病的反射の位置づけ(ピラー連携)
病的反射は上位運動ニューロン( UMN )や錐体路障害を示唆する所見で、反射検査の中でも「異常を拾う」役割を担います。本記事では、足底反射群( Babinski/Chaddock/Oppenheim/Gordon )と、上肢の病的反射( Hoffmann/Trömner )を中心に、種類・やり方・陽性基準を実務で迷わない形に整理します。
病的反射は単独で病巣を断定せず、深部腱反射( DTR )の亢進、筋緊張、運動/感覚所見、歩行観察と「束」で解釈します。反射検査の全体フロー(体位セット、 DTR の見方、記録の型)は、親記事の 反射検査 完全ガイド を参照してください。
足底反射群:Babinski/Chaddock/Oppenheim/Gordon
Babinski 反射は、仰臥位または坐位で足底外側縁を踵 → 小趾球 → 母趾基部へ向かって皮膚刺激し、母趾背屈( ± 扇状外転)を陽性とします。Chaddock 反射(チャドック反射)は外果周囲の皮膚刺激、Oppenheim 反射は脛骨稜を近位 → 遠位へ擦過、Gordon 反射は腓腹筋の把握圧迫で誘発し、いずれも Babinski と同方向の反応(母趾背屈)を確認します。
刺激は「痛みを起こさない強さ」を守り、足関節や膝の屈曲を伴う逃避反応と区別します。冷え、過度刺激、足底の胼胝や疼痛は典型的な偽陽性の原因です。反応が弱い場合でも、 DTR の亢進や痙縮など他の UMN 所見と併置して、「錐体路障害が疑われるパターンか」を確認すると解釈が安定します。
上肢の病的反射:Hoffmann/Trömner(+代表例)
Hoffmann 反射(ホフマン反射)は中指末節を軽く弾打し、母指 IP 屈曲( ± 示指屈曲)を観察します。Trömner 反射(トレムナー反射)は中指掌側末節を上方から叩打して、同様の屈曲反応を確認する手順です。いずれも頚髄症など頚髄レベルの錐体路障害で有用で、上肢の DTR( BR / Biceps / Triceps )や巧緻運動の変化とセットで評価すると意味づけが明確になります。
上肢の病的反射は、反復叩打や不安、寒冷による facilitation で“盛られやすい”のが落とし穴です。左右差と再現性を必ず確認し、日常生活での手の使いにくさや感覚障害と合わせて総合的に判断します。
主要 6 反射の手順と陽性基準(早見表)
スマホでは表が横にスクロールできます。検者間でブレが出やすい項目ほど、刺激の強さ・方向・速度を言語化してそろえると再現性が上がります。
| 反射 | 体位/刺激 | 陽性基準 | 偽陽性の落とし穴 | 運用のコツ |
|---|---|---|---|---|
| Babinski | 仰臥位 or 坐位。足底外側縁 → 母趾基部へ皮膚刺激 | 母趾背屈( ± 扇状外転) | 過度刺激・疼痛・逃避反応 | 左右差と再現性、 DTR と併置 |
| Chaddock | 外果周囲の皮膚刺激 | Babinski と同等反応 | 冷感・過緊張 | 皮膚病変・浮腫に配慮 |
| Oppenheim | 脛骨稜を近位 → 遠位へ擦過 | 母趾背屈 | 強擦による疼痛 | 末梢神経障害では反応が鈍いことがある |
| Gordon | 腓腹筋を把握圧迫 | 母趾背屈 | 筋攣縮・疼痛 | 下肢の禁忌( DVT 疑い等)に注意 |
| Hoffmann | 中指末節を弾打 | 母指 IP 屈曲 ± 示指屈曲 | 反復叩打・冷え | 頚髄症や脊髄圧迫で有用(“束”で評価) |
| Trömner | 中指掌側末節を上方から叩打 | 母指/他指の屈曲 | 過度刺激・患者の不安 | Hoffmann と併用しパターンで見る |
略語凡例: UMN =上位運動ニューロン、 DTR =深部腱反射、 BR =腕橈骨反射。
偽陽性を避ける 5 つのコツ(早見表)
| コツ | なぜ効く? | 記録の一言例 |
|---|---|---|
| 刺激を一定化(痛みを出さない) | 強刺激は逃避反応を誘発しやすい | 「疼痛なし、一定速度で実施」 |
| 脱力位を作る | 緊張や恐怖で反応が盛られる | 「説明後、呼吸落ち着き確認」 |
| 同一点の連打を避ける | 反復で facilitation が起きやすい | 「 1〜2 回で再現性を確認」 |
| 皮膚・末梢の条件を確認 | 胼胝・潰瘍・末梢神経障害で判定が揺れる | 「足底胼胝あり/疼痛部位回避」 |
| 単発で決めず “束” で解釈 | DTR・筋緊張・運動/感覚と整合で意味が立つ | 「 DTR 亢進+痙縮と整合」 |
たとえば「下肢 KJ/AJ が 3+〜4+」「 Babinski 陽性」「痙縮増加」が同方向にそろうと、 UMN 所見の束としての意味づけが明確になります。逆に、病的反射が乏しい疾患や時期もあるため、「陰性=異常なし」と短絡せず、同じ条件での再評価と他所見の併置を優先します。
記録テンプレ(表記と SOAP )
病的反射の表記は、略記をそろえるとチーム内で共有しやすくなります。初回だけでも左右差と誘発条件(冷え/痛み/反復)を一言残すと、再評価の比較がスムーズです。
| 項目 | 例 | 補足(必要時) |
|---|---|---|
| 略記 | Babinski( R+/L− )、Hoffmann( R+/L± ) | 「冷えでのみ誘発」「強刺激で逃避」など |
| 条件 | 体位・刺激方向・疼痛の有無 | 再評価で同条件にそろえるため |
SOAP 例:S)足底に胼胝あり、検査時の痛みは自覚なし。O)Babinski R+/L−、Hoffmann R+/L±、KJ 3+/4・AJ 3+/4、筋緊張増加。A)病的反射と DTR 亢進を含む UMN 徴候の束が下肢優位にみられ、歩行所見とも整合。P)転倒リスク評価と痙縮管理(ポジショニング・ストレッチ・装具)を強化し、 1 週間後に同条件で再評価。
禁忌・注意( OK / NG 早見)
| 状況 | 対応 | 理由 |
|---|---|---|
| 皮膚損傷・感染・潰瘍 | 直接刺激を避け、周囲部位で代替/中止 | 疼痛・悪化のリスク |
| 下肢で DVT が疑われる | Gordon 反射は行わない | 圧迫刺激のリスク |
| 強い不安・防御反応 | 説明と体位安定を優先し、無理に誘発しない | 偽陽性・再現性低下 |
| 抗凝固療法中 | 皮下出血に配慮し、強い擦過/圧迫を避ける | 皮下出血のリスク |
検査前に目的と手順を説明し、同意とプライバシーを確保した上で、体位の安定を優先して実施します。なお、小児の原始反射( Moro / ATNR / STNR など)は成人の病的反射と目的・解釈が異なるため、本稿では扱いません。
現場の詰まりどころ(判断が揺れる場面の対処)
臨床で詰まりやすいのは、「逃避反応なのか Babinski 陽性なのか」「 Hoffmann が弱陽性だが、どこまで重く見るか」といったグレーゾーンです。こうした場面では、単回の病的反射だけで決めず、 DTR・筋トーヌス・歩行や巧緻動作の変化をセットで見直し、同条件での再評価(再現性)を優先すると判断が安定します。
もう一つの詰まりどころは「記録」です。忙しい場面ほど略記だけになりがちですが、初回は左右差と誘発条件(冷え/痛み/反復)を一度ていねいに残すと、再評価とカンファレンスの説明が格段に楽になります。新人教育では「種類の暗記」より先に、「どの患者に・どのタイミングで追加するか」を症例ベースで共有すると実装が早いです。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
病的反射が弱陽性のとき、どう解釈すれば良いですか?
弱い母趾背屈やあいまいな Hoffmann 反応は、単独では決定打になりません。まず左右差と再現性があるかを確認し、 DTR や筋緊張、巧緻動作、歩行など他の UMN 所見とセットで考えます。冷え・不安・強すぎる刺激が関与していないかも振り返り、それでも一貫した UMN パターンが揃う場合に、錐体路障害を示唆する所見として扱います。
学生や新人が病的反射を練習するときの注意点は?
最初は刺激が強すぎる、角度や速度が一定しない、という“盛り”が起きやすいです。まずは健常者同士で安全に手順を練習し、痛みが出ない強さ・方向・速度を体感します。そのうえで、麻痺側/非麻痺側を同条件で評価する習慣をつけると、左右差とパターンが見えやすくなります。記録では初回だけでも誘発条件を一言残すと、教育の振り返りにも役立ちます。
病的反射が陰性でも、 UMN 障害を否定できますか?
病的反射は UMN 障害の一要素であり、陰性だから UMN 障害がない、とまでは言えません。高齢者や慢性期、治療介入後などでは病的反射がはっきりしないこともあります。その場合は DTR 亢進や痙縮、バランス・歩行障害など他所見を重ねて評価し、同条件での再評価と総合判断を優先します。
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参考文献
- Whitney E, Ishii L. Hoffmann Sign. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025–. PubMed
- Rodriguez-Beato FY, Urribarri O. Physiology, Deep Tendon Reflexes. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025–. PubMed
- Walker HK. Tendon Reflexes and Reflex Testing. In: Walker HK, Hall WD, Hurst JW, eds. Clinical Methods. 3rd ed. Boston: Butterworths; 1990. NCBI Bookshelf
- Ertuglu LA, Karacan I, Yilmaz G, Türker KS. Standardization of the Jendrassik maneuver in Achilles tendon tap reflex. Clin Neurophysiol Pract. 2017;3:1–5. DOI | PubMed
- Passmore SR, Bruno PA. Anatomically remote muscle contraction facilitates patellar tendon reflex reinforcement while mental activity does not. Chiropr Man Therap. 2012;20:29. DOI | PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


