2026 年版|PT・OT・ST に本当にコスパが良い資格マップとは
リハ職向けの資格は年々増えており、「何から取ればいいのか」「本当に給料やキャリアに効くのか」が見えにくくなっています。2026 年の診療報酬・介護報酬の改定では、リハ・栄養・口腔・在宅の連携や委員会活動が一段と重視される流れにあり、資格をどう選ぶかはそのまま「どのフィールドでどんな役割を担うか」という働き方の設計にも直結します。
本記事では、PT・OT・ST が取り得る代表的な資格をピックアップし、「取得難易度」「勉強時間・費用」「キャリアへの効き方」「委員会/加算との相性」という 4 つの軸から“コスパ”を整理します。あくまで個人差はありますが、闇雲に数を増やすのではなく、「どの順番で」「どのフィールドを意識して」資格を選ぶかの地図として使っていただくことを目的としています。
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資格マップの見方|「難易度 × キャリアへの効き方」で考える
本記事の資格マップでは、単に「有名かどうか」ではなく、①取得難易度(勉強時間・合格率)、②費用(受験料・講習費・年会費など)、③キャリアへの効き方(役割・市場価値・転職時の評価)、④委員会/加算とのつながり の 4 軸で整理します。イメージとしては、横軸が「キャリアへの効き方」、縦軸が「取得に必要なリソース量」で、右下(負担はほどほど、効き目は大きい)ほど“コスパが良い”ゾーンと考えるとわかりやすいです。
また、資格ごとに「おすすめのキャリア像(急性期/回復期/生活期/介護領域など)」と「向いている人の特徴」も簡単に添えます。例えば、将来的に教育や委員会活動、管理職を目指したい人は学会系の認定資格が土台になりやすく、一方で現場での即効性を重視するなら、3 学会合同呼吸療法認定士や NST 専門療法士など、加算やチーム活動と直結しやすい資格から優先する戦略もあり得ます。
土台づくりになる学会系資格:認定 PT・OT・ST
長期的にリハ職としてキャリアを積み上げるうえで、まず検討したいのが各専門職協会が運営する「認定 PT・認定 OT・認定 ST」などの学会系資格です。いずれも一定年数の臨床経験と学会参加、症例報告や筆記試験などが求められ、取得までのハードルは決して低くはありませんが、その分だけ「専門領域を深めている」というメッセージ性が強く、教育担当や委員会メンバー、将来的な管理職候補として評価されやすい土台になります。
難易度とコストの面では“重い資格”に分類されますが、特定の疾患領域(脳卒中・呼吸・内部障害など)と組み合わせて専門性を打ち出しやすいのがメリットです。また、学会活動を通じて他施設とのネットワークが広がることで、転職や共同研究、勉強会の機会が増えることも少なくありません。「今すぐ給与が上がる」タイプの資格ではありませんが、10 年スパンでキャリアを見据えたときの基礎体力づくりとして位置づけると良いでしょう。
呼吸・循環系:3 学会合同呼吸療法認定士・心臓リハ指導士・心不全療養指導士
急性期や集中治療、心大血管リハ領域で働く PT・OT・ST にとって、呼吸・循環系の資格は「チーム医療の共通言語」を持つ意味でもコスパの良い選択肢です。3 学会合同呼吸療法認定士は、呼吸管理や人工呼吸器、酸素療法などの知識を体系的に整理できる資格で、ICU や急性期病棟での信頼性向上に直結します。心臓リハビリテーション指導士や心不全療養指導士は、循環器内科医や看護師、心臓リハスタッフとの連携や症例検討で評価されやすく、心リハ加算を算定する施設では重宝されやすいポジションです。
これらの資格は、試験対策にある程度まとまった勉強時間が必要な一方で、症例の幅がそのまま学びの場になるという特徴があります。臨床での呼吸・循環管理に関する疑問を軸に学習を進めることで、資格勉強が日々の業務の質の向上にもつながりやすく、結果的に「患者アウトカム → 評価・加算 → 自己評価・昇進」に波及していくイメージを持ちやすい領域です。
栄養・代謝:NST 専門療法士・糖尿病療養指導士など
回復期や慢性期、介護保険領域で強みを出したい人にとって、栄養・代謝系の資格は非常に相性が良い分野です。NST 専門療法士は、栄養サポートチーム( NST )での活動を通じて、栄養評価・栄養管理計画・多職種カンファレンスの中核を担う人材として位置づけられる資格です。糖尿病療養指導士(CDE 系)は、運動療法と食事療法をセットで説明できるリハ職としての価値を高め、生活習慣病患者が多い一般病棟や地域リハでの信頼感につながります。
これらの資格は、直接のリハ加算よりも、「栄養管理体制加算」「重症度・医療・看護必要度」「フレイル・サルコペニア対策」といった施設全体の評価と結びつきやすいのが特徴です。そのため、資格取得をきっかけに栄養委員会や NST 活動に関わることで、病院や施設内での発言力や役割の幅が広がりやすく、キャリアの“横への広がり”を狙いたい人に向いていると言えます。
嚥下・口腔・褥瘡・内部障害:委員会や加算と相性が良い資格
嚥下・口腔・褥瘡・内部障害の領域は、診療報酬・介護報酬のどちらでも加算や体制評価が細かく設定されているため、関連資格の“制度との相性”が良い分野です。嚥下リハビリテーション関連の資格や研修修了証は、摂食嚥下チームや口腔管理体制の構築に関わる場面で、PT・OT・ST が専門性を示すうえで役立ちます。褥瘡ケアや創傷管理に関する資格・研修は、褥瘡対策委員会やラウンドの中で、ポジショニングや離床、栄養・体圧分散の観点からジェネラルな発言ができるようになる点でメリットがあります。
内部障害領域では、呼吸・循環・代謝・腎機能など複数の慢性疾患が絡み合うケースが多く、「〇〇専門療法士」のような資格は、患者・家族だけでなく多職種からの信頼にもつながります。これらの資格は、取得までのルートが複雑だったり、情報が分散していたりするため、「自施設での委員会活動や加算とどう結びつきそうか」という視点で優先順位をつけるのがおすすめです。
代表的な資格の「コスパ」早見表
ここでは、PT・OT・ST が取得を検討しやすい代表的な資格を例に、「取得難易度」「勉強時間の目安」「費用感」「キャリアへの効き方」「委員会/加算との関係」をざっくり比較します。実際の受験条件や費用は必ず公式情報で最新のものを確認してください。
| 資格名 | 主な対象フィールド | 取得難易度 | 勉強時間・費用の目安 | キャリアへの効き方 | 委員会/加算との関係 |
|---|---|---|---|---|---|
| 認定理学療法士・認定作業療法士・認定言語聴覚士 | 専門領域全般(急性期〜生活期) | 高め(長期戦) | 数年単位の学会参加・症例・試験対策が必要 | 専門性の証明・教育担当・管理職候補として評価されやすい | 疾患別リハ委員会や教育委員会などで中心的役割を担いやすい |
| 3 学会合同呼吸療法認定士 | 急性期・集中治療・呼吸器領域 | 中〜高 | 数か月の集中勉強+講習会・試験費用 | ICU・呼吸サポートでの信頼性向上、転職時のアピールにも有利 | 呼吸サポートチーム・安全管理委員会などで活躍しやすい |
| 心臓リハビリテーション指導士・心不全療養指導士 | 循環器・心大血管リハ・心不全チーム | 中〜高 | 症例経験+セミナー受講+筆記試験対策が必要 | 心リハ専門病院や心不全外来でのポジション確立に有利 | 心大血管リハ加算・心不全チーム加算など施設評価と相性が良い |
| NST 専門療法士 | 急性期〜回復期・生活期の栄養管理 | 中 | NST 活動経験+講習会受講・試験対策が必要 | 栄養・リハ・嚥下をつなぐ役割として評価されやすい | 栄養管理体制加算や NST 加算に直結しやすい |
| 糖尿病療養指導士(CDE 系) | 一般病棟・地域包括ケア・外来・在宅 | 中 | 一定の症例経験+講習・試験費用が必要 | 運動療法と生活指導をセットで説明できる強みになる | 糖尿病教室・療養指導チームなど多職種連携の場で活躍しやすい |
| 摂食嚥下・口腔ケア関連資格 | 回復期・療養・介護施設・在宅 | 中(研修・講習中心) | 研修会参加・ケースレポートなどが中心 | 摂食嚥下チームや口腔管理体制の中心メンバーとして期待される | 口腔管理体制加算や誤嚥性肺炎予防の取り組みと親和性が高い |
| 褥瘡・創傷ケア関連資格 | 急性期・療養・介護施設 | 中 | 講習会・事例検討・ラウンド参加が中心 | ポジショニング・離床・栄養を含めた褥瘡対策で存在感を発揮 | 褥瘡対策加算やハイリスク患者ケア加算と紐づけやすい |
現場の詰まりどころ:「資格を取っても意味がない」の正体
現場でよく聞かれるのが、「資格を取っても給料がほとんど変わらない」「結局、委員会や書類仕事が増えるだけで報われない」という声です。これは、多くの場合「資格取得そのものが評価項目になっていない」「資格を活かすポジションや役割設計が組織側で準備されていない」ことが原因です。逆に言えば、評価制度や人事の考え方が変わらない限り、どれだけ資格を増やしても“自己満足で終わりやすい”というのも事実です。
大事なのは、「この資格を取ることで、どんなチームや委員会で、どんな役割を担えるようになるか」を具体的にイメージし、その役割を組織側とすり合わせておくことです。そのうえで、「今の職場で活かしきれないかもしれない」という感覚が強い場合には、資格を活かせる職場やポジションへのシフトも選択肢になります。そうした整理や情報収集の一歩としては、転職エージェントの資料や面談特典を活用し、他施設で資格がどのように評価されているかを知っておくことも役に立ちます。
よくある質問(FAQ)
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Q1. 資格は何年目くらいから目指すのがおすすめですか?
臨床 1〜2 年目は、まず配属先のフィールドで基本的な評価・治療・連携の流れを身につけることが優先です。資格取得を本格的に意識するのは、3〜5 年目で「自分が興味を持てる領域」「今後伸ばしたい強み」が見えてきたタイミングが現実的です。その時点で、認定 PT・OT・ST のような長期戦の土台を少しずつ整えるか、3 学会合同呼吸療法認定士や NST 専門療法士など、勤務先と相性の良い資格から着手するパターンが多い印象です。
Q2. 資格を取れば本当に給料は上がりますか?
資格取得そのものが「基本給アップ」の条件になっている職場もあれば、ほとんど評価されない職場もあります。多くの法人では、資格単体というより「資格を活かした役割(委員会・チーム医療・教育・管理業務など)」が評価の対象になりやすいです。そのため、受験前に就業規則や人事評価の基準を確認し、「この資格を取ったらどんなポジションに近づけそうか」を上司と話しておくことが大切です。
Q3. 認定 PT と呼吸療法認定士など、どちらを先に取るべきでしょうか?
「長期的なキャリアの土台」を優先するなら認定 PT・OT・ST、「現在の配属先での即効性」を重視するなら 3 学会合同呼吸療法認定士などの領域特化型資格を先に目指すケースが多いです。例えば、急性期の呼吸器系病棟で働き続ける前提なら呼吸系資格を先に、その後に認定 PT を検討する二段構えも現実的です。どちらが正解というより、「今のフィールドでどう役立てたいか」と「5〜10 年後にどんな役割を担いたいか」のバランスで決めるイメージです。
おわりに|「なんとなく全部取る」から卒業する
資格そのものはあくまで手段であり、「とりあえず勉強になるから」「同期が受けるから」という理由だけで増やしていくと、時間とお金だけが先に消耗してしまいます。一方で、自分が大事にしたいフィールド(急性期・回復期・生活期・介護領域など)と、将来担いたい役割(専門職として深掘りするのか、ジェネラリストとして横に広げるのか)を明確にしたうえで資格を選ぶと、学びの方向性とキャリアの方向性がそろいやすくなります。
「今の職場でどこまで資格を活かせそうか」「もし別のフィールドに移るならどんな資格が強みになるか」を整理したいときは、面談準備チェックリストや職場比較の視点をまとめたマイナビコメディカル活用ガイドも参考にしながら、自分にとってコスパの良い学び方・資格の選び方を考えてみてください。
参考文献・資料
- 日本理学療法士協会・日本作業療法士協会・日本言語聴覚士協会:認定 PT・認定 OT・認定 ST 制度の概要および受験要件.
- 日本呼吸療法医学会ほか:3 学会合同呼吸療法認定士制度 概要・試験案内.
- 日本心臓リハビリテーション学会:心臓リハビリテーション指導士制度・更新要件等.
- 日本糖尿病療養指導士認定機構:糖尿病療養指導士(CDE)認定制度・受験の手引き.
- 日本静脈経腸栄養学会(JSPEN):NST 専門療法士制度の概要・研修会案内.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

