GNRIとは？（目的と使いどころ）
GNRI（ Geriatric Nutritional Risk Index ）は、血清アルブミンと現体重 ÷ 理想体重（%IBW）から低栄養リスクを簡便に数値化するスクリーニング指標です。高齢者や慢性疾患で予後予測にも用いられ、栄養スクリーニングの運用に組み込みやすいのが特長です。
一方で GNRI は低栄養の「診断」基準ではないため、リスク検出後は GLIM などの診断枠組みに進むことが重要です（アルブミンは GLIM 診断基準に含まれません）。
計算式と IBW（理想体重）の定義
GNRI の基本式は下記です。現体重 ÷ 理想体重は1 を上限として扱います（1 を超える場合は 1）。
GNRI ＝ 14.89 × アルブミン（g/dL）
＋ 41.7 × （現体重 ÷ 理想体重）
理想体重（ IBW ）の定義は施設で差があります。原著は Lorentz 式を使用し、国内の実務では BMI 22 を用いる運用も一般的です。どちらを採用するかを院内で統一し、記録に方式を明記しましょう。
- Lorentz 式（身長 cm）：男性
身長 − 100 − (身長 − 150) / 4／ 女性身長 − 100 − (身長 − 150) / 2 - BMI 22 方式（身長 m）：
身長 × 身長 × 22
カットオフと解釈（高齢者の一般例）
多くの臨床研究で、GNRI は以下の 4 区分で解釈されます。施設用語や運用上のメモを併記してスタッフ間の理解を揃えましょう。
| GNRI スコア | 栄養関連リスク | 臨床上の目安 |
|---|---|---|
| > 98 | なし | 定期モニタ（食事量・体重・活動） |
| 92–98 | 低 | 食事支援＋経過観察（摂取記録の徹底） |
| 82–<92 | 中等度 | 栄養介入を検討（経口強化・補助食品等） |
| < 82 | 高度 | 多職種で積極的介入（経腸／静脈栄養も含む） |
透析患者での運用メモ
透析領域では、実務上 GNRI ≥ 92（≒ 91–92 以上）＝リスクなし／未満＝リスクありの扱いが広く用いられます。アルブミンは炎症・浮腫・脱水の影響を受けるため、腹膜透析や感染合併時は総合判断が必須です。
| GNRI | 評価 | 対応 |
|---|---|---|
| ≥ 92 | リスクなし | 維持・生活指導・運動併用 |
| < 92 | リスクあり | 摂取量・炎症・体液の拡張評価（ GLIM へ） |
実務フロー（スクリーン → 診断 → 介入）
GNRI はスクリーニングです。リスク検出後は、必ず診断枠組みと介入に接続します。病棟・在宅いずれでも運用できる標準フローを示します。
- スクリーン：Alb（ g/dL ）、身長、体重を取得。浮腫・脱水は所見化。
- IBW を決める：院内標準（ Lorentz ／ BMI 22 ）を統一して記録。
- 算出：上式で GNRI を計算（体重 / IBW は 1 を上限）。
- 判定：4 段階表、透析は 92 を実務目安に。
- 診断：リスクありなら GLIM の表現型＋原因の両軸評価へ。
- 介入：食事強化＋運動（例：6MWT、5×STS）で機能も併走。栄養・看護・ ST と KPI を共有。
よくある落とし穴と注意
解釈を誤りやすいポイントをまとめます。院内の「運用ルール」に転記しておくと新人教育にも有効です。
- Alb は炎症・浮腫・脱水で変動（単独で栄養「診断」不可）。
- 体重 / IBW は1 を超える場合は 1として計算。
- IBW の方式（ Lorentz ／ BMI 22 ）の混在は混乱の元。方式を統一・明記。
計算例
代表的な 2 パターンを示します（四捨五入あり）。
- Alb 3.0 g/dL、現体重 / IBW = 0.90 → GNRI = 14.89×3.0 + 41.7×0.90 = 82.2（中等度）
- Alb 3.8 g/dL、現体重 / IBW = 1.00 → GNRI = 14.89×3.8 + 41.7×1.00 = 98.3（なし）
関連記事（回遊におすすめ）
MNA-SF・MUST・GNRI の使い分け／ エネルギー必要量の計算方法／ 低栄養スクリーニングの運用／ 栄養・嚥下ハブ
参考文献
- Bouillanne O, et al. Am J Clin Nutr. 2005;82(4):777–783. doi: 10.1093/ajcn/82.4.777
- Cereda E, et al. Br J Nutr. 2009;102(6):958–965.（92 / 98 の区分）
- GLIM Update 2025. JPEN. 2025. doi: 10.1002/jpen.2756
- 加藤明彦ほか. 慢性透析患者における低栄養の評価法. 透析会誌. 2019;52(6):319–.
