手根管症候群(正中神経障害)の評価とリハビリ| CTS-6 と鑑別の実践

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手根管症候群( CTS )の評価とリハビリ:まず結論(最小セット)

しびれの鑑別は「順番」を固定すると、見落としが減って再評価もラクになります。 評価 → 介入 → 再評価の流れを 3 分で復習する( #flow )

手根管症候群( CTS )は「問診(分布・夜間・誘発)→ 触診と誘発テスト → CTS-6(臨床診断)→ 介入(スプリント+活動調整+滑走)→ 再評価」の順で進めると、臨床の迷いが一気に減ります。

本記事は PT / OT が現場で使えるように、評価の最小セットよくある失敗、そしてリハビリ(保存療法)を「そのまま記録できる形」まで落とし込みます。評価の全体像は 評価ハブ にまとめています。

手根管症候群とは?(正中神経が「手関節」で絞扼される)

手根管症候群は、手関節掌側の「手根管(屈筋支帯の下)」で正中神経が圧迫され、母指〜環指橈側のしびれ・疼痛、夜間増悪、つまみ動作の不器用さなどを生じる状態です。

ポイントは「どこで絞扼されているか」で所見が変わることです。手関節での絞扼( CTS )は、回内筋部での絞扼(回内筋症候群)や頚椎神経根障害と比べて、夜間増悪手関節肢位での誘発が目立ちやすい傾向があります。

現場の詰まりどころ(よくある失敗 5 つ)

  • しびれ分布だけで決め打ちして、頚椎・回内筋・尺骨神経の鑑別が抜ける
  • Phalen / Tinel の単発陽性で診断してしまい、再評価でブレる
  • 母指球筋力だけ見て「まだ軽い」と判断(実は感覚優位で ADL が詰まる)
  • スプリントの当て方が雑で「効かない」と結論(手関節中間位が保てていない)
  • 滑走エクササイズを“やり過ぎ”て症状増悪(回数・強度・タイミング設計がない)

評価は問診で 7 割決まる(分布・夜間・誘発の 3 点)

CTS の初期は「筋力低下」よりも、しびれ・痛み・夜間増悪が前面に出ます。問診で以下を押さえるだけで、鑑別が大きく進みます。

しびれの鑑別を進める問診 3 点セット(上肢・初期評価)
観点 CTS(手根管)で増えやすい 鑑別のヒント
分布 母指〜中指+環指橈側、つまみ動作の不器用さ 小指優位なら尺骨神経、前腕〜上腕までなら頚椎も疑う
時間帯 夜間〜早朝に悪化、手を振ると軽減(いわゆる “ flick sign ”) 日中の作業で増悪が強い場合は作業負荷・姿勢・回内筋も点検
誘発 手関節屈曲・伸展、長時間の把持で増悪 肘屈曲で増悪なら肘部管、頚部運動で増悪なら頚椎

触診・誘発テスト・感覚・筋( “ まとめて見る ” )

単一テストに依存せず、「誘発テスト+感覚+運動」でパターンを作ると、臨床の再現性が上がります。

CTS の身体所見:最小セット(外来・病棟で共通)
領域 評価 見方(メモの残し方)
触診 手根管部の圧痛・ Tinel(手根管部叩打) 場所を固定(屈筋支帯近位)し、再評価で同部位に統一
誘発 Phalen(手関節屈曲保持)/逆 Phalen(伸展)/ Durkan(手根管圧迫) 保持時間(例: 30–60 秒)と再現症状(しびれ部位)を記録
感覚 母指〜中指の触覚、 2 点識別など 左右差、 “ どの指で困るか ”(母指球の巧緻性)を併記
運動 母指対立(短母指外転など)、母指球萎縮の有無 “ できる / できない ” だけでなく、代償( IP 過伸展など)も書く

補足: CTS では母指球の感覚が保たれることがあります(正中神経の掌側皮枝は手根管より近位で分岐するため)。「母指〜中指はしびれるのに母指球の皮膚は保たれる」所見は、鑑別の助けになります。

CTS-6 の使い方(臨床診断を“点”で揃える)

評価のブレを減らすコツは、所見を項目で固定して記録することです。 AAOS の 2024 年 CPG では、 CTS-6 を用いた臨床診断を、超音波や NCS / EMG の “ ルーチン使用 ” に代わる選択肢として位置づけています(必要時に検査を併用する、という考え方です)。

本記事では CTS-6 の原文の転載は行わず、臨床での使いどころだけ整理します。運用はシンプルで、( 1 )問診(夜間症状・作業誘発)→( 2 )感覚+運動→( 3 )誘発テストを項目ごとにチェックし、再評価で同じ順番を繰り返します。

鑑別: “ 似ている 3 つ ” を先に潰す

CTS っぽく見える症例でも、以下が混ざると症状が長引きやすくなります。特に頚椎神経根回内筋症候群は、手関節だけ見ていると取り逃がしやすいです。

CTS と鑑別(上肢のしびれ・疼痛:早見)
疾患 増えやすい訴え 拾いたい所見 次の一手
回内筋症候群 前腕近位のだるさ、作業で増悪、夜間増悪は弱め 前腕近位の圧痛、回内動作で増悪、手関節誘発が弱い 作業負荷・姿勢(前腕回内位の長時間)を調整
頚椎神経根障害 頚部運動で増悪、上腕〜前腕まで広い放散 頚部 ROM と誘発、筋力低下が複数髄節にまたがる 上肢だけで完結させず、頚部・肩甲帯も含めて評価
尺骨神経障害 小指・環指尺側、巧緻動作低下 肘部管/ Guyon 管で誘発部位が変わる “ どこで絞扼か ” を同定(肘か手関節か)

リハビリ:保存療法の基本(スプリント+活動調整)

保存療法でまず効きやすいのは、手関節中間位の保持(スプリント)症状を増やす動作の特定です。 “ 何をやるか ” より先に、「何を減らすか」を明確にすると改善が早くなります。

CTS の保存療法:優先順位(外来・病棟共通)
優先 ねらい 具体 失敗しやすい点
1 圧迫ストレスを下げる 夜間スプリント(手関節中間位)、反復把持の調整 “ 付けているだけ ” で角度が崩れる(再評価で装着確認)
2 滑走性を回復 正中神経滑走、屈筋腱滑走(低回数で様子を見る) 痛みが出る強度・回数で続けて悪化
3 機能の再獲得 母指対立・巧緻動作、作業環境(高さ・支持)調整 “ 筋トレだけ ” で、誘発動作が残っている

神経滑走・腱滑走のコツ( “ やり過ぎない ” )

滑走エクササイズは、症状を増やさない範囲で “ 少なく始める ”のが安全です。目安は「終わった直後に軽い違和感は OK 、しびれ・痛みが増えて数時間残るなら量が多い」です。

  • 回数:まずは少回数(例: 3–5 回 × 1–2 セット)
  • タイミング:作業前の “ 予防 ” より、作業後の “ クールダウン ” から試す
  • 再評価:翌日の夜間症状(起床時のしびれ)で反応を見る

医師へ相談したい目安(増悪・重症化のサイン)

保存療法の範囲でも改善する例は多い一方、以下は早めに医師と連携した方が安全です。

CTS の注意サイン(紹介・方針再検討の目安)
サイン 何が起きている可能性 現場での対応
母指球萎縮・母指対立の明確な低下 運動線維の障害が進行 所見を定量化(左右差・代償)して共有
しびれが持続し、夜間だけでなく日中も強い 圧迫が強い/併存疾患 誘発動作と作業負荷を具体に記録
頚部運動で強く増悪、上肢広範囲の放散 頚椎由来の可能性 上肢局所で完結させず、鑑別を追加

記録テンプレ(初回 → 再評価で “ 同じ順番 ” )

  • 問診:分布(どの指)/夜間増悪(有無)/誘発動作(把持・手関節肢位)
  • 誘発: Phalen(保持秒数・再現部位)/ Tinel(部位固定)/ Durkan(圧迫時間)
  • 感覚:母指〜中指の左右差(方法を固定)
  • 運動:母指対立(代償の有無)/母指球萎縮(視診)
  • 介入:スプリント(角度・時間帯)/活動調整(減らす動作)/滑走(回数)
  • アウトカム:夜間症状(起床時)/つまみ・巧緻(主観+簡易課題)

よくある質問( FAQ )

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. Phalen が陰性でも CTS はありますか?

A. あります。誘発テストは単独では確定しにくく、問診(夜間・分布・誘発)と感覚・運動を合わせて全体像で判断します。再現性を上げるには「保持時間」「再現部位」を固定して記録してください。

Q2. スプリントは “ いつ ” 付けるのが基本ですか?

A. まずは夜間(睡眠中)からが基本です。日中は作業内容により必要性が変わるため、症状が出る作業と肢位を特定して「必要な場面だけ」に絞ると継続しやすくなります。

Q3. 神経滑走で悪化する人がいるのはなぜ?

A. 回数や強度が強い、または誘発動作(反復把持・手関節屈曲位など)が残ったまま実施しているケースが多いです。まず “ 減らす動作 ” を決め、滑走は少回数から反応を見て調整します。

参考文献

  1. Shapiro LM, Kamal RN; Management of Carpal Tunnel Syndrome Work Group; American Academy of Orthopaedic Surgeons. American Academy of Orthopaedic Surgeons/ASSH Clinical Practice Guideline Summary Management of Carpal Tunnel Syndrome. J Am Acad Orthop Surg. 2025;33(7):e356-e366. doi: 10.5435/JAAOS-D-24-01179
  2. American Academy of Orthopaedic Surgeons. Management of Carpal Tunnel Syndrome Evidence-Based Clinical Practice Guideline. Published 2024-05-18. PDF
  3. Levine DW, Simmons BP, Koris MJ, et al. A self-administered questionnaire for the assessment of severity of symptoms and functional status in carpal tunnel syndrome. J Bone Joint Surg Am. 1993;75(11):1585-1592. doi: 10.2106/00004623-199311000-00002
  4. Dabbagh A, MacDermid JC, Yong J, et al. Diagnostic Test Accuracy of Provocative Maneuvers for the Diagnosis of Carpal Tunnel Syndrome: A Systematic Review and Meta-Analysis. Phys Ther. 2023;103(6):pzad029. doi: 10.1093/ptj/pzad029
  5. Atroshi I, Gummesson C, Johnsson R, Ornstein E, Ranstam J, Rosén I. Prevalence of carpal tunnel syndrome in a general population. JAMA. 1999;282(2):153-158. doi: 10.1001/jama.282.2.153

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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おわりに

しびれの臨床は、問診で分布と誘発を揃える → 誘発テストと感覚・運動をセットで記録 → スプリントと活動調整で負荷を落とす → 少量の滑走で反応を見て再評価の “ リズム ” を固定すると、判断が安定します。

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