てんかん発作の一次対応とリスク管理|リハ中の安全手順と 119 判断

疾患別
記事内に広告が含まれています。

てんかん発作をリハビリ中に目撃したら:一次対応とリスク管理

臨床を強みにする転職ノウハウ( PT 向けガイド )

発作を目撃したとき、リハビリスタッフにまず求められるのは「危険排除・禁忌回避・計時(スタート時刻)」です。本稿は現場の PT / OT / ST 向けに、リハビリ中の一次対応の Do / Don’t 、 “いつ 119 ”の境界、そして失神・ PNES との違いを、表とチェックで整理します。

加えて「てんかん リハビリ リスク管理」の検索意図に合わせ、発作が起きる前の訓練設計(開始前チェック/訓練別のハイリスク場面/チーム共有の型)もまとめました。関連する安全管理の索引は 制度・実務ハブ(安全管理) に集約しています。

てんかんリハビリのリスク管理:発作を起こさせない設計

結論:リハビリ場面のリスク管理は「開始前に誘因を減らす → ハイリスク訓練を条件付きで実施 → 発作時の対応プランを全員で共有」の 3 点で事故が減ります。一次対応だけ整えても、訓練設計が不安定だと転倒・外傷・窒息のリスクが残ります。

現場では “分類を覚える” より、①睡眠・体調・服薬などの変動を拾う ②水場・高所・屋外など危険が跳ねる場面を先に避ける ③観察語彙と連絡フローを固定する、の順に整えると運用が回りやすいです。

開始前チェック( 60 秒 )

【成人・病棟/在宅】てんかんリハビリ開始前チェック( 60 秒 )
項目 確認のコツ( 1 行 ) リハ側の調整 中断/延期の目安
睡眠不足・疲労 夜間覚醒/寝不足、日中の眠気を 1 問で確認 強度を 1 段階下げ、見守りを厚く、休憩を先に置く 極端な眠気・反応低下、ふらつき増悪
服薬(飲み忘れ) 内服タイミングが “いつも通り” かを確認 当日の目標を下げ、危険の高い訓練を後回しにする 飲み忘れが明確、発作パターンが変化
発熱・感染兆候 発熱、悪寒、咳痰、尿路症状など 離床は短時間、体位変換中心へ。医師へ共有を優先 発熱+意識/呼吸の変化、全身状態の破綻
低血糖・脱水 食事摂取、糖尿病治療、口渇・尿量 起立・歩行は段階付け。長時間連続を避ける 冷汗・動悸・ふらつきの増悪、明らかな脱水所見
直近の発作変化 頻度/持続/回復の “いつもと違う” を 1 行で 見守り強化、環境を安全側へ(ベッド周囲、床面) 群発傾向、回復遷延、外傷の合併

訓練別:ハイリスク場面と代替案

【成人・病棟/在宅】訓練別リスク管理( “起きたら危ない” を先に潰す )
訓練/場面 主リスク 事前にやる調整 代替(同じ目的を安全側で)
起立・立位保持 転倒、頭部打撲 ベッド/手すり/壁沿い、足元クリア、スタッフ配置を先に決める 端座位で重心移動、立位は短時間の反復へ
歩行練習(病棟内) 転倒、二次外傷 最初は “直線+広い場所” 、方向転換と狭所は後回し 平行棒/歩行器で距離を刻む、段階付け
階段・段差 高所転落、骨折 実施条件(手すり、介助者数、疲労)を固定してから ステップ台で練習、昇降は介助量が安定してから
浴室・水場(入浴動作/洗体) 溺水、滑倒 単独実施を避ける。先に “乾いた環境” で手順練習 更衣・移乗・手すり動作を陸上で反復してから
屋外歩行・外出練習 転倒、交通、単独時の対応遅れ 同行者・連絡手段・休憩地点を先に決める 屋内で二重課題と休憩導入を固めてから段階的に
マシン/エルゴ 転落、離脱困難 緊急停止、固定具、乗降介助の役割分担を固定 座位での反復下肢運動、短時間インターバルで代替

Seizure Action Plan(院内版ひな形)

発作対応は “その場の頑張り” ではなく、チームで迷いを減らす設計が重要です。患者ごとに、最低限これだけを 1 枚で共有します。

【病棟/在宅】発作対応プラン( 1 枚で共有する項目 )
項目 記入例(短く) 共有先
普段の発作型 強直間代 1–2 分、回復に 15 分 PT / OT / ST /看護
誘因(多いもの) 寝不足、発熱、内服遅れ 病棟スタッフ全員
実施 NG / 条件付き 浴室は単独 NG 、屋外は同行者必須 リハ/介護者
薬(レスキュー含む) 指示薬の有無、投与条件、連絡先 看護/主治医
救急要請の基準 5 分超、群発で意識回復なし、外傷/溺水 全員

てんかん発作の基本|“定義”より現場で役立つ要点

発作は一過性・可逆的な神経活動の破綻が作る症候群で、意識・運動・自律神経・感覚の変化として現れます。リハビリ中に問題になるのは「転倒・外傷・窒息リスク」と「発作後の麻痺や疲労でどこまで続行してよいか」です。分類は大別して焦点発作と全般発作。定義や分類の精緻化は ILAE に委ね、現場では ①危険排除 ②回復体位 ③計時( 5 分 )の 3 点を最優先します。

なお “けいれん = てんかん” ではありません。低血糖や失神でも短時間のミオクロニーは起こり得ます。鑑別は最終的に医師が行いますが、リハ側は “観察の抜け” を減らすことが役割です。

一次対応( Do / Don’t )

結論:押さえない・口に物を入れない・側臥位で安全確保・計時。周囲の危険物をどけ、頭部を保護し、衣類はゆるめます。歩行練習や起立訓練中なら、まず転倒と頭部打撲を防ぐ位置へ誘導します(無理な拘束はしません)。

【現場用】一次対応の Do / Don’t(最初の 30 秒 )
区分 やること やらないこと メモ(申し送り用)
安全確保 危険物を除去、頭部を保護、衣類をゆるめる 無理に押さえつける(外傷リスク) 体位、転倒/外傷の有無
呼吸/気道 回復体位(側臥位)へ、呼吸と皮膚色を観察 口に物を入れる、水や薬を飲ませる(誤嚥/窒息) 呼吸状態、チアノーゼ
計時 開始時刻を時計で記録し、持続を把握 “たぶん 2 分” など曖昧な記録 開始時刻、総持続

“いつ 119 するか”の目安

以下のいずれかに該当したら、施設の連絡体制に従って主治医へ報告し、 119 を検討します。5 分超の持続は、とくに強直間代で重積が懸念され要救急です。

  • 5 分以上続く/短時間に反復し意識が戻らない。
  • 初回の発作/妊娠中/外傷・溺水/高熱や代謝異常が疑われる。
  • 呼吸が戻らない・チアノーゼが強い・回復が極端に遅い。

院内連絡フロー(簡易)

【病棟】申し送りに必要な最小セット(この順で伝える)
順番 伝える内容 具体例
1 開始時刻と総持続 13:12 開始、 2 分 20 秒で停止
2 体位/状況、外傷 歩行練習中に崩れ、頭部打撲なし
3 運動と左右差 強直 → 間代、右上肢優位など
4 呼吸/皮膚色、介入 側臥位、 SpO2 低下なし、吸引なし
5 回復状況(傾眠/混迷) 回復に 15 分、会話は可能

てんかんと失神・ PNES の違い(早見表)

【成人・2025 年版】意識消失の鑑別早見(現場用)
所見 てんかん 失神(心血管性含む) PNES(心因性非てんかん性発作)
誘因 とくに無し/睡眠不足・発熱・光刺激など 起立・排尿・疼痛・情動・徐脈/頻脈 場面依存・目撃者の有無で変動
発声 うめき声・叫声があり得る 通常なし 持続・変動が目立つ
運動 強直 → 間代の律動性けいれん 短時間の不規則ミオクロニー 非律動、回避的、長時間化
舌咬傷 側縁が比較的特異 先端寄りが多い まれ
回復 傾眠・混迷が数分〜数時間 速やか(数十秒) 遷延・反応のばらつき

PNES は “作為” ではない非てんかん発作です。否定的ラベリングを避け、観察所見を淡々と共有します。

観察・記録(最低限これだけ)

①開始時刻と総持続時間( 秒 ) ②体位・転倒・外傷 ③眼球偏倚/頭位回旋 ④運動(強直・間代・ミオクロニー・脱力)と部位 ⑤発声・呼吸・皮膚色 ⑥舌咬傷の部位 ⑦介入内容と時刻 ⑧回復までの時間・ Todd 麻痺の有無/部位 ⑨トリガー(睡眠不足・発熱など) ⑩主治医連絡・救急要請の有無。

ポイントは “所見を実況しない” ことです。医療者が解釈語(重積っぽい、失神っぽい)を先に置くと共有がぶれます。まずは時刻・体位・運動・回復の順に、観察語彙でそろえます。

FAQ(よくある質問)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. 5 分未満でも 119 すべき状況は?

群発して意識が戻らない、初回の発作、妊娠中、外傷・溺水・高熱の合併、呼吸が戻らない・チアノーゼが強い、といった場合は時間に関わらず救急要請を検討します。

Q2. 初回の発作は受診が必要?

はい。初回や “いつもと違う” 発作は、代謝異常・感染・心血管性失神などの鑑別が必要です。状況により救急受診、または早期受診を案内します。

Q3. 家族・介護者へ 3 つだけ共有するなら?

押さえない/口に物を入れない/側臥位で危険を減らす。この 3 点と “開始時刻の記録” を共有します。屋外や水場は単独を避け、同行者と連絡手段を先に決めておくと運用が回りやすいです。

参考文献

  1. Fisher RS, et al. A practical clinical definition of epilepsy. Epilepsia. 2014;55(4):475–482. DOI
  2. Epilepsy Foundation. Seizure First Aid. Web
  3. 公益社団法人 日本てんかん協会「発作の介助と観察」. Web
  4. NICE. CG109: Transient loss of consciousness in adults and young people. Web
  5. Brignole M, et al. 2018 ESC Guidelines for the diagnosis and management of syncope. Eur Heart J. 2018;39:1883–1948. DOI
  6. Brigo F, et al. Value of tongue biting in the differential diagnosis between epileptic seizures and syncope. Seizure. 2012;21(8):568–572. DOI

タイトルとURLをコピーしました