嚥下観察は「条件 → 所見 → 仮説 → 次の対応 → 申し送り」の順で記録します
栄養・嚥下領域の全体像から確認する
結論:ベッドサイドの嚥下観察では、5期を正確に言い当てることより、どの条件で何が起きたかを記録し、疑う段階と次の評価・相談へつなげることが重要です。本記事では、成人の摂食嚥下をみるPT・OT・ST・看護師に向けて、「条件 → 所見 → 5期で仮説整理 → 次の対応 → 再評価 → SBAR」の記録方法を整理します。
5期モデルだけで障害部位や誤嚥の有無を確定することはできません。むせがない場合も安全とは限らず、SpO₂の変化も単独で誤嚥を判定する指標にはなりません。経口試行の可否や食形態の変更、VE・VFなどの必要性は、施設手順と多職種評価に基づいて判断してください。
嚥下観察は6ステップで記録すると再評価しやすくなります
最初に固定するのは、検査の数ではなく観察と記録の順番です。次の6ステップで残すと、担当者が変わっても「何を見て、なぜ次へ進んだか」を共有しやすくなります。
| 手順 | 確認すること | 記録例 |
|---|---|---|
| ① 実施条件 | 覚醒、呼吸、姿勢、口腔状態、指示理解 | 「覚醒良好、呼吸安定、車椅子座位」 |
| ② 摂取条件 | 姿勢、食品・性状、一口量、介助、ペース | 「体幹支持あり、ゼリー少量、全介助」 |
| ③ 所見 | 取り込み、咀嚼、送り込み、残留、咳、声、呼吸、食後症状 | 「左頬部残留あり、嚥下後に湿性嗄声」 |
| ④ 仮説 | 5期のうち詳しく確認したい段階 | 「準備期〜口腔期の問題を疑う」 |
| ⑤ 次の対応 | 中断、条件調整、再評価、専門職への相談 | 「一口量を統一し、STへ再評価を相談」 |
| ⑥ 再評価・共有 | 次回そろえる条件と確認項目 | 「同姿勢・同量で残留と声質を再確認」 |

ポイントは、所見だけを書かないことです。「むせあり」「残留あり」だけでは、次回の担当者が同じ条件を再現できません。姿勢、一口量、食品・性状、介助方法などを先に残します。
経口観察の前と途中で「進める・止める・相談する」を確認します
嚥下観察では、経口試行を始めない判断や、途中で中断する判断も重要です。具体的な実施基準は患者ごとの状態と施設手順を優先し、全身状態が不安定なときは観察を続けることより安全確保を優先します。
| 確認領域 | 注意する変化 | その場の対応 | 記録例 |
|---|---|---|---|
| 呼吸 | 呼吸苦、努力性呼吸、頻呼吸、喘鳴、咳の反復・増加 | 経口刺激を中断し、呼吸状態と全身状態を確認する | 「咳の反復と呼吸数増加のため中断」 |
| 覚醒・反応 | 普段より覚醒が低い、反応性が低下する、課題への参加が難しい | 経口試行を見合わせ、時間帯や全身状態を再確認する | 「覚醒低下のため本日の経口観察を見合わせ」 |
| 姿勢 | 必要な体位を安全に保持できない、途中で大きく崩れる | 支持方法を見直し、安全な観察条件を再設定する | 「体幹支持を追加し条件を再設定」 |
| 口腔 | 多量の残留物、著しい乾燥、義歯の問題などがある | 口腔ケアや必要な調整を先に行う | 「口腔ケア後に再評価予定」 |
| 嚥下後 | むせ・咳の反復、声質悪化、呼吸状態の悪化、喀出困難 | 刺激を増やさず中断し、担当職種へ共有する | 「嚥下後に湿性嗄声持続。中断しSTへ共有」 |
むせなし=安全、SpO₂低下=誤嚥、ではありません
ベッドサイドの観察所見だけでは、誤嚥の有無を確定・除外できません。また、SpO₂は呼吸・循環を含む全身状態をみる補助情報にはなりますが、その変化だけで誤嚥の有無を判断することはできません。疑いが残る場合は、経過と複数の所見を共有し、必要に応じてVE・VFなどの追加評価へつなげます。
5期は「障害部位を決める」のではなく、所見を整理する枠として使います
臨床的な5期モデルは、先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期に分けて摂食嚥下を整理する枠組みです。ただし、実際の摂食嚥下では各段階が連続・重複するため、1つの所見から障害段階を確定しないことが重要です。
5期それぞれの生理や特徴を詳しく確認したい場合は、摂食嚥下5期モデルの各期の特徴と見分け方で整理しています。本記事では、観察結果を記録・共有するために必要な範囲へ絞ります。
| 段階 | 観察すること | 記録例 |
|---|---|---|
| 先行期 | 食物への注意、開始、指示理解、食具操作、食事姿勢 | 「食事開始に声かけ必要、注意が逸れやすい」 |
| 準備期 | 取り込み、咀嚼、食塊形成、頬・歯肉周囲への残留 | 「咀嚼に時間を要し、左頬部残留あり」 |
| 口腔期 | 送り込み、口腔内残留、前方への漏れ | 「送り込み遅延、嚥下後も舌背に残留」 |
| 咽頭期を疑う所見 | むせ、咳、声質、嚥下後の呼吸変化、喀出 | 「嚥下後に湿性嗄声。咳払い後も持続」 |
| 食道期を疑う所見 | 胸部つかえ感、逆流感、胸焼け、食後症状 | 「食後に胸部つかえ感あり。発症時間を記録」 |
複数の段階が疑われる場合は、無理に1つへ決める必要はありません。「準備期〜口腔期を疑う」「口腔残留に加えて咽頭期を疑う所見あり」のように、観察できた事実と仮説を分けて記録します。
記録は「条件・所見・解釈・対応・再評価」の5項目をそろえます
嚥下観察を再評価につなげるには、結果だけでなく条件と次回確認する内容まで残します。特に、姿勢、一口量、食品・性状、介助方法が抜けると、次回の所見と比較しにくくなります。
| 枠 | 記録する内容 | 記録例 |
|---|---|---|
| 条件 | 姿勢、食品・性状、一口量、介助、ペース、時間帯 | 「車椅子座位、体幹支持あり、ゼリー少量、全介助」 |
| 所見 | 取り込み、咀嚼、送り込み、残留、咳、声、呼吸、食後症状 | 「左頬部残留あり。嚥下後に湿性嗄声」 |
| 解釈 | 詳しく確認したい段階と、その根拠 | 「準備期〜口腔期の問題を疑う。咀嚼後の残留が根拠」 |
| 対応 | 中断、条件調整、追加評価、相談 | 「一口量を統一し、STへ食事場面の再評価を相談」 |
| 再評価 | 次にそろえる条件と確認する所見 | 「同姿勢・同量で、食事後半の残留と声質を確認」 |
一文で残すなら「条件 → 所見 → 判断 → 依頼」の順です
たとえば、次のようにまとめます。
「車椅子座位・体幹支持ありでゼリーを少量ずつ全介助。食事後半に送り込みが遅くなり、左頬部残留と嚥下後の湿性嗄声を認めた。準備期〜口腔期の問題に加えて咽頭期を疑う所見もあるため本日は中断し、STへ食事場面の再評価を相談する。」
食形態や粘度、代償姿勢は、5期への分類だけで一律に変更するものではありません。既存の指示、施設手順、専門評価を踏まえて検討し、変更した場合は前後の条件と所見を比較できるようにします。
嚥下5相の観察フロー記録シートPDF
安全確認、5期への仮説整理、最小観察、方針・再評価、SBAR申し送りを1枚で残せる嚥下5相の観察フロー記録シートです。ベッドサイドの所見を、次の担当者が確認できる形で残すために使用できます。
プレビューを開く
SBARでは「何が起きたか」だけでなく「何を確認してほしいか」まで伝えます
申し送りでは、観察結果を並べるだけでなく、次の担当者へ何を確認・判断してほしいのかまで伝えます。SBARにすると、背景と所見、依頼内容を分けやすくなります。
| 要素 | 伝えること | 例 |
|---|---|---|
| S | 今回起きた変化・困りごと | 「食事後半に湿性嗄声が出現しました」 |
| B | 姿勢・食品・介助・全身状態などの条件 | 「車椅子座位、体幹支持あり、ゼリー少量、全介助です」 |
| A | 観察所見と疑う段階 | 「左頬部残留と送り込み遅延があり、準備期〜口腔期の問題に加えて咽頭期を疑う所見もあります」 |
| R | 依頼・次回確認してほしいこと | 「同条件の食事場面をSTにも確認してもらい、追加評価の必要性を相談したいです」 |
「咽頭期が悪いです」「誤嚥しています」と確定的に伝えるのではなく、観察できた事実と、その事実から考えた仮説を分けて共有します。
嚥下観察の記録で起きやすい5つの失敗
記録が役立たなくなる原因は、観察不足だけではありません。「条件と所見が混ざる」「仮説が確定診断のように記載される」といった情報整理のずれを避けることが重要です。
| 失敗 | 問題 | 修正方法 |
|---|---|---|
| 「むせあり」だけで終わる | どの条件で起きたか再現できない | 食品、一口量、姿勢、介助、発生時点を一緒に書く |
| 5期を必ず1つに決める | 複数段階にまたがる問題を見落とす | 複数候補を残し、それぞれの根拠を書く |
| 所見を診断名のように書く | ベッドサイド観察で確認できる範囲を超える | 「所見」と「疑う段階」を分ける |
| 複数条件を同時に変える | 何が所見を変えたのか判断しにくくなる | 変更した条件を明確にして前後を比較する |
| 申し送りが所見の羅列になる | 次の担当者が何をすべきか分からない | 最後に「依頼・次回確認事項」を1つ明示する |
よくある質問
Q1. 5期のうち、問題がある段階を必ず1つに決めますか?
いいえ。摂食嚥下は連続した動作で、複数の段階に問題がまたがることがあります。「準備期〜口腔期を疑う」のように複数候補を残し、それぞれの根拠となった所見を記録します。
Q2. SpO₂が下がったら「誤嚥」と記録してよいですか?
SpO₂の変化だけで誤嚥と判断することはできません。呼吸・循環状態や測定条件などの影響も受けるため、「SpO₂が基準値から低下した」という観察事実として記録し、咳、声質、呼吸状態、全身状態などと合わせて評価します。
Q3. むせがなければ安全と判断できますか?
判断できません。ベッドサイドの臨床所見だけでは誤嚥を確実に除外できないため、むせの有無だけで安全性を決めず、声質、咳、呼吸、食後の変化、既往などを含めて評価します。疑いが残る場合は、専門職へ共有してVE・VFなどの追加評価を検討します。
Q4. 観察で問題があれば、食形態やとろみをすぐ変更しますか?
5期の観察所見だけで一律に変更するものではありません。現在の指示、施設手順、食事場面の評価、必要な専門評価を踏まえて多職種で検討します。変更する場合は、変更前後の条件と所見を記録して比較します。
Q5. 記録は最低限どこまで書けばよいですか?
条件・所見・解釈・対応・再評価の5項目を基本にします。特に姿勢、一口量、食品・性状、介助方法などの条件を残しておくと、次回も同じ条件で比較しやすくなります。
次の一手
参考文献
- Leopold NA, Kagel MC. Dysphagia–ingestion or deglutition?: a proposed paradigm. Dysphagia. 1997;12(4):202-206. doi: 10.1007/PL00009537 (PubMed: 9294940)
- Matsuo K, Palmer JB. Anatomy and physiology of feeding and swallowing: normal and abnormal. Phys Med Rehabil Clin N Am. 2008;19(4):691-707. doi: 10.1016/j.pmr.2008.06.001 (PubMed: 18940636)
- Matsuo K, Palmer JB. Coordination of mastication, swallowing and breathing. Jpn Dent Sci Rev. 2009;45(1):31-40. doi: 10.1016/j.jdsr.2009.03.004 (PubMed: 20161022)
- O’Horo JC, Rogus-Pulia N, Garcia-Arguello L, Robbins J, Safdar N. Bedside diagnosis of dysphagia: a systematic review. J Hosp Med. 2015;10(4):256-265. doi: 10.1002/jhm.2313 (PubMed: 25581840)
- Britton D, Roeske A, Ennis SK, Benditt JO, Quinn C, Graville D. Utility of pulse oximetry to detect aspiration: an evidence-based systematic review. Dysphagia. 2018;33(3):282-292. doi: 10.1007/s00455-017-9868-1 (PubMed: 29243086)
- Cichero JAY, Lam P, Steele CM, et al. Development of International Terminology and Definitions for Texture-Modified Foods and Thickened Fluids Used in Dysphagia Management: The IDDSI Framework. Dysphagia. 2017;32(2):293-314. doi: 10.1007/s00455-016-9758-y (PubMed: 27913916)
- Yang S, Park JW, Min K, et al. Clinical Practice Guidelines for Oropharyngeal Dysphagia. Ann Rehabil Med. 2023;47(Suppl 1):S1-S26. doi: 10.5535/arm.23069 (PubMed: 37501570)
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

