頸静脈評価(JVP)の実践:血行動態の“うっ血”をベッドサイドで見極める
頸静脈評価( JVP )は、右房圧や全身うっ血の推定に直結する非侵襲・即時のフィジカルです。理学療法では、離床や運動負荷を決める前に「いま、うっ血が強いか?」を把握することで、体位・呼吸介助・運動強度を安全側に調整できます。本稿では 標準法(30–45°半坐位)と、近年普及する座位での簡便法、さらに HJR(腹頸静脈反射)・Kussmaul 徴候・POCUS 併用まで、臨床判断に直結する使い方をまとめます。
うっ血の評価は単発の数値ではなく経時変化が重要です。JVP の高さ(または座位での可視性)、HJR の有無、呼吸苦・浮腫・体重変動などの所見をひとつの“束”として記録し、48–72 時間スパンで見直す前提で運用しましょう。
標準手順(30–45°半坐位)での JVP 観察
ベッド頭側を 30–45°に挙上し、顎を軽く引く姿位で胸鎖乳突筋を弛緩。斜め前方からの斜光(懐中電灯を胸側から)で内頸静脈の波動を視認します。胸骨角(Angle of Louis)を基準に、頸静脈上端までの垂直距離を読み取ります。正常は概ね低位、高値であればうっ血を疑い、運動は慎重化・再評価へ。頸動脈とは「触れない」「二相性の光の揺れを見る」などで鑑別します。
座位(90°)での簡便評価:可視/不可視のトリアージ
椅子座位で鎖骨上の頸静脈が可視なら「うっ血の可能性」を示唆、不可視なら高いうっ血は否定的――という定性判定の簡便法です。外来・回診・短時間のトリアージに有用ですが、正確な高さ把握や治療反応の追跡には半坐位での定量へ橋渡しする運用が推奨です。
HJR(腹頸静脈反射)の実施と判定
半坐位のまま右上腹部を10–15 秒、およそ20–30 mmHgの圧で持続圧迫。JVP が+3–4 cm 以上の上昇が持続すれば陽性で、右室機能低下や容量負荷を示唆します。運動は慎重化し、体位・呼吸介助を優先。頸動脈の拍動高まりと混同しないよう、視診の波形・光の揺れで鑑別します。
吸気時反応と Kussmaul 徴候
通常、吸気で JVP は低下します。吸気でも上昇または低下しない場合は Kussmaul 徴候で、拘束性心膜炎・重度の右室機能不全・重度肺高血圧などを示唆します。座位簡便法と併用して「見える/見えないに加え、呼吸でどう変わるか」を観察しましょう。
POCUS 併用:IJV/IVC と“うっ血スコア”
視診が難しい場合は、IJV や IVC の径・虚脱率、腎静脈ドップラーなどを組み合わせた POCUS(ベッドサイド超音波)で右房圧・静脈うっ血の推定を補強します。視診は連続的なモニタリング、POCUS は客観化の裏取りとして役割分担をすると効果的です。
所見 → 次アクション早見表
評価所見を「体位・運動の可否」「呼吸介助」「上申・再評価」に直結させるための早見図です。運用は安全第一で、施設 SOP と主治医の指示を最優先します。
| 項目 | 要点 | NG例 |
|---|---|---|
| 体位 | 30–45°/顎を軽く引く/胸鎖乳突筋を弛緩 | 顎の過伸展/枕が高すぎ胸骨角が見えない |
| 照明 | 斜光(胸側から斜め前)で波動の陰影を作る | 逆光・直上からの強光 |
| 鑑別 | 頸動脈は触れない/光で二相性を観察 | 触診で確認しようとする |
| 読み取り | 胸骨角から頸静脈上端までの垂直距離 | 鎖骨から水平距離を測る(誤り) |
記録テンプレと再評価の刻み
JVP(高さ/座位での可視性)、体位、HJR、呼吸状態(RR・SpO₂・努力性)、浮腫・体重、介入(体位・呼吸介助・運動強度)をセットで記録し、48–72 時間で推移を比較します。再評価は「症状変化時」「運動前後」「利尿・輸液・NPPV 設定変更後」にも行います。
よくある質問(PT向け)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
肥満や短頸で見えません。どうしますか?
まずは座位簡便法で鎖骨上の可視性を確認し、可能ならPOCUS 併用(IJV/IVC/腎静脈)で“うっ血”の客観化を行います。標準法に戻して照明・体位・顎位を調整し、経時変化の追跡を優先します。
参考文献
- Japanese Circulation Society / Japanese Heart Failure Society. Heart Failure Guideline 2025(2025 年改訂版)[ガイドライン公開ページ](外部)
- McGee S. Evidence-Based Physical Diagnosis(頸静脈評価・HJR・Kussmaul の章)
- Beaubien-Souligny W, et al. Venous congestion and ultrasound-based VExUS approach(POCUS によるうっ血評価のレビュー)
- NEJM Videos in Clinical Medicine. Examination of the Jugular Venous Pressure(手順と照明・体位の要点)
※ 学会・論文・教科書の一次情報を基に、理学療法の臨床判断(離床・運動強度・呼吸介助)への落とし込みを行っています。施設の指示系統・SOP を最優先してください。
おわりに
安全の確保 → 体位と照明の最適化 → JVP/HJR/呼吸所見の束ね読み → 介入 → 再評価、という臨床のリズムを守ることで、うっ血の見逃しを減らし負荷設定の精度が上がります。働き方を見直すときの抜け漏れ防止に、面談準備チェック(A4・5分)と職場評価シート(A4)を無料公開しています。印刷してそのまま使えます。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

