NPI-Q とは?(目的・所要時間・使いどころ)
NPI-Q( Neuropsychiatric Inventory Questionnaire )は、認知症の BPSD(行動・心理症状) を 約 3–5 分 でざっくり把握するための簡易スクリーニング版です。各ドメインの 重症度 1–3 と 介護者負担 0–5 に絞って評価し、「どの症状が目立ち、どの負担が大きいか」を素早く見極めるのに向いています。
一方で、頻度 0–4 × 重症度 0–3 による詳細な定量化や、施設での継続運用は NPI/ NPI-NH の役割です。本記事は NPI-Q の 「短時間で当たりを付ける」使い方 にフォーカスし、NPI/ NPI-NH の 12 ドメインや点数の解釈は NPI/NPI-NH による認知症 BPSD 評価【点数と使い方】 に委ねる設計とします。
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NPI/NPI-NH との違い(NPI-Q は「入口」専用)
NPI-Q と NPI/ NPI-NH は、評価するドメインは似ていますが、役割 が異なります。NPI-Q は「どの BPSD が目立つかを短時間で把握する入口」、NPI/ NPI-NH は「頻度や重症度を詳細に評価し、介入計画や経過観察に使う本格評価」という位置づけで使い分けると、記事同士もカニバリせず運用できます。
| 項目 | NPI-Q | NPI | NPI-NH |
|---|---|---|---|
| 役割 | 短時間スクリーニング・負担感の把握 | 本格評価(頻度×重症度で定量化) | 施設運用向けの本格評価(スタッフ観察ベース) |
| 項目と採点 | 重症度 1–3、介護者負担 0–5 | 頻度 0–4 × 重症度 0–3(ドメイン 0–12) | 同左(施設場面に最適化) |
| 所要時間 | 約 3–5 分 | 約 10–20 分 | 約 10–15 分 |
| 主情報源 | 家族・スタッフの簡易回答 | 家族(面接中心) | 介護・看護スタッフ(施設観察) |
| 適した場面 | 初期評価の「当たり付け」/日常の変化検出 | 介入設計・詳細モニタリング | 病棟・老健・特養での継続運用 |
現場の詰まりどころ(よくある行き詰まり)
NPI-Q はシンプルだからこそ、現場では次のような「詰まり」が起こりがちです。
- ① NPI-Q だけで完結させてしまう:重症度・負担が高いのに、そのまま介入設計まで走ってしまい、NPI/ NPI-NH による精査に進まない。
- ② 記入者が毎回バラバラ:日によって家族やスタッフが変わり、重症度・負担の基準が揺れて推移が読みにくくなる。
- ③ 合計点だけを追いかける:合計スコアの増減だけを見て、どのドメインが効いているのか・悪化しているのかが分からない。
- ④ カンファに載せる前で情報が途切れる:記入した NPI-Q がカルテに貼られただけで、カンファレンスまで情報が届かない。
この記事では、これらの詰まりどころを避けるために、「NPI-Q =入口」→「NPI/NPI-NH で精査」→「非薬物的介入と再評価」 という流れを前提に、スクリーニングの運用方法を整理します。
採点と解釈(重症度・負担スコアの読み方)
NPI-Q は、NPI/ NPI-NH のように「頻度×重症度」で細かく点数化するのではなく、重症度と介護者負担の“高さ順”で優先順位を付けるツール と割り切ると運用が楽になります。
- 重症度( 1–3 ):症状そのものの強さのイメージ。 3 に近いほど利用者の生活や安全への影響が大きいと考えます。
- 介護者負担( 0–5 ):家族・スタッフ側の「しんどさ」の強さ。 4–5 の項目は早めのサポート調整が必要です。
合計点そのものよりも、①重症度が高いドメイン、②負担が高いドメイン をそれぞれ 1–2 個ずつピックアップし、「今どこから手を付けるか」を決めるのが実務的です。具体的な非薬物的介入や、頻度×重症度による詳細なスコアリングは、NPI/NPI-NH による認知症 BPSD 評価【点数と使い方】 を使って精査していきます。
面接時は、各ドメインで 時間帯・状況・誘因 を 1 つだけでも書き添えておくと、後続の NPI/ NPI-NH 実施や 多職種共有のフロー にスムーズにつながります。
運用フロー(初回スクリーニング → 再評価)
ここでは、外来・病棟・在宅などで NPI-Q を 「3–5 分で回すための最短手順」 に絞って整理します。NPI/ NPI-NH を実施する前の「入口」としての動き方をイメージしてください。
- 準備:直近 1 週間の具体例を 2–3 件集めます(時間帯・状況・誘因・対応・結果)。カルテ・申し送り・家族の訴えなどから拾っておくとスムーズです。
- 回答:家族またはスタッフに NPI-Q を実施し、各ドメインの重症度( 1–3 )と介護者負担( 0–5 )を記入してもらいます。ここでは「正確さ」よりも、前回との比較ができる程度の一貫性を優先します。
- 要約:重症度が高い項目・負担が高い項目をそれぞれ 1–2 個に絞り、「いつ・どこで・何がきっかけで起こりやすいか」を短くメモします。
- 対応:環境調整(音・光・待機時間)や関わり方(声かけのタイミング、選択肢提示など)の中から、非薬物的介入を 1 個だけ 決めて実装します。
- 再評価:1–2 週間後に同じ条件(同じ家族・スタッフ、似た時間帯)で再測し、スコアの変化を確認します。改善が乏しい場合は、改めて NPI/ NPI-NH による詳細評価へステップアップします。
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
NPI-Q と NPI/NPI-NH はどう使い分ければ良いですか?
NPI-Q は「入口」、NPI/NPI-NH は「本格評価」 と考えると整理しやすいです。日常の変化検出や初期の当たり付けには NPI-Q を用い、重症度や負担が高いドメインが見つかったら、NPI/NPI-NH で頻度や具体例を丁寧に聴取して介入設計につなげます。
NPI-Q に明確なカットオフはありますか?
現時点で、NPI-Q の合計点に対する 一律のカットオフ は一般的ではありません。合計点よりも、重症度・負担が高いドメインを 1–2 個ピックアップし、「どの症状に優先的に介入するか」を決めるためのスクリーニングとして使うのが現実的です。
診察時間が短い外来でも NPI-Q は使えますか?
はい、家族に待ち時間中に記入してもらうなど、工夫すれば十分実用的です。記入済みの NPI-Q をもとに、診察では高スコアの 1–2 項目だけを深掘りすることで、限られた時間でも「今一番困っている BPSD 」に焦点を当てた問診がしやすくなります。
おわりに
認知症の BPSD マネジメントでは、「日常観察 → NPI-Q で当たり付け → NPI/NPI-NH で精査 → 介入 → 再評価」 というリズムを無理なく回し続けることがポイントです。NPI-Q はあくまで入口ですが、その入口で「どこから手を付けるか」を丁寧に整理しておくと、後続の評価と介入がぐっとスムーズになります。
こうした評価やカンファレンスを積み重ねていく中で、「今の職場でこのサイクルをしっかり回していけるか」「もう少し学びやすい環境はないか」と感じる場面も出てくると思います。そんなときは、一度立ち止まって働き方や職場環境を俯瞰し、無理のないキャリアの組み立て方を検討してみてください。
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参考文献(代表)
- Kaufer DI, Cummings JL, Christine D, et al. Validation of the NPI-Q, a brief clinical form of the Neuropsychiatric Inventory. J Neuropsychiatry Clin Neurosci. 2000;12(2):233–239. https://doi.org/10.1176/jnp.12.2.233
- Cummings JL, Mega M, Gray K, Rosenberg-Thompson S, Carusi DA, Gornbein J. The Neuropsychiatric Inventory: Comprehensive assessment of psychopathology in dementia. Neurology. 1994;44(12):2308–2314. https://doi.org/10.1212/WNL.44.12.2308
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


