
いつも当サイト(rehabilikun blog)の記事をお読みいただき誠にありがとうございます。また、初めて当サイトを閲覧して下さった方はよろしくお願い致します。サイト管理者のリハビリくんです。

理学療法士として以下の経験と実績を持つリハビリくんが解説します♪
バランス機能の評価方法

理学療法士や作業療法士にとってバランス機能はリハビリテーションを語るうえで欠かすことのできない評価指標となります。
質の高いバランス機能評価を実施するためには、バランスの概念について理解することが必要となり、近年ではバランス機能の測定に関しては、静的バランスおよび動的バランスという概念が定着しています。
静的バランスおよび動的バランスの定義は以下の通りになります。
【静的バランス機能】
→ 自然立位など安静姿勢を保持する機能
【動的バランス機能】
→ 身体重心の移動を伴う動作を達成する機能
静的バランス機能の測定法としてはロンベルグ試験、片足立ち、マン試験、足底部圧力中心(Center of Pressure:COP)の移動量を用いた評価方法などがあげられます。
一方、動的バランス機能の評価法としてはファンクショナルリーチテスト(FRT)、Timed Up and Go Test(TUG) 、Functional Balance Scale(FBS)、Performance Oriented Mobility Assessment(POMA)などがあげられます。
動的バランス機能の評価方法の中で、ファンクショナルリーチテスト(FRT)は最も短時間で簡便に実施することが可能であり、現在も臨床で広く用いられています。
ファンクショナルリーチテストとは

ファンクショナルリーチテスト(Functional Reach Test)とは、1990 年に Duncan らによって提案された動的バランス機能に対する評価方法であり、略称で FRT とも呼ばれています。
Duncan らは、加齢や疾病による姿勢調節能力の低下によって転倒や歩行能力の低下が招来されるため、これらを評価する簡便な測定方法を作り出 したいという意図からファンクショナルリーチテストを開発しています。
Duncan らはファンクショナルリーチテストの定義を「立位において固定された支持基底面の中で、ヒトが上肢長を超えて前方へリーチする限界の距離」としています。
すなわちファンクショナルリーチテストとは、自然立位において上肢を可能な限り前方にリーチさせ、その距離を計測するという評価になります。
評価方法、検査のやり方

【検査前の準備】
ファンクショナルリーチテストは壁際で立位で行うテストになります。壁に対して両肩を結んだ線が垂直になるようにします。また、利き手側が壁になるようにします。
あらかじめ、利き手側の肩関節 90 °屈曲位での水平前方方向に定規やメジャーを固定(壁に貼り付ける)しておくと、移動距離を正確に捉えやすくなり、評価を円滑に行うことができます。
【実施の手順】
壁(定規やメジャー)に触れることなく、壁側の手を水平方向に可能な限り手を伸ばしてもらいます。
壁の反対側にある腕は大腿部前面につけて身体が開くのを防止します。
バランスを保ち、足を踏み出したり踵を上げたり(支持基底面を変えない)しないように注意します。
【記録方法】
実施前と実施後の第 3 中手骨末端が届いた位置を確認して移動距離を求めます。
第 3 指先端の移動距離としている場合もありますが、原著では第 3 中手骨末端となっております。
計測は全部で 5 回行い、はじめの 2 回は練習で、その後の 3 回分の平均を検査結果として記録します。
壁(定規やメジャー)に触れてしまったり、足を踏み出したりしてしまった場合は記録にはカウントせず、やり直しとします。
カットオフ値、基準値
ファンクショナルリーチテストのカットオフ値や基準値については、さまざまな研究が実施されています。その一例をご紹介します。
ファンクショナルリーチテストの年齢別、男女別の平均値は以下の通りとなる
出典:Functional reach:a new clinical measure of balance.Duncan et. al.
虚弱高齢者の場合は「18.5 cm 未満」で転倒リスクが高くなる
出典:Thomas et al.,Arch Phys Med Rehabil.2005.
脳卒中片麻痺患者の場合は、「15 cm 未満」で転倒リスクが高くなる
出典:Acar & Karats, Gait Posture, 2010.
パーキンソン病患者の場合は「31.75 cm 未満」で転倒リスクが高くなる
出典:Dibble & Lange,J Neurol Phys There,2006.
パーキンソン病患者において過去 1 年の間に 2 回以上の転倒があった患者群を識別するためのカットオフ値は 31.75 cm(感度 0.86、特異度 0.52)
FRT以外のバランス機能の評価指標
この記事では動的バランスの評価方法として、ファンクショナルリーチテストについてまとめさせていただきましたが、動的バランスの評価方法にはファンクショナルリーチテスト以外の方法もあります。
それらについて簡単にご紹介します。
FSST(Four Square Step Test)
FSST は、4 本の杖 (床面からの高さ 2 cm)を十字に並べて 4 区画にわけた環境で実施し、前後左右にできるだけ素早く杖をまたぎながら移動して、往復する速度を測定します。

スタート位置は左手前の区画とし、時計回りに一周して左手前の区画に移動した後、続けて反時計回りに 1 周して左手前の区画に戻るまでの時間を計測します。
Short Physical Performance Battery(SPPB)
SPPB は、立位バランス、歩行、立ち座り動作の 3 課題から成るパフォーマンステストになります。各課題の達成度を 0 ~ 4 点で採点し、合計点を指標とします。
施行時間は 5 分程度と簡便であり、虚弱高齢者、高齢入院患者、心不全患者の身体機能の評価、死亡リスクの増大や ADL 低下の予測因子、介入効果のアウトカム指標として、国際的にも広く用いられております。
3 項目からなる合計点数による下肢機能の判定は以下の通りになります。
- 0 ~ 6 点:低パフォーマンス
- 7 ~ 9 点:標準パフォーマンス
- 10 ~ 12 点:高パフォーマンス
AWGS2019 では、身体機能低下の基準を SPPB 9 点以下と定めています。
Timed Up and Go(TUG)
Timed Up and Go(TUG)は歩行能力や動的バランス、敏捷性などを総合的に判断する尺度としてPodsiadlo & Richardson(1991)らが考案したテストになります。
TUG では起立着座能力、直線歩行能力、方向転換能力、所要時間、歩数など移動に関連したさまざまな要素を評価することができます。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!こちらの記事では「ファンクショナルリーチテスト」をキーワードに内容を構成させて頂きました。
バランス機能は理学療法士や作業療法士にとって重要な評価指標であり、「静的バランス」と「動的バランス」に大別することができます。
このうち、動的バランスは身体重心を移動させる機能であり、臨床ではファンクショナルリーチテストを使用することで完全に評価することが可能であり、有用な評価指標といえます。
この記事を読むことでファンクショナルリーチテストについての理解が深まり、リハビリテーション領域における身体機能および運動機能評価への一助となれば幸いです。
参考文献
- 中村一平,奥田昌之,鹿毛治子,國次一郎,
杉山真一,芳原達也,浅海岩生.ファンクショナルリーチテストとその他のバランス評価法との関係.理学療法科学.21(4),p335-339,2006. - 西銘耕太,熊田仁,後藤昌弘.考,ファンクショナル・リーチテスト.藍野学院紀要.第23巻,2009,p17-26.