医療区分とは?|療養病棟での「医療的重症度」を表す指標
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医療区分は、療養病棟入院基本料を算定する際に用いられる「医療的重症度(医療資源投入量)」の指標です。進行性の心不全・呼吸不全や難治性疾患などの疾患・状態像と、中心静脈栄養・人工呼吸器・頻回の喀痰吸引といった医療処置を組み合わせて評価し、1〜3 の 3 段階で区分します。数値が大きいほど、医療チームが継続的に手をかけている患者像を反映する仕組みです。
令和 6 年度の診療報酬改定では、この医療区分の考え方が整理され、「疾患・状態に係る医療区分」と「処置等に係る医療区分」としてより明確に位置づけられました。一方、ADL 区分はベッド上可動性・移乗・食事・トイレの 4 項目から生活面の重症度をみる指標であり、両者を組み合わせて療養病棟入院基本料が決まります。本記事では、PT・OT・ST や看護師・医事担当者が現場で迷いやすいポイントを中心に、「医療区分とは何か」「どう理解し、どう活かすか」を整理します。
医療区分の評価体系と令和 6 年改定のポイント
現在の医療区分は、①疾患や全身状態の重さを評価する「疾患・状態に係る医療区分」と、②中心静脈栄養や人工呼吸器などの医療処置を評価する「処置等に係る医療区分」の 2 本立てで構成されています。それぞれ 1〜3 の 3 段階に分かれており、より高い区分に該当するほど医療的な重症度が高いとみなされます。評価自体は、厚生労働省が示す「医療区分・ADL 区分等に係る評価票」と、その解釈を補う「評価の手引き」に沿って行う必要があります。
令和 6 年度診療報酬改定では、慢性期入院医療の評価を患者像に即したものにするため、この医療区分の見直しが行われました。具体的には、状態像と処置の定義や例示が整理され、「どのような疾患・処置の組み合わせが医療区分 3 に相当するのか」がややイメージしやすくなっています。ただし、点数表や届け出のルールは依然として複雑であり、「細かい数値を暗記する」よりも「評価の枠組みと代表的な患者像」を掴むことが、リハ職や看護師にとっては実務上重要です。
疾患・状態に係る医療区分 1〜3 のイメージ
疾患・状態に係る医療区分は、「その患者さんの病態そのものが、どれくらい手のかかる状態か」を示すパートです。医療区分 3 に該当するのは、進行性の神経難病や難治性心不全・呼吸不全、24 時間にわたる監視管理が必要な循環動態不安定例など、専門的な医療管理を継続しなければならないケースが中心となります。急性増悪後で全身状態が不安定な慢性閉塞性肺疾患や、頻回の治療調整を要する難治性感染症も、状態像によっては高い区分に該当し得ます。
一方、医療区分 2 は「安定はしているが、観察や治療調整を継続しないと増悪リスクが高い層」、医療区分 1 は「慢性疾患の安定期だが、ある程度の医療管理が必要な層」というイメージです。例えば、在宅酸素療法や抗凝固療法中で、定期的な観察や投薬管理を要する患者さんは、疾患・状態の側では 1〜2 に該当することが多くなります。状態像の区分は、診療情報提供書や経過要約に記載される診断名だけでなく、「現在どの程度の頻度・強度でモニタリングや治療調整を行っているか」を総合的に踏まえて判断する必要があります。
処置等に係る医療区分 1〜3 のイメージ
処置等に係る医療区分は、中心静脈栄養・人工呼吸器・経腸栄養・持続点滴・頻回血糖測定+インスリンなど、「どれくらい侵襲的で手のかかる医療処置を、どの頻度で行っているか」を評価するパートです。こちらも 1〜3 の 3 段階に分かれており、区分 3 が最も医療資源投入量の大きい層となります。療養病棟では、経鼻・胃瘻からの経腸栄養や、喀痰吸引・酸素療法・ドレーン管理などが特に関わりやすい処置です。
大まかなイメージを掴むために、PT・OT・ST の関与が多い処置を中心に整理すると、次のようになります。
| 処置区分 | 代表的な処置 | リハビリ目線のポイント |
|---|---|---|
| 区分 3 | 中心静脈栄養、人工呼吸器管理、頻回の喀痰吸引(例:1 日 8 回以上)など | 循環動態・呼吸状態の変化リスクが高く、離床前後のバイタル変化やライン・チューブ牽引に特に注意が必要。 |
| 区分 2 | 経腸栄養+発熱・嘔吐などの合併、持続点滴、隔離管理を要する感染症治療など | 全身状態の波が大きくなりやすく、栄養・水分バランスや感染コントロールと離床タイミングの調整が重要。 |
| 区分 1 | 酸素療法単独、定期的な点滴やドレッシング交換のみ など | 基本的な安全確認を行えば離床自体は進めやすいが、慢性呼吸不全や循環器疾患では過負荷による増悪に注意。 |
実際には、各処置ごとに「いつから・いつまで医療区分に算入できるか」「何日目以降は区分が下がるか」といった細かなルールが存在します。そのため、現場では「処置の有無」だけで判断するのではなく、評価票と「評価の手引き」を並べながら、医師・看護師・医事部門と共通理解を持つことが重要です。
医療区分 × ADL 区分 × 入院基本料の関係
療養病棟入院基本料は、おおまかに言うと「疾患・状態に係る医療区分(1〜3)」「処置等に係る医療区分(1〜3)」「ADL 区分(1〜3)」の掛け合わせで決まります。イメージとしては、縦軸に疾患状態区分、横軸に処置区分をとった 3×3 のマトリックスがあり、さらに各マスごとに ADL 区分 1〜3 がぶら下がっているような三次元の点数表です。同じ医療区分 2 でも、ADL 区分 1 と 3 ではケア負担が大きく異なり、その違いが包括点数に反映される仕組みになっています。
ただし、リハ職や看護師が日常的に意識したいのは、「どのマスが何点か」よりも、「自部署の患者構成がマトリックス上のどのあたりに偏っているか」という視点です。医療区分 3 × ADL 区分 3 が多い病棟は、医療処置・ケア負担ともに非常に重いハイケア病棟であり、スタッフ配置や離床プロトコルもそれに見合ったものが求められます。一方で、医療区分が低く ADL 区分 1〜2 の患者さんが増えている場合は、在宅復帰支援や回復期病棟への転棟も含めた「出口戦略」がテーマになります。ADL 区分そのものの考え方については、別記事「ADL 区分とは?」で詳しく整理しています。
PT・OT・ST が医療区分をどう活かすか
リハビリ専門職にとって、医療区分は「離床や運動負荷量を考えるときの赤信号の数」をざっくり把握するツールとして活用できます。たとえば、人工呼吸器や高流量酸素、中心静脈栄養、頻回血糖測定+インスリン治療などが並んでいる患者さんは、循環動態や呼吸状態の変化リスクが高く、離床前後のバイタル変化や症状の変化を丁寧に追う必要があります。また、せん妄治療中や身体抑制下の患者さんでは、転倒・自己抜去リスクと拘束最小化のバランスをどうとるかが、リハ介入の大きなテーマになります。
一方で、医療区分が低いからといって「リハは安全」「負荷をどんどん上げてよい」とは限りません。慢性心不全や慢性呼吸不全の安定期でも、微妙な容量負荷や換気障害の悪化は見逃されやすく、過負荷の運動で一気にバランスを崩すことがあります。医療区分はあくまで診療報酬上の枠組みであり、リハの可否や負荷量は、主治医の指示・フィジカルアセスメント・バイタルサイン・検査データなどを総合して決める必要があります。「医療区分が高いからやらない」「低いから大丈夫」という二分法ではなく、「何がリスクで、どこまでなら攻められるか」をチームで言語化することが重要です。
現場の詰まりどころ|評価のばらつきと算定ルールの壁
医療区分に関する現場の悩みで多いのは、「どの処置がどの区分に該当するのかが分かりにくい」「いつまで区分に算入してよいのかが曖昧」「評価する人によって判断が違う」といった点です。例えば、CV から経腸栄養に切り替えた場合、切り替えたその日までをどう扱うか、再増悪で再び CV を再建したときの起算はどこからか、といった細かなルールは、評価票だけでは読み取りにくいことがあります。また、発熱や感染症治療が続いている患者さんで、「どの程度の管理をしていると医療区分 2・3 に該当するのか」が部署ごとに解釈がズレることも珍しくありません。
こうした詰まりどころへの対策としては、①評価票と「評価の手引き」をセットで読み、代表的な症例を用いて部署内で勉強会を行う、②医師・看護師・医事部門を含めた小さなワーキンググループを作り、グレーゾーンの扱いを院内ルールとして明文化する、③評価変更時には「どの処置・状態の変化を根拠に区分が変わったか」を記録に残す、といった取り組みが有効です。また、医療区分・ADL 区分はあくまで報酬算定の枠組みであり、「点数を守るために処置を延ばす」「在宅復帰より点数を優先する」といった逆転が起きないよう、倫理面の視点をチーム全体で共有しておくことも欠かせません。
よくある質問(FAQ)
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Q1:医療区分はどのくらいの頻度で見直すべきですか?
診療報酬上は、所定の評価票や届け出のタイミングに合わせて医療区分・ADL 区分を見直すことが求められますが、臨床的には「状態変化のタイミングで柔軟に見直す」ことが重要です。具体的には、①急性増悪や合併症(心不全増悪・肺炎・敗血症など)が起きたとき、②人工呼吸器離脱や CV 抜去、感染症治療完了など大きな処置変更があったとき、③退棟・転棟や在宅復帰を検討するカンファレンスの前後が、見直しの主なタイミングになります。
Q2:医療区分・ADL 区分と FIM/Barthel Index の結果が一致しません。どちらを重視すべきですか?
医療区分・ADL 区分は、あくまで療養病棟入院基本料などの診療報酬上の評価指標であり、患者さんの生活機能や QOL を詳細に評価するためのツールではありません。一方、FIM や Barthel Index は、ADL 能力や介助量をより細かく捉えるための評価指標です。したがって、リハビリ計画や退院支援を考える際には FIM・Barthel などの結果を主に用い、医療区分・ADL 区分は「医療処置量とケア負担レベルをざっくり把握する補助情報」として位置づけるのが現実的です。
Q3:医療区分が下がると点数も下がるので、離床や離脱を進めにくいと感じます…。
医療区分は包括点数の算定要素であり、処置の終了や状態改善に伴って区分が下がれば、組み合わせによっては点数が変化することがあります。しかし、医療の目的はあくまで「患者さんの状態を改善し、生活の質や自立度を高めること」です。点数を理由に人工呼吸器離脱や CV 抜去、経腸栄養からの経口移行を躊躇することは本末転倒であり、倫理的にも問題があります。リハ職としては、医療区分の変化が在宅復帰や介護負担軽減にどうつながるかを丁寧に説明しつつ、必要に応じて医事部門と連携して影響を確認する姿勢が大切です。
Q4:自施設の運用が、厚労省のルールから外れていないか不安です。
医療区分・ADL 区分の算定ルールは、厚生労働省の通知・解釈通知および「評価の手引き」に基づいています。自施設の運用が妥当か気になる場合は、①評価票と手引きを改めて確認する、②地域の慢性期医療協会や勉強会で他施設の運用事例を聞く、③必要に応じて支払基金・国保連への照会を検討する、といったステップが有効です。現場レベルでは、グレーゾーンの判断を個人に任せず、委員会やワーキンググループで共有・合意形成しておくことが、安全な運用と監査対応の両面で役立ちます。
おわりに|制度の指標を「患者像」と「ケア負担」の共有に活かす
医療区分は、診療報酬上の仕組みとしては複雑ですが、「どのような疾患・状態の患者さんに、どれくらい侵襲度の高い処置を行っているのか」をチームで共有するための共通言語でもあります。数字だけを追うのではなく、「なぜこの患者さんは医療区分 3 なのか」「医療区分が下がるとは、どの処置が減り、どんなリスクが軽減された状態なのか」といったストーリーをイメージできると、離床やリハ介入の方針も立てやすくなります。
一方で、ADL 区分や FIM・Barthel といった生活機能の指標と、医療区分の間にはギャップが生じることも少なくありません。そのズレを「おかしい」で終わらせず、「どの場面でケア負担が残っているのか」「どの処置が在宅復帰や転棟のボトルネックになっているのか」をカンファレンスで言語化することで、多職種連携の質が高まります。本記事が、医療区分を「点数のための数字」から「患者像とケア負担を共有するためのフレーム」へと捉え直す一助になれば幸いです。
参考文献
- 厚生労働省. 令和 6 年度診療報酬改定の概要(入院医療・慢性期入院医療). 厚生労働省; 2024. (インターネット). 利用可能: https://www.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省. 療養病棟入院基本料等に係る評価票(医療区分・ADL 区分)及び評価の手引き. 厚生労働省; 発出年不詳. (インターネット). 利用可能: https://www.mhlw.go.jp/
- 日本慢性期医療協会. 医療区分・ADL 区分の見直しと慢性期入院医療の評価. 日本慢性期医療協会; 公開年不詳.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

