この記事のゴール(誰に・何がわかるか)
臨床で伸びる学び方の流れを見る(PT・OT キャリアガイド)
本記事は、作業療法士としての「評価」を整理し直したい新人 OT・PT 向けのガイドです。疾患別評価や ROM・筋力などのチェックに加えて、「作業そのもの」「生活」「環境・文脈」をどう評価に落とし込むかを、現場で使いやすいレベル感でまとめます。
特に、評価が「情報収集で終わってしまう」「結局 FIM と ROM ばかりになってしまう」と悩む方に向けて、 OT らしい評価の切り口と、初期評価から再評価までのざっくりとした流れを示します。この記事を読み終えるころには、明日からのカルテ記載やカンファレンスで「 OT の視点」を言語化しやすくなることを目標にしています。
作業療法士の評価の全体像( OTIPM × ICF )
作業療法士の評価は、「からだの機能」を測るだけでなく、作業パフォーマンスと、その背景にある環境・文脈まで含めて捉えることが特徴です。国際生活機能分類( ICF )でいえば、「心身機能・構造」「活動」「参加」「環境因子」「個人因子」をバランスよく押さえ、生活のどの場面がボトルネックになっているかを明らかにします。
介入プロセスモデルとしてよく挙げられる OTIPM では、作業遂行の観察 → 文脈・要因の分析 → 目標設定 → 介入 → 再評価という流れを取ります。評価は「最初に一度だけ行うイベント」ではなく、目標や介入を微調整するためのサイクルの一部です。臨床では、カルテやインテークで得られる情報、観察、標準化検査を組み合わせて、限られた時間でこのサイクルを回していくことになります。
作業パフォーマンスの評価(作業ベースのツール)
OT らしさが最も出るのが、作業パフォーマンスの評価です。ここでは、食事・更衣・排泄・移動といった日常生活動作( ADL )だけでなく、家事・仕事・趣味・育児などの手段的日常生活動作( IADL )や役割、余暇活動までを含めて捉えます。
代表的な評価として、 COPM ( Canadian Occupational Performance Measure )や AMPS 、作業の優先順位付けに使いやすい「作業の価値・困りごと」を見える化するツールなどがあります。日常的にこれらをすべて使えなくても、「本人が大事にしている作業」と「今困っている作業」を聞き出し、その作業中の様子を観察するという発想を持つだけでも評価の質は変わります。
ポイントは、“できるか / できないか” だけでなく “どのように行っているか” “どんな工夫や代償があるか”まで観察することです。同じ「更衣が自立」の人でも、時間がかかる・疲労が強い・転倒リスクが高いなど、作業の「質」は大きく違います。この「質」を言語化することが、 OT の評価レポートの強みになります。
心身機能・活動と共通スケールの位置づけ
ROM や筋力、感覚、注意・記憶・遂行機能などの認知機能評価は、 OT・PT・ ST を問わず多職種で共有される「共通言語」です。さらに、 FIM や Barthel Index、各種バランス・歩行評価(例えば BBS や TUG など)も、活動レベルを見るうえで重要な指標となります。
作業療法士としては、これらの評価を単独で終わらせるのではなく、「作業パフォーマンスにどう影響しているか」を紐づけて解釈することが大切です。たとえば、「右上肢の巧緻性低下」がある場合、「箸操作・ボタン掛け・書字・職場での細かい作業」のどこにどの程度影響しているかを、具体的な作業例とセットで記載します。これにより、医師や看護師、他職種にも「 OT の評価が具体的にイメージしやすい」レポートになります。
環境・文脈の評価(家屋・役割・価値観・時間の流れ)
OT 評価では、環境・文脈の評価も欠かせません。ここでいう環境には、家屋構造・手すり・段差・動線などの物理的環境だけでなく、家族構成・介護力・職場や学校の支援体制、経済的背景などの社会的環境が含まれます。また、「これまでどのような生活を送ってきたか」「退院後どのように暮らしたいか」といった時間的文脈も重要です。
初期評価では、「これまで」「いま」「これから」の 3 つの時間軸で情報を整理すると、聴取がスムーズになります。例えば、「これまで:一人暮らしでフルタイム勤務」「いま:実家で休職中」「これから:再就職か在宅ワークを検討中」といった枠組みで整理すると、目標設定や環境調整の方向性も見えやすくなります。家屋評価や職場訪問が難しい場合でも、写真や図面、家族からの情報を活用して、できる範囲で環境要因を評価していくことが現実的です。
現場の詰まりどころ(よくあるつまずきとヒント)
臨床でよく見られるつまずきとして、次のようなパターンがあります。
- 情報収集が散らかり、「何を決めるための評価か」が曖昧になっている
- 作業の話を聞いているが、カルテには ROM・筋力・ FIM しか残らない
- 評価項目が多すぎて、時間内に終わらないため、毎回中途半端になってしまう
対策としては、まず「今日の評価で決めたいこと」を 1〜2 個に絞ることが有効です(例:ひとりでトイレに行けるかどうかの見通し、復職に向けての課題整理など)。そのうえで、作業パフォーマンスの観察 → 必要な心身機能検査 → 環境・文脈の確認の順に情報を集めると、評価のストーリーが作りやすくなります。
また、「すべての評価を 1 回で終わらせる」のではなく、初期評価で大枠をつかみ、数回のセッションで徐々に深掘りするという発想も大切です。急性期や回復期など時間制約が厳しい場面では、評価の優先順位付けがそのまま介入の質に直結します。
よくある質問( FAQ )
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Q1. OTIPM や COPM などのツールを導入していない職場では、どう評価すればよいですか?
正式な用紙やスコアリングが運用されていなくても、考え方だけ取り入れることは可能です。例えば、 COPM の発想を借りて「本人が大事にしている作業」「困っている作業」を 3〜5 個挙げてもらい、重要度と満足度を口頭で聞くだけでも、作業パフォーマンスの焦点がはっきりします。また、観察場面を「実際の作業」に寄せること(更衣・トイレ動作・炊事など)だけでも、 OT らしい評価になります。
Q2.評価項目が多くて時間内に終わりません。何を削ればいいですか?
すべてを均等に行おうとすると、どれも中途半端になりがちです。まず、退院先や復職の見通しに直結する部分(トイレ・移乗・移動・服薬・家事・仕事など)を優先し、それに関わる作業パフォーマンスと心身機能を集中的に評価します。逆に、他職種や既存記録で十分に情報がある部分は「確認」のみにとどめるなど、職種間の役割分担を意識することで、評価負担を減らすことができます。
Q3. PT と OT の評価が重なるとき、どのように分担すればよいですか?
ROM・筋力・歩行能力などは重なりやすい領域ですが、「どの場面で・どのくらい必要か」という文脈を OT が補うことで役割分担がしやすくなります。例えば、 PT が「屋内独歩レベル」を評価し、 OT は「その歩行能力で台所やトイレ・職場でどの程度安全に動けるか」を評価・フィードバックする、といったイメージです。カンファレンスでは、「同じデータを、違う角度から解釈している」という整理をしておくと、チーム内での混乱が減ります。
おわりに
作業療法士の評価は、単に「たくさんの検査をこなすこと」ではなく、作業パフォーマンス・心身機能・環境・文脈をつなげて、生活のストーリーを描く作業です。すべてを完璧に行う必要はなく、今日の評価で何を明らかにしたいのかを絞り込むだけでも、カルテやカンファレンスでの発言が変わってきます。
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著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

