理学療法士の初期評価|見る順番・評価項目・考え方

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理学療法士の初期評価は「何を全部測るか」ではなく「次に何を見るか」を決める

理学療法士の初期評価では、ROM、MMT、感覚、バランスなどを最初からすべて測定する必要はありません。まず安全に評価できる状態かを確認し、患者さんが困っている生活場面と実際の基本動作・ADLを見たうえで、「なぜ崩れるのか」という仮説を立て、必要な身体機能評価へ進みます。

新人PTの方が迷いやすいのは、評価項目の知識が足りないからとは限りません。本記事では、初日にどこまで確認すればよいか、動作からROM・筋力などをどう選ぶか、所見を問題点・目標・初回介入・再評価へどうつなげるかを、実務で使いやすい順番に整理します。

この記事の結論

初期評価は、情報収集→安全確認→困りごと・目標確認→基本動作・ADL観察→必要な身体機能評価→所見の統合→目標・初回介入→記録・再評価と考えると、「次に何を見るか」を決めやすくなります。

理学療法評価全体の地図を確認したい方へ

理学療法評価の総合ガイドでは、身体機能、基本動作、ADL、歩行、バランス、疾患別評価などを目的別に整理しています。

初日にすべて評価しなくてよい|最低限決めたい5つ

初期評価の初日に必要なのは、評価用紙の空欄をすべて埋めることではありません。患者さんの負担と当日の状態を踏まえ、次の評価・介入を決めるために必要な情報がそろえば、詳細評価は次回以降へ分けられます。

初日に最低限決めたいこと
  1. 安全性:今日はどこまで評価・活動できるか
  2. 現在の活動:どの基本動作・ADLにどれだけ支援が必要か
  3. 優先課題:本人にとって何が最も困っているか
  4. 次の仮説:動作が崩れる理由として何を確認するか
  5. 次の一手:何を介入し、何を再評価するか

未評価項目が残ること自体は問題ではありません。「全身状態を考慮し本日は未実施」「疼痛の変化を確認後に追加評価する」など、実施しなかった理由と次に確認する内容を残しておくことが重要です。

患者さんに触れる前に確認する情報

初期評価の最初は、カルテを最初から最後まで読むことではなく、当日の安全性と評価目的を判断するための情報を優先して確認します。特に、指示・制限、全身状態、発症前・入院前の生活、本人の希望は、その後に何を見るかを決める土台になります。

初期評価前に確認する情報
領域 確認する内容 ここで判断すること
医学的情報 主病名、発症・受傷時期、術式、治療経過、既往歴、服薬 今回の状態に関係する病態や注意点
指示・制限 安静度、荷重条件、可動域制限、禁忌、装具、酸素条件など 実施できる評価・動作の範囲
当日の状態 バイタル、意識、疼痛、呼吸、発熱、症状、検査情報、前日からの変化 評価開始の可否と負荷量
入院前・発症前生活 歩行、ADL、仕事、家事、住環境、補助具、家族支援 今回新たに失われた能力と必要な生活水準
本人・家族の希望 困っていること、やりたいこと、戻りたい生活、優先したい活動 初期評価で優先して確認する生活課題

情報収集の時点で原因を決めつける必要はありません。「歩けない」という情報があれば、疼痛、全身状態、運動機能、認知、恐怖、環境など複数の可能性を残し、実際の患者さんを見ながら絞っていきます。

理学療法士の初期評価を8ステップで整理する

ここから示す8ステップは、理学療法の公式な8段階を示したものではなく、rehabilikunblogで初期評価の思考過程を整理するための実務フローです。実際には患者さんの状態や得られた所見に応じて、前の段階へ戻ったり、複数の段階を行き来したりします。

理学療法士の初期評価で次に何を見るかを、情報収集、安全確認、困りごとと目標確認、基本動作ADL観察、必要な身体機能評価、所見の統合、目標設定と初回介入、記録と再評価の8ステップで示した図
初期評価は、生活課題と実際の動作から「次に何を確認するか」を絞り、必要な身体機能評価へつなげる

ステップ1|情報収集で全体像と前提をつかむ

カルテ、紹介状、看護記録、画像・検査情報、服薬、本人・家族からの情報を確認します。目的は患者さんのすべてを理解することではなく、当日の評価を安全に始めるための前提と、最初に確認すべき問いを作ることです。

例えば入院前は独歩だった患者さんが現在歩けないのであれば、「なぜ歩けないか」を情報だけで決めるのではなく、「安全に立てるか」「どの動作から崩れるか」「どの条件ならできるか」を次に確認します。

ステップ2|安全確認で「今日はどこまでできるか」を決める

バイタル、意識、症状、指示・制限、転倒リスク、ライン・ドレーン類などを確認し、その日に実施できる評価範囲を決めます。初期評価では最大能力を引き出すことよりも、状態を悪化させず必要な情報を得ることを優先します。

単一の数値だけで安全性を判断しない

バイタルサインは基礎値や経時変化、症状、薬剤、体位変換・運動への反応などと合わせて確認します。医師の指示や所属施設の開始・中止基準がある場合は、その運用を優先してください。

ステップ3|困りごと・目標を確認する

安全性を確認したら、「何ができなくて困っているか」「何をできるようになりたいか」を確認します。患者さん本人から十分な情報を得にくい場合は、家族や多職種、入院前の生活情報も手掛かりにします。

ここで重要なのは、最初から「筋力を上げる」「歩行練習をする」と決めないことです。「一人でトイレへ行きたい」「ベッドから起きたい」などの生活場面を先に決めると、その後に見る動作と評価項目を絞りやすくなります。

ステップ4|基本動作・ADLを観察し「どこで崩れるか」を見る

身体機能を細かく測定する前に、安全に実施できる範囲で実際の基本動作やADLを観察します。「できる・できない」だけでなく、どの局面で止まるか、どの程度の介助が必要か、条件を変えるとどうなるかを確認します。

  • 寝返り・起き上がり
  • 端座位・立位保持
  • 立ち上がり・移乗
  • 歩行・方向転換・階段
  • 車椅子操作や補助具使用
  • 排泄、更衣、入浴など実生活で必要なADL

観察では、介助量だけでなく、姿勢、動作開始、左右差、疼痛回避、代償、呼吸・疲労、安全性、環境条件なども見ます。リハビリ室だけでなく、病棟や退院後の生活で再現できるかという視点も必要です。

ステップ5|必要な身体機能だけを評価する

基本動作・ADLで「どこがうまくいかないか」を確認したら、その理由を検討するために必要な身体機能評価を選びます。ROMやMMTを全身一律に測るのではなく、動作から立てた仮説を確かめるために使います。

例えば立ち上がり後半に膝折れがある場合、膝伸展筋力だけでなく、足部位置、体幹前傾、関節可動域、疼痛、バランス、理解力など複数の関連要因が考えられます。実際の動作所見と照らし合わせながら、次の判断に必要な項目を選択します。

ステップ6|所見を統合し、優先課題を決める

ここでは測定値を並べるのではなく、生活上の問題、動作所見、身体機能、認知・心理、環境条件などを組み合わせ、「何が優先課題か」を整理します。

一つの所見だけから原因を断定せず、「この要因が関係しているのではないか」という仮説として扱い、条件を変えたときの反応や追加評価によって確かめます。優先するのは、生活上の問題への影響が大きく、介入や環境調整によって変化を確認できる課題です。

ステップ7|目標を決め、初回介入で仮説を確かめる

目標は「筋力向上」「歩行練習」のような介入内容ではなく、どの生活場面で、どの条件なら、どの程度できるようになることを目指すのかを表します。

機能目標だけで終わらせず生活場面へつなげる例
抽象的な目標 生活場面へ落とした例
下肢筋力を向上する 手すりを使用し、トイレから見守りで立ち上がれる
歩行能力を改善する 歩行器を使用し、病室からトイレまで軽介助で移動できる
バランスを改善する 方向転換時のふらつきを抑え、見守りで屋内移動できる

目標の期限は一律に固定せず、病態、病期、入院・利用期間、再評価予定などに合わせて設定します。初回介入では、動作方法、環境、補助具、介助、声かけなどの条件を調整し、動作や症状がどのように変化するかを確認します。

ステップ8|記録し、次の再評価条件を決める

初期評価の最後は、測定した項目を並べて終えるのではなく、「何が分かったか」「何を試したか」「次に何を見るか」が追える形で記録します。

  • 本人・家族が困っていること、目標
  • 主要な動作所見、介助量、症状、安全性
  • 関連すると考えた要因と、その根拠
  • 実施した介入・条件変更と反応
  • 次回確認する評価・動作・条件
  • 病棟や他職種へ共有する内容

介入効果を比較する場合は、可能な範囲で補助具、介助条件、環境、測定方法などをそろえます。再評価で何を見るかまで決めておくと、初期評価がその場限りの情報収集になりにくくなります。

初期評価で見る主な評価項目|目的から選ぶ

初期評価で確認できる項目は多岐にわたりますが、すべてを全患者に実施する必要はありません。「この評価結果によって次の判断が変わるか」を考え、目的に合う項目を選びます。

理学療法士の初期評価で確認する主な領域
領域 確認例 主な目的
全身状態 バイタル、意識、呼吸、疼痛、疲労など 安全性とその日の実施範囲を決める
基本動作・移動 寝返り、起き上がり、立ち上がり、移乗、歩行、階段など 実際にどこで動作が崩れるかを見る
身体構造・機能 ROM、筋力、筋緊張、感覚、協調性、浮腫など 動作に関連する要因の仮説を確かめる
姿勢・バランス 座位、立位、重心移動、方向転換、転倒歴など 必要な支持条件と安全性を確認する
ADL・IADL 排泄、更衣、入浴、家事、買い物など 生活上の支援量と必要能力を把握する
認知・心理 指示理解、注意、記憶、意欲、不安、恐怖など 安全行動や運動学習に影響する条件を確認する
生活背景・環境 住環境、家族支援、仕事、役割、補助具、福祉用具など 退院後・生活場面で必要な能力を明確にする

初期評価の核は「所見→原因」ではなく「事実→仮説→確認」

初期評価で注意したいのは、ROM制限や筋力低下などの所見を見つけた時点で、それを動作障害の原因と断定しないことです。複数の所見を関連要因の候補として持ち、実際の動作や条件変更への反応から優先度を絞ります。

困りごと:トイレからの立ち上がりに軽介助を要する

動作の事実:低い座面では体幹前傾が小さく、立ち上がり後半に右膝折れを認める

関連要因の仮説:足部位置、前方への重心移動、股関節可動域、右膝伸展筋力、疼痛などが関係している可能性を考える

必要な確認:動作条件を調整し、必要に応じて関節可動域や筋力などを追加評価する

次の判断:条件変更で介助量や膝折れがどう変わるかを確認し、優先して介入する要因を絞る

所見を原因と断定しない書き方
避けたい考え方 初期評価での考え方
膝伸展筋力が低いから膝折れが起きている 右膝伸展筋力低下を認める。膝折れとの関連を、動作条件や他所見と合わせて確認する
ROM制限があるから立てない 可動域制限が立ち上がりのどの局面に影響する可能性があるかを、実動作と照合する
バランスが悪いから歩けない 歩行のどの場面で不安定になるかを確認し、感覚、筋力、方向転換、補助具、環境などを追加で検討する

この「困りごと→動作の詰まり→関連要因の仮説→必要な評価→条件を変えて確認」という流れを繰り返すと、評価項目を増やすのではなく、次の判断に必要な情報へ絞りやすくなります。

初期評価の記録は「判断の根拠」と「次の一手」が追える形にする

初期評価の記録では、実施した検査をすべて列挙することよりも、生活上の課題、重要な事実、解釈、次の計画がつながっていることを優先します。SOAPはその整理方法の一つですが、記録様式は所属施設の運用に従ってください。

初期評価の短い記録例

本人の希望:「一人でトイレへ行きたい。立つときに膝が不安」と発言。

事実:起き上がり見守り、立ち上がり軽介助。低い座面では体幹前傾が小さく、立位移行後半に右膝折れあり。手すり使用で安定性が向上。

解釈:立ち上がり後半の支持性低下に、足部位置、前方への重心移動、右膝伸展筋力などが関係している可能性がある。

計画:足部位置と手すり条件を調整して立ち上がりを再確認し、必要な身体機能評価を追加する。介助量と右膝折れの変化を再評価する。

初回時点で仮説が確定していない場合は、無理に断定せず「可能性」「追加確認予定」として残します。次の担当者や多職種が読んだときに、「なぜこの評価・介入を選んだのか」が追える記録を目指します。

急性期・回復期・療養病棟では「最初の問い」が変わる

初期評価の基本的な考え方は共通していても、病期や診療場面によって最優先する問いは変わります。本記事では共通する思考順を扱い、それぞれの病期で必要な詳細は専用記事へ分けます。

病期ごとに初期評価で優先する問い
病期 最優先する問い 評価で重視すること
急性期 今日は安全にどこまで動けるか 指示、全身状態、離床範囲、活動への反応
回復期 退院生活に何が必要か 入院前生活、ADL、退院先、家族・環境条件
療養病棟 現在の生活をどう維持し、二次障害を防ぐか 姿勢、基本動作、介助方法、環境、皮膚・拘縮など

新人PTが初期評価で陥りやすい失敗

初期評価で迷ったときは、評価項目を増やす前に「今、何を判断するための情報が足りないのか」を確認します。よくある失敗と修正方法を整理すると、次のようになります。

初期評価で起こりやすい失敗と修正方法
失敗 修正する考え方
評価項目を全部埋める 今日決めたいことから、必要な評価だけを選ぶ
ROM・MMTから一律に始める 安全性と生活課題を確認し、実際の動作から必要な機能評価を選ぶ
所見を原因と決めつける 関連要因の仮説として持ち、追加評価や条件変更で確かめる
リハビリ室だけで判断する 病棟や退院後の環境でも再現できる条件かを確認する
介入だけ決めて再評価を決めない 何を、どの条件で、いつ再確認するかまで決める

理学療法士の初期評価でよくある質問

初期評価は何から始めればよいですか?

最初に医学的情報、指示・制限、当日の全身状態を確認し、安全に評価できる範囲を決めます。その後、本人の困りごと・目標を確認し、実際の基本動作・ADLを観察してから必要な身体機能評価を選びます。

初日にすべての評価を終わらせる必要がありますか?

すべてを終える必要はありません。安全な活動範囲、現在の介助量、優先する生活課題、次に確認する仮説、当面の介入・再評価方針が整理できれば、詳細評価は次回以降へ分けられます。

ROMやMMTはどこまで測ればよいですか?

困っている活動と実際の動作所見から、関連が疑われる部位を優先します。全身を一律に測定するのではなく、仮説を確かめるために必要な範囲を選びます。

標準化された評価尺度は必ず使うべきですか?

評価目的に合う尺度は有用ですが、尺度を増やすこと自体を目的にはしません。何を判断・再評価したいのかを先に決め、その目的に合う評価尺度や測定方法を選びます。

次の一手|病期に合った初期評価へ進む

理学療法士の初期評価では、「評価項目をどれだけ多く実施したか」よりも、安全性と生活課題から実際の動作を見て、次に必要な評価を選べることが重要です。初日にすべてを終わらせず、事実と仮説を分けながら、介入と再評価へつなげてください。

病期が決まっている場合は、本記事で全体の考え方を確認したあと、それぞれの臨床場面に合わせて次の記事へ進んでください。


参考文献

  1. American Physical Therapy Association. APTA Guide to Physical Therapist Practice 4.0 [Internet]. Alexandria (VA): American Physical Therapy Association; 2023 [cited 2026 Sep 1].
  2. World Health Organization. International Classification of Functioning, Disability and Health (ICF) [Internet]. Geneva: World Health Organization [cited 2026 Sep 1].

本記事の8ステップは、公式に定められた初期評価手順ではなく、理学療法士が臨床で初期評価を整理するための実務フローです。個別患者の評価・介入は、病態、医師の指示、所属施設の基準、多職種の評価を踏まえて実施してください。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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