息切れスケール完全ガイド| mMRC ・ Borg ・ NYHA ・ SAS の使い分け
臨床で迷いがちな「どのスケールを使うか」を、目的別に即決できるよう整理しました。mMRC は日常生活における息切れ重症度、Borg(RPE/CR10)は運動中の主観的強度、NYHA は心不全の機能分類、SAS は METs に基づく活動強度の自己申告を扱います。
スケールの位置づけ(目的と併用の基本)
評価の起点は「目的」です。ADL の息切れ → mMRC、運動時強度 → Borg(RPE/CR10)、心不全の機能分類 → NYHA、活動強度の自己申告 → SAS が第一選択になります。ひとつに固定せず、ベースライン(mMRC/NYHA)+介入時(Borg)のように併用すると経時変化が読みやすくなります。
研究や治療効果判定では、mMRC と BDI/TDI の対応や、Borg と客観指標(心拍・ SpO2)との整合を押さえます。心不全外来では NYHA を毎回明記し、必要に応じて 6MWT を併用します。
各スケールの概要(ひと目で比較)
4 指標の「測るもの」「レンジ」「強み」「留意点」「主用途」を 1 枚に要約しました。まずは全体像を掴み、次の章で運用を具体化します。
mMRC は簡便で外来にも向き、Borg は運動療法のリアルタイム負荷調整に有用です。NYHA は心不全ケアの共通言語、SAS は METs に結び付くため術前評価などで説明しやすいのが利点です。
| スケール | 測るもの | レンジ/単位 | 強み | 留意点 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| mMRC | 日常生活における息切れの重症度 | 0–4( 5 段階 ) | 簡便・再現性、外来で即時判定 | 運動中の変化は追いにくい | COPD 等の重症度層別、ベースライン |
| Borg(RPE/CR10) | 運動時の主観的強度(息切れ/努力感) | 6–20 または 0–10 | リアルタイムで負荷調整に使える | 学習が必要/個人差あり | 運動療法の処方とモニタリング |
| NYHA | 心不全の機能分類(症状 × 活動) | I–IV | 治療適応・フォローで必須 | 運動時の強度は別指標が必要 | 心不全外来・包括的評価 |
| SAS | METs ベースの自己申告活動強度 | 活動群(例: 4–10 METs ) | 客観強度( METs )に紐づく | 心疾患コンテキストが前提 | 術前評価・心リハの層別 |
使い分けの実務(場面別の第一選択)
「場面 × 第一選択 × 補助指標」で決め打ちするとブレません。外来初診は mMRC、運動セッション中は Borg、心不全外来は NYHA、術前評価は SAS が定石です。
併用は最小限で OK。mMRC・NYHA は毎回固定、Borg はセッション中に逐次。必要に応じて 6MWT や CPET、バイタル( HR ・ SpO2 )と整合を取りましょう。
| 場面 | 第一選択 | 補助的に | メモ |
|---|---|---|---|
| 外来初診(呼吸) | mMRC | BDI/TDI ・ 6MWT | 重症度層別と転帰予測の起点 |
| 運動療法セッション中 | Borg(RPE/CR10) | HR ・ SpO2 ・ 症状 | リアルタイム負荷調整 |
| 心不全外来 | NYHA | 6MWT ・ CPET | 診療録に毎回クラス記載 |
| 術前評価 / 心リハ層別 | SAS | NYHA | 目安 METs で説明しやすい |
各スケールの実務ポイント(定義表・ラベル)
下表を患者説明・同意取得・研修資料にそのまま使えます。記録時は略語とレンジを明記し、再評価は同条件で実施してください。
mMRC は 0–4、Borg は 6–20 または 0–10、NYHA は I–IV、SAS は METs で記録します。Borg の運用ではスコアとバイタル( HR ・ SpO2 )の整合確認を忘れずに。
mMRC(改変 MRC 息切れスケール)定義
| スコア | 定義(患者説明用の言い換え) |
|---|---|
| 0 | 激しい運動でのみ息切れ(全力運動のときだけ) |
| 1 | 早歩きや坂道で息切れ(平地でも急ぐと苦しい) |
| 2 | 同年代より遅れる/自分のペースでも立ち止まることがある |
| 3 | 平地で約 100 m または数分歩くと立ち止まる |
| 4 | 外出が難しい/着替えでも息切れする |
Borg CR10:代表ラベルと臨床での目安
| スコア | ラベル | 臨床での目安 |
|---|---|---|
| 0 | なし | 安静時の基準 |
| 0.5–1 | とても弱い | ウォームアップ直後など |
| 2 | 弱い | 軽い負荷で持続可 |
| 3 | ややきつい | 処方の下限目安 |
| 4–5 | きつい | 処方の中心〜上限目安 |
| 7 | とてもきつい | 減弱・中止を検討 |
| 10 | 最大 | 直ちに中止 |
記録と読み方のコツ
表記ゆれを避け、mMRC: 0–4 / Borg: 6–20 または 0–10 / NYHA: I–IV / SAS: METs を明記します。再評価は同説明・同タイミング・同環境で実施し、ベースラインとの差を中心に判定します。
運動療法では Borg とバイタル( HR ・ SpO2 )の整合を確認し、過小/過大申告が疑われるときは教育・デモを短時間で実施します。呼吸リハでは 6MWT との併用で全身耐容能も併読しましょう。
よくある質問(簡易 FAQ)
Q. Borg は 6–20 と CR10 のどちらを使う?
A. 施設で統一すれば OK です。心拍と整合をとるなら 6–20、息切れ強度の運動指示なら CR10 が直感的です。
Q. mMRC と BDI/TDI はどちらを使えば?
A. 臨床の簡便さは mMRC、詳細な変化把握は BDI/TDI が得意です。用途に応じて併用します。
参考文献
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- Perez T, et al. Modified Medical Research Council scale vs Baseline Dyspnea Index to evaluate dyspnea in COPD. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2015;10:1663–1672. DOI / PubMed
- Borg GA. Psychophysical bases of perceived exertion. Med Sci Sports Exerc. 1982;14(5):377–381. PubMed
- Heidenreich PA, et al. 2022 AHA/ACC/HFSA Guideline for the Management of Heart Failure. Circulation. 2022. DOI / PubMed
- Goldman L, et al. Comparative reproducibility and validity of systems for assessing cardiovascular functional class: advantages of a new Specific Activity Scale. Circulation. 1981;64(6):1227–1234. DOI / PubMed


