歩行・バランス評価は「何を測りたいか」から主役を1本決めます
歩行・バランス評価は、TUG、10m歩行、6分間歩行、BBS、FGA、Mini-BESTestなどを最初から全部並べる必要はありません。まず「機能的移動を見たい」「歩行速度を追いたい」「歩行耐久を知りたい」「バランスのどこで崩れるかを詳しく見たい」など、今回の評価で答えたい問いを1つ決めます。そのうえで、経時変化を追う主役の評価を1本選び、主役だけでは答えられない情報があるときに追加評価します。
この記事では、個々の尺度の詳しい採点方法ではなく、測りたいもの → 主役1本 → 必要時のみ追加 → 条件固定 → 記録の順で初回評価を組み立てる方法を整理します。
歩行・バランス評価全体から探したい方:各評価の役割や関連記事は、歩行・バランス評価ハブで整理しています。
最初に「何を測りたいか」を決める
評価を選ぶときは、患者の疾患名だけではなく、今回どの能力を数値化したいのかを先に決めます。同じ患者でも、歩行速度を知りたい場面と、複雑な歩行課題での不安定さを知りたい場面では、主役になる評価が変わります。
| 今回知りたいこと | 主役候補 | 主に見ていること | 主役だけで足りないとき |
|---|---|---|---|
| 立ち上がり・歩行・方向転換を含む機能的移動を見たい | TUG | 一連の機能的移動に要する時間 | どの局面で崩れたかを観察し、必要な要素へ追加評価する |
| 歩行速度を経時的に追いたい | 10MWT | 一定距離の歩行速度 | 長く歩いたときの能力も必要なら6MWTなどを追加する |
| 歩行持久性を見たい | 6MWT | 一定時間内に歩ける距離と歩行中の反応 | 速度そのものを分けて見たいなら10MWTなどを追加する |
| 基本的な立位・動作バランスを見たい | BBS | 立位保持や移乗を含む機能的バランス | 高得点でも歩行中に問題が残るなら、より難しい動的課題を検討する |
| 歩行中の複雑な課題での安定性を見たい | FGA | 速度変化、頭部運動、方向転換、障害物などを含む歩行課題 | 姿勢制御を複数の側面から整理したい場合は別のバランス評価を検討する |
| 動的バランス・姿勢制御を複数側面から見たい | Mini-BESTest | 予測的姿勢制御、反応的姿勢制御、感覚、動的歩行など | 歩行速度や歩行持久性を数値化したい場合は歩行評価を追加する |
この表は「この目的なら必ずこの尺度」という固定的なルールではありません。対象疾患、歩行能力、安全性、評価可能性、施設での運用なども含めて選びます。特に歩行能力が低く検査そのものが実施できない場合は、無理に歩行検査を選ばず、現在評価可能な能力から確認します。

「主役1本」は、評価を1種類だけにするという意味ではありません
主役1本とは、今回の経時変化や介入判断の中心として追う指標を決めることです。評価を1種類しか実施してはいけない、という意味ではありません。
たとえば「歩行速度の変化を追いたい」なら10MWTを主役にします。その結果だけでは「長い距離を歩いたときにも能力を維持できるか」が分からなければ、6MWTなどを追加します。一方、すでに知りたいことへ十分答えられているなら、評価項目を増やす必要はありません。
追加評価は「主役で答えられなかった問い」から決める
追加評価を選ぶときは、「念のためもう1本」ではなく、主役を実施したあとに残った疑問を言葉にします。
- 10MWTは改善したが屋外歩行が続かない:歩行持久性を追加で確認する
- BBSは高得点だが方向転換や障害物で不安定:より複雑な動的歩行課題を確認する
- TUGが遅い:時間だけで原因を決めず、立ち上がり、直線歩行、方向転換、着座のどこで時間を要したかを確認する
この順番にすると、「評価を増やしたが結局何を見ているのか分からない」という状態を避けやすくなります。
転倒リスクはTUGなど1つの検査だけで決めません
TUGは機能的移動を把握する有用な検査ですが、TUGの時間だけで将来の転倒リスクを判定するのは避けます。高齢者を対象とした研究では、TUGと転倒歴との関連は認められる一方、将来の転倒を単独で予測する能力には限界が報告されています。
転倒リスクを知りたい場合は、歩行・バランス能力だけでなく、転倒歴、薬剤、認知・注意、視覚、環境、起立時の循環反応など、対象者に応じた複数要因を確認します。転倒を主目的に評価を組み立てる場合は、転倒リスク評価の最小セットで整理しています。
再評価できるように「条件」を固定する
同じ尺度でも、補助具、歩行速度の指示、椅子、コース、声かけなどが変われば、前回値と単純比較できなくなることがあります。初回から条件を残し、次回に再現できる形にしておくことが重要です。
| 確認項目 | 記録する内容の例 |
|---|---|
| 補助具・装具・靴 | 杖や歩行器の種類、装具、履物、設定 |
| 実施環境 | コース、床面、椅子、折り返し位置など |
| 実施条件 | 快適速度/最速、開始方法、試行回数など |
| 介助・見守り | 身体介助の有無、介助量、安全確保の方法 |
| 評価時の状態 | 疲労、疼痛、酸素投与など、比較に影響し得る条件 |
| 結果 | 秒数、速度、距離、点数など尺度に応じた値 |
すべての条件を毎回完全に同じにできるとは限りません。補助具の変更など、介入によって条件そのものが変わった場合は、無理に前回と同条件へ戻すのではなく、「何が変わった条件なのか」を結果と一緒に残します。
結果は「数値+破綻した場面+次に確認すること」で残す
秒数や点数だけでは、なぜその結果になったのかを次の評価者が再現しにくくなります。数値に加えて、実施中にどこで動作が変化したかを簡潔に残します。
記録の基本形
結果 → 破綻した場面 → 次に確認すること
たとえばTUGであれば、「○秒」という結果だけで終わらず、「方向転換時に歩幅が小さくなり減速した」と併記します。その所見から、方向転換時の安定性を詳しく見る必要があると判断した場合に、観察や追加評価へ進みます。
ここで大切なのは、観察した所見と原因仮説を混同しないことです。「旋回で減速した」は観察事実ですが、「筋力低下が原因」は追加評価なしには確定できません。記録では、結果・観察事実・次に確認する内容を分けると、多職種でも共有しやすくなります。
歩行・バランス評価で起こりやすい4つの失敗
評価が増えても判断につながらない場合は、尺度そのものより「選び方」と「比較条件」を見直します。
| よくある失敗 | 問題 | 修正 |
|---|---|---|
| 毎回TUGから始める | 本当に知りたい歩行速度や耐久性と評価の目的がずれることがある | 先に「今回何を測りたいか」を決める |
| 評価を最初から何本も取る | どの値を中心に介入効果を追うのか曖昧になる | 主役を決め、残った疑問にだけ追加する |
| 数値だけを記録する | どの場面で問題が生じたのか分からない | 破綻した場面も一緒に残す |
| 再評価時に条件が変わっている | 患者の変化と条件差を区別しにくい | 条件をそろえるか、変更した条件を明記する |
再評価では「主役を変えるべきか」も確認する
同じ尺度を継続すること自体が目的ではありません。初回に選んだ主役が、現在も知りたい能力を十分に捉えているかを再評価ごとに確認します。
たとえば、初期にはBBSで変化を追えていても、高得点となり日常の難しい歩行課題との違いが捉えにくくなれば、別の評価を主役または補助評価として検討する余地があります。一方、主役を変更すると経時比較の連続性が切れるため、変更する場合は「なぜ変更したか」を記録しておきます。
主役を変える判断では、点数だけでなく、現在の目標、生活場面で残っている問題、天井効果・床効果、検査の実施可能性を合わせて確認します。
よくある質問
初回評価では、結局どれを1本選べばよいですか?
疾患名だけで決めず、今回数値化したい能力から選びます。機能的移動ならTUG、歩行速度なら10MWT、歩行持久性なら6MWT、基本的な立位・動作バランスならBBSなど、まず測定したいものと尺度の役割を一致させます。
主役の評価は途中で変えてもよいですか?
現在の目標や能力に合わなくなった場合は変更を検討できます。ただし、経時比較の連続性が変わるため、変更理由と切り替え時点を記録します。単に点数が良くなったという理由だけでなく、生活上の問題を捉えられているかも確認します。
再評価で補助具や条件が変わった場合はどうしますか?
条件の変化自体が治療や生活上の変化である場合、無理に以前の条件へ戻す必要はありません。前回と何が違うのかを明記し、「同条件での変化」と「条件変更を含めた現在の能力」を混同しないように解釈します。
次の一手
歩行だけでなくバランス評価そのものの選択をさらに整理したい場合は、バランス評価の選び方で、静的・動的・包括的な評価の役割を確認できます。
参考文献
- Podsiadlo D, Richardson S. The timed “Up & Go”: a test of basic functional mobility for frail elderly persons. J Am Geriatr Soc. 1991;39(2):142-148. doi: 10.1111/j.1532-5415.1991.tb01616.x
- Barry E, Galvin R, Keogh C, Horgan F, Fahey T. Is the Timed Up and Go test a useful predictor of risk of falls in community dwelling older adults: a systematic review and meta-analysis. BMC Geriatr. 2014;14:14. doi: 10.1186/1471-2318-14-14
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- Wrisley DM, Marchetti GF, Kuharsky DK, Whitney SL. Reliability, internal consistency, and validity of data obtained with the Functional Gait Assessment. Phys Ther. 2004;84(10):906-918. doi: 10.1093/ptj/84.10.906
- Franchignoni F, Horak F, Godi M, Nardone A, Giordano A. Using psychometric techniques to improve the Balance Evaluation Systems Test: the mini-BESTest. J Rehabil Med. 2010;42(4):323-331. doi: 10.2340/16501977-0537
- Van Criekinge T, Heremans C, Burridge J, et al. Standardized measurement of balance and mobility post-stroke: consensus-based core recommendations from the third Stroke Recovery and Rehabilitation Roundtable. Neurorehabil Neural Repair. 2024;38(1):41-51. doi: 10.1177/15459683231209154
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、現場で判断・実践するための情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

