注意障害ドリルは「注意の種類」と「記録項目」をそろえると運用しやすくなります
注意障害ドリルで迷いやすい原因は、課題そのものよりも「何を狙っている課題か」が曖昧になることです。持続注意・選択注意・転換注意・分配注意のどこを主軸にするかを決めると、課題選定、難易度調整、記録の視点がそろいやすくなります。
本記事では、OT が現場で使いやすいように、注意障害ドリルを「評価 → 課題選定 → 実施 → 記録」の順に整理します。読むことで、どの注意機能を狙い、どの課題を選び、次回へどうつなぐかを短時間で決められるようになります。
この記事で決めること
この記事で決めるのは、注意障害に対して「どの注意機能を主軸にし、どの課題から始め、何を記録するか」です。高次脳機能障害全体の評価や、遂行機能障害との詳細な鑑別は深掘りしません。
注意障害は、作業中の見落とし、集中の途切れ、切り替えの遅れ、二重課題での崩れとして現れます。まずは 1 回の介入で狙う注意機能を 1 つに絞ると、ドリルの目的と効果判定がぶれにくくなります。
4 つの注意から主軸を 1 つ選ぶ
最初に、持続注意・選択注意・転換注意・分配注意のどれを中心にするかを決めます。主軸を 1 つにすると、課題の選び方と観察ポイントが明確になります。
臨床では複数の注意機能が重なって見えることがあります。その場合も、初回は「最も生活上の困りごとに直結している注意機能」を 1 つ選び、結果を見て次回以降に仮説を追加します。
| 注意機能 | よく見られる困りごと | 最初の狙い | 課題例 |
|---|---|---|---|
| 持続注意 | 作業が途中で止まる、終盤にミスが増える | 集中継続 | キャンセレーション課題 |
| 選択注意 | 見落としが多い、雑音へ反応する | 必要刺激を拾う | ターゲット探索 |
| 転換注意 | 切替で止まる、ルール変更で混乱する | 切替コストを減らす | 分類切替課題 |
| 分配注意 | 同時課題で崩れる | 二重課題耐性 | 歩行+計算 |
5 分フローで課題を選ぶ
課題選定は「症状 → 注意機能 → 課題 → 調整指標 → 記録」の順で進めます。先に課題を決めるのではなく、生活上の困りごとから逆算すると、訓練の意味を説明しやすくなります。
特に新人教育では、ドリル名よりも「何を見て、次回どう変えるか」を共有することが重要です。次の図版を使うと、担当者が変わっても同じ流れで判断しやすくなります。

| 順番 | 決めること | 現場で見るポイント |
|---|---|---|
| 1 | 生活上の困りごとを選ぶ | 見落とし、集中低下、切替困難 |
| 2 | 主軸の注意機能を決める | 持続・選択・転換・分配 |
| 3 | 課題を選ぶ | 短時間で開始する |
| 4 | 調整指標を決める | 正答率、疲労、手がかり量 |
| 5 | 次回調整案を残す | 変更点を 1 つに絞る |
課題選定は「1 症状 × 1 目的」で組む
注意障害ドリルは、1 回の介入で 1 症状・1 目的に絞ると評価しやすくなります。「持続注意を 5 分保つ」「見落としを減らす」など、観察可能な目的にします。
課題は易・中・難の 3 段階を用意し、段階を上げる条件と戻す条件を決めておきます。正答率だけでなく、手がかり量と疲労の出方も合わせて見ると、過負荷を避けながら進められます。
| 段階 | 負荷設定 | 合格目安 | 調整方向 |
|---|---|---|---|
| 易 | 3〜5 分、刺激少、静かな環境 | 中断少ない | 時間延長 |
| 中 | 6〜8 分、刺激中、軽い妨害刺激 | 自己修正あり | 妨害刺激追加 |
| 難 | 二重課題あり、刺激多い | 疲労後も継続 | 生活課題へ般化 |
注意障害ドリル例を機能別に選ぶ
ドリル例は、注意機能ごとに目的を分けて選びます。導入時は、各分類から複数選ぶのではなく、主軸に合う課題を 1 つ選び、短時間で反応を確認します。
課題を増やすより、同じ課題で条件をそろえて比較する方が、次回調整に使える記録が残ります。反応が安定してから、刺激量、時間、手がかり量、環境刺激を段階的に変更します。
| 分類 | ドリル例 | 見るポイント | 調整ポイント |
|---|---|---|---|
| 持続注意 | キャンセレーション課題、連続反応課題 | 何分で集中が切れるか | 実施時間、休憩間隔 |
| 選択注意 | ターゲット探索、色・形選択 | 見落とし、誤選択 | 妨害刺激量、提示速度 |
| 転換注意 | ルール切替分類、交互系列課題 | 切替直後の停止 | 切替頻度、予告の有無 |
| 分配注意 | 作業+聴覚反応、歩行+計算 | 主課題と副課題の崩れ | 副課題難度、安全管理 |
進め方は「正答率・手がかり量・疲労」で判断する
ドリルの進行は、正答率だけで決めないことが重要です。正答率が高くても手がかりが多い場合や、終盤に疲労で崩れる場合は、まだ段階を上げるタイミングではありません。
段階を上げる条件は「手がかりが少ない」「疲労後も再開できる」「エラーが急増しない」の 3 点で見ます。逆に、誤反応の急増、課題意図の保持困難、苛立ちや拒否が増える場合は、負荷を下げます。
ミニ症例|終盤で崩れる持続注意
開始 3 分は安定するが、6 分前後から見落としが増える場合は、課題内容よりも実施時間と休憩の設計を先に調整します。刺激を増やす前に、短いセットを反復して比較できる形にします。
| 観察 | その場の調整 | 次回設定 |
|---|---|---|
| 6 分前後で見落とし増加 | 8 分実施を 5 分に短縮 | 5 分 × 2 セット、休憩 1 分 |
| 終盤だけ誤反応が増える | 刺激密度を下げる | 配置だけ固定して比較 |
| 口頭手がかりで混乱する | 視覚手がかりへ統一 | 手がかり回数を固定 |
記録は 5 項目に絞る
記録は、次回の難易度調整に使える形で残します。長文で詳しく書くより、「目的・課題・手がかり量・エラー傾向・次回調整案」の 5 項目を固定した方が、担当者間で共有しやすくなります。
注意障害ドリルでは、同じ課題でも条件が変わると比較が難しくなります。時間、刺激量、休憩、手がかり、環境設定のうち、どれを変えたのかを必ず残します。
| 項目 | 記載例 | 次回に活かす視点 |
|---|---|---|
| 目的 | 持続注意を 5 分保つ | 達成率を見る |
| 課題 | 視覚探索課題 | 条件を再現する |
| 手がかり量 | 口頭 2 回 | 減らせるか確認 |
| エラー傾向 | 終盤で見落とし増加 | 疲労調整 |
| 次回案 | 刺激量を減らす | 変更点を固定 |
現場の詰まりどころ
最も多い詰まりは、「注意障害」と「遂行機能障害」を同じ課題で扱ってしまうことです。まずは主軸を 1 つに固定し、比較は後から追加します。
もう 1 つの詰まりは、難易度調整の基準が共有されていないことです。教育担当者と新人で判断が割れやすいため、段階を上げる条件・戻す条件・記録項目を先にそろえると、チームで同じ基準に近づけます。
評価や記録が学びにくい背景には、職場の教育体制や相談環境が影響することもあります。
よくある失敗は 4 つに絞って直す
注意障害ドリルの失敗は、課題の種類よりも運用の曖昧さから起こります。目的、判定指標、疲労管理、段階変更の理由をそろえるだけで、介入の再現性が上がります。
| 失敗 | 理由 | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 目的を毎回変える | 仮説が散らばる | 1 週間固定する | 目的達成率の推移 |
| 正答率だけで判定する | 疲労や手がかりが見えない | 手がかり量も記録する | 手がかり種別、誤反応内容 |
| 疲労配慮が遅れる | 中止条件が曖昧 | 開始前に休憩条件を決める | 終盤低下の有無 |
| 急に難しくする | 段階変更条件が曖昧 | 1 要素だけ変更する | 変更理由を残す |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 最初はどの注意機能から始めるとよいですか?
迷う場合は、持続注意から始めると運用しやすいです。一定時間課題に取り組める土台ができると、選択注意・転換注意・分配注意の課題へ進めやすくなります。
Q2. 二重課題はいつ入れますか?
単課題で、正答率・手がかり量・疲労の 3 点が安定してから導入します。
Q3. 注意障害と遂行機能障害の区別が難しいです。
開始直後から散漫なら注意、計画・修正で崩れるなら遂行機能の関与を疑います。
Q4. 記録を短くするコツはありますか?
目的・課題・手がかり量・エラー傾向・次回調整案の 5 項目に固定すると比較しやすくなります。
Q5. 課題を嫌がる場合はどうしますか?
実施時間、刺激量、手がかり、休憩条件のどれが負担になっているかを確認し、変更点を 1 つだけに絞って再開します。
次の一手
次は、高次脳機能ドリル全体の流れと、注意障害と遂行機能障害の使い分けに接続します。
参考文献
- Cicerone KD, Goldin Y, Ganci K, et al. Evidence-Based Cognitive Rehabilitation: Systematic Review of the Literature From 2009 Through 2014. Arch Phys Med Rehabil. 2019;100(8):1515-1533. doi:10.1016/j.apmr.2019.02.011
- Cicerone KD, Langenbahn DM, Braden C, et al. Evidence-Based Cognitive Rehabilitation: Updated Review of the Literature From 2003 Through 2008. Arch Phys Med Rehabil. 2011;92(4):519-530. doi:10.1016/j.apmr.2010.11.015
- Loetscher T, Lincoln NB. Cognitive rehabilitation for attention deficits following stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2019;(11):CD002842. doi:10.1002/14651858.CD002842.pub3
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


