発作を目撃した直後に必要なのは「安全確保・禁忌回避・計時(スタート時刻)」です。本稿は現場の PT/OT/ST 向けに、一次対応の Do/Don’t、“いつ 119 ”の境界、そして失神・PNES との違いを、使いやすい表とチェックリストでまとめます。
てんかん発作の基本|“定義”より現場で役立つ要点
発作は一過性・可逆的な神経活動の破綻が作る症候群で、意識・運動・自律神経・感覚の変化として現れます。分類は大別して「焦点発作」と「全般発作」。定義や分類の精緻化は ILAE に委ね、現場では ①危険排除 ②回復体位 ③計時( 5 分 )の 3 点を最優先します。
なお「痙攣=てんかん」ではありません。低血糖や失神でも短時間のミオクロニーは起こり得ます。詳細な観察・記録は半構造化テンプレの活用で抜け漏れを減らせます。評価寄りの解説とテンプレはこちら(別稿:観察テンプレ)。
一次対応(Do / Don’t)
結論はシンプルです。押さえない・口に物を入れない・側臥位で安全確保・計時。周囲の危険物をどけ、頭部を保護し、衣類はゆるめます。ベッド上や車椅子では頭部の直撃を避ける工夫をし、窒息・誤嚥の兆候があれば院内手順に沿って吸引や酸素を検討します。
Do:危険排除/頭部保護/側臥位(回復体位)/開始時刻を時計で記録。
Don’t:体を押さえつけない/口に物を入れない(歯牙損傷・窒息)/水や薬を飲ませない(誤嚥)。
“いつ 119 するか”の目安
以下のいずれかに該当したら、施設の連絡体制に従って主治医へ報告 → 119 を検討します。※ 5 分超の持続は痙攣重積の懸念(とくに強直間代)があり要救急です。
- 5 分以上続く/短時間に反復し意識が戻らない。
- 初回の発作/妊娠中/外傷・溺水/高熱や代謝異常が疑われる。
- 呼吸が戻らない・チアノーゼが強い・回復が極端に遅い。
院内連絡フロー(簡易)
- 当直・主治医へ即時報告(開始時刻・総持続・介入・回復状況)。
- 医師指示に従い酸素・吸引・採血等を準備。
- 救急要請の要否を 119 の基準で判断し連絡。
てんかんと失神・PNES の違い(早見表)
所見 | てんかん | 失神(心血管性含む) | PNES(心因性非てんかん性発作) |
---|---|---|---|
誘因 | とくに無し/睡眠不足・発熱・光刺激など | 起立・排尿・疼痛・情動・徐脈/頻脈 | 場面依存・目撃者の有無で変動 |
発声 | うめき声・叫声あり得る | 通常なし | 持続・変動あり |
運動 | 強直 → 間代の律動性けいれん | 短時間の不規則ミオクロニー | 非律動・頭部回避・長時間化 |
舌咬傷 | 側縁が比較的特異 | 先端寄りが多い | まれ |
回復 | 傾眠・混迷が数分〜数時間 | 速やか(数十秒) | 遷延・劇的な反応 |
PNES は作為ではない非てんかん発作です。否定的ラベリングを避け、尊厳を守るコミュニケーションを心がけます。
観察・記録(最低限これだけ)
①開始時刻と総持続時間( 秒 ) ②体位・転倒・外傷 ③眼球偏倚/頭位回旋 ④運動(強直・間代・ミオクロニー・脱力)と部位 ⑤発声・呼吸・皮膚色 ⑥舌咬傷の部位 ⑦介入内容と時刻 ⑧回復までの時間・Todd 麻痺の有無/部位 ⑨トリガー(睡眠不足・発熱など) ⑩主治医連絡・救急要請の有無。
半構造化の記録テンプレ( Excel/CSV )は別稿:評価と観察テンプレで無料配布しています。チーム共通の観察語彙を統一し、再発予防と意思決定のスピードを高めましょう。
FAQ(よくある質問)
Q1. 5 分未満でも 119 すべき状況は?
群発して意識が戻らない、初回の発作、妊娠中、外傷・溺水・高熱の合併、呼吸が戻らない・チアノーゼが強い、といった場合は時間に関わらず救急要請を検討します。
Q2. 初回の発作は受診が必要?
はい。初回やいつもと違う発作は、代謝異常・感染・心血管性失神などの鑑別が必要です。救急受診または早期受診を案内します。
家族・介護者へ 3 つだけ共有
押さえない/口に物を入れない/側臥位で安全確保。この 3 点と「開始時刻の記録」を共有しましょう。
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参考文献
- Fisher RS, et al. A practical clinical definition of epilepsy. Epilepsia. 2014;55(4):475–482. DOI
- Epilepsy Foundation. Seizure First Aid(公式). Web
- 公益社団法人 日本てんかん協会「発作の介助と観察」. Web
- NICE CG109: Transient loss of consciousness(2023 情報更新). Web
- Brignole M, et al. 2018 ESC Guidelines for Syncope. Eur Heart J. 2018;39:1883–1948. DOI
- Brigo F, et al. Value of tongue biting in differentiating seizure and syncope. Seizure. 2012;21(8):568–572. DOI
※本記事は医療従事者向けの教育情報です。実際の対応は施設の指針と主治医指示に従ってください。