移乗・立ち上がり支援ロボットとは?|介護負担を減らす新しい「第三の手」
移乗・立ち上がり支援ロボットは、ベッド⇔車いすの移乗や座位⇔立位への起居動作を部分的に代行し、要介護者と介助者双方の安全性を高めるための機器です。装着型(パワースーツ)と据え置き型(リフト・スタンドアップ支援機器)に分かれ、厚労省・経産省が定める「介護ロボット 13 類型」の中でも、腰痛対策や人員不足対策の文脈で導入が進んでいます。
国内外の報告では、移乗支援ロボットの使用により、看護師・介護士の腰部筋活動や主観的腰疲労が有意に低下したとされています。また、立ち上がり・歩行補助ロボットに関するレビューでは、高齢者や脊髄損傷・脳卒中患者の起立能力・歩行能力改善に一定の可能性が示されています。「人手不足を埋める」のではなく、「安全な介助を標準化する補助ツール」として位置付ける視点が重要です。
どんな患者・場面で使いやすい?適応と禁忌のイメージ
移乗・立ち上がり支援ロボットの適応としては、①意識レベルが安定し、指示理解が可能、②体幹・下肢に一定の筋力・関節可動域が残存、③起立・移乗に恐怖が強いが練習意欲はある、といったケースが典型です。脳卒中の麻痺側荷重練習、高齢者のサルコペニア・フレイルに対する STS トレーニングなど、「人力介助のみだと介助者負担が大きく、反復量を確保しにくい場面」と相性が良いです。
一方で、全介助レベルで座位保持も困難な症例、重度の認知症で機器への抵抗が強いケース、不安定狭窄や高度圧迫骨折などで急激な荷重変化がリスクとなる症例では慎重な検討が必要です。心不全・重度呼吸不全など、短時間の立位でも循環器負荷が大きいケースでは、従来どおりの段階的離床プロトコルを優先し、ロボットは「後半の反復フェーズ」で使うくらいのイメージを持っておくと安全です。
リハ職が押さえたい使い方のポイント(評価〜設定〜フィードバック)
リハビリ専門職としては、導入前に「起立能力」と「介助負担」の両面を評価し、ロボット使用の妥当性を言語化しておくことが重要です。例えば、STS テストや TUG などの時間系評価+介助者側の Borg スケールや腰痛 VAS を組み合わせると、導入の根拠と効果検証がしやすくなります。また、一回ごとの起立成功率・立位保持時間・麻痺側荷重比など、機器に搭載された指標を活用できる場面も増えています。
設定面では、「補助量(アシストトルク)」「立ち上がり速度」「シート高さ・ベルト位置」などを、患者の身体機能と恐怖の強さに合わせて段階調整することがポイントです。最初から補助量を上げ過ぎると、患者が“運ばれているだけ”になり、随意収縮や姿勢制御の学習が進みません。スタートはやや強めの補助で安全性を確保しつつ、早期に「自力成分を増やす方向で漸減する」計画を立てることが大切です。
現場の詰まりどころ:宝の持ち腐れを防ぐには?
介護ロボ・リハロボの失敗パターンとして多いのが、「導入したが数か月後には物置化している」というケースです。理由として、①誰がいつ使うかの運用ルールが曖昧、②安全基準や禁忌条件が共有されておらず、怖くて使えない、③評価・記録様式に組み込まれていないため、効果が見えず優先度が下がる、などが挙げられます。
リハ職にとっての打ち手は、「対象者選定フロー」「初期設定の標準プロトコル」「効果を見える化する評価・記録シート」をセットで用意することです。また、看護師・介護士向けのミニ勉強会で、デモと簡単な操作体験を提供すると、心理的ハードルが大きく下がります。最初から全員に使おうとせず、「この病棟ならこの 3 名で 2 週間試してみる」といった小さなパイロットから始めるのも現実的です。
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 介護ロボットを入れると、PT・OT の仕事が減ってしまいませんか?
むしろ「人力だけでは回数・時間を確保しにくい訓練」を増やすためのツール、と考えるのが現実的です。ロボットが代行するのは、繰り返しの立ち上がりや荷重支持といった“力仕事”の一部であり、目標設定・運動プログラムの立案・中止基準の判断・他職種連携といったコア業務は人間にしかできません。実際の研究でも、ロボットを併用することで訓練反復回数が増え、歩行能力や ADL が改善した報告があります。ロボットを「仕事を奪う存在」ではなく「臨床の選択肢を増やす道具」として位置付けることがポイントです。
Q2. 初期導入費用が高く感じます。コスト回収の目安はありますか?
費用対効果の考え方としては、①スタッフの腰痛・離職リスク低減、②時間当たりの介助回数・訓練回数の増加、③家族・地域への「先進的な取り組み」としての広報効果など、複数の軸で評価する必要があります。例えば、移乗ごとに 1 人分の介助者が削減できる場面が 1 日 10 回あるとすれば、年間でかなりの労働時間を節約できます。また、職員の腰痛による病休・労災が減れば、長期的な医療費・代替人件費も抑えられます。最初から「全病棟でフル活用」を前提にせず、パイロット病棟での実績をもとに費用対効果を検証するのが現実的です。
Q3. 転倒や皮膚トラブルなど、事故が起きたときの責任はどう考えれば良いですか?
基本的には、従来の介助と同様に「施設としての安全管理体制」と「個々の職員の注意義務」が問われます。メーカーが示す禁忌・使用条件を守らなかった場合や、適切な教育・訓練を受けていない職員が独断で使用した場合はリスクが高まります。そのため、①導入時に施設内マニュアルを作成し、使用条件と中止基準を明文化する、②使用前のトレーニングと定期的な技術確認(チェックリスト)を行う、③インシデント発生時にはロボット特有の要因も含めて振り返る、といった体制づくりが重要です。リハ職は、機器特性と患者リスクを踏まえた「適応判断の専門家」として関わることが期待されます。
おわりに:ロボット時代の「安全な介助」をどうデザインするか
移乗・立ち上がり支援ロボットは、超高齢社会の中で「人手不足」と「腰痛リスク」という 2 つの課題に同時にアプローチできる可能性を持っています。一方で、導入しただけでは効果は見えにくく、対象選定・設定・評価・多職種教育をどう設計するかによって、現場での活躍度合いは大きく変わります。リハ職が主導して小さな成功体験を積み重ね、「この症例・この場面ならロボットを使うと良い」というパターンを増やしていくことが鍵になります。
もし「ロボットを含めた最新機器を使いこなせる職場で働きたい」「腰痛リスクが少ない職場環境を重視したい」と感じている場合は、マイナビコメディカルの面談準備チェック&職場評価シートも活用して、求人票だけでは見えにくい現場の設備・教育体制を整理しておくと安心です。自分のキャリアの中で、どの程度テクノロジー活用に関わっていきたいかを言語化しておくことで、転職面談でも希望を伝えやすくなります。
参考文献
- Nguyen NC, Saito M. Issues in applications of nursing care robots, and in the training of care workers in their use in Japan. Front Med. 2025;12:1459015. doi:10.3389/fmed.2025.1459015. https://doi.org/10.3389/fmed.2025.1459015
- Nakamura K, Saga N. Current status and consideration of support/care robots for stand-up motion. Appl Sci. 2021;11(4):1711. doi:10.3390/app11041711. https://doi.org/10.3390/app11041711
- Miura K, Kadone H, Abe T, et al. Successful Use of the Hybrid Assistive Limb for Care Support to Reduce Lumbar Load in a Simulated Patient Transfer. Asian Spine J. 2021;15(1):40–45. doi:10.31616/asj.2019.0111. https://doi.org/10.31616/asj.2019.0111
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

