骨粗鬆症の栄養は「 4 本柱 」で考える
骨強度は「骨密度 × 骨質」で決まり、食事は両者に影響します。PT が患者指導でまず押さえるのは、① カルシウム( Ca )② たんぱく質 ③ ビタミン D ④ ビタミン K の 4 本柱です。日本では Ca とビタミン D が不足しがちで、日光曝露の減少や魚食の低下が背景にあります。基礎疾患や服薬状況(例:ワルファリン)により個別化が必要な点も臨床の要点です。
数値目標は年齢・体格・疾患で調整しますが、一般的には Ca は成人で 650–750 mg/日、ビタミン D は 9.0 μg/日(成人の目安量)、高齢者のたんぱく質は少なくとも 1.0 g/kg/日を確保する方針が現実的です。ビタミン D の血中指標 25(OH)D は 30 ng/mL 以上を充足とする国内指針が広く用いられます。低栄養診断(GLIM)の使い方 も合わせて確認しましょう。
栄養目標と食品の置き換え目安( 2025 版)
まず前提として、医師の指示や腎機能・服薬により摂取量は調整します。食事摂取基準 2025 を起点に、患者が「何をどれくらい食べればよいか」を即答できる形に落とします。下表は一般成人の目安です( CKD/ワルファリン等は後述)。
| 栄養素 | 目標量の目安 | 主な食品例 | 1 日の置き換え目安 | 
|---|---|---|---|
| カルシウム | 男性 750 mg / 女性 650 mg | 牛乳・ヨーグルト、干しエビ、小松菜、木綿豆腐 | 不足 200 mg → 牛乳 180 g 又は ヨーグルト 170 g 又は 木綿豆腐 230 g | 
| ビタミン D | 9.0 μg(成人の目安量) | 鮭・サバ・イワシ、きくらげ、干し椎茸 | 鮭 切身 1 切(約 100 g)で 10 μg 前後 | 
| ビタミン K | 十分摂取(定量目標なし) | 納豆、ほうれん草、ブロッコリー | 納豆 1 パック(約 45 g)/日 をまず習慣化 | 
| たんぱく質 | 高齢者は ≥ 1.0 g/kg/日 | 魚、肉、卵、乳、大豆 | 毎食 25–30 g のたんぱく質食品(例:魚 100 g+納豆 1/2) | 
Ca と D は相補関係にあり、D が不足すると Ca 吸収が低下します。血清 25(OH)D は 20 ng/mL 未満で欠乏、20–30 ng/mL 不足、30 ng/mL 以上で充足とする国内判定が広く用いられます。関連:ハリス–ベネディクト式でエネルギー設計
1 日モデル(和食ベース)
患者説明に使えるシンプルな 1 日例です。Ca・D・K・たんぱく質の同時確保と咀嚼・嚥下の配慮(刻み/とろみ等)をあわせて指導します。
- 朝:納豆ご飯+小松菜の味噌汁+ヨーグルト( Ca・K・たんぱく質)
- 昼:鮭の塩焼き 100 g+ひじき煮+豆腐の小鉢( D・たんぱく質・ Ca )
- 間:牛乳 200 mL( Ca 補填)
- 夜:鶏むね 100 g の生姜焼き+ブロッコリー胡麻和え+きのこ汁( K・たんぱく質)
実装支援:活動量計で 23 Ex/週 の作り方
OK / NG 早見表(摂り方のコツ)
| テーマ | OK(推奨) | NG(控える) | 理由・補足 | 
|---|---|---|---|
| Ca × D | 魚+乳製品の組合せ/屋外の短時間日光 | D 不足のまま Ca だけ増やす | D 不足は Ca 吸収低下と PTH 上昇に繋がる | 
| ビタミン K | 納豆 1 パック/日+青菜 | ワルファリン中は摂取量の大幅な日差 | K 変動は INR 不安定化。一定量で“安定”を目指す | 
| リン | 未加工の魚・肉・乳で確保 | 加工食品・清涼飲料の過剰 | 無機リン添加は吸収率が高く Ca 代謝に悪影響 | 
| 塩分 | 減塩の醤油・味噌を活用 | カップ麺・漬物の常用 | 高 Na は Ca 排泄↑/生活習慣病悪化 | 
病態・薬剤別の注意(必ず個別化)
CKD:リン・カリウム制限や活性型 D の管理が必要。食品添加由来のリンは吸収率が高く血管石灰化のリスクも考慮します。GFR・リン・ Ca・PTH を見ながら栄養士と協働してください。GIOP(ステロイド):骨折リスクが高く、Ca・ D の確保は必須。ワルファリン:ビタミン K は「ゼロ」ではなく「毎日ほぼ一定量」を徹底。
読み替えの参考:高齢者の栄養設定(PT 実務)
PT の患者指導 3 ステップ(外来・病棟 10 分)
① 食行動スクリーニング:乳製品・魚・納豆・加工食品の頻度、日光曝露、体重変化を 1 分で確認。② 目標設定:Ca 650–750 mg/ D 9 μg/たんぱく質 ≥ 1.0 g/kg/K は“安定摂取”。③ 置き換え処方:不足 200 mg Ca を“牛乳 180 g”など具体的に置き換え、次回フォローで達成度と体重・便通・血液データを確認。
納豆と乳製品の日本コホート
閉経後女性で、納豆の習慣摂取が骨粗鬆症性骨折リスク低下と関連(交絡調整後)。“豆腐など他の大豆”とは異なる所見で、MK-7( K2 )の関与が示唆されます。日常で取り入れやすい 1 食材として推奨しやすい知見です。Kojima 2020
同コホートでは牛乳摂取増と骨折リスク低下の関連も報告。Ca 供給源として“牛乳 or ヨーグルトを 1 回/日”の提案は実務的です。Kojima 2023
まとめ
- 柱は「 Ca・たんぱく質・ビタミン D・K 」。D 不足があると Ca 吸収が落ちる。
- 不足 200 mg の Ca は「牛乳 180 g」「ヨーグルト 170 g」などで“具体的に置換”。
- CKD/ワルファリン/ステロイドでは個別管理(量の変動を避け、チームで合意)。
- 実装は「①スクリーニング → ②目標 → ③置き換え処方」を 10 分でルーチン化。
参考文献
- 日本骨粗鬆症学会. 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2023. 出版物ページ: https://www.josteo.com/publications/guideline/
- 厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準( 2025 年版 )」策定検討会報告書(全文・正誤反映). 2025. ページ / PDF
- Okazaki R, et al. Assessment criteria for vitamin D deficiency/insufficiency in Japan. J Bone Miner Metab. 2017;35(1):1–5. doi:10.1007/s00774-016-0805-4. PubMed
- Volkert D, et al. ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clin Nutr. 2022;41(4):958–989. doi:10.1016/j.clnu.2022.01.024. PubMed
- Kojima A, et al. Natto intake and osteoporotic fracture risk. J Nutr. 2020;150(3):599–605. doi:10.1093/jn/nxz292. PubMed
- Kojima A, et al. Dairy intake and osteoporotic fracture risk in Japanese women. J Nutr Health Aging. 2023;27(3):228–237. doi:10.1007/s12603-023-1898-1. PubMed

 
  
  
  
  
