IMT(吸気筋トレーニング)運用プロトコル:まず “回る型” を作る
IMT( Inspiratory Muscle Training /吸気筋トレーニング)は、吸気筋(主に横隔膜など)の筋力・持久力を狙って上げる介入です。いちばん大事なのは「強くすること」より、評価 → 設定 → 実施 → 増負荷 → 記録を同じ手順で回すことです。本ページは、PT/OT/ST が臨床で迷いにくいように、標準プロトコル 1 本に固定して運用の型をまとめます。
最初に決める 5 点(ここが決まると回ります)
IMT が回らない原因は「やり方」より前提が曖昧なことが多いです。はじめに、次の 5 点だけ固定します。
| 項目 | 決め方(結論) | 記録の最小単位 |
|---|---|---|
| ① 目的 | 息切れの軽減 / 運動耐容能の底上げ / 離脱・活動の土台作り | 主訴( Borg )+ 目標活動 |
| ② 安全 | 禁忌 / 中止基準を先に共有(下表) | SpO2 / HR / 症状 |
| ③ 負荷 | 30% MIP から開始(まず “確実に回す” ) | %MIP(または設定値) |
| ④ 回数・頻度 | 10 回 × 2 セット、週 5〜7 日を基本 | 回数 / セット / 週回数 |
| ⑤ 増負荷 | 「余裕がある日」ではなく条件達成で +5%MIP | 増負荷判定(可/否) |
禁忌・中止基準(先に “止めどころ” を決める)
IMT は安全に見えますが、過負荷や呼吸困難の増悪で「続かない」「怖くて上げられない」になりがちです。運用を標準化するために、禁忌と中止基準を表で固定します。
| 区分 | 具体例 | 対応 |
|---|---|---|
| 禁忌(実施しない) | 医師からの運動・呼吸負荷の禁止、重篤な循環不安定など | 主治医へ確認し、別介入へ |
| 中止(その場で止める) | SpO2 の明らかな低下、強い胸痛 / めまい、耐えがたい呼吸困難の増悪 | 休息 → バイタル確認 → 原因と負荷再設定 |
| 中止(次回から下げる) | 呼吸数が乱れて戻らない、補助呼吸筋の過緊張が強い、翌日に強い疲労が残る | 負荷を 1 段階下げ、セット数を減らす |
呼吸筋評価の測定・解釈は標準化が重要で、国際的にも呼吸筋テストの方法論が整理されています(測定の一貫性が “増負荷の精度” を決めます)。
初期評価(最低限これだけ測る)
初回は「細かく測る」より、増負荷の判断に必要な最小セットに絞ると回ります。目安は次の 3 系統です。
- 呼吸筋:MIP(最大吸気圧)を基準に負荷( %MIP )を決める
- 症状:安静時 / 労作時の息切れ( Borg など)
- 安全:SpO2 / HR と、実施後の回復(何分で戻るか)
エビデンスとして、IMT は吸気筋力( PImax )や息切れ、 QOL などの改善がまとめられています(特に COPD ではデータが集積)。
標準プロトコル(まずは 1 本に固定)
運用の軸は「30% MIP から開始」と「条件達成で +5%MIP」です。強度を上げる前に、フォームと呼吸パターンを崩さない範囲で “継続できる負荷” を確保します。
| 項目 | 標準 | ねらい |
|---|---|---|
| 開始負荷 | 30% MIP | 安全に “回る” 負荷で習慣化 |
| 回数 × セット | 10 回 × 2 セット(間 1〜2 分休息) | 過呼吸を避けつつ反復 |
| 頻度 | 週 5〜7 日(まず 2 週間は連続性を重視) | 刺激頻度を確保 |
| 期間 | 6〜8 週を 1 サイクル | 評価 → 増負荷のサイクルが回る |
| 増負荷 | 条件達成で +5%MIP(下の判定表) | 属人的に “なんとなく” 上げない |
1 セッションの流れ(チェック → 実施 → 回復)
「その日の実施可否」を毎回 30 秒で判断できると、 IMT は継続しやすいです。
- 事前チェック:SpO2 / HR、呼吸困難の主観、めまい・胸痛の有無
- フォーム確認:口漏れを減らし、肩すくめ(過剰な補助呼吸筋)を抑える
- 本セット:10 回 → 休息( 1〜2 分)→ 10 回
- 終了後:呼吸困難とバイタルが “いつ戻るか” を確認
増負荷ルール( “上げ時” を条件化する)
増負荷は “気分” で決めると失敗します。条件を満たしたら +5%MIP、満たさなければ維持または一段下げます。
| 判定 | 条件(目安) | 次回の設定 |
|---|---|---|
| 増負荷(+) | 10 回 × 2 セットをフォーム崩れなく完遂、呼吸困難が許容範囲、回復も良好 | +5% MIP |
| 維持(0) | 完遂できるが、フォームがギリギリ / 回復が遅い | 据え置き(同負荷) |
| 低下(-) | 回数が保てない、強い息切れ増悪、翌日に強い疲労が残る | -5% MIP または 1 セットへ |
デバイス選び( “迷うポイント” だけ押さえる)
臨床でよく使われるのは、(1) 一定圧で開くタイプ(例: Threshold 系)と、(2) 可変抵抗タイプ(例: PowerBreathe 系)です。大切なのは製品名より、再現性(同じ負荷で回せる)と記録のしやすさです。
| タイプ | 強み | 注意点 |
|---|---|---|
| 一定圧で開くタイプ | 負荷が分かりやすい、導入が簡単 | 口漏れや姿勢で体感が変わる |
| 可変抵抗タイプ | 細かい負荷設定がしやすい | 設定レンジと記録方法を先に決める |
運動療法・呼吸リハとの組み合わせ(取りこぼさない)
IMT は単独でも有効性が示されていますが、臨床では全身運動と組み合わせたほうが「活動での息切れ」へつながりやすいです。特に吸気筋力低下があるケースでは、一般的な運動療法に IMT を足す設計が有用とされています。
現場の詰まりどころ/よくある失敗(ここを潰すと続きます)
失敗の多くは「負荷が高すぎる」ではなく、フォーム・呼吸パターン・記録が崩れることです。下の表で “あるある” を先に潰します。なお、実習生や新人が介入に入る場合は、面談・見学で標準手順のチェックを作っておくと事故が減ります(準備テンプレは こちら から拾えます)。
| 場面 | NG(起きがち) | OK(対策) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 負荷設定 | 初回から高負荷で回数が崩れる | 30% MIP から、条件達成で +5%MIP | %MIP / 完遂可否 |
| フォーム | 肩すくめ・首の緊張が強い | 姿勢を整え、口漏れを抑えて “静かに吸う” | 補助呼吸筋 / 口漏れ |
| 呼吸パターン | 過呼吸でめまい・不快感 | 休息を長めに取り、回数より質を優先 | 症状 / 回復時間 |
| 継続 | 「頑張る日」と「やらない日」でブレる | 週 5〜7 日の “実施枠” を固定 | 週回数 / 中断理由 |
記録テンプレ(最低限:これだけ残す)
IMT は “やった/やってない” ではなく、負荷と反応を残せるかが勝負です。まずは下の項目だけで運用を始め、回り出したら追加します。
| 項目 | 入力例 | 目的 |
|---|---|---|
| 負荷 | 30% MIP(または設定値) | 再現性の担保 |
| 量 | 10 回 × 2 セット(休息 90 秒) | 介入量の可視化 |
| 反応 | Borg:実施前 2 → 直後 4 | 過負荷の検出 |
| 回復 | SpO2: 96 → 94 → 2 分で 96 | 安全の判定 |
| 増負荷判定 | 可(フォーム安定) | 属人性の排除 |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 何 %MIP から始めるのが無難ですか?
まずは 30% MIP を基準に “確実に回る負荷” を作ります。初回から高負荷にするとフォームが崩れて中断しやすいので、条件達成で +5%MIPのルールで上げていくほうが運用が安定します。
Q2. 1 日何回、週何回が基本ですか?
汎用の基本は 10 回 × 2 セット、週 5〜7 日です。最初の 2 週間は “連続性” を優先し、疲労や症状が強ければセット数から調整します。
Q3. いつ負荷を上げるべきですか?
「楽だった日」ではなく、完遂・フォーム・回復の 3 条件で判定します。表のとおり、条件達成で +5%MIP、ギリギリなら維持、崩れるなら一段下げます。
Q4. COPD 以外でも IMT はやっていいですか?
エビデンスがまとまっているのは COPD が多いですが、臨床的には「吸気筋力低下があり、息切れが活動を制限している」ケースで検討します。まずは安全と反応を見ながら、運用の型で回してください。
次の一手(このページの使い方)
- 手技・プロトコルをまとめて探す:臨床手技・プロトコル ハブ
- 評価と適応を先に固める:呼吸筋サルコペニア:評価( MIP / MEP )と IMT の進め方
- ICU / 呼吸管理の流れで整理する:人工呼吸器離脱(ウィーニング)に向けた PT の実務
参考文献
- Langer D, Charususin N, Jácome C, et al. Efficacy of a Novel Method for Inspiratory Muscle Training in People With Chronic Obstructive Pulmonary Disease. Physical Therapy. 2015;95(9):1264-1273. doi:10.2522/ptj.20140245
- Vázquez-Gandullo E, Hidalgo-Molina A, Montoro-Ballesteros F, et al. Inspiratory Muscle Training in Patients with COPD as Part of a Respiratory Rehabilitation Program: A Systematic Review. Int J Environ Res Public Health. 2022;19(9):5564. doi:10.3390/ijerph19095564
- Gosselink R, De Vos J, van den Heuvel SP, et al. Impact of inspiratory muscle training in patients with COPD: what is the evidence? Eur Respir J. 2011;37(2):416-425. doi:10.1183/09031936.00031810
- Laveneziana P, Albuquerque A, Aliverti A, et al. ERS statement on respiratory muscle testing at rest and during exercise. Eur Respir J. 2019;53(6):1801214. doi:10.1183/13993003.01214-2018
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


