FGA とは?(目的と使いどころ)
Functional Gait Assessment(FGA)は、歩行中の姿勢制御や二重課題への適応力を 10 項目・各 0〜3 点で評価し、合計 30 点で機能水準を判定する歩行評価です。Dynamic Gait Index(DGI)の天井効果を改善する目的で拡張されており、加齢、神経疾患、前庭障害、めまい症例など幅広い対象で信頼性・妥当性が示されています。
本記事は Functional Gait Assessment 日本語による概要を示しつつ、FGA 評価の全体像を整理します。所要はおおむね 10 分で、転倒リスクの把握、介入の優先順位付け、効果判定のベースラインに適した FGA 評価方法です。ここでは臨床での運用を前提に、準備・手順・採点・FGA カットオフ値・解釈・記録テンプレまでを一気通貫でまとめます。
構成と採点(全体像)
FGA 歩行評価は 10 項目(各 0〜3 点)を実施し、合計 0〜30 点で判定します。得点は 0(重度障害)〜3(正常)で、高いほどバランス能力が良好と解釈します。補助具は常用しているもののみ使用可であり、使用の有無と種類を必ず記録します。同じ条件での再評価が前提です。
| No. | 項目 | 要点 |
|---|---|---|
| 1 | 平地歩行 | 通常速度で安定して歩けるか |
| 2 | 速度変化 | 合図に応じて速く/遅くへ円滑に移行 |
| 3 | 水平頭部回旋下の歩行 | 左右回旋を保ちながら安定して歩行 |
| 4 | 垂直頭部運動下の歩行 | 上下運動でも視線とバランスを維持 |
| 5 | 素早い方向転換(pivot turn) | 3 歩以内で向き直り、安定して停止 |
| 6 | 障害物跨ぎ | 接触なく跨ぎ、速度低下を最小限に |
| 7 | 狭い路面(タンデムに準じた狭路) | 蛇行や逸脱の有無を確認 |
| 8 | 閉眼歩行 | 6 m 前後の区間での安定性 |
| 9 | 後ろ向き歩行 | 振り向きから後退歩行までの安定性 |
| 10 | 段差・階段 | 昇降時の手すり使用と足運びを観察 |
準備物と安全管理(中止基準)
まずは「どこで・どの条件で実施するか」を固定することが重要です。歩行路や障害物の条件が変わると、再評価時の比較が困難になります。評価前にバイタルを確認し、転倒リスクの高いケースでは事前に介助人数やハーネスの使用を検討しておきます。
- 歩行路:直線 6 m 程度(助走・減速区間を含めて確保)。狭路用の床テープ、障害物(高さ 10〜15 cm 程度)、階段または段差を準備。
- ストップウォッチ、3 m メジャー、注意喚起表示。補助具は常用しているもののみ使用可。
- 中止基準:胸痛、強い息切れ、失神前駆、血圧異常、著明なふらつき・失調、疼痛の増悪など。検者はやや後側方で見守り、転倒高リスク例では二人介助やハーネスの使用も検討します。
実施手順(現場向けプロトコル)
全項目で共通するのは「事前説明で 2 点(中間レベル)の基準を共有する」「同じペース・同じ合図で繰り返す」という 2 点です。ここが曖昧だと、検者間での再現性が低下してしまいます。
- 各項目について、まず2 点の状態(安全だが軽度の不安定あり)を口頭で説明し、被検者とイメージをすり合わせます(例:速度変化の応答、頭部運動の振れ幅、障害物接触の有無、pivot の歩数など)。
- 歩行路と用具条件を固定します(床テープの幅、障害物の高さ、階段の段数や手すり条件など)。補助具使用の有無や介助の有無は記録用紙に明記します。
- 項目 5(pivot turn)は「3 歩以内で向き直り、その場で安定して停止できるか」を主判定とします。項目 8(閉眼歩行)は区間内での蛇行・逸脱・停止の有無をチェックします。
採点と判定(0〜30 点/FGA カットオフ値の目安)
FGA は合計点だけでなく、どの項目が低得点かを見ることでボトルネックを把握する評価です。合計点は転倒リスクのスクリーニングに、項目別スコアは介入デザインに活用します。FGA カットオフ値は対象集団によって異なりますが、高齢者やパーキンソン病などでは転倒リスクを推定する指標としてよく用いられます。
- 地域在住高齢者:FGA ≤ 22/30 点で転倒リスク増大の目安とされます。
- パーキンソン病:外来例で FGA < 15/30 点、入院例では < 18/30 点が転倒リスクのカットオフとして報告されています。
カットオフは対象集団によって異なり、研究間で完全には一致しません。施設データや既往転倒歴、他のバランス指標と組み合わせて判断してください。変化量の目安としては、MCID はおおよそ 4 点(地域在住高齢者)、MDC は 4.2 点(脳卒中)などが報告されており、介入効果判定の参考になります。
解釈と次のアクション(所見から介入へ)
FGA 評価方法の強みは、「どのように転倒しやすいか」を具体的に可視化できる点です。低得点の項目を起点に、歩行プログラムの内容や環境設定を調整していきます。単独で完結させず、他の歩行・バランス評価と束ねて考えることで、より立体的な解釈が可能になります。前庭障害やめまいのある症例では、頭部運動や閉眼課題での不安定さがリハ目標設定の軸になります。
- ボトルネックの特定:最低得点の項目や、0〜1 点が集中しているドメイン(速度変化、方向転換、頭部運動下の歩行、狭路、後退、階段)に着目し、具体的な転倒シーンを想定します。
- 他評価との合わせ技:10 m 歩行、Timed Up & Go(TUG)、6 分間歩行(6MWT)、Mini-BESTest、四方向ステップテスト(FSST)などと組み合わせると、バランス〜歩行速度〜持久性までを一望化できます。
- 再評価のタイミング:2〜4 週間ごとに再測定し、MCID(4 点前後)を目安に介入の妥当性を検証します。合計点だけでなく、項目別の改善パターンも合わせて振り返ります。
記録テンプレ(コピペ用)
【FGA】合計 __/30 点(補助具:無・有(種類:____)/介助:無・有) 1 平地 __/2 速度変化 __/3 水平頭部 __/4 垂直頭部 __/5 方向転換 __ 6 障害物 __/7 狭路 __/8 閉眼 __/9 後退 __/10 段差・階段 __ 所見:____(例:速度変化で歩幅低下、pivot で 3 歩超) 介入:____(例:速度変更ドリル、方向転換・狭路歩行、頭部運動下歩行)
現場の詰まりどころ(よくあるミスと対策)
FGA は一見「歩かせて点数をつけるだけ」に見えますが、条件設定や説明の仕方で結果が大きく変わります。現場でよく見かけるつまずきを先回りして抑えておくことで、検者間・再評価間の一貫性が高まり、カンファレンスでも説明しやすくなります。
- 歩行路・用具条件の不統一:評価日ごとに床テープの幅や障害物の位置が変わると、点数差が変化なのか条件差なのか判別できません。初回に決めた条件を評価シートに記録し、以後はその条件で固定します。
- pivot の歩数基準が曖昧:「およそ向き直れれば可」としてしまうと、検者間のばらつきが大きくなります。「3 歩以内で向き直って停止」という基準をカルテ・評価表に明記し、スタッフ間で共有しておきましょう。
- 補助具使用の記載漏れ:杖や歩行器の使用有無を記録しないと、退院前後や外来フォローで比較できません。「常用している補助具のみ使用可」とルール化し、種類と使用状況(常時/一部項目のみ)を必ず残すようにします。
- めまい・前庭障害例での恐怖感:頭部運動や閉眼課題は恐怖感を伴うことがあり、実力より低いスコアになることがあります。事前説明と段階づけ(可及的に安全確保した環境での練習→本番)を行い、「できるけれど怖い」のか「実際に不安定なのか」を見極めます。
おわりに
FGA は「安全の確保 → 条件をそろえた評価 → 所見からのボトルネック抽出 → 介入デザイン → 再評価」という臨床のリズムを、歩行という最重要場面で整理できるツールです。同じ評価を同じやり方で積み重ねていくことで、患者さんごとの転倒リスクの変化をチームで共有しやすくなります。
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著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
FGA はどのくらいの頻度で再評価するのがよいですか?
介入内容や病期にもよりますが、入院リハでは 2〜4 週ごとの再評価がひとつの目安です。FGA は MCID(臨床的に意味のある変化量)がおおよそ 4 点とされており、短期では「合計点の大きな変化」が出にくい場合もあります。そのため、合計点だけでなく、項目別スコアの変化(例:方向転換や閉眼歩行の改善)も合わせて確認すると、介入効果を捉えやすくなります。
DGI と FGA のどちらを使えばよいですか?
DGI は歴史のある歩行評価ですが、比較的活動性の高い高齢者では天井効果が問題になります。FGA は DGI に 3 項目を追加し、より難度の高い課題(狭路、後ろ向き歩行、階段など)を含むことで、活動性の高い症例でも感度よく変化を捉えられるよう設計されています。多くの場面では FGA を優先し、既に DGI をルーチンで運用している施設では、移行期に両者を併用してデータを蓄積していく方法もあります。
前庭障害やめまいが強い患者さんにも FGA を使ってよいですか?
前庭障害例でも FGA は有用ですが、頭部運動や閉眼歩行など、一部の項目は恐怖感や症状増悪につながる可能性があります。実施前に必ず症状の安定性とバイタルを確認し、必要に応じて介助者を増やす・安全帯やハーネスを使用するなど、安全性を最優先してください。難しい項目は内容を一部簡略化したうえで評価し、その条件を記録に残すと、後日のカンファレンスでも判断しやすくなります。
参考文献
- Wrisley DM, Kumar NA. Functional Gait Assessment: concurrent, discriminative, and predictive validity in community-dwelling older adults. Phys Ther. 2010;90(5):761–773. DOI: 10.2522/ptj.20090069(PubMed: 20360052)
- Wrisley DM, Marchetti GF, Kukulka CG, et al. Reliability, internal consistency, and validity of data obtained with the Functional Gait Assessment. Phys Ther. 2004;84(10):906–918. DOI: 10.1093/ptj/84.10.906(PubMed: 15449976)
- Leddy AL, Crowner BE, Earhart GM. Reliability, validity, sensitivity, and specificity of the FGA and BESTest for identifying individuals with Parkinson disease who fall. Phys Ther. 2011;91(1):102–113. DOI: 10.2522/ptj.20100113
- Beninato M, et al. Minimal Clinically Important Difference of the Functional Gait Assessment. Phys Ther. 2014;94(11):1594–1603. DOI: 10.2522/ptj.20130596(PubMed: 24947198)
- Marques LBF, et al. Construct and criterion validity of the FGA in older adults. Braz J Phys Ther. 2020;24(4):300–306. PMCID: PMC7990732(地域在住高齢者において FGA ≤ 22/30 を転倒リスクの指標として報告)
- APTA Academy of Neurologic Physical Therapy. Functional Gait Assessment Pocket Guide(Core Outcome Measures CPG 補助資料). PDF: neuropt.org


