GDS15 とは?(目的と使いどころ)
Geriatric Depression Scale 15 項目版(以下、GDS15)は、高齢者の抑うつを短時間でスクリーニングする質問紙です。口頭の「はい/いいえ」で回答でき、所要 2〜3 分と簡便です。まずは見逃さないことを目的とし、診断確定は医師評価が前提となります。関連の使い分けは 評価ハブ や、重症度把握に有用な QIDS-J も参照してください。
GDS15 早見表(カットオフの目安)
| 合計点 | 解釈の目安 | 次の一手 |
|---|---|---|
| 0〜4 点 | 陰性のことが多い | 経過観察・身体要因の整理(疼痛・睡眠・薬剤など) |
| 5〜9 点 | 疑い(スクリーニング陽性域) | 再評価、詳細問診、家族情報の補完、多職種・専門職へ相談 |
| 10〜15 点 | うつの可能性が高い | 主治医共有、精神科・心療内科への連携、リスク管理(自殺念慮など) |
※ 施設運用によりカットオフは 4/5 または 5/6 などの差があります。自院基準をマニュアルや診療計画書に明記してください。
実施手順(所要 2〜3 分)
- 前提確認:聴力・視力・注意レベル、疼痛、せん妄の有無を確認し、静かな環境を整える。
- 説明:「これから 15 の質問をします。今の気持ちに近い方を、はい/いいえ でお答えください。」など、目的と所要時間を簡潔に伝える。
- 質問:各項目を読み上げ、はい/いいえで回答を得る(代理回答は原則避ける)。
- 確認:理解があいまいな場合は、言い換えや再読上での再回答を 1 回まで許容する。
- 採点:その場で合計点を算出し、早見表と照合して次の一手を決める。
- 記録:日時・状況(入院何日目、身体状態など)とともにカルテへ記録し、多職種で共有する。
採点方法
- 各項目は 0/1 点で採点し、抑うつを示唆する回答=1 点となるようキーが設定されています(逆転項目あり)。
- 合計 0〜15 点で、点数が高いほど抑うつの可能性が高いと解釈します。
- 実施から採点・記録までを一筆書きで完結させ、他検査との取り違えや転記ミスを防ぎます。
カットオフの目安と再評価
多くの施設では 5 点以上をスクリーニング陽性域として運用します。ただし GDS15 はあくまで抑うつ症状の存在可能性を示す指標であり、単独での診断はできません。陽性の場合は、病状が安定したタイミングでの1〜2 週間後の再評価や、医師・精神科リエゾンチームによる詳細評価につなげます。
リハ側では、GDS15 の推移をほかの指標(歩行速度・活動量・食欲など)とあわせて経時的に追うことで、「リハ介入や環境調整の反応」も把握しやすくなります。
解釈のコツと「次の一手」
- 身体因子を併読:疼痛、睡眠障害、低栄養、甲状腺機能、薬剤(鎮静薬・抗コリン薬など)がスコアに影響し得ます。GDS15 高値=うつ病とは限らないことを共有します。
- 機能・参加との関係:活動量低下や社会的孤立、役割喪失などが背景にあることも多く、ケアプランは 評価ハブ で整理した他指標とあわせて検討します。
- 重症度の把握:症状の深さや変化を追いたい場合は、QIDS-J など重症度評価を組み合わせ、危険兆候(自傷他害念慮・高度の食思不振など)に注意します。
現場の詰まりどころ・よくある間違い
- 「せん妄っぽいけどとりあえず GDS15」:意識変容が強い場面で実施すると、回答の一貫性が乏しく解釈不能になります。まずは見当識・注意レベルを評価し、必要なら日を改めます。
- 家族代理での回答:「本人がうまく話せないから」と家族だけで回答すると、主観的苦痛が反映されません。基本は本人回答とし、補足情報として家族の話を聴取します。
- 点数だけで「うつ病」と決めつける:高スコアを見て即「うつ病」とラベリングしてしまうと、本人や家族に強い不安を与えます。「気分の落ち込みが強そうなので、主治医に相談しましょう」など、表現に配慮します。
- 測りっぱなしで終わる:高値でも「とりあえず記録のみ」で介入や連携につながらないケースがよく見られます。早見表の「次の一手」をテンプレ化し、カンファレンスや診療計画書に必ず反映させる仕組みづくりが重要です。
実施時の注意点(落とし穴)
- 認知症・せん妄:理解・注意が不十分だと誤判定の恐れがあります。見当識・注意の評価と家族情報、既往の精神疾患歴などで補完します。
- 聴覚・視力:補聴器・眼鏡の装用確認、明瞭な読み上げ、筆談の併用などを検討します。マスク越しで聞き取りにくい場合は話速・声量を調整します。
- 文化・表現差:「遠慮」「我慢」など文化的背景で、否定的感情を表に出しにくい方もいます。評価者は非評価的な態度を徹底し、「どちらかといえば」に寄せて確認します。
- 単回判定を避ける:入院直後や急性増悪直後は、一過性の不安・抑うつが高く出ることがあります。必要に応じて日を改めて再測し、経時変化で判断します。
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よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
何点から陽性と考えればいいですか?
多くの研究・施設では 5 点以上をスクリーニング陽性域として扱います。ただし対象や目的により、4/5 や 5/6 などの設定もあります。院内マニュアルでカットオフと「誰に報告するか」「いつ再評価するか」を明文化しておくと安心です。
再評価のタイミングはいつが良いですか?
身体状態が大きく変動している時期を避け、1〜2 週間程度の間隔で再測すると変化を捉えやすくなります。リハ介入や環境調整後のタイミングで再評価し、点数だけでなく、食欲・活動量・表情などの変化もあわせて記録します。
MMSE や HDS-R が低い方にも使えますか?
中等度以上の認知症がある場合、質問の理解や自己評価が難しくなるため、結果の解釈には慎重さが必要です。可能な範囲で本人回答を取りながら、家族・介護者からの情報、行動観察、既往歴などを組み合わせて判断してください。
参考文献(PubMed / DOI リンク)
- Almeida OP, Almeida SA. Short versions of the Geriatric Depression Scale: a study of their validity for the diagnosis of a major depressive episode. Int J Geriatr Psychiatry. 1999;14(10):858–865. PubMed · DOI
- Mitchell AJ, Bird V, Rizzo M, Meader N. Diagnostic validity and utility of the Geriatric Depression Scale for depression in older adults: meta-analysis of GDS-30 and GDS-15. J Affect Disord. 2010;125(1–3):10–17. PubMed · DOI
- Yesavage JA, Brink TL, Rose TL, et al. Development and validation of a geriatric depression screening scale: preliminary report. J Psychiatr Res. 1982–83;17(1):37–49. PubMed


