肩関節の整形外科テスト【腱板・不安定性】

評価
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肩関節の整形外科テストとは

臨床で伸びる学び方の流れを見る(PT キャリアガイド)

肩の整形外科テストは、腱板損傷、インピンジメント、肩関節不安定性、関節唇損傷、肩鎖関節障害、上腕二頭筋長頭腱炎など、多彩な病態を切り分けるために使われます。ただしテスト単独で診断を「確定」できるわけではなく、画像検査や年齢・受傷機転・職業歴などの情報と組み合わせて、病態仮説を絞り込む道具 として扱うのが現実的です。

本記事では、Neer・Hawkins・Painful Arc・Empty/Full Can・Drop Arm・Sulcus Sign・Apprehension・O’Brien など、日常的によく使うテストを「腱板・インピンジメント」「不安定性」「関節唇」「肩鎖関節・長頭腱」という 4 つのまとまりで整理します。理学療法士が押さえておきたい禁忌や注意点、評価結果をリハビリテーションに落とし込む視点まで含めて解説します。

腱板損傷・インピンジメントを疑うテスト群

夜間痛や挙上時痛、オーバーヘッド動作での痛みなどがある場合には、腱板損傷や肩峰下インピンジメントを想定します。代表的なテストには、Neer インピンジメントテスト、Hawkins インピンジメントテスト、Painful Arc サイン、棘上筋テスト(SSP テスト)、Empty Can テスト、Full Can テスト、Drop Arm テスト、Lift-off テスト、棘下筋(ISP)テスト、Apley Scratch テストなどがあります。

腱板・インピンジメント関連テストと主な狙い
テスト名 主な操作 狙う構造・病態
Neer インピンジメント 肩甲骨を固定して前方挙上 肩峰下インピンジメント(棘上筋・長頭腱など)
Hawkins インピンジメント 90°屈曲位から内旋 肩峰下インピンジメント、棘上筋腱・滑液包刺激
Painful Arc サイン 自動外転時の疼痛アークを観察 60〜120°での肩峰下インピンジメント
Empty/Full Can 肩外転+内/外旋で抵抗に抗する 棘上筋機能、三角筋との鑑別
Drop Arm 他動挙上後にゆっくり降ろさせる 大きな腱板断裂(特に棘上筋)
Lift-off・ISP テスト 背中から手を離す・外旋抵抗 肩甲下筋・棘下筋の機能評価

Neer や Hawkins が陽性でも、すべてが「腱板断裂」とは限りません。変形性肩関節症や肩峰形状、姿勢(胸椎後弯・肩甲帯前方化)に伴う二次的インピンジメントでも同様の所見が出ます。痛みが出る角度・部位・性状に加え、「どの動作で再現されるか」「局所圧痛はどこか(大結節・肩峰下・肩鎖関節など)」をセットで確認しましょう。

高齢者では可動域制限や筋力低下の影響で、「どのテストも何となく痛い」「抗重力自体が大変」というケースが多く、偽陽性も増えます。その場合、Drop Arm や明らかな力の抜け落ち、常位での脱力感の有無、日常生活での使用制限などを見ながら、「大きな断裂」「疼痛抑制による筋力低下」「単純な拘縮」のどれが主因かを考えていくことが大切です。

不安定性・脱臼既往をみるテスト群

肩関節脱臼の既往がある若年者や、スポーツ活動中に「抜ける感じ」「はまりが悪い感じ」を訴える症例では、肩関節不安定性や Bankart 病変などの可能性を考えます。代表的なテストには、下方不安定性をみる Sulcus Sign、前方不安感テスト(Anterior Apprehension Test)、後方不安感テスト(Posterior Apprehension Test)などがあります。

Apprehension テストで重要なのは、「痛み」よりもむしろ apprehension(不安感) そのものです。患者が「このまま行くと外れそう」「怖い」と感じて筋緊張が高まる場合には、真正面から抵抗をかけ続けるのではなく、すぐに負荷を緩めます。過去の脱臼経験がトラウマになっていることも多く、評価そのものが心理的ストレスになることを念頭に置きましょう。

Sulcus Sign で明らかな下方不安定性がある場合や、軽い外旋・外転で強い apprehension が出る場合には、高負荷のストレッチやマニピュレーションは避けるべきです。リハビリテーションでは、肩甲帯・体幹を含めた動的安定化(scapular setting、ローテーターカフと肩甲帯筋の協調)を重視し、危険域での抵抗運動よりもまず安全な範囲でのコントロール獲得を優先します。

関節唇損傷・SLAP 病変を疑うテスト群

投球やオーバーヘッドスポーツ歴があり、「深部の引っ掛かり感」「特定の角度での抜けるような痛み」「クリック音」などがある場合には、関節唇損傷や SLAP 病変を疑います。代表的なテストが O’Brien テスト(Active Compression Test)です。

O’Brien テストは、肩関節 90° 屈曲・内転位で、前腕最大回内(母指下向き)と回外(母指上向き)の 2 条件で抵抗をかけ、肩峰下や肩関節前上方の痛みの変化をみるものです。内旋位で痛みが強く、外旋位で軽減する場合には、関節唇や長頭腱付着部の関与が示唆されます。ただし、肩鎖関節や腱板、長頭腱自体の病変でも陽性となりうるため、「O’Brien 陽性=SLAP」と短絡しないことが重要です。

臨床では、投球時のどのフェーズで痛みが出るか(レイトコッキング〜アクセラレーションなど)、クリックや抜け感があるか、過去の外傷歴(転倒・脱臼)などを問診で丁寧に拾い、必要に応じて画像検査やスポーツ整形外科への紹介を検討します。理学療法では、肩甲帯・体幹の連動改善や投球フォームの修正を通じて、関節唇へのストレスを減らすことが主な役割になります。

肩鎖関節・上腕二頭筋長頭腱をみるテスト群

肩峰外側〜鎖骨外側付近の限局した圧痛や、水平内転時の痛みが前面に出る場合には、肩鎖関節障害を疑います。Horizontal Arc テストや High Arc テストは、肩関節水平内転や高挙上で肩鎖関節部に負荷をかけ、疼痛の再現を確認するテストです。局所圧痛、腫脹、変形(階段状変形など)と組み合わせて、「痛みの主座」が AC 関節かどうかを判断していきます。

一方、肩前方溝部の圧痛や挙上時の前面痛が強い場合には、上腕二頭筋長頭腱炎や腱溝不安定性を想定します。Speed テスト(肘伸展・前腕回外位での屈曲抵抗)や Yergason テスト(肘屈曲位からの回外抵抗)では、長頭腱にストレスをかけて前面痛の再現を確認します。ただし、長頭腱単独の病変は意外と少なく、多くは腱板・関節唇病変の一部として痛みが出ていることも忘れてはいけません。

リハビリテーションでは、AC 関節障害に対しては挙上角度や荷重ラインを調整しつつ、僧帽筋中・下部線維や前鋸筋を中心とした肩甲帯の動的安定化を図ります。長頭腱炎が疑われる場合には、初期は疼痛誘発肢位と抵抗負荷を避けながら、姿勢と肩甲帯運動を整え、疼痛の落ち着きとともに二頭筋自体の負荷調整を行っていきます。

評価結果をリハビリテーションにどう落とし込むか

肩関節の整形外科テストは、「陽性・陰性のチェックリスト」ではなく、どの構造・どの動作で問題が出ているかを言語化するツール として位置付けると有用性が高まります。Neer・Hawkins・Painful Arc などでインピンジメントが強く疑われる場合には、まず肩峰下スペースを圧迫しにくい肢位と動作パターンを優先し、体幹・肩甲帯・下肢を含めた全身の連鎖の中で挙上動作を見直します。

Apprehension テストで不安定性が示唆される症例では、危険域でのストレッチや高負荷トレーニングは避け、可動域の確保と動的安定化のバランスをとりながら段階的に負荷を上げていきます。O’Brien 陽性や AC 関節痛が主体の症例では、それぞれの構造に負担が集中しないよう、挙上角度・外旋量・体幹の傾きなどを調整し、動作の選択と順序付けを工夫することが重要です。

再評価のタイミングとしては、初期には疼痛の変化に応じて Neer・Hawkins・Painful Arc など数個のテストを継続的に追い、改善傾向が見える段階でより機能的なテスト(例えば Apley Scratch や実際の ADL・スポーツ動作)へとシフトしていきます。痛みの強さだけでなく、「できること」の増え方を評価に組み込むことで、患者さんへのフィードバックやチーム内共有もしやすくなります。

配布物・チェックシートの活用(働き方の整理にも)

肩関節の症例は、年齢・スポーツ歴・作業環境により背景が大きく異なり、評価と介入のパターンを頭の中だけで管理するのは負荷が高くなりがちです。症例ごとに「どのテストで何がわかったか」「どの動作にどう落とし込んだか」を簡単にメモしておくと、自分なりの肩の評価・治療フローが見えやすくなります。

働き方を見直すときの抜け漏れ防止に。見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック(A4・5 分)と職場評価シート(A4)を無料公開しています。印刷してそのまま使えます。ダウンロードページを見る

おわりに

肩関節の整形外科テストは、腱板損傷・インピンジメント・不安定性・関節唇障害など、多彩な病態を相手にするだけに、「テストの名前」と「手順」だけでは迷いやすい領域です。どのテストがどの構造・どの動きに負荷をかけているのかをイメージしながら、評価→介入→再評価のリズムを作ることで、症例ごとの方針が立てやすくなります。

上で紹介した面談準備チェックと職場評価シートも活用しながら、学び続けやすい環境づくりと、自分なりの「肩の評価・治療フロー」の言語化を進めていきましょう。日々の臨床の中で得た小さな気づきを積み重ねることが、最終的には患者さんのアウトカムと自分自身のキャリアの両方を支えてくれます。

よくある質問

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Empty Can と Full Can はどちらを使えばよいですか?

どちらも棘上筋を評価するテストですが、Empty Can(内旋位)は肩峰下圧迫が強くなりやすく、疼痛が出やすい一方で、三角筋や他筋の影響も受けやすいとされます。Full Can(軽度外旋位)はより自然な挙上肢位に近く、棘上筋の筋力評価としては再現性が高いとする報告もあります。臨床では、疼痛の有無・再現される部位を含めて、両方のテストを補完的に使うと解釈しやすくなります。

Drop Arm テスト陽性=腱板断裂と考えてよいですか?

Drop Arm テスト陽性は大きな腱板断裂(特に棘上筋)を示唆しますが、高齢者の疼痛抑制や筋力低下、恐怖回避でも似たような所見が出ることがあります。常位での挙上可否、日常生活での使用状況、他の腱板テストやエコー・MRI などの画像所見を組み合わせて判断することが大切です。Drop Arm 陽性だからといって、ただちに手術適応と決めつけるのではなく、機能とニーズを含めて総合的に検討します。

Apprehension テストが怖くて強く外旋できません。どう評価すべきですか?

Apprehension テストは、強く外旋させることが目的ではなく、「どの範囲で不安感が出るか」「どの角度から筋緊張が高まるか」を知るためのテストです。患者が不安を訴えた段階でそれ以上無理に外旋する必要はなく、その時点での可動域と不安の程度を記録すれば十分な情報になります。必要に応じて Relocation テストなど低負荷なバリエーションも活用し、安全性と心理的安心感を優先して評価を進めましょう。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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