歩行・バランス評価の選び方は「目的 → 主役 1 本 → 条件固定」で決まります
歩行・バランス評価で迷う場面は、「有名な評価をたくさん並べるかどうか」ではなく、「いま何を決めたいか」が曖昧なときに起こります。結論はシンプルで、目的を 1 つに絞り、主役の評価を 1 本に固定し、環境・補助具・合図・試行回数をそろえて再評価できる形にすることです。これだけで、点数や秒数が “ 使える数字 ” になり、次の一手まで決めやすくなります。
本ページで答えるのは、①目的別の最初の 1 本 ②追加評価を足す順番 ③条件固定と記録の型です。各評価の詳しい手順・採点・カットオフ値は個別記事に分け、このページでは「選び方の総論」に絞って迷いを減らします。
同ジャンル回遊(まずここから)
このページで決めること / 決めないこと
先に役割を固定すると、親記事・子記事との重複が減ります。このページは「全部を詳しく説明する記事」ではなく、「最初の 1 本を決める記事」です。
- このページで決めること:最初の 1 本、次に足す 1 本、条件固定と記録の型
- このページで決めないこと:各尺度の詳細手順、採点の細部、比較記事レベルの深掘り
- 向いている読者:初回評価で何から取るか迷う方、再評価がぶれやすい方、チームで運用をそろえたい方
迷わない 5 分フロー(決める → 実施 → 記録 → 次の一手)
運用が崩れる原因は「点数」そのものより「条件の揺れ」です。まずは順番を固定し、結果を “ 次に使える形 ” で残します。
- 目的を 1 つに絞る(転倒リスク、歩行速度、歩行耐久、要因分析、経時比較)
- 主役 1 本を決める(下の早見表を使う)
- 条件を固定する(環境、補助具、合図、試行回数、中止基準)
- 結果+破綻ポイントを 1 行で残す
- 次の 1 手(追加評価、介入、再評価間隔)を 1 つ決める
目的別|最初の 1 本と、次に足す 1 本
表は横にスクロールできます(スマホ対応)。
| いま決めたいこと | まず 1 本 | 次に足すなら | 固定して記録するポイント |
|---|---|---|---|
| 転倒リスクの当たりをつける | TUG | 5xSTS / 静的バランス | 椅子高、補助具、通常速度、開始合図、試行回数 |
| 歩行 “ 速さ ” を層別化したい | 10MWT | TUG との比較 / 6MWT | 助走・計測距離、快適/最速、靴・装具、介助量 |
| 歩行 “ 耐久 ” と屋外の見立てをしたい | 6MWT | Borg / SpO2 / 10MWT | コース長、声かけ、休憩ルール、酸素条件、中止基準 |
| 歩行中のどこで崩れるかを知りたい | FGA / Mini-BESTest 系の選び方 | TUG / 課題別観察 | 速度変化、旋回、狭路、頭部運動、障害物などの課題条件 |
| チームで経時変化を共有したい | BBS / Mini-BESTest | TUG / 10MWT | 同じ順番、同じ指示、介助の境界、補助具条件 |
初回に強い「最小セット」 3 ステップ
初回は “ たくさん取る ” より “ 先に 1 本を固定する ” 方が安定します。迷うときは、次の 3 ステップにすると回しやすいです。
- ステップ ①:TUG で移動全体の当たりをつける
- ステップ ②:目的で分岐する(速さ= 10MWT / 耐久= 6MWT / 条件課題= FGA / Mini-BESTest 系)
- ステップ ③:補助評価を 1 本だけ足す(例:5xSTS で立ち上がり要因)
「転倒」に寄せて最小セットをそのまま運用したい場合は、転倒リスク評価の最小セットから入ると早いです。
条件固定と記録の型(最低限そろえる 6 項目)
秒数や点数だけでは、次の評価者が再現できません。最低限、次の 6 項目をセットで残すと、再評価とカンファレンスがかなり楽になります。
- 実施日・評価者
- 検査名( TUG / 10MWT / 6MWT / BBS など)
- 補助具・装具・靴(種類・設定)
- 環境(コース長、床、混雑、手すり、段差)
- 条件(通常/最速、椅子高、合図、試行回数、中止基準)
- 結果+破綻ポイント(例:旋回で減速、立ち上がりで膝折れ、狭路でふらつき)
初回選択・記録シートを使う
記事で整理した「目的 → 主役 1 本 → 条件固定 → 次の一手」を、そのまま現場で残しやすいように A4 1 枚の PDF にまとめました。初回評価の整理、カンファ前の共有、再評価の前提確認に使いやすい形です。
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現場の詰まりどころ(よくある失敗)
評価が “ 回らない ” 理由の多くは、評価法の選択ミスというより、条件固定と記録の抜けです。先に失敗をつぶすと、再評価の質が上がります。
表は横にスクロールできます(スマホ対応)。
| 失敗(詰まり) | 起きること | 対処(固定ポイント) | 記録に残すこと |
|---|---|---|---|
| 椅子高・合図・停止基準が毎回違う | TUG や 5xSTS の秒数が比較しにくくなる | 同じ椅子、同じ合図、同じ停止基準を施設で固定する | 椅子高、開始合図、停止基準 |
| 補助具・装具・靴が混ざる | “ 改善 ” が条件差に見えてしまう | 普段条件で固定し、変更時は別条件として扱う | 補助具、装具設定、靴 |
| 通常と最速が混ざる | 速度の変化が読みにくくなる | 通常を基本に固定し、最速は別枠で測る | 通常/最速、声かけ文 |
| 点数だけ共有して次の一手が決まらない | カンファレンスで介入方針が止まる | 「止まった場面 → 仮説 → 次の 1 手」を 1 行で残す | 破綻ポイント、仮説、次の 1 手 |
ここまで整えても毎回同じところで詰まる場合は、書き方や手順だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無など “ 環境要因 ” が影響していることもあります。
評価・記録・共有の “ 型 ” をまとめて整理したい方へ
再評価が効く前チェック
測定前に次の項目だけ確認しておくと、結果がかなり揃いやすくなります。
- コース長と折り返し位置の目印を固定したか
- 椅子の高さ、肘掛けの有無、床の滑りやすさを確認したか
- 補助具・装具・靴を普段条件でそろえたか
- 通常/最速、合図、試行回数を決めたか
- 中止基準(胸部症状、めまい、著明なふらつき、 SpO2 低下など)を共有したか
このページ内のショートカット
ミニケースで選び方を固める( 3 例)
「目的 → 主役 1 本 → 次に足す 1 本」の流れを、よくある 3 パターンで確認します。
ケース 1 :外来(転倒不安が強い)
ケース 2 :回復期(退院支援で移動自立を見たい)
ケース 3 :在宅(生活内でつまずく場面がある)
- 目的:生活場面での破綻条件を拾う
- まず 1 本:TUG
- 次に足すなら:FGA / Mini-BESTest 系
- 次の一手:段差・旋回・狭路のどこで崩れるかを 1 つに絞って再現し、同じ条件で追跡
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
初回は、どれを “ 1 本 ” に固定すると回りやすいですか?
結論は「目的」で決めます。転倒リスクの当たりをつけたいなら TUG、速さを見たいなら 10MWT、耐久を見たいなら 6MWT が回りやすいです。迷うときは、まず TUG で移動全体の当たりを取り、そのあとで 1 本だけ追加する運用が安定します。
結果が日によって変わります。どう扱えばいいですか?
先に確認するのは、患者の状態よりも条件差です。椅子高、補助具、速度条件、合図、試行回数、コース長が揃っていれば、その変動自体が意味を持ちます。解釈は秒数や点数だけでなく、どこで崩れたかを併記すると揃います。
バランス尺度が高得点で “ 変化が出ない ” ときは?
天井が疑われます。静的な保持だけでは差が出にくい場合は、歩行中の速度変化、旋回、狭路、障害物など “ 条件で落ちる理由 ” を拾う評価へ主役を移すと、次の一手が見えやすくなります。
介入につながる “ 1 行まとめ ” はどう書けばいいですか?
「止まった場面 → 仮説 → 次の 1 手」で書きます。例:「旋回で減速 → 方向転換時の不安定さが主 → 方向転換課題を追加し、通常速度で再評価」の形です。
再評価の間隔はどれくらいが良いですか?
病期と介入量で変わりますが、まずは施設内で基準を決めて、同一条件で比較できる頻度にすることが大切です。短すぎると条件差が目立ち、長すぎると介入効果の読み取りが遅れます。
次の一手
- 全体像を先に整える:歩行・バランス評価ハブで関連ページの役割を確認する
- すぐ実装に進む:転倒リスク評価の最小セットで TUG 起点の運用を固定する
参考文献
- Podsiadlo D, Richardson S. The timed “Up & Go”: a test of basic functional mobility for frail elderly persons. J Am Geriatr Soc. 1991;39(2):142-148. DOI: 10.1111/j.1532-5415.1991.tb01616.x
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- Guralnik JM, Simonsick EM, Ferrucci L, et al. A short physical performance battery assessing lower extremity function: association with self-reported disability and prediction of mortality and nursing home admission. J Gerontol. 1994;49(2):M85-M94. DOI: 10.1093/geronj/49.2.M85
- Fritz S, Lusardi M. White paper: “walking speed: the sixth vital sign”. J Geriatr Phys Ther. 2009;32(2):46-49. DOI: 10.1519/00139143-200932020-00002
- Wrisley DM, Marchetti GF, Kuharsky DK, Whitney SL. Reliability, internal consistency, and validity of data obtained with the Functional Gait Assessment. Phys Ther. 2004;84(10):906-918. DOI: 10.1093/ptj/84.10.906
- Franchignoni F, Horak F, Godi M, Nardone A, Giordano A. Using psychometric techniques to improve the Balance Evaluation Systems Test: the mini-BESTest. J Rehabil Med. 2010;42(4):323-331. DOI: 10.2340/16501977-0537
- Cheng DKY, Dagenais M, Alsbury-Nealy K, Legasto JM, Scodras S, Aravind G, et al. Distance-limited walk tests post-stroke: a systematic review of measurement properties. NeuroRehabilitation. 2021;48(4):413-439. DOI: 10.3233/NRE-210026
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


