病的反射とは?(この記事で決まること)
病的反射は、成人で通常は目立たない反射が再出現し、錐体路や上位運動ニューロン( UMN )障害の“当たり”を取るときに使う所見です。本記事では、Babinski / Chaddock / Oppenheim / Gordon / Hoffmann / Trömner の 6 反射に絞り、やり方・陽性基準・偽陽性の避け方・記録例まで、ベッドサイドで迷いにくい順で整理します。
このページで答えるのは、成人の病的反射をどう取って、どう書いて、どう解釈を始めるかです。逆に、小児の原始反射、病巣の詳細な局在診断、頚髄症の確定診断までは本稿だけで完結させません。病的反射は単独で決めず、深部腱反射( DTR )、筋緊張、運動・感覚所見と合わせて読む前提で使うページです。
評価の型は、個人の努力だけで身につくとは限りません。今の職場で教育体制がない、相談相手がいない、教材に触れにくい、見本となる評価が少ないと感じるなら、学び方と環境の整え方を先に整理しておくと動きやすくなります。
足底反射群:Babinski / Chaddock / Oppenheim / Gordon
Babinski 反射は、仰臥位または坐位で足底外側縁を踵側から小趾球を経て母趾基部へ向かって刺激し、母趾背屈( ± 開扇)を陽性とします。Chaddock 反射は外果周囲、Oppenheim 反射は脛骨稜、Gordon 反射は腓腹筋の把握圧迫で同方向の反応を確認する変法です。足底の反応が読みづらい場面でも、刺激部位を変えて同じ extensor response が出るかを確認できます。
実施で迷いやすいのは、陽性反応と逃避反応の見分けです。陽性では母趾背屈がゆっくり目立ちやすく、逃避では膝・股関節の屈曲や足の引き込みが先に出やすくなります。刺激は「痛みを出さないが反応は見える」強さにそろえ、冷え、胼胝、疼痛、過度刺激で反応が盛られていないかを確認します。
上肢の病的反射:Hoffmann / Trömner
Hoffmann 反射は中指末節を軽く弾打し、母指 IP 屈曲( ± 示指屈曲)を観察します。Trömner 反射は中指掌側末節を上方から叩打し、同様の屈曲反応をみる手順です。上肢の病的反射は、頚髄レベルの錐体路徴候を疑うときの“当たり”を取る所見として使われ、上肢の DTR 、巧緻動作、感覚障害とセットでみると意味づけがしやすくなります。
ただし、Hoffmann や Trömner を単独陽性だけで重く見すぎないことが大切です。反復叩打、不安、寒冷、脱力不十分で反応が盛られることがあり、左右差、再現性、他の UMN 所見との整合を必ず確認し、「 1 つの所見」ではなく「束」で読む前提で使います。
主要 6 反射の手順と陽性基準(早見表)
スマホでは表を横にスクロールできます。検者間でブレが出やすい項目ほど、刺激の方向・強さ・速度を言語化してそろえると再現性が上がります。
| 反射 | 体位/刺激 | 陽性基準 | 落とし穴 | 運用のコツ |
|---|---|---|---|---|
| Babinski | 仰臥位 or 坐位。足底外側縁 → 母趾基部へ刺激 | 母趾背屈( ± 開扇) | 強刺激、疼痛、逃避反応 | 母趾の動きを最後まで観察し、左右差と再現性をみる |
| Chaddock | 外果周囲の皮膚刺激 | Babinski と同方向反応 | 冷え、緊張、皮膚病変 | 足底の判定が揺れるときの補助として使う |
| Oppenheim | 脛骨稜を近位 → 遠位へ擦過 | 母趾背屈 | 強擦による疼痛 | 擦りすぎず、一定速度で 1〜2 回にとどめる |
| Gordon | 腓腹筋を把握圧迫 | 母趾背屈 | 下腿の疼痛、圧迫への不快感 | 局所所見があるときは無理に行わず他法を優先する |
| Hoffmann | 中指末節を弾打 | 母指 IP 屈曲 ± 示指屈曲 | 反復叩打、寒冷、脱力不十分 | 左右差と再現性を確認し、単独で結論づけない |
| Trömner | 中指掌側末節を上方から叩打 | 母指/示指などの屈曲 | 過度刺激、不安、構え | Hoffmann と併用し、上肢所見のパターンで読む |
略語凡例:UMN =上位運動ニューロン、DTR =深部腱反射。
単発で決めない 3 点セット
病的反射は「出た / 出ない」だけだと判断がぶれます。DTR ・筋緊張・機能所見までそろえて読むと、UMN 所見としての意味づけが安定します。
| いま見えている所見 | あわせて見るもの | 次にすること |
|---|---|---|
| 明らかな陽性 | DTR 亢進、筋緊張増加、歩行や巧緻動作の低下 | UMN 所見の束として記録し、安全管理と介入方針につなげる |
| 弱陽性・あいまい | 左右差、再現性、刺激条件、冷えや不安の有無 | 偽陽性を外して同条件で再評価する |
| 陰性だが疑わしい | 筋力、感覚、バランス、歩行、 ADL での変化 | 陰性で切らず、他所見をそろえて必要時は医師へ共有する |
偽陽性を避ける 5 つのコツ(早見表)
| コツ | なぜ効く? | 記録の一言例 |
|---|---|---|
| 刺激を一定化する | 強刺激は逃避反応や防御反応を誘発しやすい | 「疼痛なし、一定速度で実施」 |
| 脱力位を作る | 緊張や恐怖で反応が盛られやすい | 「説明後、脱力確認して実施」 |
| 同一点の連打を避ける | 反復で facilitation が起きやすい | 「 1〜2 回で再現性を確認」 |
| 皮膚・末梢条件を確認する | 胼胝、疼痛、皮膚損傷で判定が揺れる | 「足底胼胝あり/疼痛部位回避」 |
| 単発で決めず束で読む | DTR ・筋緊張・機能所見と整合して意味が立つ | 「DTR 亢進+筋緊張増加と整合」 |
たとえば「 KJ / AJ が 3+ 」「 Babinski 陽性 」「痙縮増加」が同方向にそろうと、UMN 所見としての意味づけが明確になります。逆に、病的反射が陰性でも錐体路障害を完全には否定できないため、他所見と同条件での再評価を優先します。
記録テンプレ(略記・ SOAP )
病的反射の記録は、左右差・誘発条件・再現性を短く残すだけで比較しやすくなります。略記だけで終えず、「どの条件でどう出たか」を 1 行添えると、再評価とカンファレンスが一気に楽になります。
| 項目 | 記録例 | 補足 |
|---|---|---|
| 略記 | Babinski( R+/L− )、Hoffmann( R+/L± ) | 左右差があるときは先に陽性側を書く |
| 条件 | 仰臥位、脱力確認後、疼痛なし | 次回も同条件にそろえるために残す |
| 誘発条件 | 冷えで反応が弱い/反復で盛られやすい | 偽陽性や判定ブレの説明になる |
SOAP 例:S)足底の痛みなし。O)Babinski R+/L−、Hoffmann R+/L±、KJ 3+/3+、筋緊張増加、方向転換で不安定。A)病的反射と DTR 亢進を含む UMN 所見が右優位にみられ、機能所見とも整合。P)安全管理を強化しつつ、歩行観察と筋緊張変化を同条件で再評価する。
関連:評価の全体像は 評価ハブ でも整理しています。
記録シート PDF ダウンロード
病的反射の左右差、誘発条件、総合判定を 1 枚で整理したいときは、下記の記録シートを使うと実務で回しやすくなります。初回評価だけでも「陽性側」「刺激条件」「再評価メモ」をそろえて残すと、次回比較と共有がかなり楽になります。
プレビューを開く
禁忌・注意( OK / NG 早見)
| 状況 | 対応 | 理由 |
|---|---|---|
| 皮膚損傷・感染・潰瘍 | 直接刺激を避ける/必要なら中止する | 疼痛や悪化のリスクがあるため |
| 下腿の強い疼痛・圧迫回避が必要 | Gordon は見合わせ、他法を優先する | 局所症状を悪化させないため |
| 強い不安・防御反応 | 説明と体位安定を優先し、無理に誘発しない | 偽陽性と再現性低下を防ぐため |
| 抗凝固療法中・皮下出血しやすい | 強い擦過や圧迫を避ける | 局所の出血リスクに配慮するため |
実施前に目的と手順を説明し、同意とプライバシーを確保したうえで、体位の安定を優先して行います。主治医指示や院内ルールがある場合は、それを優先してください。
現場の詰まりどころ(判断が揺れる場面の対処)
判断が揺れたら、次の順で戻すと安定します。
臨床で詰まりやすいのは、「逃避反応なのか Babinski 陽性なのか」「 Hoffmann が弱陽性だが、どこまで重くみるか」といったグレーゾーンです。こうした場面では、病的反射だけで決めず、DTR ・筋トーヌス・歩行や巧緻動作の変化をセットで見直し、同条件での再評価を優先すると判断がぶれにくくなります。
もう 1 つの詰まりどころは記録です。忙しい場面ほど略記だけになりがちですが、初回だけでも左右差と誘発条件を一言残すと、再評価と共有が格段に楽になります。新人教育では「種類の暗記」より先に、「どの患者に・どのタイミングで追加するか」を症例ベースで共有すると実装しやすいです。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Babinski が陰性なら、 UMN 障害は否定できますか?
いいえ、否定はできません。Babinski は陽性なら重みがありますが、陰性でも錐体路障害を完全には除外できません。DTR 、筋緊張、筋力、感覚、歩行など他所見をそろえて判断し、必要なら同条件で再評価します。
Hoffmann が陽性なら、頚髄症と考えてよいですか?
Hoffmann 陽性だけで頚髄症を確定することはできません。頚髄レベルの錐体路徴候を疑うきっかけにはなりますが、左右差、再現性、上肢 DTR 、巧緻動作、感覚障害、歩行の変化までそろえて読むことが大切です。
学生や新人が病的反射を練習するときの注意点は?
最初は刺激が強すぎる、方向がずれる、反復しすぎる、といった“盛り”が起きやすいです。まずは痛みを出さない強さと一定方向を体で覚え、次に左右差と再現性をみる練習へ進むと安定します。記録は略記だけでなく、条件を一言添える習慣をつけると上達が早いです。
次の一手(読む順番)
参考文献
- Isaza Jaramillo SP, Uribe Uribe CS, García Jimenez FA, Cornejo-Ochoa W, Alvarez Restrepo JF, Román GC. Accuracy of the Babinski sign in the identification of pyramidal tract dysfunction. J Neurol Sci. 2014;343(1-2):66-68. DOI | PubMed
- Chaiyamongkol W, Laohawiriyakamol T, Tangtrakulwanich B, Tanutit P, Bintachitt P, Siribumrungwong K. The Significance of the Trömner Sign in Cervical Spondylotic Myelopathy Patient. Clin Spine Surg. 2017;30(9):E1315-E1320. DOI | PubMed
- Glaser JA, Curé JK, Bailey KL, Morrow DL. Cervical spinal cord compression and the Hoffmann sign. Iowa Orthop J. 2001;21:49-52. PubMed
- Gruenberger EH, Fridley JS, Yin W, et al. The Hoffmann parallax: a prospective study to determine the benefit of Hoffmann’s sign. Orthop Rev (Pavia). 2023;15:77875. DOI | PubMed
- Jiang Z, Davies B, Zipser C, et al. The value of clinical signs in the diagnosis of degenerative cervical myelopathy: a systematic review and meta-analysis. Global Spine J. 2024;14(4):1369-1394. DOI | PubMed
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


