 |
---|---|---|
Ⅰ:覚醒している(1桁) | 0 | 意識清明 |
1 | 見当識は保たれるが意識清明ではない | |
2 | 見当識障害がある | |
3 | 自分の名前・生年月日が言えない | |
Ⅱ:刺激で覚醒(2桁) | 10 | 普通の呼びかけで開眼 |
20 | 大声・強い刺激で開眼(簡単指示に応ずる) | |
30 | 痛み+呼びかけ反復でかろうじて開眼 | |
Ⅲ:刺激でも覚醒せず(3桁) | 100 | 痛みに対し払いのけ等の動作 |
200 | 痛みで四肢が動く・顔をしかめる | |
300 | 痛み刺激に反応なし |
意識障害と「失神」の違い(現場の見分け方)
観点 | 意識障害(器質/代謝等) | 失神 |
---|---|---|
発症 | 突発/徐々に。持続しやすい | 突発で短時間(秒〜数分)に自然回復 |
前駆 | 頭痛・嘔吐・痙攣・発熱など | 冷汗・めまい・悪心・眼前暗黒感 |
体位 | 体位非依存も多い | 起立・排尿・疼痛・ストレスなどで誘発 |
回復後 | 見当識不良/神経症状が残ることあり | 多くは清明に戻る。巣症状は乏しい |
赤旗 | 片麻痺/構音障害・髄膜刺激・頭部外傷・発熱 | 労作時発症・心疾患既往・胸痛/動悸の持続 |
臨床の整理と並行して転職の進め方も整えたい方は、3ステップの進め方が最短ルートです。
初期対応の流れ(安全第一)
- 一次評価(ABCDE):気道/呼吸/循環/意識/曝露。まず血糖測定。
- 意識レベル:速報共有はJCS、重症度層別や研究比較はGCS。
- 二次評価:既往・内服・外傷・発熱・痙攣・頭痛・疼痛、神経所見。
- モニタリング:経時でJCS/GCSの推移を記録。
JCS(ジャパン・コーマ・スケール)
3-3-9度方式で、値が大きいほど重いと解釈。必要に応じてR(不穏)/ I(失禁)/ A(自発性消失)を付記します。
群 | コード | 定義 |
---|---|---|
Ⅰ:覚醒(1桁) | 0 | 意識清明 |
1 | だいたい清明だが今ひとつはっきりしない | |
2 | 時・場所・人物のいずれかが不明(見当識障害) | |
3 | 氏名または生年月日が不明 | |
Ⅱ:刺激で覚醒(2桁) | 10 | 普通の呼びかけで開眼 |
20 | 大声または体を揺すると開眼(簡単な指示に応ずる) | |
30 | 痛み刺激+呼びかけ反復でかろうじて開眼 | |
Ⅲ:刺激でも覚醒せず(3桁) | 100 | 痛みに対し払いのけ等の動作 |
200 | 痛みで四肢が動く・顔をしかめる | |
300 | 痛み刺激に反応なし |
GCS(グラスゴー・コーマ・スケール)
E(4)+ V(5)+ M(6)= 3–15点。最良反応で判定。8点以下は重症の目安。挿管時はV=T(合計は1点相当扱いが一般的)。
領域 | 点 | 定義 |
---|---|---|
E(開眼) | 4 | 自発 |
3 | 呼びかけで開眼 | |
2 | 痛み刺激で開眼 | |
1 | 開眼しない | |
V(言語) | 5 | 見当識あり |
4 | 混乱した会話 | |
3 | 不適切な単語 | |
2 | 意味のない発声 | |
1 | 発語なし(挿管は V=T と注記) | |
M(運動) | 6 | 指示に従う |
5 | 痛み部位に手を持ってくる(定位) | |
4 | 痛みから引っ込める(逃避屈曲) | |
3 | 異常屈曲(除皮質姿勢) | |
2 | 異常伸展(除脳姿勢) | |
1 | 反応なし |
記載例: E3 V4 M5 = 12 / 挿管なら E2 VT M5 = 8T(必ず「T」を付記)。
JCS ↔ GCS の換算(目安)
研究ベースの中央値換算。臨床判断の置き換えではなく、疫学・研究比較の補助として使用してください。
JCS | 対応GCS(目安) | 備考 |
---|---|---|
0 | 15 | 正常 |
1 | 15 | 軽度の不明瞭さはGCSで拾いにくい |
2 | 14 | |
3 | 13 | |
10 | 12 | |
20 | 12 | |
30 | 9 | |
100 | 7 | |
200 | 6 | |
300 | 3 | 深昏睡 |
※換算は誤差が出ます。実測のJCS/GCSを必ず併記してください。
運用のコツ(誤りやすいポイント)
- 最良反応で採点:GCSはベスト反応(Mは最良の四肢)。
- 刺激の標準化:痛み刺激は過剰にならないよう手順を施設で統一。
- 挿管・鎮静・失語:Vは「T」や鎮静/失語の有無を必ず注記。
- JCSの付記:不穏(R)・失禁(I)・自発性消失(A)は必要時に併記(例:30-R)。
- 経時変化:「到着時 JCS20 → 1時間後 30」「GCS 12 → 10」のように推移と介入を記録。
FAQ(よくある質問)
- Q. JCSとGCS、どちらを使えば良い?
- A. 場面で使い分けます。病院前~病棟の速報・共有はJCS、重症度の層別や研究比較にはGCSが有用です。
- Q. GCSで挿管中は?
- A. V=Tと記録し、合計は1点相当の扱い(例:E2 VT M5 = 8T)。鎮静薬の影響は所見に明記。
- Q. 失神と意識障害の鑑別は?
- A. 失神は短時間で自然回復が基本。胸痛・動悸、労作時、神経巣症状、発熱、外傷など赤旗があれば精査・入院を検討。