気管切開のカフ圧は何cmH₂O?適正値とリーク対応

臨床手技・プロトコル
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気管切開のカフ圧は20–30 cmH2Oが広く用いられる目安です

成人の気管切開チューブで空気充填式カフを使用する場合、カフ圧は20–30 cmH2Oが広く用いられる管理目安です。2026年の成人気管切開患者に関する共同声明でも、20 cmH2Oを上回り、30 cmH2Oを下回る範囲が提案されています。

ただし、カフ圧は「数値だけ合わせればよい」わけではありません。低すぎればエアリークやカフ周囲への分泌物流入につながり、高すぎれば気管粘膜への圧迫が問題になります。さらに、適正圧でもリークが続く場合は、チューブ位置、カフ損傷、チューブ径・長さ、換気条件など別の原因を考える必要があります。

この記事では、成人の気管切開患者を対象に、適正値→測定→リーク時の原因確認→必要最小限の調整→再評価・共有の順で整理します。使用している製品の電子添文・取扱説明書、院内手順がある場合は、それらを優先してください。

先に結論

成人の空気充填式カフでは20–30 cmH2Oを目安にし、リークがあっても反射的に増圧しません。カフ圧、回路、固定、チューブ位置、換気条件を順に確認し、適正圧でもリークが続く場合は原因を再評価して医師・看護師・臨床工学技士などへ共有します。

気管切開のカフ圧|20–30 cmH2Oを目安にします

成人の人工気道では、20–30 cmH2Oがカフ圧の目安として広く用いられています。2026年に公表された成人気管切開患者の共同声明では、空気充填カフについて30 cmH2O未満として気管損傷リスクを抑え、20 cmH2Oを超える圧を保つことが専門家意見として提案されています。

成人の空気充填式カフ圧を考える基本
状態 考え方 主な問題
20 cmH2O未満 低圧になっていないか確認 エアリーク、換気量低下、カフ周囲への分泌物流入など
20–30 cmH2O 広く用いられる管理目安 数値だけでなくリーク、換気、チューブ位置も確認
30 cmH2O超 高圧を必要とする原因を再評価 気管粘膜への圧迫、虚血性障害など

ただし、気管切開患者だけを対象としたカフ圧の根拠は十分とはいえず、気管挿管患者からの間接的な根拠も含まれます。そのため、20–30 cmH2Oを「すべての製品・患者に共通する絶対値」とは考えず、製品の指定、患者の換気条件、施設手順を合わせて判断することが重要です。

対象となるカフの種類に注意

本記事は主に成人の空気充填式カフを想定しています。水を充填する特殊なカフや、一般的なカフ圧計による管理方法が当てはまらない製品もあります。カフの種類が不明な場合は、チューブ名・製品情報を確認してから管理方法を決めます。

低すぎるカフ圧と高すぎるカフ圧では問題が異なります

カフ圧管理では、「リークを完全になくすために強く膨らませる」という考え方を避ける必要があります。目的は、必要な換気を維持できるシールを確保しながら、気管壁への過剰な圧迫を避けることです。

カフ圧が低い場合と高い場合の主な問題
状態 起こり得ること 確認すること
低圧 エアリーク、呼気一回換気量の低下、分泌物のカフ周囲への流入 カフ圧、チューブ位置、カフ損傷、換気条件
高圧 気管粘膜への圧迫、局所循環障害、長期的な気管障害 なぜ高圧でないとシールできないか

特に重要なのは、カフを膨らませても誤嚥そのものを完全に防ぐことはできない点です。誤嚥は声門を越えて物質が気道へ入る現象であり、気管切開チューブのカフは声門より下方にあります。適切なカフ圧はカフ周囲への分泌物流入を減らすために重要ですが、「カフが膨らんでいるから誤嚥しない」とは判断できません。

カフ圧の測定方法|まずカフ圧計で客観的に確認します

カフ圧は、パイロットバルーンを指で触った感覚だけでは正確に判断できません。空気充填式カフでは、原則としてカフ圧計(マノメータ)を使用して数値で確認します。

  1. チューブとカフの種類を確認する:空気充填式か、特殊なカフかを確認します。
  2. 患者の状態と換気を確認する:SpO2、呼吸状態、人工呼吸器のアラーム、吸気・呼気一回換気量などを確認します。
  3. カフ圧計を接続する:使用する機器の手順に従い、パイロットバルーンへ接続します。
  4. カフ圧を読む:咳込みなどによる一時的な変動も考慮し、患者の状態と合わせて評価します。
  5. 必要時のみ調整する:施設手順と職種ごとの業務範囲に従い、必要最小限の調整を行います。
  6. 調整後に再確認する:カフ圧だけでなく、リーク、換気量、アラーム、患者の呼吸状態を再評価します。

AARCの患者・人工呼吸器評価ガイドラインでは、人工気道のカフ圧をマノメータで評価することが推奨されています。一方で、何時間ごとに測定すべきかという最適な頻度についてはコンセンサスが確立していません。そのため、定期測定の頻度は院内手順を基本とし、患者状態やイベントを踏まえて追加確認します。

リーク時の対応|増圧する前に原因を順番に確認します

気管切開患者でリーク音、呼気一回換気量の低下、低圧アラームなどがみられた場合、最初からカフへ空気を追加するのではなく、「本当にカフ圧が原因なのか」を順番に確認します。

気管切開のカフ圧管理とリーク時の確認フロー。カフ圧測定、回路・固定・頭頸部位置、分泌物・換気条件、再測定、原因再評価の順序を示す図
図:気管切開のリーク時は、増圧だけで対応せず「測定→原因確認→必要最小限の調整→再測定→共有」の順で確認します。
気管切開でリークを認めたときの確認順序
順番 確認すること 見るポイント
1 患者状態 SpO2、呼吸困難、努力呼吸、意識、循環、換気不良の有無
2 カフ圧 低圧・高圧になっていないか
3 人工呼吸器回路 接続外れ、緩み、破損、回路からのリーク
4 固定・頭頸部位置 チューブの牽引、回旋、固定状態、位置変化
5 換気条件 吸気圧、呼気一回換気量、リーク量、アラーム
6 分泌物・気道 痰の貯留、気道抵抗増大、吸引の必要性
7 カフ・チューブ自体 カフ損傷、位置異常、サイズ・長さの不適合など

リークと同時に明らかな換気不良、急激なSpO2低下、チューブ逸脱・閉塞が疑われる場合は、通常のカフ圧調整より気道トラブルへの緊急対応を優先します。施設の気管切開緊急時対応手順に従い、速やかに応援を要請します。

適正カフ圧でもリークする場合|カフ以外の原因を疑います

20–30 cmH2O程度の範囲にカフ圧が保たれているにもかかわらずリークが続く場合、単純な「空気不足」と考えないことが重要です。

適正圧でもリークする場合に考える原因
原因候補 確認の視点
カフの損傷 空気を調整しても圧が維持できない、再び低下する
パイロット系統の異常 バルブ・チューブ部分からの漏れが疑われる
チューブ位置異常 部分的な逸脱、カフ位置の不適切さなど
チューブが小さい・短い シールのために高いカフ圧を必要とする
高い気道内圧 換気圧が高く、カフ周囲からリークが生じる

レビューでは、正常なカフ圧でも持続するリークについて、カフ損傷、高い換気圧、チューブサイズの不適合、部分的なチューブ逸脱などが挙げられています。高いカフ圧を入れ続けないと換気を維持できない場合も、「もっと膨らませる」ではなくチューブ位置やサイズを含めた再評価が必要です。

内視鏡による位置確認やチューブ変更が必要になる場合もあるため、PT・OT・STが独自にチューブ位置を変更するのではなく、所見を医師・看護師・臨床工学技士など適切な担当者へ共有します。

体位変換・離床後|毎回測定ではなく変化があれば再確認します

頭頸部位置や体位の変化によってカフ圧が変動することは、気管挿管患者を対象とした研究で報告されています。ただし、これをそのまま「気管切開患者は端座位・立位のたびに必ずカフ圧を測定する」というルールにはできません。

AARCのガイドラインでも、カフ圧測定の最適な頻度は確立されていません。したがって、離床時は定期測定+イベント後の必要時再確認として整理すると実務に落とし込みやすくなります。

体位変換・離床時にカフ圧再確認を考える場面
場面 再確認する理由
頭頸部位置が大きく変わった チューブと気管壁の位置関係が変化する可能性がある
チューブや固定具を操作した 位置・固定状態が変わる可能性がある
離床後にリーク音が出現した カフ圧やチューブ位置の変化を確認する必要がある
呼気一回換気量が低下した 回路リークとカフ周囲リークを区別する必要がある
低圧・換気量関連アラームが出現した 回路・チューブ・カフを含めて原因確認が必要

つまり、離床前後で重要なのは「カフ圧を毎回測る」という作業そのものではなく、固定・回路・換気・患者反応を観察し、条件が変わったときに必要な再評価へつなげることです。

PT・OT・STが離床や訓練で確認したいポイント

気管切開患者のリハビリでは、カフ圧の管理責任や実際に調整できる職種は施設によって異なります。リハ職に重要なのは、カフ圧の調整を独自判断で行うことではなく、訓練前後の変化を捉えて必要な担当者へつなぐことです。

リハ場面で確認したい気管切開・換気の変化
確認項目 観察ポイント 変化があった場合
チューブ固定 緩み、牽引、回旋、頸部位置 動作を止めて固定・位置を再確認
呼吸回路 接続、回路重量、引っ張り 牽引を解除し接続を確認
リーク 新規のリーク音、リーク量増加 カフ圧を含む原因確認へつなげる
換気 呼気一回換気量、アラーム、呼吸数 負荷を中断・軽減し原因を確認
患者反応 SpO2、呼吸困難、努力呼吸、意識 安全を優先して負荷を中断・再評価

人工呼吸器装着患者の回路・吸引管理については、閉鎖式吸引の手順も合わせて確認してください。分泌物貯留に対する評価と手技選択は、排痰・気道クリアランスの実施フローで整理しています。

嚥下評価では「カフが膨らんでいる=誤嚥しない」と考えません

気管切開患者では、カフの状態と嚥下を混同しないことも重要です。カフは声門より下に位置するため、カフを膨らませること自体が誤嚥を防止するわけではありません

嚥下機能を評価するときは、カフ圧だけでなく、意識、呼吸状態、唾液や分泌物管理、咳嗽、嚥下所見などを総合します。カフ脱気やスピーキングバルブの使用については換気条件への影響もあるため、医師・看護師・ST・臨床工学技士など多職種で条件を確認します。

嚥下評価・介入の全体像は、摂食・嚥下リハの評価・介入ガイドも参照してください。

記録|カフ圧の数値だけでなく「なぜ確認したか」まで残します

カフ圧を測定・再確認した場合は、値だけを残すよりも、測定したきっかけと前後の変化を記録すると再現性が高まります。

カフ圧管理で記録しておきたい項目
項目 記録例
測定時刻・場面 14:20、車椅子移乗後
カフ圧 24 cmH2O
リーク リーク音なし/移乗後に新規リーク音あり
換気 呼気一回換気量、アラーム、呼吸数など
患者反応 SpO2、呼吸困難、努力呼吸
確認・対応 回路牽引を解除、固定確認、担当看護師へ共有
記録例

車椅子移乗後に新規リーク音を認めた。SpO2 96%、呼吸状態に明らかな変化なし。回路接続・牽引および気切固定を確認。カフ圧24 cmH2O。リーク持続のため担当看護師へ共有し、チューブ位置を含め再評価を依頼した。

カフ圧管理で避けたい4つの判断

気管切開のカフ圧管理で起こりやすい判断ミス
避けたい判断 修正する考え方
気切は15–25 cmH2Oと一律に覚える 成人の空気充填カフは20–30 cmH2Oを広く用いられる目安とし、製品・施設手順を確認する
リークがあればすぐ増圧する カフ圧、回路、固定、位置、換気条件を順に確認する
適正圧ならチューブに問題はない 適正圧でもリークが続けば位置異常・カフ損傷・サイズ等を再評価する
カフを膨らませれば誤嚥を防げる カフは誤嚥そのものを防止する構造ではないと理解する

気管切開のカフ圧でよくある質問

Q1. 成人の気管切開のカフ圧は何cmH2Oが目安ですか?

空気充填式カフでは、20–30 cmH2Oが広く用いられる目安です。2026年の成人気管切開患者に関する共同声明でも、20 cmH2Oを上回り30 cmH2Oを下回る範囲が専門家意見として提案されています。ただし、使用製品の指定と施設手順を優先します。

Q2. カフ圧が20 cmH2O未満だと何が問題ですか?

カフ周囲のエアリークや換気量低下が起こりやすくなり、分泌物がカフ周囲を通過するリスクも高まります。数値だけでなく、リーク音、人工呼吸器の換気量やアラーム、チューブ位置と合わせて評価します。

Q3. リークがある場合はカフへ空気を追加すればよいですか?

反射的な増圧は避けます。まず現在のカフ圧を測定し、人工呼吸器回路、固定、頭頸部位置、チューブ位置、換気条件などを確認します。適正圧でもリークが続く場合は、カフ損傷やチューブのサイズ・位置などを再評価します。

Q4. 離床や体位変換のたびにカフ圧を測る必要がありますか?

すべての離床・体位変換後に必ず測定するという統一された基準はありません。施設の定期測定ルールを基本とし、頭頸部位置の大きな変化、チューブ操作、リーク出現、換気量低下、アラームなどがあれば再確認を検討します。

Q5. カフを膨らませていれば誤嚥を防げますか?

完全には防げません。誤嚥は声門を越えて物質が気道へ入ることであり、気管切開カフは声門より下にあります。カフ圧は換気のシールやカフ周囲への分泌物流入を考えるうえで重要ですが、嚥下安全性は別に評価する必要があります。

まとめ|カフ圧は「20–30」だけで終わらずリーク原因まで評価します

成人の空気充填式気管切開カフでは、20–30 cmH2Oが広く用いられる目安です。ただし、気管切開患者だけを対象とした根拠は限定的であり、製品の電子添文・取扱説明書と施設手順を優先します。

リーク時は、カフ圧を上げることから始めるのではなく、患者状態→カフ圧→回路→固定・位置→換気条件→カフ・チューブ自体の順で確認します。適正圧なのにリークが続く場合は、位置異常、カフ損傷、チューブのサイズ・長さなど別の原因を疑うことが重要です。

また、離床後のカフ圧測定を機械的に毎回行うのではなく、リーク、換気量低下、頭頸部位置の大きな変化、チューブ操作など、再確認が必要な変化を捉える運用にすると臨床で使いやすくなります。


参考文献・資料

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  3. McGrath BA, Wallace S, Goswamy J. Update on management of tracheostomy. BJA Educ. 2021;21(2):45-55. PMC
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  5. American Speech-Language-Hearing Association. Tracheostomy and Ventilator Dependence. ASHA Practice Portal

著者情報

rehabilikun(理学療法士) rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。医療機関・介護福祉施設・訪問リハの現場経験をもとに、医療従事者が臨床で判断しやすい評価・手技・安全管理を中心に発信しています。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養・嚥下、シーティング、臨床評価

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