身長・体重測定の実務|立てない・測れないときの代替まで(現場で迷わない手順)
評価 → 介入 → 再評価の「型」をまとめて見る(PT キャリアガイド)
身長・体重は「栄養」だけでなく、「水分」「排泄」「治療(点滴・利尿・透析など)」の影響もまとめて反映するため、測り方がぶれると解釈が一気に不安定になります。まず大事なのは、完璧な値を 1 回取るより、同じ条件で繰り返し取れる運用を作ることです。
本記事では、立位が難しい方、車椅子・臥床の方、浮腫や点滴で体重が揺れる方を想定し、測定の優先順位と代替策、そして記録ルールまでを 1 本にまとめます。
まず押さえる前提|誤差を減らすコツは「条件固定」です
身長・体重の測定で最も多いトラブルは、「毎回条件が違う」ことです。条件が変わると、同じ患者さんでも数値が動き、評価・介入の判断がぶれます。逆に言えば、条件が揃えば多少の誤差があっても、経時変化は読みやすくなります。
まずは、次の 4 点をチーム内で固定すると運用が安定します。
- 測るタイミング:朝食前/排泄後/リハ前など、できる範囲で固定
- 衣類・装具:上衣・ズボン・靴・装具・オムツの条件を統一(難しければ「あり/なし」を記録)
- 測定機器:同じ体重計・同じベッドスケール・同じ車椅子体重計を優先
- 姿勢・支持:立位・座位・臥位、手すり把持の有無、介助量を記録
身長の測り方|立位が難しいときの選択肢(優先順位つき)
身長は、基準値( BMI などの計算)や薬剤・栄養投与量の目安、さらに推定筋肉量( BIA )の解釈にも影響します。一方で、入院・施設では「立って測れない」ケースが多く、代替法の準備が重要です。
| 優先 | 方法 | 適する状況 | 注意点(誤差の出どころ) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 立位で身長計 | 安全に直立できる | 踵が浮く、膝屈曲、体幹側屈で短く出やすい | 裸足/靴、支持の有無、疼痛の有無 |
| 2 | 臥位で身長(ベッド上) | 立位不可だが仰臥位は取れる | 股・膝の屈曲拘縮、円背で短く出やすい | 膝伸展の可否、痛み、頭部・踵の位置合わせ |
| 3 | 推定身長(膝高/前腕長など) | 仰臥位も困難、拘縮が強い | 推定式・対象集団で誤差が出る | 「推定」と明記、測った部位・姿勢を記録 |
| 4 | 既往データ(健診・免許証・本人申告) | 測定が現実的に不可能 | 高齢者は加齢で低下、申告は過大になりやすい | 情報源(本人/家族/記録)と日付 |
立位が難しい場合は、まず安全第一で「臥位測定」へ切り替えます。それも難しければ、推定身長を使い、記録に「推定」を明確に残します。推定値は「正確さ」より、同じ手順で再現できることを重視してください。
臥位で測るときのコツ(短く出やすい人の対策)
- 可能なら 2 人で実施し、頭部と踵の位置合わせを丁寧に行います。
- 膝が屈曲拘縮なら、無理に伸ばさず、どの程度伸展できたかを記録します。
- 円背が強い場合は、臥位で「最大伸展位」を取ろうとしすぎると痛みや緊張が増えます。安全に取れる範囲を優先します。
体重の測り方|車椅子・ベッド・浮腫があるときの実務
体重は、栄養状態のモニタだけでなく、浮腫・脱水、利尿・点滴、便秘・排泄などの変化も強く反映します。つまり、体重が動いたときは「栄養が変わった」と即断せず、条件と背景をセットで読みます。
| 方法 | メリット | 注意点(誤差の出どころ) | 現場の工夫 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 立位体重計 | 最も標準的で比較しやすい | 手すり把持・介助で荷重が抜ける/ふらつき | 同じ手すり条件で固定、転倒リスクを優先 | 支持の有無、介助量、測定時刻 |
| 車椅子体重計 | 立位不可でも測れる | 車椅子重量の差/クッション・ブランケット | 同じ車椅子・同じクッションで固定 | 車椅子 ID、クッション有無、付属品 |
| ベッドスケール | 重症でも実施しやすい | 寝具・機器類が乗ったまま/体位変換でズレ | 測定前に「何を乗せたか」を決めて固定 | 寝具条件、点滴・ドレーン、体位 |
| 吊り下げ/リフト | ベッド外に出せない場合の選択肢 | スリング種類・装着で差/安全管理が重要 | 同じスリング・同じ装着手順で固定 | スリング種類、装着者、安楽姿勢 |
浮腫・点滴・利尿があるときの「読み違い」を防ぐ
体重が短期間で増減するときは、栄養よりも水分変動の影響が大きいことがあります。体重を「結果」として受け止めつつ、次の情報を同時に記録すると解釈が安定します。
- 浮腫:下腿の圧痕、靴下跡、体位による変化
- 水分出納:利尿剤の有無、点滴量、透析日
- 排泄:便秘・下痢、排泄後に測れたか
- 摂取:食事摂取量の低下、飲水制限の有無
「推定」「代替」を使うときの運用ルール(記録と共有)
身長・体重は、測れない状況があって当然です。大切なのは、測れないこと自体ではなく、推定値を“実測”として扱ってしまうことです。推定・代替を使う場合は、次のルールをチーム内の共通言語にします。
| 項目 | 最低限書くこと | 例 | 次回の改善ポイント |
|---|---|---|---|
| 身長 | 実測/推定、方法、姿勢 | 「推定身長:膝高より算出(座位)」 | 拘縮の評価、別法の検討 |
| 体重 | 測定機器、条件(車椅子・寝具)、タイミング | 「車椅子体重計、同一クッション、朝食前」 | 条件固定、排泄後の測定へ |
| 欠測 | 測れなかった理由、代替指標 | 「離床不可のため欠測。周囲径で経過観察」 | ベッドスケール手配など |
現場の詰まりどころ|「測れない」を 30 秒で整理する判断フロー
忙しい現場では、測定を諦めるかどうかの判断が曖昧になりがちです。次の順番で考えると、時間をかけずに結論が出ます。
- 安全に立位が取れるか?(無理なら立位測定はしない)
- 座位で測れるか?(車椅子体重計、座位での推定身長など)
- 臥位で測れるか?(ベッドスケール、臥位身長)
- 推定・既往情報で代替できるか?(ただし「推定」と明記)
- 欠測なら代替指標で経時変化を見る(周囲径、浮腫所見、食事摂取など)
よくある失敗( NG )と対策( OK )|数値がブレる原因はだいたいここです
| NG(起きがち) | なぜ問題? | OK(対策) | 記録の一言例 |
|---|---|---|---|
| 毎回タイミングが違う | 排泄・点滴で体重が揺れ、比較できない | 「朝食前/排泄後」など、できる範囲で固定 | 「朝食前に測定」 |
| 車椅子やクッションが毎回違う | 付属品重量で差が出る | 同じ車椅子・同じクッションを優先 | 「車椅子 A、同一クッション」 |
| 支持の強さがバラバラ | 手すり把持・介助で荷重が抜ける | 支持条件を固定、無理なら座位・臥位へ | 「手すり軽把持」 |
| 推定身長を実測として扱う | BMI や栄養計画の判断がずれる | 必ず「推定」と明記し、方法も残す | 「推定身長(膝高)」 |
| 浮腫があるのに体重だけで判断する | 栄養低下を見落とす/逆に過大評価する | 浮腫所見・出納・治療背景をセットで記録 | 「下腿圧痕あり」 |
よくある質問( FAQ )
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Q1.立位が不安定な人でも、立って体重を測った方がいいですか?
転倒リスクがあるなら、無理に立位で測らない方が安全です。立位体重は標準ですが、支持の仕方・介助量で値がぶれやすく、比較が難しくなることもあります。車椅子体重計やベッドスケールで「同じ条件で繰り返せる方法」を選ぶと、結果的に経時変化が読みやすくなります。
Q2.車椅子体重計で、毎回少しずつ違うのはなぜですか?
多い原因は、クッション・ブランケット・装具・オムツなどの付属品です。次に多いのは、測定時の姿勢(前傾・手で支える)です。同じ車椅子・同じ付属品で固定し、難しければ「付属品あり/なし」を記録して比較できる状態にします。
Q3.臥位で身長を測ると短く出ます。これでいいですか?
拘縮や円背があると、臥位でも短く出やすいです。大切なのは「安全に取れる範囲」で「同じ条件で繰り返す」ことです。無理に伸ばすと痛みや緊張で逆に誤差が増えます。必要なら推定身長に切り替え、「推定」と明記して運用します。
Q4.体重が急に増えました。栄養が改善したと考えていいですか?
短期間の増加は、水分変動(浮腫・点滴・治療)で起きることがあります。浮腫所見、水分出納、利尿剤の有無、排泄状況を合わせて確認します。体重は重要ですが、単独で結論を出さず、背景情報とセットで解釈するのが安全です。
Q5.測れない日は、どう評価に残せばいいですか?
測れない理由を短く書き、代替指標(周囲径、浮腫所見、食事摂取など)で経過を追ったことを残します。欠測は悪いことではありません。欠測を「説明できる」形にすると、チームの判断が揃いやすくなります。
まとめ|測定条件を揃えるだけで、身長・体重は「使える評価」になります
身長・体重は、測り方がぶれると「使えない数字」になりますが、条件が揃えば「経時変化を読む武器」になります。まずは、タイミング・衣類・機器・支持条件の 4 点を固定し、立位が難しい場合は座位・臥位・推定へと安全に切り替えてください。
関連:身体計測の重要性(身長・体重・筋肉量・皮下脂肪厚の位置づけ)
参考文献
- Cederholm T, Jensen GL, Correia MITD, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition – A consensus report from the global clinical nutrition community. Clin Nutr. 2019;38(1):1-9. doi: 10.1016/j.clnu.2018.08.002
- Volkert D, Beck AM, Cederholm T, et al. ESPEN guideline on clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clin Nutr. 2019;38(1):10-47. doi: 10.1016/j.clnu.2018.05.024
- Chen LK, Woo J, Assantachai P, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020;21(3):300-307.e2. doi: 10.1016/j.jamda.2019.12.012
- Kyle UG, Bosaeus I, De Lorenzo AD, et al. Bioelectrical impedance analysis – Part I: review of principles and methods. Clin Nutr. 2004;23(5):1226-1243. doi: 10.1016/j.clnu.2004.06.004
おわりに
身長・体重は「安全の確保 → 条件固定 → 段階的に代替法へ切替 → 記録 → 再評価」のリズムで運用すると、数字が臨床判断に結びつきやすくなります。次に評価や面談準備を整えるなら、職場選びの視点と一緒に「チェックリスト」で抜けを減らすと進めやすいです。

