【加齢に伴う呼吸機能の低下】高齢者に多い呼吸器筋サルコペニアとは

フレイル・サルコペニア
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リハビリくん
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いつも当サイト(rehabilikun blog)の記事をお読みいただき誠にありがとうございます。また、初めましての方はよろしくお願い致します。サイト管理者のリハビリくんです!

   

この記事は「加齢による呼吸機能低下」をキーワードに内容を構成しております。こちらのテーマについて、もともと関心が高く知識を有している方に対しても、ほとんど知識がなくて右も左も分からない方に対しても、有益な情報がお届けできるように心掛けております。それでは早速、内容に移らせていただきます。

  

これまで、筋肉が衰えることは加齢による自然な現象であると考えられていました。しかし近年では、加齢だけでなく、低栄養や身体不活動、また各種疾患なども原因となって引き起こされることが明らかになってきております。

  

この筋肉が衰える現象は「サルコペニア」と呼ばれ、健康寿命延伸のために対策が必要なものとして、注目されています。リハビリテーション専門職の方々は、このサルコペニアを予防および改善させるため、運動療法などを処方して日々尽力していると思います。

  

このサルコペニアですが、四肢の筋力低下の印象が強いと思いますが、呼吸筋力にも大きな影響を及ぼしていることはご存知でしょうか?呼吸筋サルコペニアと呼ばれており、重大な弊害をもたらします。呼吸筋サルコペニアの理解を深めるためにも、この記事を読むことで下記の事項を理解できるようにしたいと思います!

      

  • 呼吸器系の加齢変化について
  • 呼吸筋力低下の特徴
  • 呼吸筋サルコペニアってなに?
  • 呼吸筋力が低下すると何が起こるのか
  • 呼吸筋トレーニングについて知りたい

呼吸機能低下を認める症例のリハビリテーションを実施するうえで、様々な疑問を抱えることがあると思います。そんな方のために、こちらの記事をご用意しました。是非、最後までご覧になってください!

リハビリくん
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【簡単に自己紹介】

30代の現役理学療法士になります。

理学療法士として、医療保険分野と介護保険分野の両方で経験を積んできました。

現在は医療機関で入院している患者様を中心に診療させていただいております。

臨床では、様々な悩みや課題に直面することがあります。

そんな悩みや課題をテーマとし、それらを解決するための記事を書かせて頂いております。

  

理学療法士としての主な取得資格は以下の通りです

登録理学療法士

脳卒中認定理学療法士

褥瘡 創傷ケア認定理学療法士

3学会合同呼吸療法認定士

福祉住環境コーディネーター2級

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士として働いていると、一般的な会社員とは異なるリハビリ専門職ならではの苦悩や辛いことがあると思います。当サイト(rehabilikun blog)ではそのような療法士の働き方に対する記事も作成し、働き方改革の一助に携わりたいと考えております。

  

療法士の働き方に対する記事の 1 つが右記になりますが、"理学療法士は生活できない?PTが転職を考えるべき7つのタイミング"こちらの記事は検索ランキングでも上位を獲得することができております。興味がある方は、こちらの記事も目を通してくれると幸いです☺

加齢に伴う呼吸機能の低下

呼吸器系は加齢に伴い機能低下を引き起こす器官であり、呼吸器系の加齢変化は他臓器と比較しても大きく進行していきます。

呼吸器系の加齢による主な生理的変化として肺活量、予備吸気量、予備呼気量、努力性肺活量、一秒量の低下などが生じますが、それ以外で注目したいのは以下の 4 つになります。

  1. 呼吸筋の筋力低下
    → 加齢に伴い呼吸筋(横隔膜・肋間筋)が低下し、換気が不十分になる
  2. 胸壁の硬化
    → 肋軟骨が石灰化することで支持組織の弾力性が低下し、肋骨運動が制限される
  3. 肺弾性収縮力の低下
    → 肺弾性の低下により肺コンプライアンスが増大する
  4. 綿毛運動の低下
    → 気道分泌物の運搬能力の低下により、分泌物が貯留し炎症を起こしやすくなる

加齢に伴い呼吸筋力が低下すると、労作性呼吸困難が出現しやすくなるため、活動量が低下し運動耐容能やADLが低下します。そのため、高齢者のリハビリテーションにおいては、呼吸器疾患の有無に関わらず、呼吸機能における評価や治療についての知識や技術が必要になります。

この記事では上記の1〜4の中でも特に身体機能やADLに直結して影響を及ぼしやすい呼吸筋の筋力低下についてまとめていきます。

高齢者の呼吸筋力低下の特徴

呼吸運動の主動作筋は横隔膜と肋間筋であり、横隔膜は吸気運動の約80%を担っています。横隔膜を構成する筋組織はType I 繊維が 55 %、Type IIa 線維が 21 %、Type IIb が 24 %と遅筋線維が多く疲労しにくい特徴があります。

サルコペニアについては骨格筋量低下が1つの指標になりますが、呼吸筋力も四肢骨格筋と同様に加齢に伴い減少します。

横隔膜の筋活動の指標である経横隔膜圧、呼吸筋力計で計測された最大吸気口腔内圧(PImax)、最大呼気口腔内圧(PEmax)を用いて呼吸筋力を測定した結果、加齢により呼吸筋力は 30 %程度低下することが報告されております。

加齢により肺は老化する

肺の機能は 18 – 25 歳までに成熟してピークを迎え、35 歳以降、肺胞の表面積が減少したり、空気が入るスペースが拡大したり、粘膜絨毛クリアランスが低下したり、弾性が変化したりします。肺を構成する細胞の種類は多数あり、老化を引き起こすメカニズムには不明な点も多いですが、代表的な細胞、構造について以下で説明します。

肺胞上皮細胞

肺胞の表面にはⅠ型とⅡ型肺胞上皮細胞が存在します。Ⅰ型肺胞上皮細胞は酸素、二酸化炭素のガス交換の中心的な役割を果たし、肺胞の95%を占めます。Ⅱ型肺胞上皮細胞は肺をなめらかにし肺胞がつぶれるのを防ぐ物質であるサーファクタントを産生するとともに、Ⅰ型肺胞上皮細胞に変化する前駆細胞でもあります。加齢とともに肺胞上皮細胞の数が減少し、機能が低下します。不十分なタンパク質が産生されやすくなることも報告されています。

前駆細胞

前駆細胞とは、最終的に身体を構成する細胞に変化出来る細胞のことです。前駆細胞によって必要に応じて新たな細胞が出来ることで、傷ついた肺の組織が修復されたり、再生されたりします。気道や気管にも前駆細胞が存在しますが、これらの数は加齢に伴い減少します。肺胞においてはⅡ型肺胞上皮細胞が主な前駆細胞で、肺胞が傷つくと増殖してⅠ型肺胞上皮細胞に変化し、ガス交換を担うようになります。年齢によってⅡ型細胞の数は変化しませんが、増殖したり分化したり(ガス交換出来るⅠ型肺胞上皮細胞になること)する能力が低下します。これらの変化が年齢とともに肺気腫や肺線維症が増えることの一因と考えられています。

免疫細胞

免疫細胞については「病原体に応じた免疫反応」「肺がん関係」「呼吸器感染症」などに細分化されます。

病原体に応じた免疫反応とは、外因性の病原体を無毒化する反応のことで、今までに出会った病原体やワクチンを記憶したり、新たな病原体や出来てしまったがん細胞を探し出したりする反応のことですが、これも加齢とともに大きく低下します。高齢になると、リンパ球を新たに作り出す能力や、抗体を産生する力も低下します。インフルエンザウイルスワクチンに対する抗体産生力は、若い人では 65 – 80 %であるのに対し、高齢者では 30 ― 50 %であるとの報告もあります。

肺がんによる死亡は全がんによる死亡の 25 %を占め、日本でも男性のがんによる死亡原因で最も多く、女性でも 2 番目に多いがんとなります。がん細胞では遺伝子の変化が起こっていますが、高齢になるほど遺伝子の変化が蓄積しやすくなり、がんが発生しやすくなります。免疫の力を利用してがんの治療を行うがん免疫療法は、肺がんに対しても使われていますが、高齢者の方ががん免疫療法の効果が低く、生存率が悪いことが報告されています。

ウイルス性や細菌性の呼吸器感染症は高齢者の死亡原因として大変多く、日本の 90 歳以上では肺炎が死因の第 2 位となります。高齢になると咳反射が起こりにくくなり、気道粘膜のバリア機能が悪化し、気道粘膜細胞の粘膜繊毛クリアランスが低下することなどが肺炎重症化の原因であると言われています。肺炎の原因として最も多いのは肺炎球菌ですが、高齢になると、肺の上皮細胞に肺炎球菌が付着しやすくなることも分かっています。高齢者ではインフルエンザウイルスによる重症化リスクも高く、65 – 74 歳の死亡リスクは 25 – 49 歳の 30 倍にもなります。

肺の間質

肺の間質とは肺胞の周りの壁にあたる部分になります。肺の間質にある物質は肺の弾性を変化させて機能に関連するため大変重要な器官となります。加齢により肺の間質が硬くなり、血管の弾性が低下しますが、肺の間質に存在するタンパク質の種類にも変化が起こっています。線維芽細胞が老化することによっても、肺が硬く細胞表面に存在しなり、肺の線維化が進むことが知られています。

呼吸筋サルコペニアについて

呼吸筋を含む骨格筋の骨格筋機能不全には、「低下」と「疲労」の要素があります。呼吸筋力の低下は、加齢に伴う肺の構造的変化や機能的変化が影響しており、特に機能的変化は呼吸筋力に大きな影響を与えます。

加齢に伴う呼吸筋力低下のメカニズムは明らかではありませんが、骨格筋や呼吸筋の変化は低酸素、酸化ストレス、低栄養、全身性炎症、投薬、廃用などが関係している可能性が示唆されております。

四肢の骨格筋と同様に呼吸筋においても組織学的な筋線維の縮小や II 型筋線維の萎縮を伴った筋力低下が観察され、サルコペニアとの関連性も示唆されています。

AWGS2019を用いたサルコペニアの判定方法では、骨格筋量の減少が必須条件となり、骨格筋量の減少に加えて筋力低下もしくは身体機能低下が認められる場合にサルコペニアと判定します。また、骨格筋量減少、筋力低下、身体機能低下の3指標ともに該当する場合には重症サルコペニアと判定します。

この、骨格筋量や筋力低下については、単に四肢骨格筋のみではなく、呼吸筋にも生じていると近年注目され、「呼吸筋サルコペニア」というワードが注目されています。

日本リハビリテーション栄養学会では、AWGS2019によるサルコペニアの診断に加えて、呼吸筋力や呼吸筋量が低下した状態を呼吸サルコペニアと判定することと、その診断のためのアルゴリズムなどが提案されています。

サルコペニアを合併する高齢者は少なくなく、サルコペニアやフレイルは今後ますます社会的な問題になっていくことが予想されます。そのため今後、呼吸筋サルコペニアに対する検討は発展していくと考えられます。

運動に伴う呼吸筋疲労については、吸気筋代謝性反射という機序があり、運動中の吸気筋の疲労がトリガーとなり、交感神経活性が充進し、末梢骨格筋の血管収縮が促進されるメカニズムとなっております。その結果、酸素輸送の減少、運動筋の疲労、自覚的運動強度の増加が起こります。

AWGS2019については、他の記事で更に詳しくまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【サルコペニア診断基準:最新版についての記事はこちらから

呼吸筋力低下の弊害について

加齢に伴う吸気筋力の低下は1回換気量の低下、呼吸数の増加をきたし、労作時の呼吸困難が出現しやすくなります。

呼吸困難の存在により身体活動量は減少し、身体機能低下・運動耐容能低下・ADL低下を引き起こしていきます。

呼吸筋力については予後にも繋がる重要な指標になると考えられます。サルコペニアでない高齢者と呼吸筋サルコペニア(サルコペニア+呼吸筋力低下)と判定された高齢者を比較すると、後者の方が、握力・膝伸展筋力・歩行速度・椅子立ち上がり・バランス・手段的ADL・生活機能が有意に低下していることが報告されています。

呼吸筋トレーニングについて

息を吸ったり吐いたりする呼吸は、普段は無意識に行っていますが、人間が生きる上で欠かせない重要な動作です。加齢や疾患などにより呼吸筋が弱まることで、息切れ・息苦しさを感じます。呼吸の際に使う筋肉を鍛えることは、症状の緩和につながります。

呼吸筋トレーニングは、吸気筋を対象とした吸気筋トレーニング(IMT)と呼気筋を対象とした呼気筋トレーニング(EMT)に分類することができます。現時点では、臨床では主にIMTが一般的となっています。

IMTの方法は過換気法と吸気抵抗負荷法に分類されます。過換気法は流量型や容量型のインセンティプスパイロメータを用いて実施する方法で、主に肺を拡げることを目的に行います。吸気抵抗負荷法はスレッショルドなどの呼吸筋力トレーニング器具を用いて、呼吸筋力の増強を目的に行います。

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IMTについては、最大吸気圧 (PImax)と持久力を有意に高め、安静時ならびに運動時の呼吸困難感を有意に改善し、運動耐容能を高める傾向があることが示されております。

呼気筋トレーニング (EMT)は、最大呼気圧 (PEmax)が増加し、呼吸機能や換気機能、運動能力が向上し、呼吸困難が低下することなどが報告されています。

一方、EMT によって PEmax の増加を認めなかったとする報告や PEmax の増加以外の効果を認めなかったとも指摘されています。現状ですと、EMTに対する十分なエビデンスは不足している状況となっております。

まとめ

最後までお読みいただきありがとうございます!

この記事では「加齢による呼吸筋低下の弊害」をキーワードに考えを述べさせていただきました。

加齢に伴う呼吸筋力の低下は運動耐容能、身体機能、ADL、QOLはもちろんのこと予後にも影響を与えます。そのため、高齢者のリハビリテーションにおいては呼吸筋の評価や治療に対する知識や技術は必要不可欠となります。

超高齢化社会となっていることや、サルコペニアを併存する高齢者が増加していることから、今後更に呼吸筋力への世間の関心は深まるものと推測されます。

今回、呼吸筋力の話をたくさんさせて頂きましたが、筋力増強には栄養管理も重要なポイントとなります。適切な呼吸筋トレーニングに栄養管理を交えることが、呼吸筋サルコペニアの予防・改善に必要となります。

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(2024年1月12日時点のデータ)

参考文献

  1. 齊藤正和,作山晃裕,森沢知之,高橋哲也.加齢に伴う呼吸・循環・腎臓機能の変化.理学療法学.第48巻,第5号,2021年,p542-547.
  2. 荒井秀典.呼吸器疾患管理におけるフレイル、サルコペニアの意義.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌.2019年,第28巻,第2号,p206-211.
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