脳卒中上肢麻痺のrTMS実務|適応・効果・安全性と訓練

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脳卒中上肢麻痺のrTMS|2025年改訂では「行うことは妥当」とされています

脳卒中後の上肢機能障害に対する反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)は、脳卒中治療ガイドライン2021[改訂2025]で「行うことは妥当である」〔推奨度B・エビデンスレベル高〕とされています。ただし、これは「すべての患者に同じ刺激法を行う」「rTMSだけで上肢機能を改善させる」という意味ではありません。

臨床では、発症時期、麻痺の程度、運動路の状態、上肢課題、安全性を確認し、施設で定められたプロトコルのもとでrTMSを実施し、その前後に適切な上肢訓練を組み合わせます。本記事では、PT・OTが押さえておきたいrTMSの位置づけ、対象選定、刺激法の考え方、安全管理、上肢訓練との組み合わせ、効果判定を整理します。

この記事の結論

  • 脳卒中後の上肢機能障害に対するrTMSは、2025年改訂ガイドラインで推奨度Bです。
  • 低頻度・高頻度・TBSのどれかを、すべての患者へ一律に選ぶ基準は確立していません。
  • rTMSは単独で完結させず、患者に必要な上肢課題・反復練習へつなげて評価します。

2025年改訂ガイドラインでの位置づけ|rTMSは上肢機能障害への選択肢です

まず押さえたいのは、rTMSが脳卒中後上肢リハビリテーションの「特殊な研究だけの介入」として扱われているわけではない点です。

日本脳卒中学会の脳卒中治療ガイドライン2021[改訂2025]では、亜急性期以後の上肢機能障害に対し、tDCS、rTMS、埋め込み型刺激装置を用いた迷走神経刺激を行うことは妥当とされ、推奨度B・エビデンスレベル高とされています。

一方で、ガイドラインの推奨度が上がったことと、個々の患者に対して刺激部位・周波数・回数を一律に決められることは別です。研究では刺激方法、発症時期、麻痺重症度、併用する上肢訓練が異なり、個人差も大きいためです。

脳卒中上肢麻痺に対するrTMSで「分かっていること」と「一律に決められないこと」
確認点 現在の整理
ガイドライン上の位置づけ 上肢機能障害に対して行うことは妥当とされている
エビデンス 複数のRCT・メタ解析で上肢運動機能への改善効果が検討されている
刺激法 低頻度、高頻度、TBSなど複数の方法があり、一律の最適法は決まっていない
対象選定 発症時期、麻痺重症度、皮質脊髄路、目標、安全性などを総合して考える
リハビリとの関係 rTMS単独ではなく、上肢訓練と組み合わせた運用を考える

2025年改訂で何が変わったのかを広く確認したい場合は、脳卒中治療ガイドライン2025改訂のPT実務まとめも参照してください。

rTMSは上肢機能に効果があるのか|平均的な改善は示されていますが個人差があります

近年のメタ解析では、rTMSを受けた群で上肢運動機能の改善が示されています。ただし、研究ごとの刺激条件や対象者が異なるため、「rTMSを行えば誰でも同程度に改善する」と解釈するのは適切ではありません。

低バイアスリスクのRCTを対象とした2025年のシステマティックレビュー・メタ解析では、介入後のFMA-UEは対照群より平均5.4点高く、最終フォローアップでも群間差が報告されました。急性期・亜急性期や、ベースラインの運動障害がより重い群で改善が示されたサブグループ解析もあります。

一方、別の研究では刺激法や患者背景による異質性も確認されています。したがって、メタ解析の平均値をそのまま個々の患者の予測値として使うのではなく、「rTMSは有望な補助介入だが、反応する患者や最適プロトコルには個人差がある」と捉えるのが実務的です。

誰にrTMSを検討するか|麻痺の強さだけでは決めません

rTMSの検討対象は、「随意運動が弱いから」「慢性期だから」といった1項目だけでは決めません。上肢麻痺の状態、残存する運動出力、目標とする課題、安全性、実施後に行える訓練まで含めて判断します。

脳卒中上肢麻痺でrTMSを検討するときの確認軸
確認軸 確認する内容 PT・OTが考えること
発症時期 急性期・亜急性期・慢性期のどの段階か 自然回復や通常訓練による変化と区別して評価する
上肢麻痺 近位・遠位の随意性、分離運動、痙縮など 刺激後に変化を確認できる具体的な課題を決める
課題遂行 到達、把持、操作、リリースなど 機能変化を実際の動作へつなげられるか確認する
皮質脊髄路 必要に応じてMEPなどの神経生理学的情報 利用可能な場合は患者層別化の補助情報として扱う
安全性 金属・植込み機器、けいれんリスク、薬剤、全身状態など 施設SOPと医師の判断に従い実施可否を確認する
訓練への接続 刺激前後に実施する上肢練習が設定できるか 患者に必要な活動へ結びつく課題を準備する

MEPは皮質脊髄路機能を把握する有用な情報ですが、rTMSを実施する全患者で必須となる単独の適応基準ではありません。利用できる環境では、画像所見、臨床所見、運動機能と組み合わせて解釈します。

反対に、MEPが得られないことだけを理由に「rTMSの対象外」と機械的に決めるのも適切ではありません。対象選定では、患者ごとの残存機能と目標、安全性、使用するプロトコルを総合します。

低頻度・高頻度・TBSの違い|刺激法を一律に決めない

脳卒中後上肢麻痺に対するrTMSでは、非病変側半球を抑制する方法、病変側半球を促通する方法、TBSを利用する方法などが研究されています。重要なのは、「脳卒中なら健側を抑制すればよい」と固定しないことです。

脳卒中上肢リハで研究されている主なrTMSアプローチ
アプローチ 代表的な考え方 実務上の注意
低頻度rTMS 非病変側運動野の興奮性を抑える方向で用いられることがある 非病変側半球の活動を一律に「悪いもの」と判断しない
高頻度rTMS 病変側運動野の興奮性を高める方向で用いられることがある 病変部位や残存する運動路、刺激強度などを考慮する
iTBS 促通方向を狙うパターン刺激として研究されている 短時間で実施できる利点があるが、通常の高頻度rTMSと単純に同一視しない
cTBS 抑制方向を狙うパターン刺激として研究されている 対象・刺激部位によって結果が異なり、標準的な第一選択とは断定できない

従来は、病変側半球の活動低下と非病変側半球からの過剰な半球間抑制を想定する「半球間競合モデル」に基づき、非病変側を抑制する戦略が多く用いられてきました。

しかし、脳卒中後の神経ネットワークは患者ごとに異なります。2023年のシステマティックレビューでは、rTMS研究の多くが半球間競合モデルを採用していた一方、病変側の皮質運動機能を示すMEP状態を報告していた研究は一部に限られていました。

そのため現在は、病変側の残存機能や運動ネットワークを踏まえて刺激戦略を個別化する考え方が重要になっています。

脳卒中後上肢麻痺でrTMSを検討するときの適応・安全確認、刺激、上肢課題練習、再評価の流れ
脳卒中後上肢麻痺に対するrTMSは、適応・安全確認から刺激、上肢課題練習、再評価までを一連の流れとして考えます。図中の時間や成功率は統一された標準基準ではなく、実際の運用では研究プロトコル、施設SOP、患者の反応に応じて調整します。

rTMSと上肢訓練|刺激そのものをゴールにしません

rTMSを臨床で活かすうえで重要なのは、刺激による神経生理学的変化だけを確認して終了しないことです。最終的に必要なのは、患者が必要とする上肢動作や生活場面へ変化をつなげることです。

研究では、rTMSと作業療法、理学療法、課題指向型訓練、ロボット訓練などを組み合わせた介入が検討されています。一方、刺激と上肢訓練を組み合わせれば必ず相乗効果が得られると断定できるわけではなく、研究によって結果には差があります。

したがって臨床では、「rTMS後は必ず30分練習する」「成功率70%にする」といった固定ルールを設定するより、刺激前から再評価する課題を決め、刺激後に同じ課題を再確認し、必要な反復練習へつなぐ方が再現性を高めやすくなります。

上肢訓練へつなぐ4ステップ

  1. 刺激前の基準値を取る:上肢機能だけでなく、当日に練習する到達・把持・操作などの課題を確認します。
  2. rTMSを実施する:刺激条件は医師・実施者が施設SOPや採用プロトコルに従って管理します。
  3. 同じ課題を再確認する:運動開始、可動範囲、速度、正確性、代償など、刺激前との変化を確認します。
  4. 練習条件を調整する:改善した要素を利用しながら、患者に必要な反復・課題指向型練習へつなげます。

刺激後に一時的な変化がみられても、それだけで長期的な改善とは判断できません。セッション内の反応と、複数回介入後の機能変化、生活場面での使用を分けて評価します。

効果判定|FMA-UEだけでなく「できること」と「使っているか」を分けます

rTMSの効果判定では、身体機能だけでなく活動レベルまで確認します。FMA-UEの点数が改善しても、物品操作や日常生活での患側上肢使用が変わっていなければ、介入目標を再検討する必要があります。

rTMS前後で確認したい上肢アウトカム
評価領域 評価例 確認したい変化
運動機能 FMA-UEなど 選択的運動、共同運動からの分離、上肢運動機能の変化
課題遂行 ARAT、Box and Block Test、WMFTなど 到達・把持・操作・速度・正確性の変化
実生活での使用 MALなどの質問紙、生活場面の聞き取り・観察 患側上肢を実際の生活で使う頻度や質
個別課題 患者ごとに設定した上肢課題 本人が必要とする動作が実際に変わったか

評価尺度は多く使えばよいわけではありません。研究との比較が必要ならFMA-UEなどの標準化尺度を選び、臨床ではそれに加えて患者固有の課題を1つ設定しておくと、刺激前後の変化を共有しやすくなります。

安全管理|最初に確認するのは金属・植込み機器・けいれんリスクです

rTMSは非侵襲的な刺激法ですが、強い磁場を用いるため、安全スクリーニングなしに実施するものではありません。特に、頭部周囲の金属、植込み型電子機器、けいれんリスクなどは実施前に確認します。

rTMS実施前後の安全確認
確認事項 実務での確認
金属・植込み機器 頭部近傍の金属、人工内耳、神経刺激装置などの種類・位置を確認し、機器ごとの適合性を判断する
けいれんリスク 発作歴、脳病変、薬剤、刺激条件などを含めて評価する
服薬 中枢神経系へ作用する薬剤を含め、開始・変更・中止がないか確認する
当日の状態 新たな神経症状、全身状態の悪化、極端な睡眠不足など、安全性へ影響する変化を確認する
実施中 頭痛、頭皮痛、不快感、気分不良などを確認する
緊急対応 まれなけいれん発作を含む有害事象へ対応できる体制で実施する

国際的なTMS安全ガイドラインでは、従来型の刺激条件におけるけいれん発作のリスクは低いとされていますが、ゼロではありません。実施者には、対象スクリーニング、使用する刺激条件、安全基準、有害事象への対応を理解したうえでの運用が求められます。

PT・OTが刺激装置そのものを管理しない施設でも、リハビリ開始時に患者の体調変化や新たな症状を把握した場合は、刺激担当者へ共有することが重要です。

日本での保険診療|ガイドラインの推奨と診療報酬は分けて考えます

ここは混同しやすいポイントです。脳卒中治療ガイドラインでrTMSが推奨されていることと、脳卒中上肢麻痺に対して保険診療としてrTMSを算定できることは同じではありません。

厚生労働省の診療報酬では、「I000-2 経頭蓋磁気刺激療法」は、施設基準を満たす医療機関で、薬物治療で十分な効果が認められない成人のうつ病患者に対して所定の治療を行った場合が算定対象とされています。

したがって、脳卒中後上肢麻痺へのrTMSは、この診療報酬項目をそのまま算定する対象ではありません。研究、自由診療、その他の枠組みなど実際の実施形態は施設によって異なるため、自施設で導入を検討する場合は、使用機器の承認範囲、院内手続き、費用、実施体制を個別に確認してください。

実務上の注意:「ガイドラインで推奨されている=保険適用」「研究で有効=自施設でそのまま実施できる」とは限りません。エビデンス、薬事上の位置づけ、診療報酬、施設SOPを分けて確認します。

PT・OTが押さえる実務ポイント|刺激条件より前後の評価をそろえます

rTMSの周波数や刺激強度は重要ですが、リハビリ専門職の実務では、それだけを追うと「刺激を実施したが、何が変わったのか分からない」という状態になりやすくなります。

最低限、刺激前後で同じ上肢課題、同じ観察条件、同じ評価尺度を用い、何が変わったのかを確認できるようにします。

rTMSと上肢訓練をつなぐ実務整理
場面 確認すること
導入前 目的、上肢麻痺、課題遂行、安全性、刺激後に行う訓練を決める
刺激前 その日の状態と、再評価する上肢課題の基準値を確認する
刺激後 同じ課題を再評価し、変化した要素を確認する
上肢訓練 患者の目標に対応した課題・反復練習へつなげる
複数回介入後 FMA-UEなどの機能評価、課題遂行、実生活での使用を再評価する

rTMSは「刺激したかどうか」ではなく、刺激を含む介入全体によって患者の上肢機能・活動がどう変化したかで評価します。

よくある質問

脳卒中後の上肢麻痺にrTMSは推奨されていますか?

はい。脳卒中治療ガイドライン2021[改訂2025]では、上肢機能障害に対するrTMSは「行うことは妥当である」とされ、推奨度B・エビデンスレベル高です。ただし、対象選定や刺激プロトコルまで一律に定められているわけではありません。

低頻度rTMSと高頻度rTMSはどちらを選べばよいですか?

すべての患者に共通する一律の選択基準はありません。従来は非病変側への低頻度刺激や病変側への高頻度刺激が多く研究されていますが、発症時期、病変、残存する皮質脊髄路、採用する研究プロトコルなどを考慮します。刺激条件は施設SOPと担当医・実施者の判断を優先します。

rTMS後は30分以内に訓練しないといけませんか?

「rTMS後は必ず30分以内」「30分間練習する」という統一された臨床基準はありません。研究ごとに刺激と訓練のタイミングは異なります。重要なのは、刺激前後で評価する課題を決め、患者に必要な上肢訓練へつなげることです。

上肢練習は成功率70%を目安にしますか?

成功率70%は、脳卒中上肢rTMSに固有の標準基準ではありません。課題難度は患者の能力、代償、疲労、練習目的に応じて調整します。成功・失敗の割合だけでなく、運動の質と課題の意味を合わせて判断してください。

脳卒中後のrTMSは保険適用ですか?

日本の診療報酬における「経頭蓋磁気刺激療法」は、薬物治療で十分な効果が認められない成人うつ病患者が対象です。脳卒中後上肢麻痺は、この診療報酬項目の算定対象ではありません。実施形態や費用は施設ごとに確認が必要です。

次に確認したい記事

参考文献

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著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療従事者が現場で活用できる実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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