- 退院前訪問指導の結論:当日は「段取り」と「持ち物」で 8 割決まる
- 退院前訪問指導をやるべき人:全例ルーチンではなく「ズレが大きい人」を選ぶ
- 前日までの準備:当日の “ 迷い ” を先に潰す
- 当日 60–90 分の流れ:順番を固定すると短時間で決まる
- 持ち物リスト:採寸と “ 記録の再現性 ” を担保する
- 場所別の観察・採寸:動作で判断し、採寸で “ 伝わる ” に変える
- 記録の書き方:3 行で “ 再評価できる ” にする
- 現場の詰まりどころ:まず “ 失敗 ” と “ 回避 ” のアンカーに飛ぶ
- よくある失敗: “ 工事 ” ではなく “ 評価のズレ ” で手戻りする
- 当日 5 分チェック: “ 終わり方 ” を決めてから入る
- よくある質問
- 次の一手:運用を揃え、共有の型を作り、環境要因も点検する
- 参考文献
- 著者情報
退院前訪問指導の結論:当日は「段取り」と「持ち物」で 8 割決まる
退院前訪問指導(家屋調査)は、退院後の転倒・介助量・サービス設計に直結する「現場の意思決定イベント」です。成功の鍵は、①当日の進め方(タイムライン)②持ち物(採寸・記録・安全の担保)③観察ポイント(動作で判断)の 3 点を “ 型 ” で固定することです。
本記事では、新人でも再現できるように「当日 60–90 分の流れ」「持ち物リスト」「場所別の観察と採寸」「記録の書き方」「よくある失敗」を 1 つずつ整理します。採寸や写真・理由書まで含めた “ 全体設計 ” は、親記事(チェックリスト)でまとめて確認できます。
関連(同ジャンル回遊):まず親で全体像 → この記事で当日運用
退院前訪問指導をやるべき人:全例ルーチンではなく「ズレが大きい人」を選ぶ
退院前訪問指導は “ 行けば安心 ” になりがちですが、時間もコストも大きい介入です。全例で同じ深さまで実施するより、退院後に転倒・介助増が起きやすい「ズレが大きいケース」に資源を厚くする方が、現場の手戻りが減ります。
目安としては、①転倒歴がある/転倒しそうな局面が明確 ②家族介助が新規で入る ③環境の制約(狭い動線・段差・階段)で動作が変わる ④福祉用具と住宅改修の判断が割れる、のいずれかがある人です。逆に、病棟で安全条件が揃い、環境の変数が小さい人は “ 行かずに決まる ” こともあります。
前日までの準備:当日の “ 迷い ” を先に潰す
当日詰まりやすいのは「誰が何を決めるか」と「何を見れば終われるか」が曖昧なまま現地に入ることです。訪問前に 3 点だけ固定します。①今日決めること(優先順位 1〜2 個)②最大リスク(転倒・介助破綻・夜間)③安全条件(見守りの範囲、禁止動作、代替案)です。
同時に、参加者(本人・家族・ケアマネ等)と “ その場で決める権限 ” を揃えます。写真や採寸を行う場合は、共有先(病院・ケアマネ・業者)も含めて同意の範囲を事前に確認しておくと、後から揉めにくくなります。
当日 60–90 分の流れ:順番を固定すると短時間で決まる
現地は情報量が多いので、見る順番を固定します。最初に “ 安全(転倒) ”、次に “ 代表動作 ”、最後に “ 環境(採寸・提案) ” の順で進めると、結論が出やすくなります。
| 時間 | やること | 見るポイント(最小) | アウトプット |
|---|---|---|---|
| 0–10 分 | 目的の共有・危険確認 | 今日決めること 1〜2 個/最大リスク/禁止事項 | 確認範囲を合意( “ ここまで見たら終わる ” ) |
| 10–35 分 | 代表動作の観察( 2 つまで) | できる/危ない条件(疲労・急ぎ・片手・夜間) | 安全条件(見守り・介助量・補助具) |
| 35–70 分 | 場所別チェック+採寸+提案 | 詰まり箇所 1〜2 個に絞る | 用具/改修/サービスの方向性 |
| 70–90 分 | まとめ・役割分担・次回確認 | 誰がいつまでに何を手配するか | 連絡先と期限(手戻り防止) |
持ち物リスト:採寸と “ 記録の再現性 ” を担保する
持ち物は “ 多いほど良い ” ではなく、「採寸」「写真」「記録」の再現性を担保するものに絞ります。特に、メジャーだけだと高さ・奥行き・勾配が曖昧になりやすいので、最低限のセットを固定するとラクです。
| カテゴリ | 必須 | あると強い | 使いどころ |
|---|---|---|---|
| 採寸 | メジャー、メモ | レーザー距離計、水平器(簡易) | 段差、幅、手すり高さ、トイレ周り |
| 記録 | チェック用紙(紙 or 端末) | テンプレ( “ 条件→結果→危険 ” の枠) | 後日の説明・業者連携が速い |
| 安全 | 滑り止め、ライト(小) | 簡易コーン、注意表示テープ | 夜間の危険、足元視認性の確認 |
| 検証 | 普段の靴・装具(可能なら) | 貸出用の高さ調整クッション等 | “ いつもの条件 ” で動作を見る |
場所別の観察・採寸:動作で判断し、採寸で “ 伝わる ” に変える
家屋調査は “ 環境を見る ” ではなく、“ その環境で動作がどう変わるか ” を見るイベントです。先に代表動作を 2 つに絞り、各場所で「どの動作が詰まるか」を当てにいくと、提案がブレません。
| 場所 | 観察(動作) | 採寸(最小) | よくある危険 | 提案の方向性 |
|---|---|---|---|---|
| 玄関 | 上がり框、靴の着脱、方向転換 | 框の高さ、踏面の奥行き | 片手保持でふらつく/急ぎで転倒 | 手すり位置、椅子、段差処理、動線変更 |
| 廊下・動線 | 歩行(すれ違い、停止、方向転換) | 幅、曲がり角、敷居段差 | 狭さで補助具が当たる | 家具配置、手すり、可逆的な用具から試す |
| トイレ | 立座り、方向転換、ズボン操作 | 便座高、便器前のスペース、手すり高さ | “ 急ぎ ” で介助が増える | 手すり、便座高調整、動線の単純化 |
| 浴室 | 出入り、またぎ、洗体姿勢 | 段差、扉幅、洗い場の有効幅 | 濡れ+疲労で一気に危険 | まず用具(椅子・マット)→必要なら改修 |
| 寝室 | 起き上がり、立ち上がり、夜間移動 | ベッド高、動線幅、照明スイッチ位置 | 夜間転倒(トイレ動線) | 配置変更、足元灯、ポータブルトイレ検討 |
| 階段・屋外 | 昇降、手すり把持、休憩 | 段差高、踏面、手すり形状 | 雨天・逆光で段差が消える | 手すり、休憩点、動線の複線化 |
記録の書き方:3 行で “ 再評価できる ” にする
記録は長さよりも「同条件で比較できるか」が重要です。おすすめは、各場所で 3 行(条件→結果→危険)だけ固定することです。これで家族説明・ケアマネ共有・業者連携が速くなります。
| 行 | 書くこと | 例 |
|---|---|---|
| 条件 | 場所/補助具/見守り・介助/時間帯 | 玄関: T 字杖、見守り、夕方 |
| 結果 | できる/できない+ “ 詰まる瞬間 ” | 上がり框: 1 回目 OK、 2 回目に膝折れ |
| 危険 | 転倒・介助増の条件( 1 つ) | 急ぎ+片手で靴を持つと支持が抜ける |
現場の詰まりどころ:まず “ 失敗 ” と “ 回避 ” のアンカーに飛ぶ
現場で詰まりやすいのは「見た情報が多すぎて結論が出ない」ことです。先に “ 失敗パターン ” と “ 回避のチェック ” を見てから現地に入ると、迷いが減ります。
よくある失敗: “ 工事 ” ではなく “ 評価のズレ ” で手戻りする
失敗は、手すりや段差処理そのものより「前提条件のズレ」で起きます。疲労・夜間・急ぎ・片手・介助者の条件を見落とすと、当日は良く見えても退院後に詰まります。
| 場面 | NG(起きがち) | OK(こう直す) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 目的設定 | 全部見る(結論が出ない) | 今日決めること 1〜2 個に絞る | “ 今日決めたこと ” を冒頭に残す |
| 観察 | 環境だけ見て動作を見ない | 代表動作を 2 つに固定して見る | 詰まる瞬間( 1 行) |
| 採寸 | 数値だけで意味がない | 数値+ “ 何のための採寸か ” をセット | 便座高=立座り条件、など目的を書く |
| 提案 | 最初から改修を決め打ち | 可逆性の高い手段から試す | 試す順番(用具→改修) |
| 夜間 | 日中だけで判断 | 夜間の動線(照明・スイッチ)を必ず見る | 夜間転倒の条件を 1 行 |
当日 5 分チェック: “ 終わり方 ” を決めてから入る
現地で迷わないために、入室前に 5 分だけ確認します。ここが揃うと、 60–90 分で結論が出やすくなります。
| 項目 | 確認すること | 合意できたら |
|---|---|---|
| 今日決めること | 優先順位 1〜2 個(例:トイレ動線、玄関) | 見る範囲を絞って開始 |
| 最大リスク | 転倒/介助破綻/夜間のどれか | 観察の焦点が定まる |
| 安全条件 | 禁止動作、見守りの範囲、代替案 | “ ここまで見たら終わる ” が決まる |
| 役割分担 | 本人・家族・ケアマネ・業者の役割 | 手配の手戻りが減る |
| 記録の型 | 条件→結果→危険( 3 行) | 共有が速い |
よくある質問
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Q1. 当日は “ どこまで見たら終わり ” にすればいいですか?
A. 目安は「代表動作 2 つ」と「詰まり箇所 1〜2 個」です。全部を見ると情報量が増え、結論が出にくくなります。タイムライン表の順番(安全→動作→環境)に沿って、最後に “ 誰がいつまでに何を手配するか ” が言えたら終了条件を満たします。
Q2. 写真は何を撮ると役立ちますか?
A. 「段差」「幅」「手すり位置」「照明・スイッチ」「動線の詰まり」の 5 点が残る写真が有用です。数値(採寸)だけだと現場イメージが共有されにくいため、採寸の対象が分かる “ 引きの写真 ” と、段差や手すりの “ 寄り ” をセットで残すと伝わりやすくなります。
Q3. 住宅改修と福祉用具、どちらを先に考えるべきですか?
A. 迷ったら “ 可逆性 ” が高い手段(福祉用具や配置変更)から試し、効果が再現したら固定化(改修)を検討します。回復期や退院直後は状態が変わりやすく、決め打ちの改修はズレやすいからです。
Q4. 家族が同席できないときはどうしますか?
A. 同席できない場合は「最大リスク」「禁止事項」「見守りの範囲」を短く共有できる形( 3 行テンプレ)で残し、後日電話やカンファで同条件の説明を行います。家族介助が新規で入るケースは、同席の優先順位を上げた方が手戻りが減ります。
次の一手:運用を揃え、共有の型を作り、環境要因も点検する
教育体制・人員・記録文化など “ 環境要因 ” を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Lockwood K, et al. Pre-discharge home assessment visits in assisting patients’ return to community living: A systematic review and meta-analysis. J Rehabil Med. 2015;47:289–299. 本文
- Clemson L, et al. Occupational Therapy Predischarge Home Visits in Acute Hospital Care: A Randomized Trial. J Am Geriatr Soc. 2016;64(10):2019–2026. doi: 10.1111/jgs.14287( PubMed: 27603152)
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


