この記事の目的と使い方
本記事は、病棟で誤嚥性肺炎が疑われる患者を担当する PT 向けに、見逃しやすい予兆の拾い方と最初の一手を“型”として提示します。総論ではなく、明日からの観察・意思決定・記録・共有に直結する要点のみを扱い、必要に応じて詳細プロトコル記事へ誘導します。
ポイントは、体位・口腔・呼吸・水分栄養 の 4 面を同時に少しずつ整えることです。数値だけではなく声質や覚醒度などの所見も並記し、 RSST や MWST ・ WST など簡便スクリーニングを反復して追います。
誤嚥性肺炎の予兆サイン
高齢者肺炎は発熱が軽微で、湿性嗄声・湿った咳・痰増加・食思不振・昼間傾眠 など非特異的に始まりやすいです。普段との違いを患者家族からも聴取し、呼吸数微増・ SpO2 低下・声の“濡れ” のセットで見ます。夜間の体位や口腔乾燥も重要です。
所見は時間変化で捉えます。排痰後に声質が改善するか、嚥下後に湿声が増えるか、座位保持で呼吸数が落ちるかなど、介入前後 で比較します。数値・所見・体位を 1 行で書ける短文様式にすると多職種と共有しやすくなります。
初期対応の流れ( 3 ステップ)
① 体位最適化: ヘッドアップ 30–45 °、摂食は軽度前屈、安静時は胸郭の自由度を確保します。② 口腔・気道: 看護と口腔ケアのタイミングを合わせ、気道クリアランスを座位で促通します。③ スクリーニング: 簡便検査を薄く広く反復します。
この 3 ステップを回しながら、脱水是正・鎮静薬の眠気 など誤嚥を悪化させる要因を点検します。軽快が乏しい、 SpO2 が保てない、意識低下が進む等は主治医に直ちに共有します。
観察テンプレ(貼るだけ)
以下は病棟 PT 用の観察テンプレです。各セルは短文で十分です。 RSST ・ MWST ・ WST、咳テスト、口腔衛生所見を 1 枚にまとめ、日内で比較できるようにします。
“所見+体位+介入+再評価” の 4 点を 1 行で書き、主治医コール基準(例:呼吸数増加、 SpO2 低下、誤嚥疑い)を併記すると安全です。
時刻 | 体位・活動 | 声質/咳/痰 | 呼吸数/ SpO2 | スクリーニング | 介入(体位・呼吸・口腔) | 再評価 |
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午前 | 座位 20 分 | 湿声ややあり | 22 回/分・ 94 % | RSST 2 回・咳弱い | ヘッドアップ 35 °、咳嗽訓練 | 声クリア、 96 % |
午後 | 立位練習 5 分 | 痰量やや増 | 24 回/分・ 93 % | MWST 1 / 3、口腔乾燥 | 口腔ケア連携・水分調整 | 痰減、 95 % |
記録・共有:多職種連携の要点
記録は “所見 → 判断 → 介入 → 再評価” を 1 行で。例:「湿声↑・呼吸数 24 ・座位で改善 → 体位調整+咳嗽訓練 → 湿声↓・ SpO2 95 %」。この型で並べると、時間変化と介入効果が一目で伝わります。
共有は、看護の口腔ケアや内服、栄養のテクスチャ調整、言語聴覚士の嚥下評価と同期します。夜間の体位と水分、鎮静薬の見直しも一緒に検討できるよう、夕回り前に短く口頭共有します。