全人間的復権とは?意味・ICFとの関係・記録の考え方

制度・実務
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全人間的復権とは?人間らしく生きる権利の回復を意味します

全人間的復権とは、病気や障害の有無にかかわらず、その人が人間らしく生きる権利・尊厳を回復することです。筋力や関節可動域を改善することだけでなく、本人が大切にしている生活、役割、選択、社会との関わりを支えるところまで含みます。

理学療法士が臨床へ落とし込む際は、本人が望む生活場面を確認し、必要な活動、関連する心身機能・身体構造、利用できる環境を整理すると考えやすくなります。本記事では、全人間的復権の意味、ICFとの関係、目標・記録へ変換する方法を、A4記録シートとともに解説します。

全人間的復権は、単に「元の身体へ戻すこと」ではありません

全人間的復権の中心は、機能回復ではなく、人間らしく生きる権利と尊厳です。リハビリテーションを訓練や機能改善だけと捉えると、検査値が良くなること自体が目的になり、本人が何を望んでいるかが後回しになりやすくなります。

たとえば、膝伸展筋力の改善は重要ですが、それ自体が最終目的とは限りません。「自宅のトイレを一人で使いたい」「家族と食卓を囲みたい」「仕事や地域活動へ関わりたい」といった生活・人生上の希望を支える手段として位置づけます。

全人間的復権と機能回復だけで考える場合の違いを示した図版
全人間的復権では、機能改善を目的ではなく、本人が大切にする生活や選択を支える手段として捉えます。

また、全人間的復権は、必ずしも病気や障害が生じる前と同じ状態へ戻ることを意味しません。以前の役割を再開する場合もあれば、現在の心身状態や環境に合わせて、新しい生活方法や役割を本人と一緒に選び直す場合もあります。

本人・家族へ短く説明するなら

「リハビリは体を良くする訓練だけではありません。その人が大切にしている暮らしや役割を、自分らしい形で続けられるように支えるものです」と伝えると、目的を共有しやすくなります。

旧来の障害観からICFへの変化を確認したい場合は、ICIDHとICFの違い・読み替え方で整理できます。

ICFは、全人間的復権を具体的に考えるための共通言語です

ICFは全人間的復権そのものの定義ではなく、生活機能と障害を多面的に整理するための分類・概念的枠組みです。心身機能・身体構造、活動、参加、環境因子、個人因子、健康状態が相互に関係するものとして捉えます。

全人間的復権をICFで考える利点は、身体機能だけでなく、本人が行っている活動、生活・人生場面への関わり、周囲の支援や障壁まで同じ地図上で確認できることです。

注意点として、「参加 → 活動 → 機能 → 環境」はICFが定める公式の記載順ではありません。ICFは各要素の相互作用を重視する枠組みです。本記事では、本人の希望から目標を考えやすくするための実務上の整理順として「参加から逆算」を用いています。

また、ICFでは活動と参加のカテゴリーに共通してdを使用します。活動は課題や行為の遂行、参加は生活・人生場面への関与という違いがありますが、時間単位だけで機械的に分けるものではありません。

全人間的復権を臨床へ落とすための実務上の整理順
整理する要素 確認すること 記載例 確認指標の例
参加(d) 本人が大切にしたい生活・人生場面は何か 「週2回、近所の集まりに参加したい」 参加頻度、外出回数、本人の満足度
活動(d) その場面へ関わるために必要な課題・行為は何か 「屋外を15分歩く」「玄関の段差を越える」 歩行距離、所要時間、介助量、動作観察
心身機能・身体構造(b / s) 活動へ影響している機能・構造上の要因は何か 「歩行時痛」「下肢筋力低下」「立位バランス低下」 筋力、関節可動域、疼痛、バランス
環境因子(e) 促進因子と阻害因子は何か 「手すりは促進因子、玄関段差は阻害因子」 住環境、福祉用具、家族支援、制度・サービス

目標は、本人の希望を具体的な場面と条件へ変換します

全人間的復権を目標へ落とす際は、本人が何を大切にしているかを確認したうえで、場面・条件・期限を具体化します。「歩けるようになりたい」だけでは、歩く場所や必要な介助量、達成時期が分からず、本人とチームの判断がそろいません。

実務上はSMARTの考え方を確認枠として利用できます。ただし、SMARTはICFの公式要件ではありません。目標が具体的か、評価できるか、本人の生活に関係しているか、期限があるかを確認するために使います。

たとえば、「2週間以内に、家族同伴で近所のスーパーまで往復する。四点杖を使用し、途中休憩は1回までとする」のように、期限・場所・支援条件・許容範囲を入れます。

一方で、本人の希望を専門職が一方的に現実的・非現実的と判断しないことも重要です。希望をそのまま実施目標にするのではなく、何を大切にしているのかを確認し、短期目標や環境調整へ分けて共有します。

記録では、生活目標と今日の評価を一本につなげます

記録は、目標、現在の状態、要因、次の対応、再評価方法がつながる順番で残します。検査結果だけを並べるのではなく、その結果が本人の活動や参加へどのように関係しているかを示します。

たとえば、「買い物再開を希望。屋外20mは四点杖・見守りで可能だが、歩行時痛により1回立ち止まる。次回は同じ杖・見守り条件で歩行距離と停止回数を再評価する」と記載すれば、目標と評価の関係が伝わります。

再評価では、補助具、介助量、歩行場所、休憩、疼痛などの条件をそろえます。数値が変わっていても条件が異なれば、同じ能力や実行状況を比較したことにはならないためです。

全人間的復権を整理するA4記録シートPDF

本人が望む参加から、活動、心身機能・身体構造、環境、次の一手までを1枚で整理できる記録シートです。初回評価、カンファレンス前、目標の見直し、再評価条件の確認に使用できます。

A4・1ページ|参加起点の実務整理シート

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全人間的復権が行動へつながらない原因

実務で止まりやすいのは、理念が難しいからではなく、本人の希望と評価・介入がつながっていないときです。特に、以前の生活へ戻すことだけを目標にする、活動と参加を用語だけで分ける、環境調整を最後に回すといった場面でずれが生じます。

全人間的復権を臨床へ落とす際の詰まりと対策
詰まり 起きていること 最初に行う対策 記録の残し方
目標が抽象的 「元気になる」「歩けるようになる」で止まっている どこで、誰と、何をしたいかを確認する 生活場面・条件・期限を1文にする
以前の生活だけを正解にする 現在の希望や新しい生活方法が反映されない 今後大切にしたいことを本人へ確認する 本人の希望と専門職の提案を分けて残す
評価が散らばる 目標と関係の薄い検査結果が並んでいる 目標へ影響する指標を優先する 再評価する指標・条件・時期を書く
環境調整が後回し 本人の機能改善だけで解決しようとしている 促進因子と阻害因子を1つずつ確認する 環境因子、対応、変化をつなげて残す

全人間的復権とICFで起こりやすい誤解

全人間的復権を「参加を達成すること」だけに置き換えないことが重要です。参加は大切な視点ですが、本人の尊厳や選択を無視して、専門職が望ましい生活像を決めれば、全人間的復権とはいえません。

全人間的復権を考える際のNGと修正方法
NG 問題点 修正方法 確認ポイント
筋力改善だけを目標にする 改善した機能を何に使うかが分からない 本人が望む生活場面との関係を示す 「何のための評価・介入か」を記載する
以前と同じ生活へ戻すことを前提にする 現在の価値観や選択が反映されない 継続したいことと変えてよいことを確認する 本人の言葉を目標設定の根拠にする
活動と参加を時間単位だけで分ける ICFの定義とずれる 課題・行為の遂行か、生活場面への関与かで考える 同じdカテゴリーが両方の視点を持ちうることを理解する
参加から書くことをICFの公式ルールとする 相互作用を扱うICFを一方向の因果関係にしてしまう 参加起点は実務上の整理法と位置づける 健康状態、個人因子、環境因子も往復して確認する

5分で行う「参加から逆算」の実務フロー

参加から逆算するときは、本人の希望を起点にしながら、各要素を一方向に決めつけず往復して確認します。次の手順は、WHOが定めるICFの公式記載順ではなく、初回評価やカンファレンス前の整理を短時間で行うための実務フローです。

全人間的復権を実務へ変換する5ステップ
手順 行うこと 短い記録例
1. 本人の希望を確認する 大切にしたい生活場面や役割を本人の言葉で確認する 「自分で買い物へ行きたい」
2. 参加と活動を分ける 生活場面への関与と、必要な課題・行為を整理する 参加:買い物再開/活動:屋外歩行と商品運搬
3. 関連要因を絞る 心身機能・身体構造、健康状態、個人因子から優先要因を確認する 歩行時痛と立位バランス低下が主な制限要因
4. 環境を調整する 促進因子を利用し、阻害因子を減らす方法を考える 四点杖、家族同伴、休憩場所を利用する
5. 次の一手と再評価を決める 誰が何を行い、何を同じ条件で再評価するかを決める 1週間後、同じ杖・見守り条件で歩行距離と停止回数を確認

よくある質問

各項目名をタップすると回答が開きます。

Q1. 全人間的復権とQOL向上は同じ意味ですか?

A. 同じ意味ではありません。全人間的復権は、人間らしく生きる権利や尊厳の回復を中心とする理念です。QOLは本人が感じる生活の質を表す概念であり、全人間的復権を支える過程でQOLが改善することはありますが、両者をそのまま置き換えることはできません。

Q2. 病気になる前の生活へ戻れない場合は、全人間的復権になりませんか?

A. 以前と同じ状態へ戻ることだけが全人間的復権ではありません。現在の心身状態や環境の中で、本人が大切にしたいことを選び、新しい方法や支援を利用して生活を再構成することも含まれます。

Q3. ICFの活動と参加は、どのように分ければよいですか?

A. 活動は個人による課題・行為の遂行、参加は生活・人生場面への関与として考えます。たとえば、屋外を歩くことは活動として整理でき、その歩行を使って地域の集まりへ関わることは参加として整理できます。ただし、ICFでは活動と参加に共通のdカテゴリーを使用するため、目的に応じて判断します。

Q4. 「参加から逆算」はICFの正式な書き方ですか?

A. ICFが定める必須の記載順ではありません。ICFは、心身機能・身体構造、活動、参加、環境因子、個人因子、健康状態の相互作用を捉える枠組みです。参加から逆算する方法は、本人の希望と評価・介入を結びつけるための実務上の整理法として使用します。

次の一手

全人間的復権の意味を確認したあとは、目的に合わせてICFの全体像または具体的な記載方法へ進みます。

全体像を整理する

ICFと目標設定の全体像を見る

記録へ落とす方法を確認する

ICFの書き方と記載例を見る

標準化を試しても運用が定着しない場合

相談相手がいない、教育体制が整っていない、見本となる記録が共有されないなど、職場環境が主な要因になっていないかも確認します。

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チェック後の進め方を見る(PTキャリアガイド)


参考文献

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著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設しました。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハビリテーション、リハビリテーション栄養、シーティング、摂食・嚥下

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