はじめに|2026 年に「認知症ケア専門士」を目指す理由
認知症ケアの学び方とキャリアの流れを整理する( PT キャリアガイド )
認知症ケア専門士は、一般社団法人 日本認知症ケア学会が認定する更新制の資格で、「認知症ケアに対する優れた学識と高度な技能、倫理観を備えた専門職」の育成を目的としています。看護職だけでなく、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士、介護福祉士やケアマネジャーなど、認知症ケアに関わる幅広い職種が対象です。病院・老健・特養・通所・グループホーム・在宅など、どのフィールドでも「認知症とともに生きる人」と関わる機会は増えており、体系的な学びへのニーズは高まり続けています。
2025 年度は一次試験が 7 月中旬に Web 試験として実施され、その後に論述形式の二次試験が続くスケジュールでした。2026 年度も、春の申込 → 夏の一次 Web 試験 → 秋の二次試験 → 年明けの最終合格発表という大枠は大きく変わらない見込みです。本記事では、2026 年受験を目指す医療・介護職、とくに PT ・ OT ・ ST 向けに、受験資格の整理、一次・二次試験の概要、標準テキストと過去問題を使った勉強ロードマップ、そして「現場でどう活かすか」までをまとめます。日程や細かな要件は毎年更新されるため、最終的には必ず公式サイトの最新の「受験の手引」を確認してください。
認知症ケア専門士とは?(資格の位置づけ)
認知症ケア専門士は、「認知症ケアに関する自己研鑽・生涯学習の機会提供」を目的とした資格で、認知症の人と家族に対して、高い専門性に基づくケアを提供できる人材の育成をねらいとしています。単に「もの忘れ」や BPSD への対処だけでなく、本人の尊厳・意思決定支援・暮らしの継続・地域連携といった、認知症ケアを取り巻く広いテーマをカバーしているのが特徴です。
対象は認知症ケアに関わる医療・介護・福祉系職種全般であり、職種を限定した資格ではありません。現場での実務経験を前提に、「標準テキストに基づく知識」と「事例に対する論述」を通じて、実践力の底上げを図る構成になっています。資格取得はゴールではなく、「認知症ケアを学び続けるための土台づくり」と捉えると、更新制の仕組みとも相性よく活用できます。
2026 年試験のスケジュール感
2025 年度の試験スケジュールは、例年どおり「春に申込 → 夏に一次 Web 試験 → 秋に二次論述 → 年明けに最終合格発表」という流れでした。一次試験は 7 月中旬の日曜日に実施され、分野ごとに時間帯を区切って合計 200 問を解く形式、二次試験は 8 月下旬〜 9 月下旬頃に事例問題への論述を提出し、翌年 1 月頃に結果通知が届く、というタイムラインです。
2026 年度も、大まかな流れ自体は踏襲される見込みですが、一次試験の日程・二次試験の提出方法・会場形式など、細かな部分は年度によって変更があります。特に二次試験については、近年の非対面方式から「特定会場での受験」に移行する予定も示されており、準備のしかたに影響する可能性があります。具体的な日程や受験方法は、必ず日本認知症ケア学会の認定試験公式サイトに掲載される「受験の手引」を確認したうえで計画を立てましょう。
受験資格と実務経験の整理
認知症ケア専門士の受験資格は、「認知症ケアに関する施設・団体・機関等で、一定期間以上の認知症ケア実務経験を有すること」が大きな柱です。目安としては、「直近 10 年のうち 3 年以上」の認知症ケア実務経験が求められ、病院(急性期・回復期・慢性期)、老健、特養、通所、グループホーム、小規模多機能、在宅医療・訪問看護・訪問リハなど、さまざまな場での経験が対象となり得ます。
職種の縛りはなく、看護師や介護福祉士だけでなく、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士、社会福祉士、管理栄養士、ケアマネジャーなども受験可能です。一方で、「認知症ケア」と認められるかどうかの判断は、勤務先の業務内容や担当している利用者層によって変わるため、受験年度の「受験の手引」をよく読み、自分の経歴が要件を満たすかを確認することが重要です。必要な場合は、勤務証明書の書式や記載内容について、早めに所属施設の事務部門・上司に相談しておきましょう。
一次 Web 試験 200 問と二次論述試験の概要
一次試験は Web 試験(オンライン試験)として実施され、「認知症ケア標準テキスト 第 1~4 巻」に準拠した 4 分野から出題されます。各分野 50 問、合計 200 問の五者択一で、分野ごとに 60 分の試験時間が設定される形が基本です。分野の内訳は、① 認知症ケアの基礎、② 認知症ケアの実際 I(総論)、③ 認知症ケアの実際 II(各論)、④ 認知症ケアにおける社会資源、の 4 つで、それぞれの分野で 70 %以上の正答率を満たすことが求められます。
二次試験は、複数の事例(近年は 3 題)に対して論述で回答する形式です。これまでは郵送・オンライン提出型の論述試験として実施されてきましたが、2026 年度以降は指定会場での受験形式に移行する予定が示されています。いずれの形式でも、「事例の背景や生活歴を踏まえたアセスメント」「本人・家族の思いの整理」「多職種での支援方針」「倫理的な迷いへの向き合い方」など、現場で実際に直面するテーマが問われます。一次試験合格から二次試験提出/受験までの期間は短めなので、一次対策だけでなく、早めに論述の書き方にも慣れておくと安心です。
標準テキストと過去問題を使った勉強ロードマップ
勉強の軸になるのは、日本認知症ケア学会が発行する「認知症ケア標準テキスト(第 1~4 巻)」と、過去問題・対策講座の組み合わせです。まずは 4 巻を通して読み、章ごとの「キーワード」と「代表的な事例」をざっくり押さえます。その後、過去問題や模擬問題を解きながら、「どの章のどの部分が問われやすいか」「自分が取りこぼしやすいテーマはどこか」を洗い出していきます。
一次試験は 4 分野合計 200 問で、分野別に 70 %以上の正答が必要なため、「得意な分野でカバーする」ことはできません。勉強計画を立てる際は、① 申込前後の数か月で標準テキストを 1 周、② 一次試験 2 ~ 3 か月前から過去問・問題集を使ったアウトプット、③ 一次試験後は二次論述を意識して、事例検討会やカンファレンスで学んだことを言葉にする練習、といった三段構えをイメージすると進めやすくなります。シフト制勤務の場合は、平日は 15~30 分の細切れ学習、休日に 60~90 分の「まとめ読み」や問題演習をあてる、といったマイルールを決めておくと、長期戦でもバテにくくなります。
PT ・ OT ・ ST は認知症ケア専門士をどう活かせるか
リハ職にとっての最大のメリットは、「見ているものは同じでも、解釈と言語化の精度が上がる」ことです。例えば、認知症の人の歩行や立ち上がりを評価するとき、「姿勢や筋力だけでなく、注意・遂行機能・失行・BPSD・環境要因がどう絡んでいるか」を多面的に理解しやすくなります。また、「徘徊」「拒否」「不穏」とラベリングされがちな行動も、その人の生活史や不安、痛みから読み解く視点を学ぶことで、ケアやリハの組み立てが変わってきます。
さらに、認知症ケア専門士として学んだ内容は、多職種カンファレンスや家族説明の場で活きてきます。「この行動にはこういう背景が考えられるので、環境調整と声かけを変えませんか」「リハのゴールをこう修正してみませんか」といった提案を、チームメンバーと共有しやすくなり、「リハだけ頑張る」状態から「チームで生活を支える」状態へシフトしやすくなります。作業療法士・言語聴覚士にとっては、活動・参加レベルの支援やコミュニケーション支援と直結するため、実務との親和性は特に高い資格と言えます。
現場の詰まりどころ
最初の大きな壁は、「仕事だけでかなり消耗しており、勉強まで手が回らない」という現実です。認知症ケアの現場では、日々の対応に加えて家族からの相談、スタッフ同士の感情的な負担など、心身ともにすり減る場面が少なくありません。その状態で「標準テキスト 4 冊を完璧に理解する」と考えると、どうしてもハードルが高く感じられます。こうした場合は、「今日はテキストの目次だけ眺める」「1 ページだけ読む」といった“小さな勝ちパターン”を積み重ねることから始めると、少しずつエンジンがかかってきます。
もう一つの詰まりどころは、「意味があるのか」「合格しても職場が変わらなかったらどうしよう」という迷いです。資格そのものが給与や配置転換に直結しない職場も多く、「自己満足では?」と感じることもあるかもしれません。ただ、認知症ケア専門士の勉強過程で身につくのは、資格名以上に「ケースをどう捉え、どう言語化してチームに投げ返すか」というスキルです。職場の評価はすぐには変わらなくても、自分の中の“引き出し”や、他職種との対話の質が変わってくると、長期的には働き方の選択肢も広がっていきます。
おわりに
認知症ケア専門士は、「なんとなく経験でやり過ごしてきた認知症ケア」を、一度立ち止まって言語化し直すための良いきっかけになります。一方で、一次 Web 試験 200 問と二次論述という二段階のハードル、標準テキスト 4 巻というボリューム、そして日々の業務・生活との両立を考えると、「興味はあるけれど、今すぐ受験するかは悩ましい」という声も自然です。まずは受験年度の目安と、おおまかな勉強期間を決めてみて、「今年は情報収集とテキスト 1 周」「来年は本気で受験」といった段階的な目標設定でも構いません。
働き方や学び方を見直すときの抜け漏れ防止に。見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック( A4 ・ 5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。印刷してそのまま使えますので、「認知症ケアを学びやすい職場かどうか」「自分に合った環境かどうか」を整理する道具としても活用してみてください。詳しくはマイナビ医療介護のお役立ち資料ページから確認できます。
よくある質問
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病院ではなく特養・老健・通所・在宅に勤めていますが、受験できますか?
認知症ケア専門士の受験資格は、「認知症ケアに関する施設・団体・機関等での実務経験」が一定年以上あることが条件であり、病院勤務に限定されていません。特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、デイサービス、グループホーム、小規模多機能型居宅介護、訪問看護・訪問リハなどで、認知症の人や家族に対して継続的にケアを提供している場合、要件を満たす可能性があります。自分の勤務経験がカウントされるかどうかは、年度ごとの「受験の手引」を確認し、必要に応じて勤務証明書の記載内容を所属施設と相談しておくと安心です。
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士でも、取るメリットはありますか?
リハ職にとってのメリットは、認知症の人の行動や症状を、「運動・認知・心理・環境」が絡み合うプロセスとして捉え直せる点にあります。例えば、転倒や徘徊、拒否的な行動などを単なる「問題行動」と見るのではなく、その背景にある不安や痛み、環境要因を含めてアセスメントできるようになると、リハの目標設定や介入方針が変わってきます。また、多職種カンファレンスや家族支援の場でも、認知症ケア専門士で学んだ概念や言葉を使いながら説明できるため、チーム内での役割や発言の質が高まりやすくなります。
どのくらいの勉強時間が必要ですか?仕事と両立できるか不安です。
必要な勉強時間はバックグラウンドによって差がありますが、標準テキスト 4 巻を 2~3 周し、主要テーマの要点を整理したうえで、過去問題や模擬問題を何度か解き直すイメージが一つの目安になります。シフト勤務の方は、平日に 15~30 分、休日に 60~90 分程度を確保できると、申込から一次試験までの数か月でインプットとアウトプットを一通りまわせることが多いです。「毎日 2 時間」など無理な目標を立てるより、「細切れでも続ける」ことと、「今日はここまでできた」と自分を認める習慣をつくることが、長期的な学びの継続には大切です。
合格率や難易度はどのくらいですか?落ちた場合はどうなりますか?
年度によって変動はありますが、一次試験・二次試験を合わせた最終合格率はおおむね 40~60 %台とされており、決して易しすぎる資格ではないものの、計画的に準備すれば十分に合格を狙えるラインです。一次試験は分野ごとに合否が判定され、合格した分野は一定期間(例:5 年間)有効という仕組みが採用されています。そのため、一度で 4 分野すべてに合格できなくても、翌年度以降に残りの分野を受験して合格を積み上げることが可能です。長期戦になる可能性も踏まえつつ、「今年はまず 2 分野合格を目指す」といった段階的な目標設定も現実的な戦略です。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

