令和 8 年改定の論点は「療法士の指導を、病棟のアウトプットとして見える化」することです
令和 8 年度改定(議論の整理)では、疾患別リハビリテーション料や特定入院料において、配置された PT・OT・ST の専門性を活かした指導等を、病棟内に限らず更に推進する方向性が示されています。今後は「リハを実施した」だけでなく、退院後の生活までつなぐ指導(教育・環境調整・自主練設計など)を、説明できる形で残すことが重要になります。
本記事では、制度文言の解釈で終わらせず、① どんな指導が対象になり得るか、② 疾患別リハ/特定入院料での運用の分け方、③ 監査・院内共有に耐える記録テンプレまで、現場の「迷い」を減らす形でまとめます。
環境づくり(教育体制・標準化)まで整えるなら
「記録の型」「新人教育」「病棟運用」をまとめて見直したい方は、まず全体像から整理できます。
PT キャリアガイド(全体像)を見る「指導等の推進」とは何が変わる話か
議論の整理(案)では、病棟内に限らず専門性を活かした指導等を推進する観点から、疾患別リハや病棟業務に専従の PT・OT・ST が従事できる業務範囲を広げ、明確化する方向性が示されています。制度の細目は今後の短冊・通知で固まりますが、現場側の準備としては、次の 2 点を先に押さえるのが安全です。
- 「指導」を病棟のアウトプットとして定義する(誰が、いつ、何を、どの患者に、どんな目的で行ったか)
- 疾患別リハ(出来高)と、特定入院料(包括色が強い入院料)で、記録の置き場所を分ける
対象になりやすい「指導等」を、PT・OT・ST で具体化します
「指導等」は、患者本人への説明だけでなく、家族・病棟スタッフへの教育、環境調整、退院後の自己管理設計まで含み得ます。ここでは、臨床で頻出し、かつ「記録に落としやすい」ものを整理します。
| 職種 | 指導の例 | 記録の要点 | 患者アウトカムの例 |
|---|---|---|---|
| PT | 離床・移乗・歩行の安全指導、転倒予防、疼痛自己管理、運動強度( Borg / RPE )教育、自主練メニュー設計 | 禁止条件/中止基準、介助量、補装具・歩行補助具、病棟内動線、宿題(頻度・回数) | 転倒リスク低下、活動量維持、退院後の運動継続 |
| OT | ADL 手順指導、更衣・整容の代償手段、家屋評価(動作導線)、自助具選定、認知面の生活上の工夫 | 「できる ADL 」と「している ADL 」の差、環境調整案、家族の介助手順、危険動作 | 介助量の最適化、在宅生活の破綻予防 |
| ST | 嚥下の自己管理(姿勢・一口量・ペース)、食形態の説明、コミュニケーション支援、失語・構音への家族指導 | 誤嚥リスク、食形態・水分、実施条件、代替手段、家族への観察ポイント | 誤嚥性肺炎予防、栄養摂取の安定、意思疎通の改善 |
※ 表は横スクロールで閲覧できます。
疾患別リハと特定入院料で「指導の置き場所」を分けるコツ
現場の混乱ポイントは、「同じ指導でも、どこに残すか」です。結論はシンプルで、疾患別リハは “個別介入の記録” を厚く、特定入院料は “病棟としての教育・運用” を厚くするのが安全です。ここでの詳細はあなたの施設基準・病棟機能で調整します。
| 観点 | 疾患別リハビリテーション料 | 特定入院料 | 現場での決め方 |
|---|---|---|---|
| 主役 | その日の個別介入(評価→介入→反応) | 病棟機能としての支援(教育・体制・継続性) | 「個別セッションで完結するか/病棟で回る仕組みか」で分ける |
| 指導の粒度 | 患者ごとの具体(介助量・自主練・禁止条件) | 病棟共通のルール化(配膳姿勢、離床手順、看護との役割分担) | 同じ内容を複数患者に繰り返すなら「病棟ルール」側へ寄せる |
| 多職種連携 | 当日共有(看護・医師への短文共有) | カンファ・回診・教育会などの定例運用 | 定例の場に乗せるほど、特定入院料側の説明力が上がる |
| 監査で見られやすい点 | 算定の整合(実施・時間・内容の一貫性) | 配置の意義(専門性の発揮が病棟アウトカムに結びつくか) | 「配置した結果、何が良くなったか」を言語化しておく |
※ 表は横スクロールで閲覧できます。
現場の詰まりどころ:指導をやっているのに「評価されにくい」 3 パターン
多くの病棟で、指導自体はすでに行われています。それでも評価されにくいのは、記録の形式と共有の単位がズレているからです。次の 3 パターンは、先に潰しておくと手戻りが減ります。
| 失敗パターン | NG(例) | OK(置き換え) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 指導が「感想」止まり | 「転倒に注意するよう説明」 | 「夜間トイレ動作は FWW 使用、立位ふらつき増で 1 人介助。ナースコール基準を共有」 | 条件(いつ)/手段(何を使う)/基準(中止・コール) |
| 病棟共有に乗らない | 個人メモに残して終わる | 病棟の共通欄(申し送り、計画、掲示、教育資料)に転記して運用化 | 共有の置き場所を 1 つ決め、そこに集約 |
| 退院後につながらない | 「自宅でも運動するよう指導」 | 「週 3 日、10 分× 2、 Borg 11〜13。痛み増悪( NRS +2 )で中止し受診」 | 頻度・量・強度・中止基準をセットで |
※ 表は横スクロールで閲覧できます。
関連して、評価・記録の全体像を先に整理したい場合は、令和 8 年改定(リハ)まとめもあわせて参照してください。
そのまま使える:指導を「見える化」する記録テンプレ(短文で OK)
ポイントは、長文にしないことです。監査・院内共有で効くのは「抜けがない短文」です。ここでは、誰でも同じ書き方に寄せられるテンプレを用意します。
テンプレ 1:患者・家族への指導( 1 分で書く)
- 目的:(例)退院後の転倒予防/誤嚥予防/介助量の最適化
- 内容:(例)手順 3 点(姿勢/手段/ペース)
- 条件:(例)疼痛増悪、 SpO2 低下、ふらつき増で中止
- 宿題:(例)頻度・回数・強度( Borg )
- 理解:本人・家族の反応(復唱できた/実演できた 等)
テンプレ 2:病棟スタッフへの共有(申し送り用)
- してよい:(例)日中トイレは FWW で見守り
- してはいけない:(例)夜間の単独歩行は不可
- コール基準:(例)立位でふらつき/呼吸苦/疼痛増悪
- 観察:(例)むせ、眠気、注意低下、介助量増
テンプレ 3:退院後につなぐ(指導の “出口” を書く)
- 想定生活:(例)屋内は杖、屋外は FWW
- リスク:(例)段差、夜間動作、服薬後のふらつき
- 対策:(例)手すり位置、動線変更、運動の中止基準
- フォロー:(例)外来/訪問/通所 へ申し送り
よくある質問(FAQ)
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Q1. 「指導等」は、患者指導だけを指しますか?
A. 患者本人への説明に限らず、家族指導、病棟スタッフへの教育、環境調整、自主練設計など、療法士の専門性を活かした支援全般が対象になり得ます。重要なのは、誰に/何を/なぜ/どんな条件でを短文で残し、病棟として継続できる形にすることです。
Q2. 疾患別リハの記録に書けば十分ですか?
A. 個別介入の整合性としては有効ですが、病棟機能(特定入院料)として評価される論点では、病棟運用としての共有・定着も説明できると強くなります。個別記録に加え、申し送り・計画・教育資料など「病棟の共通欄」にも集約できる設計が安心です。
Q3. 記録が長文化して回らないのが心配です
A. 長文は不要です。テンプレは「目的→内容→条件→宿題→理解」の 5 点に絞っています。まずは病棟で 1 つの型に統一し、慣れてから項目を追加するのが現実的です。
Q4. まず何から着手すると失敗しにくいですか?
A. 最初は、① 病棟で頻出の指導テーマ(転倒、嚥下、ADL 等)を 1 つ選ぶ、② 共有の置き場所を 1 つ決める(申し送り欄など)、③ テンプレで短文運用を 2 週間回して改善、の順がスムーズです。
次の一手
- 制度全体の変更点を俯瞰する:令和 8 年 診療報酬改定(リハ)まとめ
- 疾患別リハの専従・兼務整理を先に固める:疾患別リハ算定上限・専従要件( 2026 対応 )
- 運用を整える → 共有の型を作る → 環境の詰まりも点検する:無料チェックシートを使う
参考文献
- 厚生労働省.令和 8 年度 診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理(案).中医協 総-7( 2026-01-14 公表資料). PDF
- 厚生労働省.中央社会保険医療協議会 総会(公聴会)資料(第 643 回・ 2026-01-21 ). PDF
- 厚生労働省.入院基本料・特定入院料の全体像(参考資料). PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


