車椅子クッション適合評価プロトコル:圧分散×姿勢×快適性

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臨床手技・プロトコル
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なぜ「適合評価プロトコル」が必要か

クッションは装着して終わりではなく、使用環境や身体機能の変化に応じて 再調整を前提に運用することが実務的です。特に皮膚保護・姿勢保持・快適性は時期により優先度が入れ替わりやすく、導入直後に良好でも数週間でバランスが崩れることがあります。そこで、評価指標のセットと再評価のタイムラインをあらかじめ決め、院内でブレない運用にします。

本稿では、圧分散 × 姿勢 × 主観の三面評価を軸に、①リスク把握→②座位能力(Hoffer:JSSC 版)→③試適・再評価の 3 ステップで標準化します。単一指標の最大化は禁物です。複数指標を組み合わせ、目的との整合で意思決定するプロトコルを提示します。

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選定フロー:3 ステップ(リスク→座位能力→試適)

①リスク把握:皮膚(既往褥瘡・脆弱性・浮腫)、栄養(体重変動・摂取量)、介助力を確認し、除圧の必要度と自己除圧の可否を見立てます。②座位能力(Hoffer:JSSC 版):1=手支持なしで 30 秒保持可/2=手支持あれば可/3=手支持あっても困難。これを起点に「姿勢安定を優先か/皮膚保護を最優先か」を素早く振り分けます。

③試適・再評価:候補を 1〜2 種に絞り、座面・背・骨盤支持・フットレストを同時に整えて試適します。初回測定だけで決め打ちせず、導入後 1–2 週→ 4–8 週の再評価をスケジュール化します。目的は「快適・姿勢・皮膚」の整合であり、数値の点取りにならないよう注意します。

評価指標セット(圧・姿勢・主観)

:平均/ピーク圧、接触面積、左右差、底付きの有無。姿勢:骨盤前後傾・側傾、座圧重心の偏位、滑落兆候(骨盤後傾+骨頭前方すべり)。主観:快適・痛み・温熱感・安定感(NRS 等)。指標は単体で完結せず、セットで読み合わせます。例えばピーク圧が下がっても骨盤後傾が強まれば滑落や呼吸機能へ不利です。

測定条件はカバー・姿勢・時間を統一します。体調や介助者によるばらつきが大きい領域なので、同一条件での比較を徹底することが再現性の鍵です。

圧力マッピングの活用と限界

圧力マッピングはリスク対策の可視化に有用ですが、クッションやカバーの介在で 沈み込み挙動が変化し、接触圧だけでは評価しきれないことがあります。数分座位での時間依存を確認し、姿勢所見・主観との照合で判断しましょう。ピーク圧の単独最小化は“姿勢悪化”とトレードオフになることが珍しくありません。

運用の要点は、①測定前の設定標準化(空気量・座面の平面性・フットレスト)、②複数回の平均③臨床所見の優先です。表示の色味に引っ張られすぎないよう、数値と現場の動きを同時に見ます。

再評価タイムラインとイベント駆動の見直し

導入後 1–2 週で初回再評価、以後 4–8 週間隔を標準にします。疼痛・皮膚所見・ ADL 変化・体重変動・機器交換・介助体制の変更は臨時再評価のトリガーです。管理が難しい構造(空気セル等)を選んだ場合は、介護者教育と点検フローをより密に設定します。

再評価では当初の優先度(快適/姿勢/皮膚)を再確認し、目的の入れ替わりが起きていないか確認します。変更履歴と理由を記録に残すことで、チーム内の共有と再現性が向上します。

使用者・介護者チェックリスト(貼るだけ)

クッション使用の自己点検(成人・2025 年版)
項目 はい/いいえ
正しい向きでセットできている □ / □
毎日 底付き確認(空気セルは指 2 本目安) □ / □
ゲルの形状戻し・フォームのへたり点検 □ / □
滑落感・片寄りがあれば中止→相談 □ / □

記録テンプレ(コピーして院内標準に)

目的:快適 / 姿勢 / 皮膚(優先度:__)
リスク:皮膚__ 栄養__ 体重変動__ 介助力__
Hoffer(JSSC):__(1/2/3)  自己除圧:可 / 困難
試適:クッション__ 付属支持具__ 座面対策__
所見:圧__ 姿勢__ 主観__(NRS__)
教育:__(点検・空気量・向き)  次回:__ 週後(導入後 1–2 週→ 4–8 週)

まとめ

適合評価は「圧分散 × 姿勢 × 主観」を同時に見ることで、単一指標の最適化による失敗を避けられます。フローはリスク→座位能力→試適の 3 ステップ、再評価は1–2 週→ 4–8 週の二段構えが基本です。状況が変われば目的の優先度を入れ替え、再調整を前提に運用しましょう。

管理負担が大きい構造を選んだ場合は、使用者・介護者の教育と点検をセットにすることが成功の鍵です。導入経過を記録テンプレで残し、チームで共有すれば実装が安定します。

参考文献

  1. EPUAP/NPIAP/PPPIA. Prevention and Treatment of Pressure Ulcers/Injuries. Clinical Practice Guideline.
  2. 日本皮膚科学会. 褥瘡診療ガイドライン 第3版(2023)
  3. 日本シーティング・コンサルタント協会(JSSC). Hoffer 座位能力分類(JSSC版)
  4. ISO 16840 系(車椅子シーティング評価関連)
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