QuickDASH(上肢機能障害質問票)の概要|11 項目でみる上肢の QOL
QuickDASH(Quick Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand)は、上肢(肩・肘・前腕・手)の痛みや使いづらさが、日常生活や仕事・スポーツにどの程度影響しているかをみる 11 項目の患者立脚型質問票です。原法の DASH 30 項目版から、概念を保ちながら短縮されたフォームで、0〜100 点のスコアで上肢の障害度を定量化します。疾患や病期を問わず使える「部位別 PROM」として、術前後や保存療法のフォローに広く利用されています。
自己記入式で特別な機器を必要としないため、外来・病棟・在宅のいずれでも導入しやすい点が特徴です。また、日本整形外科学会・日本手外科学会による日本語版 QuickDASH-JSSH も検証されており、日本人患者に対しても信頼性・妥当性が示されています。上肢機能の客観指標(握力・ ROM・タスクパフォーマンス)に QuickDASH を組み合わせることで、患者視点の生活障害を補完的に評価できます。
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QuickDASH の構成項目とカバーする生活機能
QuickDASH は、原法 DASH の 30 項目から「概念保持」の観点で抽出された 11 項目で構成され、5 段階リッカート(まったく困らない〜できない)で回答します。項目内容は、上肢を使う日常動作(ビンの蓋を開ける・買い物袋を持つ・背中を洗う等)、仕事や家事・スポーツでの使用感、痛みやしびれ、睡眠への影響などをカバーしており、単関節疾患に限らず複数部位の問題も一括して評価できます。
下図は、QuickDASH 11 項目がカバーする生活機能を 4 つの観点に整理したイメージです。実際の設問文そのものではなく、「どのような場面が問われているか」をチーム内で共有する際のメモとして活用してください。
QuickDASH の実施方法と採点ルール
QuickDASH は、原則として患者自身が質問票に記入する自己記入式です。評価の対象期間は「過去 1 週間」が想定されており、その時点での典型的な状態を答えてもらいます。全 11 項目のうち、少なくとも 10 項目以上に回答があることがスコア算出の条件です。回答に迷う場合は「一番近い選択肢」を選んでもらい、その旨をカルテにメモしておくと解釈しやすくなります。
採点は、各項目 1〜5 点(1=まったく困らない、5=できない)の合計点を用い、次の公式で 0〜100 点に換算します:
QuickDASH スコア = { (各項目の合計点 ÷ 回答した項目数) − 1 } × 25
結果として 0 点が「障害なし」、100 点が「最重度の障害」を示します。オプションとして、仕事モジュール・スポーツ/音楽モジュールを追加評価できますが、本稿では基本スケール(11 項目)に焦点を当てます。
スコアの解釈と MCID・MDC の目安
QuickDASH の絶対値には公式な重症度区分はありませんが、臨床的には「おおよそのレベル感」を押さえておくとコミュニケーションしやすくなります。下表は、複数の報告を参考にした便宜上の目安です(厳密なカットオフではない点にご注意ください)。
| スコア範囲 | 重症度イメージ | 臨床での捉え方の一例 |
|---|---|---|
| 0〜25 点 | 軽度 | 痛みや不便さはあるが、セルフケア・家事は概ね自立 |
| 26〜50 点 | 中等度 | 日常動作や家事・仕事で明らかな制限があり配慮が必要 |
| 51〜75 点 | 重度 | 多くの上肢動作に介助・代償が必要で、活動範囲が大きく制限 |
| 76〜100 点 | 最重度 | 患側上肢の実用性がほとんどなく、生活全般で大きな支障 |
経時変化を評価する際は、単なる「統計学的な有意差」ではなく、患者にとって意味のある変化(MCID:最小臨床的重要差)を意識することが重要です。QuickDASH の MCID は対象集団によって異なりますが、上肢筋骨格系疾患全般ではおおむね 10〜15 点程度 の改善が「意味のある変化」として報告されています。一方で、MDC(最小検出可能変化)はおよそ 13 点前後とされ、これを下回る変化は測定誤差の可能性も踏まえて解釈する必要があります。
理学療法・作業療法での活用例
QuickDASH は、腱板断裂や肩関節周囲炎、遠位橈骨骨折、手根管症候群、指骨骨折など、さまざまな上肢疾患で使用できます。初期評価では上肢の痛み・可動域・筋力・巧緻性などの身体機能と合わせて QuickDASH を取得し、患者が「どの場面で一番困っているか」を抽出します。例えば「仕事の書類作業」「子どもを抱き上げる」「スポーツ復帰」など、質問票の高得点項目から具体的な目標設定につなげやすくなります。
フォローアップでは、QuickDASH の総スコア変化だけでなく、「どの項目がどれだけ改善したか」を見ることが重要です。総スコアが同じでも、「痛みは改善したが仕事の制限が残っている」ケースと、「痛みは残るが生活動作はこなせる」ケースではリハビリの焦点が変わります。上肢タスク評価や職業性負荷の分析と組み合わせることで、より実際的なゴール設定が可能になります。
DASH・Hand20・Shoulder36 など他スケールとの使い分け
上肢機能の PROM には、原法 DASH、Hand20、Shoulder36 など多数の選択肢があります。一般的には、QuickDASH は「上肢全体を短時間で把握する汎用ツール」、DASH はより詳細な評価や研究、Hand20/Shoulder36 は手・肩など部位特異的な評価に適していると整理できます。臨床では、フォローアップ負担とのバランスを考えると QuickDASH を軸に、必要に応じて部位特異的スケールを追加する運用が現実的です。
また、歩行やバランス・日常生活全般の評価との組み合わせを考えると、個々のスケールをバラバラに使うのではなく、施設として「評価の標準セット」を整えることが望ましいです。当サイトでは、主要な評価指標を整理した「評価ハブ」も用意していますので、QuickDASH 以外のスケール選択や優先順位付けの検討に活用してみてください。
QuickDASH を使う際の注意点と限界
QuickDASH は自己記入式であるがゆえに、本人の理解力や質問票への慣れ、心理状態などの影響を受けやすいという側面があります。高齢者や認知機能低下が疑われる場合、日本語版の設問を一文ずつ読み上げて確認しながら記入を支援するなど、標準化された手順が必要です。また、利き手側か非利き手側か、既往症や併存障害の影響がどの程度あるかも、解釈時に必ず確認しておきたいポイントです。
さらに、QuickDASH は「患者が自覚している生活障害」を捉えるツールであり、職場環境や家族のサポート、心理社会的要因によってもスコアが左右されます。例えば、同じ機能レベルでも、復職プレッシャーや不安が強ければスコアは高くなりがちです。したがって、QuickDASH の結果を単独で判断するのではなく、上肢所見・作業分析・心理社会的背景を合わせて総合的に評価することが重要です。
記録のコツとチームでの共有方法
カルテ記載では、単なる「QuickDASH 45 点→25 点」のような数字の羅列ではなく、「どの項目が、どの程度改善したか」 まで簡潔にまとめると、チームでの共有に役立ちます。例えば「QuickDASH 52→24(28 点改善)。高得点だったビン開け・買い物袋の持ち運びが軽度まで改善し、仕事(事務作業)は中等度の制限が残存」と書けば、看護・医師・他職種が上肢機能の変化をイメージしやすくなります。
外来フォローや長期経過の症例では、グラフ化して推移を見せるのも有効です。術前→術後 3 ヶ月→ 6 ヶ月→ 1 年の QuickDASH スコアを折れ線グラフにすると、患者自身も「ここで仕事復帰できた」「筋力トレーニングを開始してから改善が加速した」など経過を振り返りやすくなります。評価のタイミングと介入内容をあわせて記録しておくと、将来の症例検討や研究の基盤にもなります。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q. QuickDASH は何ポイント変化したら「意味のある改善」とみなせますか?
A. 研究報告を総合すると、QuickDASH ではおおむね 10〜15 点程度 の改善が「患者にとって意味のある変化(MCID)」とされることが多いです。ただし、対象が肩疾患中心か、遠位上肢か、術後か保存療法かによって値は前後し、6〜20 点程度と幅を持って報告されています。
臨床では、①測定誤差(MDC:おおよそ 13 点前後)を上回っているか、②患者の主観的な変化(「楽になった」「まだつらい」)と方向性が一致しているか、③仕事や生活の目標達成度と整合しているか、の 3 点を確認するとよいでしょう。スコアだけで判断が難しいケースでは、働き方や職場環境を含めた調整が必要になることもあります。そのような場面では、PT の働き方や職場選びの見直し方も併せて整理しておくと、チーム内での方針決定がスムーズになります。
おわりに
実地では「上肢機能評価(痛み・ ROM・筋力・タスク)→ QuickDASH で生活障害を可視化→患者と目標・優先順位をすり合わせ→介入と環境調整→再評価」というリズムを意識することが重要です。QuickDASH は短時間で実施できるため、術前後や長期フォローにも組み込みやすく、数字の変化とともに「どの場面の困りごとがどれだけ軽くなったか」をチームで共有しやすいツールです。
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参考文献
- Beaton DE, Wright JG, Katz JN, et al. Development of the QuickDASH: comparison of three item-reduction approaches. J Bone Joint Surg Am. 2005;87(5):1038–1046. doi: 10.2106/JBJS.D.02060
- Gummesson C, Ward MM, Atroshi I. The shortened Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand questionnaire (QuickDASH): validity and reliability based on responses within the full-length DASH. BMC Musculoskelet Disord. 2006;7:44. doi: 10.1186/1471-2474-7-44
- Imaeda T, Toh S, Wada T, et al. Validation of the Japanese Society for Surgery of the Hand version of the Quick Disability of the Arm, Shoulder, and Hand (QuickDASH-JSSH) questionnaire. J Orthop Sci. 2006;11(3):248–253. doi: 10.1007/s00776-006-1013-1
- Franchignoni F, Vercelli S, Giordano A, et al. Minimal clinically important difference of the Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand outcome measure (DASH) and its shortened version (QuickDASH). J Orthop Sports Phys Ther. 2014;44(1):30–39. doi: 10.2519/jospt.2014.4893
- Rysstad T, Grotle M, Skolleborg KC, et al. Responsiveness, minimal important change and minimal detectable change of the QuickDASH and PSFS in patients with shoulder pain. BMC Musculoskelet Disord. 2020;21:658. doi: 10.1186/s12891-020-03289-z
- 日本手外科学会. 患者立脚型機能評価質問表 DASH/QuickDASH 日本語版(JSSH 版). 日本手外科学会ホームページ. https://www.jssh.or.jp/doctor/jp/infomation/dash.html
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

