はじめに|2026 年に心不全療養指導士を目指す理由
専門資格をキャリアにどう活かすか整理する( PT キャリアガイド )
心不全療養指導士は、日本循環器学会が認定する「心不全患者さんの療養支援に強い多職種」を育成する資格です。薬物療法やデバイスだけでなく、体重・食事・水分・塩分・運動・服薬・受診タイミングなど、再入院予防に直結するセルフマネジメントを、チームで支えられる人材が求められています。対象は看護師・理学療法士・作業療法士・薬剤師・管理栄養士・臨床工学技士・ソーシャルワーカーなど幅広く、「心不全チームのハブ」として活躍するイメージです。
一方で、資格取得には学会入会・ e ラーニング受講・症例報告 5 例・認定試験など、数年単位での準備が必要になります。「心リハ指導士や他の資格との優先順位は?」「症例が少ない施設でも取れるの?」といった悩みも出てきやすいところです。本記事では、2026 年に初回受験を目指す医療職を想定し、心不全療養指導士の位置づけ、受験資格と取得までの流れ、年間スケジュールの組み方、勉強ロードマップ、心リハ・在宅現場での活かし方までを一気通貫で整理します。
心不全療養指導士とは?(資格の目的と役割)
心不全療養指導士は、心不全患者さんの発症・再入院・増悪を防ぐために、療養支援の質を高めることを目的とした認定資格です。急性期から回復期・維持期・在宅・介護施設まで、切れ目なく続く“心不全の一生”を見据えながら、生活習慣・服薬・食事・運動・心理面などを多職種で支えていきます。医師が病態や治療方針を決める一方で、心不全療養指導士は「生活の中でそれを実行できるようにする専門家」として、患者・家族の行動変容を支える役割を担います。
特徴的なのは、対象が医師以外の多職種に広がっている点です。看護師やリハ職、薬剤師、管理栄養士、ソーシャルワーカー、臨床工学技士などが同じ枠組みで認定されることで、心不全チーム内での共通言語が生まれます。これにより、外来フォロー・心リハ・訪問診療・訪問看護・訪問リハ・栄養指導・服薬指導といった各場面で、「同じゴールを見据えた療養支援」がしやすくなることが狙いです。
受験資格と認定までの流れ(2026 年版のイメージ)
心不全療養指導士の受験には、まず日本循環器学会への入会(正会員または準会員)が前提となります。そのうえで、心不全診療ガイドラインをベースにした e ラーニング講習の受講・修了、心不全患者さんに対する療養指導の実務経験、症例報告(通常 5 例)の作成・提出が必要です。症例は、急性期~在宅までどの場面でも構いませんが、「心不全診療の流れに沿って、療養支援の介入と結果をまとめているか」が重視されます。
書類審査を通過すると、認定試験(筆記試験)を受験できます。試験では、心不全の病態生理・薬物療法・デバイス治療・非薬物療法・生活指導・多職種連携などが広く問われます。合格すると、心不全療養指導士として認定され、資格は 5 年間有効です。更新には、学会や関連講習への参加による単位取得や、心不全療養指導に関する活動実績の報告などが必要になり、「取りっぱなし」ではなく継続学習が前提となります。
取得までの 5 ステップ(2026 年に合格を目指す)
2026 年に心不全療養指導士として認定されるイメージで、準備の流れを 5 つのステップに整理してみます。
- ステップ 1:日本循環器学会への入会と情報収集
まず日本循環器学会の公式サイトで認定制度の最新情報を確認し、正会員または準会員として入会します。募集要項・受験スケジュール・ e ラーニングの受付期間・症例報告のフォーマットなどを一通りチェックし、自分の勤務先・担当症例で条件を満たせそうかを確認しましょう。 - ステップ 2:心不全症例の「ログ」を取り始める
病棟・外来・在宅などで心不全患者さんに関わった際、簡単な症例ログ(年齢・基礎疾患・入院/在宅の経過・療養支援内容・アウトカム)を作る習慣をつけます。いきなり 5 例分の正式な症例報告を作ろうとすると負担が大きいため、まずは A4 1 枚のメモレベルから積み上げておくと、後で正式フォーマットに落とし込みやすくなります。 - ステップ 3:e ラーニング講習で基礎を固める
指定された期間内に e ラーニング講習を受講し、修了要件(視聴・確認テストなど)を満たします。講習ではガイドラインの要点や代表的な症例が整理されているため、心不全の病態・治療と療養指導がどう結びつくのかを意識しながら視聴することが大切です。講習資料は試験前の復習にも使えるよう、気になった箇所にメモを残しておきましょう。 - ステップ 4:症例報告 5 例を作成・ブラッシュアップ
ステップ 2 で蓄積した症例ログの中から、典型的な入院~退院~在宅、再入院を繰り返す症例、合併症の多い高齢者など、バリエーションのある 5 例を選びます。フォーマットに沿って、療養指導の目的・実施内容・患者の変化・チームでの工夫を整理し、同僚や上司に見てもらいながらブラッシュアップしていきます。 - ステップ 5:認定試験対策と本番
書類審査を通過したら、認定試験に向けてガイドライン・講習資料・症例報告を中心に復習します。心不全の病態生理や治療だけでなく、「患者さんの行動変容をどう支えるか」「どのタイミングでどの職種につなぐか」といった視点も問われるため、自分の症例から得た学びを言語化しておくと、本番での応用力が高まります。
心不全や循環器領域を専門性の柱にする場合、同時に心臓リハビリテーション指導士や 3 学会合同呼吸療法認定士なども視野に入ると思います。どの順番で取得するか迷ったときは、一度 PT キャリアガイドの学び方の流れ を眺めておくと、自分に合ったステップが整理しやすくなります。
e ラーニング+ガイドラインを使った勉強ロードマップ
勉強の中心になるのは、「心不全診療ガイドライン」と「 e ラーニング講習」の 2 本柱です。まずは、心不全の定義・病態生理・ NYHA 分類・ステージ分類・薬物療法( ACE 阻害薬・ ARNI ・β遮断薬・ MRA ・ SGLT2 阻害薬など)・デバイス治療・心リハの基本などを、講習とガイドラインでざっくり押さえます。この段階では、細かい用量やクラス分類を完璧に暗記するより、「なぜこの薬・介入が必要なのか」をストーリーで理解することが大切です。
次に、療養指導のパート(食事・塩分制限・水分管理・体重測定・症状モニタリング・運動・就労・旅行・フレイル・サルコペニアなど)を重点的に読み込み、実際の指導場面を頭の中でシミュレーションしてみます。試験前は、講習のスライドや症例を見直しながら、「この症例なら自分はどう指導するか」「どの職種と連携するか」を自問自答し、問題集や確認テストで知識の抜けを埋めていくと効率的です。
PT・OT・栄養士・薬剤師・看護師が現場でどう活かせるか
理学療法士・作業療法士にとって、心不全療養指導士で学ぶ内容は「運動処方と生活指導をつなぐ橋渡し」になります。心リハでの有酸素運動や筋トレの処方を、日常生活動作・仕事・趣味・家事にどう落とし込むか、再入院を防ぐためにどのような活動量を維持してもらうか、といった視点で患者さんと一緒にプランを立てやすくなります。また、薬剤師や管理栄養士の指導内容を理解したうえで、「運動との相互作用」を説明できる点も強みです。
看護師にとっては、外来や病棟での看護外来・ハートチーム外来などで、セルフケア支援の質を高める武器になります。服薬アドヒアランス・体重測定・症状の自己チェック・受診目安などについて、一歩踏み込んだ説明やフォローができるようになり、再入院のリスクを早期に察知する力も高まります。薬剤師や管理栄養士にとっても、これまで行ってきた指導が「心不全療養指導士」という枠組みの中で再整理され、多職種連携の中で位置付けが明確になるメリットがあります。
現場の詰まりどころ
最初の詰まりどころは、「心不全患者の症例数」と「症例報告の作成」です。小規模病院や回復期中心の施設では、心不全患者の絶対数が少ない、あるいは「心不全が主病名ではない」症例が多く、どの症例を選べばよいか悩みやすくなります。この場合、心不全を合併している整形外科や脳卒中の症例なども候補に入れ、「心不全療養が介入のどの部分に関わっているか」を意識して整理すると、対象となる症例が広がります。
もう一つの詰まりどころは、「学会入会・ e ラーニング・試験対策をどの年度にどこまで進めるか」というスケジュール管理です。年度途中で転職・異動・育休などのライフイベントがあると、症例や学習のペースが大きく変わることもあります。2026 年受験を見据えるなら、「2024 年:学会入会+ e ラーニング」「2025 年:症例ログの蓄積と正式な症例報告作成」「2026 年:試験対策と受験」といった具合に、最低 2〜3 年スパンでざっくり計画しておくと無理が少なくなります。
よくある質問
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心臓リハビリテーション指導士とどちらを先に取るべきですか?
どちらが先と決まっているわけではありませんが、心リハ全体の構造や運動処方を広く学びたい場合は、心臓リハビリテーション指導士が土台になります。一方で、「患者さんの生活全体を見据えた療養支援」に軸足を置きたい場合は、心不全療養指導士が適しています。循環器領域をしっかりやっていきたい方は、将来的に両方を視野に入れつつ、「今の担当業務に近い方から着手する」という考え方がおすすめです。
在宅や訪問が中心の勤務でも、心不全療養指導士を取る意味はありますか?
在宅や訪問が中心の方こそ、心不全療養指導士の視点が活きます。退院後の生活では、体重測定・食事・水分・運動・受診タイミングなど、セルフケア行動の質が再入院リスクに直結します。在宅医・訪問看護・訪問リハ・訪問薬剤・訪問栄養などと連携しながら、生活の中で実行可能なプランに落とし込む力をつけられるため、「在宅心不全に強いスタッフ」としての価値が高まります。
ガイドラインの内容が難しくて挫折しそうです。効率的な読み方はありますか?
すべてを最初から最後まで読み込もうとすると挫折しやすいので、まずは e ラーニング講習の構成に沿って、「講習で強調されていた章」を優先的に読み込むのがおすすめです。そのうえで、普段よく関わる場面(急性期のうっ血期、退院前指導、外来フォロー、在宅)に該当する部分だけを深掘りしていきます。「自分の担当場面で何を変えられるか」という視点で読むと、記憶にも残りやすくなります。
資格を取っても給与や役職が変わらないかもしれません。それでも受験する価値はありますか?
給与や役職に直接結びつかないケースはたしかにありますが、心不全療養指導士としての学びを通じて、心不全患者さんとの関わり方やチーム内での役割は大きく変わります。カンファレンスでの発言の質が上がり、患者さんや家族からの信頼も高まりやすくなります。また、将来的な転職・部署異動の場面でも、「心不全療養支援に強いスタッフ」としての実績を示す材料になります。資格そのものに加えて、「その過程で蓄積した症例経験とネットワーク」が大きな財産になります。
おわりに
心不全療養指導士は、心不全パンデミックと言われる時代において、病院から在宅までをつなぐキープレイヤーを育てる資格です。その一方で、学会入会・ e ラーニング・症例報告・認定試験と、日々の臨床と並行して進めるにはそれなりの負担もあります。「今の忙しさの中で本当に取り組めるのか」と迷うときは、自分がこれまで関わってきた心不全患者さんの顔を思い出しながら、「もしもう一歩踏み込んだ療養支援ができていたら、何が変わっていたか」を一度振り返ってみてください。
働き方や学び方を見直すときには、「どの領域を専門性の柱にするか」「どの程度まで重症例に関わりたいか」を言語化することも大切です。その際に使える面談準備チェック( A4 ・ 5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。心不全や循環器リハに強い職場を探すときにも役立つ内容なので、詳しくはマイナビ医療介護のお役立ち資料ページを確認してみてください。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡・循環器などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、循環器リハ、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下、住環境整備

