上肢機能評価は「何を測りたいか」で選ぶ
上肢機能評価で迷ったら、尺度名から選ぶのではなく、今回の評価で何を知りたいのかを先に決めます。脳卒中後の上肢運動障害なら FMA-UE、物品操作を含む上肢活動なら ARAT、課題の速さと動作能力なら WMFT、粗大な手指操作なら BBT、指の巧緻性なら 9HPT が主な候補です[oai_citation:0‡pubmed.ncbi.nlm.nih.gov](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1135616/?utm_source=chatgpt.com)、「何を測れるか」と「その尺度だけでは何が分かりにくいか」の両面から選び方を整理します。
評価領域全体から選び直したい場合は、評価ハブで全体像を確認できます。

FMA-UE・ARAT・WMFT・BBT・9HPTの違い
5つの尺度は同じ「上肢」を扱いますが、評価している内容は同じではありません。今回の臨床判断に必要な構成概念を測れる尺度を選ぶことが基本です。
| 尺度 | 主に見るもの | 向いている場面 | 主な結果 | この尺度だけでは分かりにくいこと |
|---|---|---|---|---|
| FMA-UE | 脳卒中後の上肢運動障害 | 麻痺の程度や運動回復を系統的に追いたい | 上肢運動項目の得点 | 物品操作の実用性、実生活での使用量 |
| ARAT | 把持・つまみ・粗大運動を含む上肢活動 | 標準化された物品操作課題をどこまで遂行できるか見たい | 課題遂行の得点 | 運動障害そのもの、生活での自発的な使用量 |
| WMFT | 上肢課題の所要時間と動作能力 | 課題の速さと動作能力の変化を経時的に追いたい | 所要時間と Functional Ability Scale | 実生活での使用量、短時間の巧緻性スクリーニング |
| BBT | 粗大な manual dexterity | 一定時間内の粗大な手指操作を簡潔に測りたい | 一定時間内に移動できたブロック数 | 細かな指操作、近位上肢を含む運動障害の詳細 |
| 9HPT | finger dexterity | ペグ操作が可能で、指の巧緻性を時間で追いたい | ペグ課題の完遂時間 | 上肢全体の運動障害、生活場面での実用性 |
「どれが最も優れた尺度か」ではなく、評価結果を何の判断に使うのかで選びます。たとえば運動麻痺の回復を確認したいのに9HPTだけを実施しても、知りたい問いには十分に答えられません。
迷いやすい3つの境界から評価を選ぶ
上肢機能評価で特に迷いやすいのが、FMA-UEとARAT、ARATとWMFT、BBTと9HPTの使い分けです。それぞれの境界を整理すると、必要以上に尺度を増やさずに済みます。
FMA-UEとARAT|運動障害を見るか、上肢活動を見るか
脳卒中後の上肢運動障害を系統的に追いたいなら FMA-UE、標準化された物品操作課題で上肢活動を見たいなら ARATと整理します。
FMA-UEは、脳卒中後の運動回復を評価するFugl-Meyer Assessmentの上肢運動領域です。一方、ARATは把持、握り、つまみ、粗大運動を含む課題を通じて、上肢を使った活動を評価します。
両者は異なる層を確認できるため併用が有用な場合がありますが、すべての患者でFMA-UE+ARATを固定セットにする必要はありません。今回必要な意思決定に一方だけで十分であれば、目的に合う尺度を優先します。
判断の目安
「麻痺そのものはどう変わったか」が知りたいなら FMA-UE、「物をつかむ・移すなどの課題がどこまでできるか」が知りたいなら ARAT を候補にします。
ARATとWMFT|課題の達成度か、時間まで追うか
物品操作を含む標準化課題の遂行を得点で追うなら ARAT、課題の所要時間と動作能力の変化まで追いたいなら WMFTが候補です。
ARATは課題遂行を段階的に得点化します。WMFTは複数の上肢課題について、所要時間に加えて Functional Ability Scale で動作能力を評価します。
そのため、「標準化された課題がどこまで成立するようになったか」を見たい場合は ARAT、「同じ課題をどれくらい速く、どの程度の動作能力で行えるようになったか」を詳しく追いたい場合は WMFT と考えると整理しやすくなります。
BBTと9HPT|粗大な手指操作か、指の巧緻性か
粗大な manual dexterity を短時間で捉えたいなら BBT、より細かな finger dexterity を時間で測りたいなら 9HPTです。
BBTでは、一定時間内にブロックをいくつ移動できるかを測定します。9HPTでは、9本のペグを扱う一連の課題を完遂するまでの時間を測定します。
どちらも手指を扱う評価ですが、同じものを測っているわけではありません。また、9HPTが改善したからといって、ボタン、箸、書字など個別の生活課題がそのまま改善したとは判断できません。生活上の主訴が明確なら、その課題自体の観察も必要です。
検査で「できる」と生活で「使っている」は分けて評価する
上肢機能評価で見落としやすいのが、標準化された検査で示される能力と、実生活での上肢使用は一致しないことがある点です。
たとえば、FMA-UEで運動障害が改善し、ARATやWMFTで課題遂行能力が高くなっていても、実際の生活では麻痺側上肢をほとんど使っていない場合があります。
したがって、今回の問いが「この上肢を日常生活でどの程度使っているか」であれば、FMA-UE・ARAT・WMFT・BBT・9HPTだけで評価を完結させないことが重要です。
脳卒中では、必要に応じて Motor Activity Log(MAL)のように実生活での使用を扱う評価、ADL・IADL場面の観察、本人・家族からの情報などを組み合わせます。
上肢評価を選ぶときの重要ポイント
「検査場面で何ができるか」を知りたいのか、「日常生活で実際に使っているか」を知りたいのかを先に分けます。ここが曖昧なまま尺度を追加しても、臨床で知りたい答えに届かないことがあります。
疾患名だけで尺度を決めない
上肢機能評価は、疾患名だけで機械的に決めるものではありません。対象疾患で使用が検討されているか、現在の能力で課題を実施できるか、今回知りたい内容を測れるかを確認します。
FMA-UEは脳卒中後の上肢運動障害を評価する尺度です。ARATやWMFTも脳卒中領域で広く使用されています。一方、BBTや9HPTは脳卒中以外を含む複数の対象で使用されていますが、疾患や対象集団によって基準値や測定特性が異なります。
また、現在の上肢機能によっては、課題自体を開始・完遂できない場合があります。重度の運動障害がある人に細かなペグ課題だけを選んでも、経時変化を十分に捉えられない可能性があります。
反対に、上肢機能が高い人では尺度によって天井効果が問題になることがあります。「実施できるか」だけでなく、「この人の変化を捉えられるか」まで考えて選ぶことが重要です。
上肢機能評価を選ぶ4ステップ
尺度選択に迷ったときは、評価名を増やすより、次の順番で絞り込みます。
- 今回の問いを1つ決める:運動障害、課題遂行、時間、粗大な手指操作、指の巧緻性、実生活使用のどれを知りたいかを決める。
- 主尺度を1つ選ぶ:FMA-UE、ARAT、WMFT、BBT、9HPTなどから、中心となる尺度を選ぶ。
- その尺度で分からないことを確認する:運動障害だけでは活動が、検査上の活動だけでは実生活使用が分からないなど、評価の限界を確認する。
- 必要な場合だけ別軸を追加する:臨床判断に不足する場合に限り、別の尺度や作業観察、ADL・IADL評価を追加する。
この順番にすると、「上肢だから複数の尺度を全部実施する」という評価の増えすぎを防ぎやすくなります。
再評価では尺度と標準条件をそろえる
経時変化を追う場合は、評価項目を増やすより、同じ尺度を標準化された方法で繰り返すことが重要です。
| 確認項目 | 確認すること | 目的 |
|---|---|---|
| 尺度・版 | 前回と同じ尺度・同じ版を使用する | 異なる評価結果を直接比較しないため |
| 標準手順 | 各尺度で定められた姿勢・物品・指示・採点方法をそろえる | 条件差による測定値の変化を減らすため |
| 当日の状態 | 疼痛、疲労、装具、理解面など通常と異なる条件を記録する | 得点差の背景を解釈しやすくするため |
| 評価目的 | 得点の変化が最初に設定した問いへ答えているか確認する | 必要なら活動・生活使用など別軸へ進むため |
再評価の間隔に一律の正解はありません。病期、介入期間、予想される変化、尺度の測定特性、退院やカンファレンスなど、評価結果を次の意思決定に使う時点から再評価日を考えます。
上肢機能評価でよくある質問
FMA-UEとARATは必ずセットで実施しますか?
必須ではありません。FMA-UEは脳卒中後の上肢運動障害、ARATは標準化された上肢活動を異なる側面から捉えます。両方の情報が必要なら併用しますが、今回の判断に一方だけで十分なら、目的に合う尺度を優先します。
ARATとWMFTはどちらを選べばよいですか?
物品操作を含む課題遂行を得点で追いたいならARAT、課題の所要時間と動作能力の変化まで詳しく追いたいならWMFTが候補です。評価目的だけでなく、実施負担も含めて選びます。
BBTと9HPTはどう使い分けますか?
BBTは粗大なmanual dexterity、9HPTはより細かなfinger dexterityを見る評価です。BBTは一定時間内のブロック移動数、9HPTはペグ課題の完遂時間を主な結果として扱うため、同じ「手の評価」でも置き換えられるものではありません。
点数は改善したのに、生活では麻痺手を使いません。どう考えますか?
検査場面での能力と実生活での上肢使用が一致していない可能性があります。脳卒中で実生活の使用を確認したい場合は、MALなどの評価、ADL・IADL場面の観察、本人・家族からの情報などを追加して確認します。
次の一手
脳卒中による片麻痺上肢について、評価目的から尺度を組み合わせ、作業観察・記録・再評価まで具体的に組み立てたい場合は、片麻痺上肢の作業療法評価で実際の評価セットを確認してください。
参考文献
- Fugl-Meyer AR, Jääskö L, Leyman I, Olsson S, Steglind S. The post-stroke hemiplegic patient. 1. A method for evaluation of physical performance. Scand J Rehabil Med. 1975;7(1):13-31. PubMed
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著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

