KOOS(Knee injury and Osteoarthritis Outcome Score)の評価方法|膝 OA・スポーツ膝の PROM 解釈ガイド

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KOOS(Knee injury and Osteoarthritis Outcome Score)とは?

KOOS(Knee injury and Osteoarthritis Outcome Score)は、膝関節損傷および変形性膝関節症に対する治療効果を、患者自身の視点から評価する患者立脚型アウトカム指標(PROM)です。症状(Symptoms)、痛み(Pain)、日常生活動作(ADL)、スポーツ・レクリエーション(Sport/Rec)、膝関連 QOL(Knee-related QOL)の 5 サブスケール・42 項目で構成され、膝の状態を多面的に捉えられるよう設計されています。1,2

KOOS は、変形性膝関節症だけでなく、ACL 再建術や高位脛骨骨切り術(HTO)、TKA など幅広い膝疾患・治療に用いられており、質問票は自己記入式で 10 分前後で記入可能です。1,3,4 国内では日本語版 KOOS(J-KOOS)が開発され、信頼性・妥当性の検証や基準値の報告もなされているため、膝 OA の評価指標としてガイドラインや臨床研究で広く用いられています。5–7

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KOOS の構成項目とカバーする機能領域

原著 KOOS は 42 項目で、症状(7 項目)・痛み(9 項目)・ADL(17 項目)・Sport/Rec(5 項目)・膝関連 QOL(4 項目) の 5 サブスケールから構成されます。1,2 それぞれの下位尺度がどのような生活機能をカバーしているかを、図でざっくりと押さえておくと、術前後や保存療法のどこに変化が出ているかをイメージしやすくなります。

おおまかには、「症状=腫脹・こわばり・ロッキング感など」「痛み=荷重・階段・夜間などの場面別痛み」「ADL=歩行や階段、立ち座り、家事などの日常生活」「Sport/Rec=スポーツや重い負荷のかかる活動」「QOL=膝の問題が生活全体に与える影響」と整理できます。当ブログの 評価ハブ では、こうした PROM と歩行テストや筋力測定を組み合わせた評価フローもまとめています。

KOOS がカバーする 5 サブスケールと生活機能領域 症状・痛み・ADL・スポーツ/レクリエーション・膝関連QOLの 5 サブスケールと代表的な場面を示した図 KOOS 5 サブスケールと生活機能のイメージ 症状 ・腫脹 ・こわばり ・ロッキング感 など 痛み ・荷重時痛 ・階段昇降時 ・夜間・安静時痛 ADL ・歩行 ・立ち上がり ・家事・外出 など Sport/Rec ・スポーツ ・レクリエーション ・高負荷活動 膝関連 QOL ・将来への不安 ・生活の満足度 ・膝の意識の強さ

評価方法とスコアリング|0〜4 段階から 0〜100 スケールへ

KOOS は各項目を 5 段階(0〜4)で評価します。選択肢の意味は原版では「全く問題ない〜極めて大きな問題」のように定義されており、日本語版でも同様のコンセプトで翻訳されています。1,5–7 サブスケールごとに回答値を合計し、所定の式で 0〜100 に換算します(0=極めて重度の問題/100=問題なし)。

換算式は、おおまかに「{最大理論点 − 実測点} を最大理論点で割り、100 を掛ける」形で、得点が高いほど状態が良いことを示します。2,8 実務では、サブスケールごとの KOOS を「KOOS-Symptoms, KOOS-Pain, KOOS-ADL, KOOS-Sport/Rec, KOOS-QOL」と略記し、カルテにも 0〜100 で記録しておくと、研究論文との比較や TKA 後の経時変化の解釈がしやすくなります。

スコア変化の解釈と MCID・PASS の目安

KOOS の MCID(Minimal Clinically Important Difference)は、対象(ACL, 膝 OA, HTO, TKA など)や解析方法によって幅がありますが、開発グループや KOOS 公式 FAQ では、多くの文脈で 8〜10 ポイント程度を 1 つの目安として示しています。8,9 その後の研究では、HTO 後や KOOS-12 などの短縮版に対して、Pain で 11〜15 ポイント前後、Function や QOL で 10〜17 ポイント前後といった MCID が報告されています。10,11

一方、PASS(Patient Acceptable Symptom State)は「患者が許容できる症状レベル」を示すカットオフで、KOOS Pain 70〜80 台、QOL 70〜80 台といった値が OA や TKA の文脈で提案されています。3,12,13 実地では、「KOOS が MCID を超えて改善したか」「PASS に到達しているか」を、10m 歩行や TUG、片脚立位、X 線所見といった客観データと合わせて解釈し、リハの目標設定や医師へのフィードバックに活かしていくイメージです。

日本語版 KOOS(J-KOOS)と標準値

日本語版 KOOS は cross-cultural adaptation の手続きを経て作成され、日本人膝 OA 患者を対象に信頼性・妥当性・反応性の検証が行われています。5–7 また、変形性膝関節症患者や一般高齢者を対象とした標準値(平均値・標準偏差)の報告もあり、術前・術後、あるいは地域高齢者との比較などに利用できます。6,7,14

日本語版質問票(J-KOOS)は、整形外科関連学会や医療機関のサイトから PDF 形式で配布されていることが多く、使用条件や引用方法が明記されています。5,7,15 ブログや院内資料に原文をそのまま掲載するのではなく、公式配布元の案内に従い、質問票本体はそちらを参照してもらいながら、臨床での運用ポイントや解釈のコツを自分の言葉で補足する、というスタンスが安全です。

臨床での活用例|HTO・TKA・保存療法

KOOS は、ACL 損傷後やスポーツ整形の領域でも用いられますが、リハ場面で出番が多いのは HTT/HTO や TKA 前後の評価です。術前・術後 3 ヶ月・6 ヶ月・1 年など決めたタイミングで KOOS を実施し、「痛みはよくなったが QOL が伸びていない」「ADL は改善したがスポーツ再開にはまだギャップがある」といったパターンを把握することで、リハの重点づけや患者教育の内容を調整しやすくなります。3,10,12,13

保存療法では、運動療法や体重管理、装具療法、関節内注射などと組み合わせて KOOS を 3〜6 ヶ月ごとにフォローします。「安静時痛は改善したが、階段やスポーツでの痛みが残っている」「QOL の項目だけ改善が乏しい」といった情報は、単純な NRS の変化だけでは拾いきれない部分です。こうした PROM の変化を、6 分間歩行や 30 秒椅子立ち上がりテストなどの身体機能評価と重ね合わせることで、患者さんとリハチームが「何をゴールにするか」を共有しやすくなります。

WOMAC・LEFS など他指標との使い分け

KOOS は、変形性膝・股関節症の代表的指標である WOMAC をベースに、より活動度の高い患者もカバーできるようスポーツ・レクリエーションや膝関連 QOL の項目を追加した、拡張版とも言える構造です。1,2 そのため、膝 OA の薬物療法や運動療法、TKA の成績評価では WOMAC が用いられている研究も依然として多い一方で、スポーツ復帰や高機能レベルまで見たい場合、KOOS の方が適している場面も少なくありません。

一方、下肢全体の機能を俯瞰するには LEFS(Lower Extremity Functional Scale)が便利です。当ブログでも、WOMAC の評価方法LEFS の評価方法 を別記事で整理しているので、「膝 OA × 日常生活中心」なら WOMAC/KOOS、「スポーツ復帰まで見たい ACL 症例」なら KOOS+LEFS といった組み合わせを検討するのもおすすめです。

記録とチーム共有のコツ

カルテ記載では、サブスケールごとの値と総合的な解釈をセットにして残しておくと、後から見返しやすくなります。例えば「KOOS(0–100):Symptoms 65→80、Pain 60→82、ADL 55→78、Sport/Rec 30→60、QOL 40→70(術前→術後 6 ヶ月)」のように書くと、「患者主観としてどこが一番伸びているか/まだ課題が残るか」が一目で伝わります。

カンファレンスでは、KOOS の変化とともに、「患者さんのコメント」や「客観評価(歩行速度・TUG・関節可動域など)」を並べることで、医師・看護師・リハ・MSW が同じイメージを共有しやすくなります。「スコア上は ADL や QOL にまだ課題があるが、本人としては『この状態で満足している』」といったギャップを拾えるのも PROM の強みです。

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

KOOS は何点くらい改善したら「リハビリの効果あり」と考えてよいですか?

KOOS の MCID(臨床的に意味のある最小変化量)は、対象や介入、フォロー期間によって異なりますが、開発グループや KOOS 公式 FAQ では、多くの場面で 8〜10 ポイント程度が 1 つの目安とされています。8,9 近年の研究では、HTO や TKA などの文脈で Pain 11〜15 ポイント、Function 13〜17 ポイント前後といった値も報告されており、実際には「おおよそ 10〜15 ポイント程度」をレンジで捉えるのが現実的です。10,11,13

一方で、「数ポイントの変化」でも患者さんが大きな改善として感じているケースもあれば、その逆もあります。KOOS の数字だけで白黒つけるのではなく、「本人の主観的な満足度」「歩行・バランス・筋力など客観指標」「仕事や趣味への復帰状況」などと合わせて総合的に判断することが大切です。それでも、評価やエビデンスを追いかける一方で、「そもそも今の職場の体制では、十分な時間やリソースをかけられない」と感じる場面が続くなら、働き方そのものを見直すタイミングかもしれません。そうした“危険サイン”を整理するには、理学療法士の転職・職場選びガイドも参考になります。

おわりに

膝 OA やスポーツ膝のリハビリでは、「レッドフラッグの除外 → X 線・MRI 所見の確認 → 関節可動域・筋力・バランス・歩行評価 → KOOS など PROM による主観評価 → 目標設定と治療計画 → 再評価」というリズムを押さえておくと、評価結果を治療戦略に結びつけやすくなります。KOOS は、日常生活からスポーツレベルまでカバーしつつ、患者視点の QOL まで含めて追えるスケールなので、TKA・HTO・保存療法のいずれでも「何がどこまで良くなったか」を共有しやすい指標です。

一方で、「評価の重要性は分かるけれど、外来や病棟の時間配分の中で PROM を十分活かし切れていない」と感じる場面も多いと思います。働き方を見直すときの抜け漏れ防止に。見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック( A4・5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。印刷してそのまま使えますので、転職に限らず情報収集や見学の場面でもダウンロードページを活用してみてください。

参考文献

  1. Roos EM, Roos HP, Lohmander LS, et al. Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score (KOOS) – Development of a self-administered outcome measure. J Orthop Sports Phys Ther. 1998;28(2):88–96. doi:10.2519/jospt.1998.28.2.88. Journal site
  2. Roos EM, Lohmander LS. The Knee injury and Osteoarthritis Outcome Score (KOOS): From joint injury to osteoarthritis. Osteoarthritis Cartilage. 2003;11(7):451–463.
  3. Yoshii T, et al. Preoperative factors affecting the achievement of PASS for all four KOOS subscales one year after total knee arthroplasty. J Orthop Funct Phys Ther. 2022;2:32–40. J-STAGE
  4. Wasserstein D, et al. KOOS Pain as a marker for significant knee pain two and six years after ACL reconstruction. Clin Orthop Relat Res. 2015;473(10):3106–3113. doi:10.1007/s11999-015-4306-6. PubMed Central
  5. 佐々木英嗣ほか. 日本語版 Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score(KOOS)の異文化適応と妥当性の検証. 日本整形外科学会雑誌. 2011;85(11):892–898.
  6. 佐々木英嗣ほか. 日本語版 KOOS の標準値. JOSKAS. 2016;41:1007–1014. J-STAGE
  7. 厚生労働省. 膝の状態についての質問票(日本語版 KOOS 質問票). 2009. PDF
  8. KOOS Official Website. KOOS FAQ: MIC and sample size. (Accessed 2025). koos.nu
  9. Roos EM. 30 years with the Knee injury and Osteoarthritis Outcome Score (KOOS). Osteoarthritis Cartilage. 2024;32(4):555–563. Journal site
  10. Jacquet C, et al. Evaluation of the Minimal Clinically Important Difference for KOOS after high tibial osteotomy. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2021;29(10):3204–3214. doi:10.1007/s00167-020-06026-0. PubMed
  11. Eckhard L, et al. Minimal important change and minimum clinically important difference for KOOS-12 after total knee arthroplasty. Physiother Res Int. 2021;26(4):e1922. doi:10.1002/pri.1922. PubMed
  12. Emara AK, et al. Diagnosis-specific thresholds of the Minimal Clinically Important Difference and Patient Acceptable Symptom State for KOOS Pain, KOOS-PS, and KOOS JR. J Bone Joint Surg Am. 2024;106(9):e37. PubMed
  13. Migliorini F, et al. Minimal clinically important difference (MCID), substantial clinical benefit (SCB) and patient acceptable symptom state (PASS) for knee outcome measures: A systematic review. Knee Surg Relat Res. 2024;36(1):12. Journal site
  14. Watabe T, et al. Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score changes and MCID after total knee arthroplasty. Knee. 2025;42:120–128. PubMed

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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