全人間的復権とは? ICF で生活参加に落とす

制度・実務
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この記事のねらい(結論)

「全人間的復権」は、からだの機能だけでなく、役割・権利・生活参加まで取り戻すという、リハビリテーションのコア概念です。本稿は概念解説で終わらせず、 ICF で整理しながら、活動・参加ベースの目標に落とし込む実務までを 60 秒で家族に説明できる形にまとめます。

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全人間的復権の定義をかみ砕く

リハビリテーションは「障害をもつ人の全人間的復権」をめざします。ここでの “復権” は、筋力や関節可動域の回復にとどまらず、本人が望む生活役割を取り戻すことを意味します。

例:買い物に行く、孫の迎えに行く、地域の集まりに参加する——こうした生活参加を具体化してから、必要な活動・機能・環境調整に落とし込みます。つまり「良くする」順番は、参加 → 活動 → 機能 → 環境の“逆算”です。

ICF の枠組みと “全人間的” の接点

ICF は、参加(人生場面)を中心に、活動(課題の実行)、心身機能・身体構造、そして環境因子・個人因子の相互作用で捉える枠組みです。全人間的復権は、参加を起点に「必要な活動」「不足する機能」「整える環境」を逆算し、チームで同じ地図を持つことに強みがあります。

この “地図” が揃うと、筋力や歩行といった要素が手段として位置づくため、介入の優先順位がぶれにくくなり、本人・家族への説明も短く、伝わりやすくなります。

活動・参加ベースの目標設定(SMART + ICF )

参加目標を SMART ( Specific / Measurable / Achievable / Relevant / Time-bound )で記述し、そこから活動・機能・環境を逆算します。ポイントは「筋力」「歩行距離」だけで終わらせず、いつ・どこで・何を・どれくらいまで書くことです。

下の表は、新人指導で使いやすいように “良い例/悪い例” を対比で示しています。

参加ベース目標設定の良い例/悪い例(新人指導用)
項目 良い例:参加を起点 悪い例:機能だけ
ゴール文 3 週間以内近所の集まりへ月 2 回参加できる。屋外 500 mの歩行と段差 2 箇所を家族同伴で安全に移動する。」 「下肢筋力を上げる」「 6 分間歩行距離を伸ばす」
活動 屋外歩行訓練、段差昇降、休憩ポイント設定、買い物かご操作 レッグプレス負荷漸増のみ
機能 立位耐久・バランス・心肺持久力・痛み管理 膝伸展筋力のみ
環境調整 杖・靴・段差マット、送迎ルートの安全確認、家族同伴の役割 記載なし
評価 歩行速度、 TUG 、 RPE 、段差課題、行動実績(参加回数) 筋力測定のみ

事例で理解:脳卒中/フレイルのゴール設計

事例 A:脳卒中・片麻痺——参加=「週 1 回の喫茶会で 60 分座位」。阻害因子=座位耐久、手指巧緻、段差。環境=椅子の高さ、手すり、送迎。介入=座位耐久訓練、麻痺手の実用動作、段差練習、家屋調整。評価=座位耐久(分)、屋外歩行速度、段差課題成功率、実参加回数

事例 B:フレイル——参加=「孫の保育園迎え(片道 500 m )」。阻害因子=持久力、痛み、恐怖回避。環境=ルートの段差、休憩ベンチ。介入=有酸素+筋力の複合、疼痛管理、外出リハ。評価= 6 MWT 、 RPE 、屋外歩数、週あたり実施回数。

家族に 60 秒で伝える説明スクリプト

「リハビリの目的は “筋力アップ” そのものではなく、その人らしい役割の回復です。まず『行きたい・やりたい』という参加を出発点にして、必要な動作(活動)や体の機能、道具や住環境を逆算します。今日は『近所の集まりに月 2 回行ける』を目標に、移動の段取りと家の準備まで具体化して、できた回数で進み具合を一緒に確認します。」

現場の詰まりどころ(ここで止まりやすい)

全人間的復権を “実務” に落とすときの詰まりどころと回避策
詰まりどころ 起きやすい理由 回避策( 30 秒で修正) 記録の型
参加ゴールが抽象的 「外出したい」「家事したい」で止まる 頻度(回/週)・距離( m )・時間(分)・場所(自宅外のどこ)を 1 つずつ足す 「いつまでに/どこへ/何を/どれくらい」
機能目標だけになる 測りやすい指標に寄りやすい 「その筋力は何の参加に必要?」を 1 回だけ問い直す 参加 → 活動 → 機能(矢印で 1 行)
環境調整が抜ける 院内では再現しにくい 道具(杖・靴)/動線(段差)/同伴(家族役割)をチェック欄化する 「道具/動線/同伴」 3 点セット
評価が多すぎる 何でも測りたくなる 参加の成果(回数)+活動(例: TUG )+自覚( RPE )の 3 つに絞る 「回数・ 1 指標・ 1 自覚」

多職種連携と環境整備チェック(抜けを防ぐ)

参加ゴールを実現するための連携ポイント(院内カンファ用)
観点 具体チェック 記録ポイント
家屋 段差・手すり・照度・動線の安全、玄関〜屋外までのルート 危険箇所と代替ルート(写真があれば共有)
福祉用具 杖・靴・座面高・クッション・手すりの適合 “いつ・どこで” 使うか(院内と屋外で分ける)
疼痛・内科 服薬・副作用、息切れ、起立性症状、既往 中止基準と連絡先(誰に報告するか)
交通・送迎 家族の役割分担、待機場所、同行時の介助量 同伴者の “できること/できないこと” を明確化
栄養・水分 外出前後の補給、脱水、食事量の変動 外出時の補給プラン(飲水・間食)
疲労・休憩 RPE 、休憩タイミング、復帰時間 休憩ポイント(場所・回数)を具体化
転倒リスク 屋外段差、夜間外出、雨天時の回避策 “避ける条件” を決める(天候・時間帯)
社会資源 デイ・通所リハ・地域サロンの活用 利用頻度と目的(参加の場として設計)
フィードバック 参加回数と満足度の振り返り 「できた/できない」の理由を 1 行で残す

ダウンロードとテンプレ( A4 ・印刷用)

参加 → 活動 → 機能 → 環境を “逆算” して整理したいときに使える、院内向けの記録フォーマットです(ブラウザの印刷から PDF 書き出しもできます)。

  • ICF 目標設計ワークシート( A4 )/wp-content/uploads/2025/10/icf_goal_design_worksheet_a4_v1_20251021.html
  • 家族説明カード(二面・ A4 )/wp-content/uploads/2025/10/family_explanation_card_two-up_a4_v1_20251021.html
  • 多職種連携チェックリスト( A4 )/wp-content/uploads/2025/10/team_coordination_checklist_a4_v1_20251021.html

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

「機能回復」と「全人間的復権」は何が違う?

機能回復は手段、全人間的復権は目的です。目標は参加で書き、機能はそのための要素として位置づけます。迷ったら「その機能は、どの参加のため?」を 1 回だけ問い直すと整理しやすくなります。

ICF を臨床で使うコツは?

まず参加ゴールを 1 行で書く → 必要な活動・機能・環境を短く並べる → 評価指標を 2〜3 個に絞る、の順で “逆算” します。参加の成果は 回数(実績)で残すと、チームで共有しやすくなります。

家族への説明が長くなってしまいます

「やりたい生活」→「段取り」→「今日の練習」の順に短く伝えます。数値を入れるなら「いつまでに・どこへ・どれくらい」だけで十分です。

参加目標が立てにくい(本人の希望が出ない)

「退院後に 困りそうな場面」から聞くと、参加のヒントが出やすいです(例:買い物、通院、集まり、役割、趣味)。出た言葉をそのまま使い、頻度・距離・時間を 1 つずつ足してゴール文にします。

おわりに

全人間的復権は、参加を言語化 → 逆算して段取り化 → 小さく試す → 実績で更新のリズムで進めると、現場で “回る” 概念になります。面談準備チェックと職場評価シートで相談前の整理を進めたいときは、マイナビコメディカルの面談準備シート(ダウンロード)も合わせて使ってください。

参考文献

  • World Health Organization. International Classification of Functioning, Disability and Health ( ICF ). 2001. Available from: WHO official page
  • World Health Organization. Rehabilitation(概念・位置づけ). Available from: WHO health topic: Rehabilitation
  • 日本リハビリテーション医学会(用語・概念の解説). Available from: 公式サイト

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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