静的バランス評価は目的を決めてから検査を選びます
静的バランス評価では、最初に「立位保持能力を段階的に確認する」「片脚立位を経時比較する」「狭い支持基底面での破綻を見る」「開眼と閉眼の差を見る」のどれを調べたいか決めます。そのうえで、足位、上肢位置、視線、履物、開始・終了条件を固定することが重要です。
本記事では、段階的な直立評価、片脚立位、マン試験、ロンベルグ試験の使い分けから、安全な実施方法、判定、記録例まで整理します。保持時間だけでなく、初期支持や破綻の瞬間まで記録できる点が特徴です。
静的・動的を含めた評価全体から選びたい方はこちら
静的バランス評価4法の使い分け
検査名から選ぶのではなく、知りたいことから逆算します。立位能力を段階的に確認するなら4-Stage Balance Testなどの段階的立位評価、左右の片脚支持能力を数値で追うなら片脚立位、狭い支持基底面での破綻を見るならマン試験、開眼と閉眼の差を見るならロンベルグ試験が候補です。

| 知りたいこと | 選択する評価 | 主な記録 |
|---|---|---|
| 足位を狭めたときの立位能力 | 段階的立位評価 | 到達足位、保持時間、支持の有無 |
| 左右の片脚支持能力 | 片脚立位 | 左右の時間、終了理由、フォーム逸脱 |
| タンデム位での安定性 | マン試験 | 前脚、初期支持、動揺、開閉眼差 |
| 視覚を除いたときの変化 | ロンベルグ試験 | 開眼と閉眼の差、足の移動、転倒傾向 |
評価は「目的・条件・破綻点」の3つをそろえます
再評価で比較できる結果にするには、検査時間だけでなく、何を調べるために、どの条件で実施し、何が起きた時点で終了したかをそろえる必要があります。
- 目的を決める:段階的な立位能力、片脚支持、タンデム位、開閉眼差のどれを確認するか決める
- 条件を固定する:足位、上肢位置、視線、履物、装具、練習回数、開始条件をそろえる
- 破綻点を記録する:足が動く、挙上足が接地する、手支持が入る、体幹が崩れるなどの終了理由を残す
プロトコルを変更した場合は、同じ検査名でも単純に数値を比較せず、別条件として記録してください。
静的バランス評価の手順・終了条件・記録
直立検査という言葉は、両脚直立、マン試験、ロンベルグ試験などを含む広い意味でも使われます。本記事では混同を避けるため、足位を段階的に難しくする方法を「段階的立位評価」と表記します。
| 評価 | 基本条件 | 主な終了条件 | 記録の要点 |
|---|---|---|---|
| 段階的立位評価 | 足位を段階的に狭める | 足の移動、支持、転倒危険 | 到達足位と破綻点 |
| 片脚立位 | 片脚を床から離して保持 | 挙上足の接地、支持足の移動、上肢条件の逸脱 | 左右の時間と終了理由 |
| マン試験 | 踵とつま先を接したタンデム位 | 足の移動、支持、転倒危険 | 前脚、初期支持、開閉眼差 |
| ロンベルグ試験 | 閉脚立位で開眼後に閉眼 | 足の移動、著明な動揺、転倒危険 | 開眼と閉眼の変化 |
段階的立位評価は到達できた足位を確認します
結論:足位を徐々に難しくし、どの段階まで支持なしで保持できるかを確認します。
準備:滑りにくい床を選び、評価者は対象者がバランスを崩したときに支えられる位置へ立ちます。履物、装具、視線などは評価前に決めてください。
4-Stage Balance Testを使用する場合:開眼・補助具なしで、閉脚位、セミタンデム位、タンデム位、片脚立位の順に進みます。各足位を10秒間、足を動かさず支持なしで保持できた場合に次へ進み、保持できない段階で終了します。
記録:検査名だけでなく、到達した足位、保持時間、姿勢を作る際の支持、足の移動や手支持などの終了理由を残します。
4-Stage Balance Testの足位と手順を詳しく確認する
片脚立位は秒数と終了理由をセットで記録します
結論:片脚立位は左右の片脚支持能力を数値化しやすい一方、上肢位置や履物、試行回数、打ち切り時間によって結果が変わります。
準備:めまい、疼痛、循環状態を確認し、評価者は手が届く位置に立ちます。裸足か靴ありか、上肢を腰・体側・胸前のどこに置くかを事前に決めます。
実施:合図後に一方の足を床から離し、決めた姿勢を保持します。試行回数や採用値、打ち切り時間は、使用する基準や施設プロトコルに合わせて統一してください。
終了:挙上足が床または支持脚へ触れる、支持足が移動する、規定した上肢位置が崩れる、評価者の支持が必要になるなど、採用したプロトコルの終了条件で止めます。
記録:左右の保持時間に加え、終了理由、体幹側屈、支持足の動き、上肢の代償を残します。
マン試験はタンデム位を作る段階から観察します
結論:マン試験では、狭い支持基底面での保持だけでなく、タンデム位を作るときに支持が必要だったかを分けて記録します。
準備:前足の踵と後足のつま先を一直線上で接触させ、顔と視線を正面へ向けます。左右の足を入れ替えて実施できるよう、安全な環境を整えます。
実施:開眼と閉眼で身体動揺を観察します。保持時間は採用する検査手順に合わせ、左右の足を入れ替えて条件をそろえます。
記録:右前・左前、開眼・閉眼、保持時間、初期支持の有無、足の移動、手支持、動揺方向を残します。初期支持を受けて姿勢を作れた場合と、支持なしで姿勢を作れた場合を同じ結果として扱わないことが重要です。
ロンベルグ試験は閉眼だけでなく開眼との差を見ます
結論:ロンベルグ試験では、閉脚立位で開眼時の安定性を確認したうえで閉眼し、視覚を除いたことで動揺や転倒傾向がどの程度変化するかを観察します。
準備:両足をそろえ、上肢位置と履物を決めます。評価者は、閉眼直後のバランス喪失にも対応できる位置へ立ちます。
実施:まず開眼で身体動揺を観察し、安全を確認してから閉眼条件へ進みます。観察時間は採用するプロトコルに合わせて統一します。
判定:開眼では保持できる一方、閉眼により動揺が著しく増える、足が動く、転倒方向へ崩れる場合にロンベルグ徴候を検討します。閉眼時に少し揺れただけで陽性とせず、開眼との差とバランス喪失の程度を確認してください。
ロンベルグ試験だけで障害部位を断定することはできません。深部感覚、前庭、小脳、筋力、疼痛、認知・注意などの周辺所見と合わせて解釈します。
測定条件の違いが再評価を不正確にします
静的バランス評価では、数秒の変化が機能改善ではなく、足位や上肢位置の違いによって生じることがあります。少なくとも次の条件は評価前に決めてください。
| 固定する条件 | 条件が変わると起きること | 記録例 |
|---|---|---|
| 足位・足先角度 | 支持基底面が変わる | 閉脚、足先正面 |
| 上肢位置 | 上肢による姿勢制御が変わる | 胸前で交差 |
| 視線・眼条件 | 視覚情報の利用条件が変わる | 正面注視、開眼 |
| 靴・装具・補助具 | 足部入力や支持条件が変わる | 靴あり、短下肢装具あり |
| 開始条件 | 姿勢を作る時間が測定値へ混入する | 支持を離し、安定後に開始 |
| 試行・採用方法 | 初回値と最大値が混在する | 2試行の最大値 |
記録では条件・結果・破綻の瞬間を残します
「片脚立位8秒」のように時間だけを記録しても、次回の評価者は同じ方法を再現できません。最低限、検査名、実施条件、試行方法、結果、終了理由、観察所見を残します。
| 項目 | 記載例 |
|---|---|
| 検査名 | 片脚立位・開眼 |
| 条件 | 靴あり、上肢胸前、正面注視、補助具なし |
| 試行方法 | 左右各2試行、最大値を採用 |
| 結果 | 右8秒、左5秒 |
| 終了理由 | 右:挙上足接地、左:支持足が移動 |
| 観察所見 | 左は4秒以降に体幹左側屈が増加 |
記録例:片脚立位・開眼。靴あり、上肢胸前、正面注視。左右各2試行の最大値を採用。右8秒、左5秒。左は4秒以降に体幹左側屈が増え、支持足の位置修正により終了した。
静的バランス評価の記録シートPDF
直立、片脚立位、マン試験、ロンベルグ試験を同じ書式で記録できる、A4・1ページの記録シートです。評価前に固定する条件と、保持時間、初期支持、破綻時の所見をまとめて残せます。
転倒を防ぐための準備と中止基準
静的バランス評価では、対象者がバランスを失ってから支えるのではなく、いつでも支えられる位置で実施します。閉眼、タンデム位、片脚立位へ進むほど難度が上がるため、前の条件が安全に行えない場合は無理に進めません。
| 確認項目 | 実施前に確認すること | 中止・延期を検討する状態 |
|---|---|---|
| 環境 | 滑りにくい床、十分な空間、支持できる評価者 | 床面が滑る、周囲に障害物がある、支援者がいない |
| 自覚症状 | めまい、悪心、疼痛、疲労の有無 | 新たなめまい、悪心、疼痛増悪、強い不安 |
| 全身状態 | 意識状態、循環・呼吸状態、指示理解 | 胸部症状、冷汗、顔面蒼白、急な状態変化 |
| 姿勢反応 | 前段階の足位を安全に保持できるか | 支持が間に合わない動揺、急激な膝折れ、転倒方向への崩れ |
評価者の支持が入った時点は、失敗として終えるだけでなく、「どの条件で、どの方向へ崩れ、どの程度の支持が必要だったか」を記録します。
結果は次の動作評価へつなげます
静的バランス評価は、転倒リスクや障害部位を単独で確定する検査ではありません。破綻した条件から仮説を立て、立ち上がり、移乗、方向転換、歩行などの動的課題で確認します。
- 足位を狭めると破綻する:支持基底面が狭い条件での姿勢制御を確認し、方向転換や狭い歩隔での歩行へ評価を進める
- 片脚立位で左右差が大きい:疼痛、筋力、感覚、支持性、足部戦略などを追加評価する
- タンデム位を作れない:保持時間だけでなく、重心移動や足の配置能力を確認する
- 閉眼により著しく悪化する:深部感覚や前庭系を含む感覚情報の利用について追加評価する
転倒リスクを判断するときは、静的バランスだけでなく、転倒歴、歩行、移乗、認知・注意、薬剤、排泄、履物、生活環境などを合わせて確認してください。
静的バランス評価でよくある質問
片脚立位は何秒なら正常ですか?
年齢、疾患、上肢位置、履物、試行回数、打ち切り時間によって結果が変わるため、すべての対象者に共通する正常値はありません。使用する基準と同じ測定条件で実施し、秒数、左右差、終了理由、経時変化を合わせて判断します。
静的バランス評価だけで転倒リスクを判断できますか?
静的バランス評価だけでは判断できません。転倒歴、歩行、方向転換、移乗、筋力、認知・注意、薬剤、環境因子などを含めて総合的に評価します。
マン試験とロンベルグ試験は何が違いますか?
マン試験はタンデム位によって支持基底面を狭くし、その条件での身体動揺や左右差を観察します。ロンベルグ試験は閉脚立位で開眼と閉眼を比較し、視覚を除いたことで安定性がどう変化するかを見ます。
靴と裸足のどちらで測定しますか?
使用する評価手順や臨床目的に合わせます。日常生活条件を確認するなら普段の履物、特定の基準値と比較するなら、その基準と同じ条件を選びます。再評価時は、原則として同じ条件にそろえてください。
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参考文献
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- 望月久. バランス能力測定法としての直立検査. 理学療法―臨床・研究・教育. 2008;15:2-8. J-STAGE
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設しました。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に、臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

