BBS(Berg Balance Scale)/FBS の基礎:目的と使いどころ
BBS( Berg Balance Scale )は、日常生活に即した 14 項目を各 0–4 点で採点するバランス評価(合計 56 点)です。文献や施設では FBS( Functional Balance Scale )とも表記されますが、名称違いで実質同一の指標です。臨床では「転倒リスクの見立て」「介入立案」「経時変化の追跡」に有用で、測定条件(靴・装具・補助具・環境)の固定が再現性を左右します。
実施前の準備と安全(要点のみ)
- 環境・用具: 背もたれあり(肘掛けなしを基本)の椅子、踏み台(およそ 12–20 cm)、壁面メジャーなど。測定面は滑りにくく、手すり等の安全確保物を近傍に。
- 条件固定: 靴・装具・補助具の使用可否、実施順序、再試行の扱いを施設 SOP で明文化し、毎回同一条件で評価。
- 中止基準: 胸痛・強い息切れ・失神前駆・血圧急変・顔貌変化・患者/家族の中止希望。中止→休息→バイタル再評価→共有。
14 項目の「趣旨・判定基準の要点・観察ポイント・閾値」
| No. | 項目 | 趣旨(ねらい) | 判定基準の要点(0→4 の考え方) | 観察ポイント(記録に残す) | 閾値・計測の目安 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 椅座位からの立ち上がり | 下肢・体幹協調と立ち上がりの安全性 | 0=高度介助/1=中等度介助/2=最小介助・監視/3=手使用で自立/4=手不使用で自立 | 手の使用有無・立ち上がりの速度と安定・ふらつき・二段動作 | 時間指定なし(質を観察)。必要なら回数・試行数も記録 |
| 2 | 立位保持 | 静的立位の基礎能力 | 0=自立保持不可/1=頻回介助/2=最小介助・監視/3=自立だが不安定/4=安全に保持 | 支持接触の有無・姿勢動揺・代償・視線 | 120 秒までを目安に保持可否を評価 |
| 3 | 座位保持 | 座位姿勢の安定性(背もたれなし) | 0→4 の基準は立位保持と同様の考え方 | 足底接地・体幹保持・上肢の固定(胸前) | 120 秒まで保持の質を確認 |
| 4 | 着座(立位→座位) | 荷重制御と安全な座り動作 | 0=介助を要す/…/4=手をほぼ使わず滑らかに着座 | しゃがみ込みの制動・膝折れ・臀部接地のコントロール | 時間指定なし(制動の良否を重視) |
| 5 | 移乗(椅子⇄ベッド) | 移乗の安全性と自立度 | 0=2 名介助相当/1= 1 名介助/2=監視・口頭指示/3=手使用で自立/4=ほぼ手を使わず自立 | 方向別の難易度差・補助具・動作分割・ピボットの安定 | 往復を評価(低い方で判定) |
| 6 | 閉眼立位保持 | 視覚除去下の前庭・体性感覚依存 | 0→4 は保持時間と安定性で段階化 | 閉眼直後の動揺増大・支持接触の有無 | 10 秒を基準(保持の質も併記) |
| 7 | 閉脚立位保持 | 支持基底面縮小下の静的バランス | 0→4 は閉脚成立の介助要否と保持時間 | 閉脚肢位の到達難易度・姿勢動揺 | 60 秒保持が目安 |
| 8 | 上肢の前方リーチ | 安定限界(前方)と姿勢制御 | 距離と安全性で段階化(支持接触・踏み出し無し) | 胸腰部の代償・踵挙上・支持基底面の変化 | 目安:25 / 12.5 / 5 cm(第 3 中手骨末端の移動量) |
| 9 | 床から物を拾う | 体幹屈曲・荷重制御と安全性 | 0→4 は拾得の可否・監視・接触の有無 | 起立安定・支持接触・膝/腰の代償 | 対象物は靴/スリッパで統一 |
| 10 | 肩越しに後方を見る(左右) | 重心移動を伴う体幹回旋の安定 | 両側できる=高得点/片側のみ=中得点 等 | 回旋時の支持接触・ふらつき・到達角度 | 左右差があれば所見に明記 |
| 11 | 360° 回転(左右) | 方向転換の素早さと安定性 | 時間と安全性で段階化(支持接触の有無) | 方向別の所要時間・ふらつき・一時停止 | 各方向 4 秒以内を目安(秒で記録) |
| 12 | 段差踏み替え | 交互足のリズムと荷重移動 | 回数・時間・支持で段階化 | 支持接触・歩隔・上肢代償・リズム | 8 回を 20 秒以内が目安(踏み台 ≈ 12–20 cm) |
| 13 | 継ぎ足位(タンデム)立位 | 前後 1 直線での静的制御 | 肢位到達の介助要否と保持時間で段階化 | 到達可否・荷重左右差・動揺・支持接触 | 30 秒保持を目安 |
| 14 | 片脚立位 | 片脚支持での平衡制御 | 保持時間で段階化(支持接触の有無を併記) | 左右差・骨盤ドロップ・体幹代償 | 目安:≥10 s / 5–10 s / 3–4 s / <3 s(短い方で記録) |
※ 本表は 原文の採点文言を丸写しせず、臨床で記録・共有しやすい要約として整理しています。詳細は出典をご確認ください。
採点・解釈:合計点+「崩れ方」で次アクションへ
- 合計点: 0–56 点( 14 項目 × 0–4 点 )。同一条件で再評価し、経時変化を比較。
- プロフィール: 点数だけでなく、項目ごとの崩れ方(支持接触・代償・保持/距離・左右差)を短文化して記録。
- 次アクション: 筋力/協調/感覚/注意のどこで破綻しているかを特定し、課題指向練習・環境調整・福祉用具選定へ。
カットオフ値の実務活用(対象・目的・閾値)
| 対象 | 目的/アウトカム | 閾値 | 備考 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 回復期・脳卒中片麻痺 | 病棟での歩行自立の判断 | 45 点(推定 45.5) | FBS 得点で二分化 | 北地ら, 理学療法学 2011 |
| 回復期・脳卒中片麻痺 | FIM 6(監視レベル以上)到達の判断 | 46–47 点 | バランス能力の寄与 | 中村ら, 第 50 回学術大会 2014 |
よくあるミスと対策
- 条件が毎回バラバラ: 靴・装具・補助具・手順を事前に固定し、記録様式にチェック欄を設置。
- 合計点のみで判断: 項目プロフィールと観察所見(支持・代償・保持/距離)を必ず併記。
- 天井効果の見逃し: 高機能者は TUG・ FRT 等を併用し難化課題で感度を補完。
- 安全不足: 高リスク項目(閉眼・片脚・段差)は手すり近傍+監視者増員、中止基準を共有。
FAQ(よくある質問)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
BBS と FBS の違いは?用語は統一すべき?
名称が違うだけで同一の評価指標です。施設内の文書・テンプレではどちらかに統一(例:Berg Balance Scale(BBS))し、略語の併記(FBS=同義)を初出で明記すると混乱が防げます。
補助具・装具は使って評価して良い?
対象の日常条件に合わせて可ですが、使用の有無を固定し記録に残します(例:短下肢装具+ T 字杖使用)。再評価も同条件で行うことで比較可能性が担保されます。
再試行や練習はどこまで許容する?
施設 SOP を定め、再試行の上限・休息・言語指示の範囲を統一します。判定は「安全性の担保 > スコア」を優先。再試行の回数は記録に明記します。
高機能者で天井効果が疑われるときは?
BBS で 50 点超が継続する場合、TUG・FRT などの併用や難化課題(タンデム歩行等)で感度を補完します。目的に応じて評価の粒度を調整しましょう。
片麻痺や認知・視覚障害がある場合の注意は?
監視者を増やし、支持物近傍での実施・中止基準の共有を徹底します。理解が難しい場合はデモ提示+短い一回指示にまとめ、過剰な口頭誘導でのスコア上振れを避けます。
解釈は合計点だけ見ればよい?最小変化量は?
合計点だけでは不十分です。項目プロフィール(どこで崩れるか)を併記し、同条件で経時比較を。最小検出可能変化(MDC)は対象・条件で異なるため、施設内で測定誤差を把握して運用します。
おわりに
実地では「安全の確保 → 段階刺激 → スコア+観察の記録 → 同条件での再評価」というリズムが最重要です。BBS( FBS )は合計点だけでなく、どこで・どう崩れるかが介入方針や退院後支援の質を高めます。
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参考文献
- 北地 雄, 原 辰成, 佐藤 優史, ほか. 回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳血管疾患後片麻痺を対象とした歩行自立判断のためのパフォーマンステストのカットオフ値. 理学療法学. 2011;38(7):481-488.
- 中村 基彦, 土居 健次朗, 河原 常郎, 大森 茂樹. 歩行自立に必要な歩行能力とバランス能力の関係. 第 50 回日本理学療法学術大会抄録. 2014.
- 西守 隆. バランスの評価. 関西理学療法. 2003;3:41–47.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


