呼吸サルコペニアとは|診断は呼吸筋力と筋量を分けて考える
呼吸サルコペニアとは、呼吸筋力の低下と呼吸筋量の減少が併存する状態です。「呼吸筋サルコペニア」と検索されることもありますが、4学会合同ポジションペーパーでは「呼吸サルコペニア」と呼ばれています。
評価の出発点は、MIPまたはMEPによる呼吸筋力低下の確認です。そのうえで、超音波検査やCTにより呼吸筋量を評価できれば確定診断へ進みます。呼吸筋量を測定できない場合は、四肢骨格筋量と呼吸機能障害を確認し、probable・possible・呼吸機能障害による筋力低下を区別します。
この記事では、呼吸サルコペニアを疑う所見、診断アルゴリズム、MIP・MEP・PCF・SNIP・横隔膜超音波の使い分け、再評価できる記録方法を整理します。A4記録シートPDFも利用できます。
呼吸サルコペニアの診断アルゴリズム
診断は、単純にpossibleからprobable、確定へ順番に進むわけではありません。呼吸筋力低下を確認したあと、呼吸筋量を測定できるかどうかで分岐する点が重要です。

横スクロールで見られます。
| 判定 | 主な条件 | 次に確認すること |
|---|---|---|
| 呼吸サルコペニア | 呼吸筋力低下に加えて、超音波検査またはCTで呼吸筋量減少を認める | 症状、ADL、栄養、全身運動機能と統合して介入方針を決める |
| Probable respiratory sarcopenia | 呼吸筋量を測定できず、呼吸筋力低下と四肢骨格筋量減少を認める | AWGSなどに基づく全身性サルコペニア評価を確認する |
| Possible respiratory sarcopenia | 呼吸筋力低下を認めるが、呼吸機能障害を認めない | 経過、全身筋量、栄養状態、活動量を追跡する |
| 呼吸機能障害による呼吸筋力低下 | 呼吸筋力低下に加えて、拘束性または閉塞性換気障害などを認める | 原疾患や呼吸機能障害の影響を含めて解釈する |
| 呼吸サルコペニアなし | MIP・MEPで明らかな呼吸筋力低下を認めない | 症状が残る場合は、換気、循環、排痰、全身持久力など別の要因を確認する |
判断のポイント:PCF・PEFR・SNIPなどは、MIP・MEPの測定が難しい場合に使える補助指標です。ただし、いずれか1項目が低いだけで、呼吸サルコペニアの確定診断にはなりません。
呼吸サルコペニアを疑う所見
呼吸サルコペニアは、安静時SpO₂だけでは拾えません。咳嗽、深吸気、呼吸パターン、活動時症状、全身性サルコペニアを組み合わせて疑います。
横スクロールで見られます。
| 観察領域 | 疑う所見 | 次の評価 |
|---|---|---|
| 咳嗽・排痰 | 咳が弱い、痰を喀出できない、感染時に排痰不良が目立つ | PCFまたはPEFR、MEP、痰の性状と量 |
| 吸気 | 深呼吸が浅い、吸気時に肩がすくむ、胸郭拡張が小さい | MIP、SNIP、呼吸パターン、横隔膜超音波 |
| 活動 | 軽い動作で息切れする、歩行距離や活動量が低下している | 呼吸困難、歩行・運動耐容能、ADL |
| 全身状態 | 低栄養、体重減少、握力低下、歩行速度低下、長期臥床 | 全身性サルコペニア、栄養、身体活動量 |
| 経過 | 肺炎や急性増悪後に咳嗽力や活動性が戻らない | 発症前との比較、MIP・MEP、PCF、ADLの再評価 |
「SpO₂は保たれているため問題ない」と判断すると、咳嗽力低下や吸気筋力低下を見逃すことがあります。SpO₂は酸素化を確認する指標であり、呼吸筋量や呼吸筋力そのものを示す指標ではありません。
評価は呼吸筋力・筋量・呼吸機能・全身筋量を分ける
評価項目は、すべてを同列に並べるのではなく、診断アルゴリズムのどこに使う指標かを区別します。
横スクロールで見られます。
| 評価 | 主な役割 | 解釈上の注意 |
|---|---|---|
| MIP | 最大吸気筋力の評価 | 努力依存性があるため、密閉、体位、説明、再現性を確認する |
| MEP | 最大呼気筋力の評価 | 咳嗽や排痰に関わるが、PCFと同じ指標ではない |
| PCF・PEFR | 咳流量または最大呼気流量の評価 | 呼吸筋力評価の補助に使えるが、病態や気道閉塞の影響も受ける |
| SNIP | 鼻腔からの短い吸気努力による吸気筋力の補助評価 | MIPが難しい場合や、努力の妥当性を検討するときに用いる |
| 横隔膜厚 | 横隔膜筋量を推定する候補 | 測定部位、呼吸相、プローブ角度を固定する。確立した一律のカットオフは限られる |
| 横隔膜TF・可動性 | 呼吸に伴う横隔膜の動態・機能を確認する | 筋量そのものとは分けて解釈する |
| CT | 横隔膜やその他の呼吸筋量・形態を評価する | 撮像条件や解析部位を確認し、既存画像を活用する |
| 四肢骨格筋量 | 呼吸筋量を測定できない場合のprobable判定に用いる | 日本人ではAWGSなど、対象に合う基準で判定する |
| 呼吸機能検査 | 閉塞性・拘束性換気障害などの確認 | 呼吸機能障害による呼吸筋力低下との区別に用いる |
MIP・MEP・SNIPを再現性高く測るポイント
呼吸筋力検査は努力依存性があるため、単に最良値を採用するだけでなく、測定条件と試行間の再現性を残します。
横スクロールで見られます。
| 評価 | 統一する条件 | つまずきやすい点 | 対策 |
|---|---|---|---|
| MIP・MEP | 体位、鼻クリップ、マウスピース、開始肺気量、休憩 | 口漏れ、頬部の代償、努力不足、反復による疲労 | デモ、練習、本測定の順に行い、波形や再現性も確認する |
| SNIP | 使用する鼻孔、姿勢、プローブ装着、開始肺気量 | ゆっくり吸ってしまい、短い最大努力にならない | 「鼻で勢いよくスッと吸う」と説明し、学習後の値を採用する |
| PCF・PEFR | 体位、機器、マウスピース、咳または呼気の方法 | PCFとPEFRの手順を混同する | 評価目的と実施手順を事前に固定する |
横隔膜超音波は厚さと動態を分けて記録する
横隔膜超音波では、呼気時の横隔膜厚、吸気時の厚さ、TF、可動距離などを測定できます。ただし、それぞれが示す内容は同じではありません。
- 厚さ:横隔膜筋量を推定する候補
- TF:吸気に伴う厚さの変化
- 可動距離:呼吸に伴う横隔膜の移動
縦比較では、測定側、肋間、プローブ角度、呼吸相、呼吸条件を揃えます。画像を保存し、数値と一緒に残しておくと、測定位置のずれを確認しやすくなります。
評価結果は症状・ADL・栄養と統合する
呼吸筋力や横隔膜厚が低くても、その数値だけで介入内容は決まりません。何が現在の活動制限や排痰困難につながっているかを整理します。
横スクロールで見られます。
| 確認領域 | 確認する内容 | 判断へのつなげ方 |
|---|---|---|
| 咳嗽・排痰 | PCF、痰の量・性状、喀出可否、感染歴 | 排痰支援や呼気筋力への対応が必要か判断する |
| 呼吸困難 | 安静時・活動時の息切れ、呼吸パターン、回復時間 | 吸気筋力、換気障害、循環、全身持久力を切り分ける |
| ADL・活動 | 歩行、離床時間、セルフケア、活動量 | 数値改善が生活機能へつながっているか追跡する |
| 全身筋力・筋量 | 握力、下肢筋力、歩行速度、四肢骨格筋量 | 呼吸筋だけの問題か、全身性サルコペニアを伴うか整理する |
| 栄養 | 体重変化、摂取量、低栄養、疾患による消耗 | トレーニングだけでなく栄養介入が必要か共有する |
| 原疾患 | COPD、心不全、神経筋疾患、肺炎、術後など | 呼吸機能障害や病態による筋力低下を含めて解釈する |
現場の詰まりどころ:MIPが低いだけで呼吸サルコペニアと判断したり、横隔膜TFが低いだけで筋量減少と判断したりしないことが重要です。筋力、筋量、呼吸機能、全身筋量を分けたあと、症状とADLへ統合します。
カルテ記録は数値・条件・判定・次の行動を残す
記録では、測定値だけでなく、測定条件、値の妥当性、診断段階、次の評価または介入まで残します。条件を残さなければ、次回の変化が実際の改善なのか測定誤差なのか判断しにくくなります。
横スクロールで見られます。
| 項目 | 記録例 | 目的 |
|---|---|---|
| 測定条件 | 端座位、鼻クリップ使用、開始肺気量を統一、十分な休憩を確保 | 次回測定の条件を揃える |
| 呼吸筋力 | MIP:○○、MEP:○○。再現性あり/口漏れあり | 値と妥当性をセットで残す |
| 補助指標 | PCF:○○、SNIP:○○ | 咳嗽力や吸気努力を補完する |
| 呼吸筋量・動態 | 右横隔膜厚:呼気時○○、吸気時○○、TF:○○。画像保存あり | 筋量候補と動態を分けて記録する |
| 全身筋量 | ASMIまたはその他の四肢骨格筋量:○○、使用基準:○○ | 呼吸筋量を測れない場合のprobable判定に用いる |
| 呼吸機能 | 閉塞性・拘束性換気障害の有無:○○ | 呼吸機能障害による筋力低下と区別する |
| 症状・機能 | 咳嗽弱く自己喀出困難、歩行時息切れ、ADL:○○ | 検査値と臨床上の問題をつなぐ |
| 判定・次の行動 | Possibleを疑う。全身筋量評価を追加し、1週間後に同条件で再評価 | チーム内の判断と予定を揃える |
呼吸サルコペニア記録シートPDF
測定条件と評価結果を同じ形式で残せるように、A4 1枚の記録シートを用意しています。MIP・MEPなどの数値だけでなく、体位、試行条件、横隔膜超音波、症状、次の行動をまとめたい場合に使用できます。
縦比較では、同じ患者に対して同じ条件で測定することが前提です。記録シートを使う場合も、測定方法や採用値のルールを施設内で揃えてください。
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評価後は課題に応じて介入を選ぶ
呼吸サルコペニアを疑ったあとも、すべての症例に同じ介入を行うわけではありません。吸気筋力低下、咳嗽力低下、排痰困難、全身性サルコペニア、低栄養など、現在のボトルネックに応じて介入を組み合わせます。
- 吸気筋力低下:IMTの適応、安全性、実施可能性を検討する
- 咳嗽力・排痰低下:咳嗽介助、排痰手技、体位、加湿などを検討する
- 全身筋力・活動低下:歩行、下肢筋力、離床、身体活動量を見直す
- 低栄養:栄養評価を行い、多職種で摂取量と必要量を調整する
- 呼吸機能障害:原疾患の管理状況と呼吸リハビリテーション全体を確認する
IMTを実施する場合の負荷設定、回数、増負荷、記録、中止判断は、次の記事で詳しく整理しています。
呼吸サルコペニア評価で起きやすい失敗
評価の失敗は、指標を知らないことよりも、指標の役割を混同することで起こりやすくなります。
横スクロールで見られます。
| 失敗 | 問題点 | 対策 |
|---|---|---|
| MIP低値だけで診断する | 筋量、呼吸機能障害、測定妥当性が確認されていない | 筋力低下を確認したあと、筋量または四肢筋量、呼吸機能へ進む |
| 簡便指標を確定診断として扱う | PCF・PEFR・SNIPは病態や測定方法の影響を受ける | 診断アルゴリズム上の位置づけを明確にする |
| TFを筋量として扱う | 厚さの変化率と安静時筋厚が混同される | 厚さ、TF、可動性を分けて記録する |
| 測定条件を残さない | 次回値との差が改善か誤差か判断できない | 体位、機器、試行、呼吸相、採用値を記録する |
| 数値だけを改善目標にする | 咳嗽、排痰、息切れ、ADLが改善しないことがある | 症状、活動量、ADL、栄養を同時に追跡する |
| 評価後すぐIMTだけを開始する | 呼気筋力、排痰、全身筋力、栄養の問題が残る | 現在のボトルネックを決めて複合的に介入する |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 「呼吸筋サルコペニア」と「呼吸サルコペニア」は同じですか?
同じ概念を指して使われることがありますが、4学会合同ポジションペーパーでは「呼吸サルコペニア」という名称が使用されています。記事やカルテでは、根拠資料に合わせて「呼吸サルコペニア」と記載するほうが整理しやすくなります。
Q2. MIPまたはMEPが低ければ、呼吸サルコペニアですか?
呼吸筋力低下だけでは確定しません。呼吸筋量減少を認めれば呼吸サルコペニア、呼吸筋量を測定できず四肢骨格筋量減少を認めればprobable、呼吸機能障害を認めず呼吸筋力低下のみならpossibleとして整理します。
Q3. MIP・MEPをうまく測れない場合はどうしますか?
体位、マウスピースの密閉、鼻クリップ、開始肺気量、説明方法を揃え、練習後に再測定します。測定が難しい場合は、PCF、PEFR、SNIPなどを補助指標として利用できます。ただし、簡便指標だけで確定診断は行いません。
Q4. 横隔膜TFが低ければ筋量低下と判断できますか?
TFは吸気に伴う横隔膜厚の変化を表す指標であり、安静時の横隔膜厚と同じ意味ではありません。筋量を考える場合は厚さを確認し、TFや可動性は動態・機能の情報として分けて解釈します。
Q5. 呼吸筋量を測定できない施設ではどう判断しますか?
呼吸筋力低下を確認したうえで、四肢骨格筋量を評価します。四肢骨格筋量減少を認める場合はprobable respiratory sarcopeniaとして整理できます。あわせて呼吸機能障害の有無を確認してください。
次の一手
- A:呼吸評価の全体像を確認する → 呼吸理学療法の評価項目(観察〜テスト)
- B:吸気筋力低下への介入を組み立てる → IMT運用プロトコル(負荷設定と記録)
参考文献
- Sato S, Miyazaki S, Tamaki A, et al. Respiratory sarcopenia: a position paper by four professional organizations. Geriatr Gerontol Int. 2023;23(1):5-15. PubMed / DOI
- Laveneziana P, Albuquerque A, Aliverti A, et al. ERS statement on respiratory muscle testing at rest and during exercise. Eur Respir J. 2019;53(6):1801214. DOI
- Boussuges A, Rives S, Finance J, Brégeon F. Assessment of diaphragmatic function by ultrasonography: current approach and perspectives. Front Med. 2021;8:742703. Full text
- Langer D, Charususin N, Jácome C, et al. Efficacy of a novel method for inspiratory muscle training in people with chronic obstructive pulmonary disease. Phys Ther. 2015;95(9):1264-1273. Link
- Vázquez-Gandullo E, Hidalgo-Molina A, Montoro-Ballesteros F, et al. Inspiratory muscle training in patients with chronic obstructive pulmonary disease: a systematic review and meta-analysis. Int J Environ Res Public Health. 2022;19(9):5564. Link
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

