【長期臥床の影響】高齢者の廃用症候群とは?リハビリで予防する方法

臨床での悩み
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リハビリくん
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いつも当サイト(rehabilikun blog)の記事をお読みいただき誠にありがとうございます。また、初めましての方はよろしくお願い致します。サイト管理者のリハビリくんです!

   

この記事は「長期臥床」をキーワードに内容を構成しております。こちらのテーマについて、もともと関心が高く知識を有している方に対しても、ほとんど知識がなくて右も左も分からない方に対しても、有益な情報がお届けできるように心掛けております。それでは早速、内容に移らせていただきます。

   

長期臥床、すなわち寝たきりが健康上良くないことについては、ここ近年で世間の認知が進んだように感じております。臥床についての歴史を遡ると、ひと昔前までは重症患者にとって安静臥床が傷病の回復に有用だと考えられていました。

   

しかし近年になって、安静臥床が長期化されることで廃用症候群をきたし、その事象が患者のその後の QOL に大きな弊害をもたらしていることがわかり、現在では早期離床というキーワードが医療従事者の中では一般的になってきています。

  

しかし、寝たきりが健康に良くないことは理解しつつも、健康上どのような弊害が生じるのかについては、いろいろとわからないこともあるかと思います。そんな人のために、こちらの記事をまとめました!

        

こちらの記事で長期臥床についての理解を深め、廃用症候群防止活動への支援に繋がると幸いです。是非、最後までご覧になってください!

リハビリくん
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【簡単に自己紹介】

30代の現役理学療法士になります。

理学療法士として、医療保険分野と介護保険分野の両方で経験を積んできました。

現在は医療機関で入院している患者様を中心に診療させていただいております。

臨床では、様々な悩みや課題に直面することがあります。

そんな悩みや課題をテーマとし、それらを解決するための記事を書かせて頂いております。

  

現在、理学療法士として得意としている分野は「脳卒中」「褥瘡」「栄養」「呼吸」「摂食・嚥下」「フレイル・サルコペニア」についてです。そのため、これらのジャンルの記事が中心となっております。

  

主な取得資格は以下の通りです

脳卒中認定理学療法士

褥瘡 創傷ケア認定理学療法士

3学会合同呼吸療法認定士

福祉住環境コーディネーター2級

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士として働いていると、一般的な会社員とは異なるリハビリ専門職ならではの苦悩や辛いことがあると思います。当サイト(rehabilikun blog)ではそのような療法士の働き方に対する記事も作成し、働き方改革の一助に携わりたいと考えております。

  

療法士の働き方に対する記事の 1 つが右記になりますが、"理学療法士は生活できない?PTが転職を考えるべき7つのタイミング"こちらの記事は検索ランキングでも上位を獲得することができております。興味がある方は、こちらの記事も目を通してくれると幸いです☺

長期臥床とは?寝たきりとの違い

長期臥床とは、安静臥床が一定期間続く状態のことをいいます。長期期間がどのくらいの期間なのか?ということについては定義されておりませんが、長期臥床による弊害を考えると 1 週間臥床状態が続くようであれば長期臥床といえると考えます。

長期臥床中は 1 日中ベッド上で安静にすることになりますので、身体活動量が低下します。そうすると、身体機能が衰え、心身の様々な機能が低下してしまいますが、このことを廃用症候群といいます。つまり、長期臥床により廃用症候群は引き起こされます。

寝たきりの定義は?と気になる方もいるかもしれませんが、寝たきりという言葉は学術用語ではないため、明確な定義はありません。厚生労働省では「おおむね 6 ヶ月以上病床で過ごす者」としています。

あえて言葉にするのであれば、寝たきりとは「 6 ヶ月以上臥床状態が継続され、廃用症候群をきたした者」と説明することができます。

廃用症候群とは?予防する方法

廃用症候群の病態は、身体の不活動から直接筋・骨格系に現れる症状、心・血管系での変化、呼吸器・消化器・泌尿器への影響、精神・心理への影響の 4 つに分類されます。症状はこの中でも多岐に渡り、QOL の低下に直結する恐ろしい病態になります。そのため、廃用症候群をきたすことを防ぐことが、医療介護において重要な課題となります。

前項で説明した通り、廃用症候群は長期臥床によって引き起こされます。そのため廃用症候群を防ぐためには、長期臥床をさせないことが必要になります。

以前の医療では、重症患者にとって安静臥床が傷病の回復に有用だと考えられていました。しかし近年になって、安静臥床が長期化されることで廃用症候群をきたし、その事象が患者のその後の QOL に大きな弊害をもたらしていることがわかってきました。

現在では考えが改められ、安静臥床となる時間を可能な限りつくらないようにして、早期離床と早期リハビリテーションが推進されております。国としても、平成 30 年の診療報酬制度の改定で、「早期離床・リハビリテーション加算」が新設されており、高齢者の廃用症候群を防止するためには長期臥床を廃止させるべきというメッセージと解釈することができます。

廃用症候群の種類と影響

廃用症候群ときくと身体が衰えて筋力が低下するという印象が強いと思いますが、実は筋力への影響(筋・骨格系への影響)だけに留まるものではありません。廃用症候群の種類としては「筋・骨格系への影響」「心臓・血管系への影響」「呼吸器・消化器・泌尿器への影響」「精神・心理への影響」のように分類することができます。

いずれの項目も、人間が健康を維持するうえで強い弊害となるため、これら 1 つ 1 つを予防する必要があります。また、これら複数の項目が複合したときには廃用症候群として、より重篤な状態になるため非常に危険といえます。次項にて「筋・骨格系への影響」から順に説明していきます。

筋・骨格系への影響

健康に日常生活を送っている時と比較して、臥床状態では身体を使う機会が極端に減少するため、人が身体を動かすための基盤となる筋肉や骨格に支障が出ます。どのような部分にどの程度影響を及ぼすのかを解説していきます。

筋力低下

長期臥床による弊害として最初に思い着くのが筋力低下になるのではないでしょうか?

長期臥床とは安静臥床が一定期間続く状態のことをいいますが、この安静の程度と厳格さにより、生じることになる筋力低下の程度は異なります。

例を出すと、JCS III 桁の意識障害(全く筋収縮が生じない状態)と意識障害は認めずに意図的に安静にしている状態では、同じ安静臥床でも状況が異なります。

後者の場合では姿勢を変えたり、手足を動かすようなことが少なからずあると考えられます。こうした、ある程度の筋収縮が行われるかどうかで筋力低下の進行の程度は大きく異なります。

Müller らのギプス固定による一連の研究によると、同じ安静条件でも筋力の減少率は人によって異なり、1 日に1 ~ 2 %の減少を来すのが 3 割、2 ~ 3 % の減少を来すのが 4 割、3 ~ 4 %の減少を来すのが 2 割と報告されています。

強度が高い筋収縮の発生、加えて筋収縮を行う頻度が高いほど、筋力低下は防げると考えられ、最大筋力の 20 %の筋収縮を 1 秒間行うだけでも筋力低下の程度の減少に繋がると報告されています。

このように長期臥床といっても、対象者の意識状態、全身状態、安静度の程度により筋力低下の進行率は異なりますが、一般的な目安としては 1 日に約 1〜 3 %、1 週間で 10 〜 15 %、1 ヶ月で約 50 %程度の筋力低下が生じると考えられています。

骨萎縮(骨粗鬆症)

長期間、骨への荷重負荷が減少することで骨吸収は著明に亢進しますが、骨形成の変化は少ないために骨量が減少、そして骨が萎縮します。

先行研究においても、3 週間の安静臥床により骨盤の骨密度が 7.3 %減少し、20 週間もの安静臥床例では 30 〜 50 %の骨密度の減少を来したと報告されています。寝たきり高齢者に骨折が多い要因として、単に転倒リスクが高くなるからという訳ではなく、長期臥床による骨萎縮が関与しています。

長期臥床に加えて、低栄養状態やステロイド治療などの骨量減少を促進する要因が合併している例では、特に注意が必要になります。

関節可動域の縮小

安静臥床による身体不活動により、関節周囲の皮膚や筋肉、靭帯等の軟部組織が変性し、関節可動域が制限されます。

関節可動域についても筋力低下と同様に、安静の程度と厳格さにより、生じることになる関節可動域縮小の程度は異なります。

例を挙げると、意識障害によりほとんど関節を動かす機会がなく、リハビリテーションなどによる支援もなければ、関節可動域は大きく縮小すると考えられます。

一方、安静臥床とはいっても、ある程度ご自身で身体を動かすことが可能であり、加えてリハビリテーションで関節可動域練習も実施しているのであれば前者より関節可動域を維持できます。

心臓・血管系への影響

臥床状態の継続により衰えていくのは筋肉というイメージがあるかもしれませんが、心臓や血管などの身体の内部にも多大な支障を来します。リハビリテーションにおけるリスク管理といった視点でも重要な要素になります。

起立性低血圧

長期臥床は心臓・血管系にあらゆるマイナスな影響を与えます。心臓・血管系への影響を説明するうえで起立性低血圧についての説明は欠かせませんが、起立性低血圧の発生機序については分かりにくい部分があると思います。しかし、ここは重要な話になりますので、筆者なりにわかりやすく整理して説明します。

はじめに、人が仰臥位から立位になると、体位変換による重力の影響によって約 500 ~ 800 ml の血液が胸腔内から下肢や腹部内臓系へ移動し、心臓への還流血液量が約 30 %減少します。

この循環動態の変化に対し、人体で何も対策できなければ、心拍出量は減少し血圧は低下することになります。

しかし、私たちは普段寝ている状態から急に起き上がっても、一般的には血圧が極端に低下することはありません。その理由は、圧受容器反射系の賦活により対処しているためになります。

人体では圧受容器反射系の賦活により、心拍数を増加、心収縮力を増加、末梢血管抵抗を増加、末梢静脈の収縮を生じさせることで、循環動態の変化をカバーし血圧の過剰な低下を抑制しています。

それでは何故、長期臥床により起立性低血圧のリスクが上昇するのでしょうか?それは、上述した人体による起立性低血圧を防ぐ反応が長期臥床により障害されるためです。長期臥床による心臓・血管系への弊害として以下の 4 つが挙げられます。

  1. 血管運動調節機能の障害
  2. 交感神経活動の障害
  3. 循環血液量減少
  4. 心筋機能低下

長期臥床を来すと血管運動調節機能が正常に働きにくくなり、かつ交感神経活動が障害されます。交感神経活動が障害されると、下肢の血管収縮が不十分となり静脈還流量が減少します。静脈還流量が減少すると、1 回心拍出量の低下をもたらし、最終的に脳血流量が低下します。

臥床状態が継続されると循環血液量が 僅か 2 週間で 8 ~ 12 %程度減少、2 ~ 4 週間継続されると 15 ~ 20 % 減少すると報告されています。

また、心筋機能について Perhonenらによると 6 週間のベッド上臥床が健常男性の左心室容量・平均心室壁厚を有意に減少させ、左心室拡張末期容量においては 2 週間の臥床で有意に減少すると報告されています。

運動耐容能の低下

前項の起立性低血圧についての内容でも心筋機能低下について説明したため、重複する部分もありますが、長期臥床がもたらす心臓・血管系への重大な影響の 1 つとして、運動耐容能の低下(最大酸素摂取量低下)が挙げられます。

運動耐容能の低下(最大酸素摂取量低下)が何を意味するのかというと、要するに体力が低下することになります。運動耐容能とは、身体がどの程度の運動負荷に耐えることができるかの能力を意味します。 持久力や有酸素能力なども含まれており、心臓や肺・筋肉など全身の働きを調べる指標になります。

こちらの運動耐容能ですが、どのように調べるのかというと、自転車エルゴメータやトレッドミル実施における最大酸素摂取量を測定することによ り評価することができます。

長期臥床の話に戻りますが、世界的な運動生理学者であるベン・サルチン氏によると、20 日間のベッド上での安静臥床により、健康な若年男性の最大酸素摂取量が 26.4 %減少したと報告されています。

最大酸素摂取量は心臓のポンプ機能と骨格筋の酸素利用能により決定されるため、この両者が低下したことで最大酸素摂取量が減少したと考えられます。

血栓症や塞栓症のリスクの増大

長期臥床により、深部静脈血栓症(DVT)、静脈血栓塞栓症(VTE)、肺血栓塞栓症(PTE)などのリスクが高くなります。

その要因としては、臥床状態であると静脈還流の要素となる筋ポンプが十分な機能を発揮できないこと、臥床により循環血液量が減少し、血液粘稠性が亢進することが挙げられます。

臥床状態が継続されると循環血液量は僅か 2 週間で 8 ~ 12 %程度減少、2 ~ 4 週間継続されると 15 ~ 20 % 減少すると報告されています。

呼吸器・消化器・泌尿器への影響

心臓や血管系など身体の内部にまで長期臥床の弊害が生じることを前項で説明しましたが、心臓や血管だけに留まらず、呼吸器・消化器・泌尿器と様々な臓器に影響を与えます。目に見えない部分で深刻なダメージを与える恐ろしい症状になります。

呼吸器系

臥床が呼吸に何故影響を与えるのかというと、寝ている姿勢が呼吸運動を阻害するためになります。

横隔膜は、胸腔と腹腔を隔てています。立位姿勢では、腹腔内にある臓器は重力の影響を受けて下がり、横隔膜運動を妨げることはありません。

しかし、臥位姿勢の場合、腹腔内臓器が頭側へ移動するため、背側横隔膜の上に乗る形となり、横
隔膜運動を妨げることになります。

この横隔膜運動の阻害により、機能的残気量(FRC)が減少します。機能的残気量(FRC)は安静時の呼気終末に肺の中に残っている肺気量であり、ガス交換に大きく関与します。機能的残気量(FRC)の減少は、肺内シャントの増加や換気血流比の不均衡をもたらし、酸素運搬能を低下させます。

消化器系

長期臥床による不動や身体活動量の低下は、腸管内の食物通過時間を延長させ、便秘の原因となります。特に腸管の緊張や蠕動運動の低下を認める高齢者ではその傾向が強くなります。

泌尿器系

長期臥床による不動や身体活動量の低下により、骨量が減少する一方、骨吸収は著明に亢進するため、高カルシウム血症・高カルシウム尿症が生じ、尿路結石のリスクが高くなります。

尿路結石の影響により、膀胱粘膜を損傷し、細菌の繁殖から尿路感染を発症したり、バルーンカテーテルの留置は、易感染、尿道損傷、結石形成を助長します。

精神・心理への影響

安静臥床により、社会との接触の機会が減少することで、情緒の不安定化、抑うつ状態、意欲低下、見当識障害、記銘力低下、判断力や問題解決能力の低下、学習能力の減退などが発生します。

不動状態や身体活動量が著しく低下することにより、人と関わる機会が喪失し、感覚入力が減少、社会的孤立状態を作り出します。

そうすると、脳機能の低下による意欲低下、集中力低下、感情鈍麻、鬱、知的機能の減衰をきたし、やがて認知症へと進行していくと考えられております。

まとめ

最後までお読みいただきありがとうございます!

この記事では「長期臥床」をキーワードに考えを述べさせていただきました。

こちらの記事が長期臥床についての理解力向上をもたらし、臨床における廃用症候群防止活動に少しでもお力添えになれば幸いです!

参考文献

  1. 佐藤知香,梅本安則,田島文博.安静臥床が及ぼす全身への影響と離床や運動負荷の効果について.Jpn J Rehabil Med .2019,56,p842-847.
  2. 田中敦士,春名由一郎.長期安静臥床と筋力トレーニングが単脚起立に及ぼす影響,Equilibrium Res.2000,Vol.59(6),p563-567.
  3. 高橋龍太郎,金丸晶子.廃用症候群の予防とリハビリテーション効果.日本老年医学会雑誌.40 巻, 3 号,2003:5,p237-239.
  4. 園田茂.不動・廃用症候群.Jpn J Rehabil Med.2015,52,p265-271.
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