【KTバランスチャート】13項目からなる嚥下機能の包括的評価方法

摂食・嚥下
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リハビリくん
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いつも当サイト(rehabilikun blog)の記事をお読みいただき誠にありがとうございます。また、初めましての方はよろしくお願い致します。サイト管理者のリハビリくんです!

   

この記事は「KTバランスチャート」をキーワードに内容を構成しております。こちらのテーマについて、もともと関心が高く知識を有している方に対しても、ほとんど知識がなくて右も左も分からない方に対しても、有益な情報がお届けできるように心掛けております。それでは早速、内容に移らせていただきます。

    

日本の社会問題である少子高齢化については皆様もよくご存知だと思います。団塊の世代が75歳以上に達する2025年には高齢化率が30%、2055年には40%にも及ぶことが試算され、要介護高齢者は増加の一途を辿ることになります。

    

これらのことを視野に「地域包括ケア・在宅ケア」の重要性が叫ばれ、多岐にわたる広範な政策概念が繰り広げられている最中となっております。

   

住み慣れた自宅で最期まで過ごしたい、過ごさせてあげたいと願う当事者や家族の思いに応えようとしたとき、課題になることが多いのが食の問題になります。

    

食べることに困難を有する要介護高齢者は、複合した病気や障害を有していることが多いため、食の支援は難易度が高くなります。食べる支援には、医学的管理のみならず、誤嚥性肺炎や低栄養のリスクを勘案した心身の調和への包括的なサポートが必要になります。この食べる機能についてを包括的に評価する方法が、KTバランスチャートになります。

   

KTバランスチャートについて、あまりよく存じていない方もいらっしゃると思います。そんな人のために、こちらの記事をまとめました!この記事を読むことで明日からの臨床でKTバランスチャートを活用することができるようになることを目標にします。特に、下記のポイントを理解できるようにします。

   

  • KTバランスチャートの基本情報
  • 評価項目と採点方法
  • 結果の解釈について

    

こちらの記事でKTバランスチャートにおける理解を深め、臨床における摂食・嚥下リハビリテーションの一助として活用して頂けると幸いです。是非、最後までご覧になってください!

リハビリくん
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【簡単に自己紹介】

30代の現役理学療法士になります。

理学療法士として、医療保険分野と介護保険分野の両方で経験を積んできました。

現在は医療機関で入院している患者様を中心に診療させていただいております。

臨床では、様々な悩みや課題に直面することがあります。

そんな悩みや課題をテーマとし、それらを解決するための記事を書かせて頂いております。

  

理学療法士としての主な取得資格は以下の通りです

登録理学療法士

脳卒中認定理学療法士

褥瘡 創傷ケア認定理学療法士

3学会合同呼吸療法認定士

福祉住環境コーディネーター2級

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士として働いていると、一般的な会社員とは異なるリハビリ専門職ならではの苦悩や辛いことがあると思います。当サイト(rehabilikun blog)ではそのような療法士の働き方に対する記事も作成し、働き方改革の一助に携わりたいと考えております。

  

療法士の働き方に対する記事の 1 つが右記になりますが、"理学療法士は生活できない?PTが転職を考えるべき7つのタイミング"こちらの記事は検索ランキングでも上位を獲得することができております。興味がある方は、こちらの記事も目を通してくれると幸いです☺

KTバランスチャートとは

口から食べることは、生命活動における全身的な活動であり、心身の統合された調和の上に成り立っております。

そのため、食べるサポートは摂食嚥下機能に加えて、QOL を勘案した「生活者としての包括的視点」 での評価と支援スキルが必要と考えられます。

そこで、小山らは KT バランスチャートを 2015 年に発表し、2017 年には信頼性・妥当性が検証された内容を反映した KT バランスチャートにブラッシュアップしています。

KTバランスチャートは嚥下機能を包括的に評価できるツールになります。身体侵襲がなく、簡易的であるため多職種で総合的に評価しながら、対象者の良好な点と不足な点を抽出した上で、その変化が可視化できるツールになっています。

「食べる意欲」「全身状態」「呼吸状態」「口腔状態」「認知機能」「捕食咀嚼・送り込み」「嚥下」「姿勢・耐久性」「食事動作」「活動」「摂食状況レベル」「食物形態」「栄養状態」の13項目で構成され、各項目を1(最低)〜5(最高)のポイントで評価します。レーダーチャートに描かれたKTバランスにより、介入すべきポイントを視覚的に認識することができることが最大の特徴になります。

KTバランスチャートの目的と使い方

  • KTバランスチャートは、対象者の口から食べる支援において包括的な視点で多職種による評価とアプローチをするためのアセスメントツールになります。
  • 「口から食べる」ための要素を13項目に分類したもので、それぞれの項目について5段階で評価し、全体のバランスを評価します。
  • 評価や変化を可視化、多職種で共有し、チーム力を駆使して対象者の食べる能力の維持・向上をはかるためのツールになります。

KTバランスチャートによる嚥下機能のアセスメント

  1. 心身の医学的視点:食べる意欲、全身状態、呼吸状態、口腔状態
  2. 摂食嚥下の機能的視点:認知機能(食事中)、咀嚼・送り込み、嚥下
  3. 姿勢・活動的視点:姿勢・耐久性、食事動作、活動
  4. 摂食状況・食物形態・栄養的視点:摂食状況レベル、食物形態、栄養

上記で示したように、KTバランスチャートは評価の視点を大きく4つに分類することができます。このように分類することで、対象者の課題が明確になり、やるべきことが明確になるのではないかと考えます。

例えば、心身の医学的視点については臨床医学になりますので職種関係なく考えられる項目だと思います。一方、2番目の摂食嚥下の機能的視点や4番目の摂食状況・食物形態・栄養的視点については、どちらかというと言語聴覚士の専門分野になると考えられます。

そして、3番目の姿勢・活動的視点については理学療法士や作業療法士の専門性が高い項目になるのではないでしょうか。このように、レーダーチャートにより、強みから弱みを可視化できるため、介入の方向性を調整したり、効果判定を行いやすいといったメリットが挙げられます。

KTバランスチャートの評価項目

評価項目は合計13項目になります。それぞれの項目を各評価視点に基づいて1〜5点による5段階評価を行います。

①食べる意欲

  1. 促しや援助しても食べようとしない
  2. 促しや援助で少し食べる
  3. 促しや援助で半量食べる
  4. 促しや援助でほとんど食べる
  5. 介助の有無に関わらず食べようとする、食べたいと意思表示する

②全身状態

  1. (全般)発熱があり、意識レベルは不良
  2. (急性期)何らかの急性疾患による発熱はあるが 37.5 °C以下に解熱するときがある、もしくは意識レベルが概ね良好(回復期・生活期)発熱があり、たびたび治療が必要となる
  3. (急性期)3 日以上 37.5 °C以下で意識状態が概ね良好(回復期・生活期)1 カ月に 1-2 回 37.5 °C以上の発熱があり、治療を要することがある
  4. (急性期)7 日以上発熱はなく、意識レベルは概ね良好(回復期・生活期)1 カ月に 1-2 回 37.5 °C以上の発熱があるが、とくに治療をしなくても解熱する
  5. 発熱はなく、意識レベルは良好

③呼吸状態

  1. 絶えず痰貯留があり、1 日 10 回以上の吸引が必要
  2. 痰貯留があり、1 日 5-9 回の吸引が必要
  3. 痰貯留があり、1 日 5 回未満の吸引が必要
  4. 痰貯留があるが、自力で喀出が可能
  5. 痰貯留や湿性嗄声がない

備考:気管カニューレがある場合、−1 点とする(最低1点)

④口腔状態

  1. 口腔衛生が著しく不良で、歯や義歯に歯科治療が必要
  2. 口腔衛生が不良で、歯や義歯に歯科治療が必要
  3. 口腔衛生は改善しているが、歯や義歯の治療は必要
  4. 口腔衛生は良好だが、歯や義歯の治療は必要
  5. 口腔衛生は良好で、歯や義歯の治療は必要としない

⑤認知機能(食事中)

  1. 食事中の認知機能が著しく低く、覚醒レベルも低く、全介助が必要
  2. 食事中の認知機能が低く、全介助が必要
  3. 食事中の認知機能が低く、一部介助が必要
  4. 食事中の認知機能は概ね保たれているが、介助を必要とすることがある
  5. 食事中の認知機能は良好で、介助なしで食事摂取可能

⑥咀嚼・送り込み

  1. 食べるための口・舌・頬・あごの動きのすべてがかなり困難
  2. 食べるための口・舌・頬・あごの動きのいずれかがかなり困難
  3. 食べるための口・舌・頬・あごの動きのいずれかが困難だが、何らかの対処法で対応できる
  4. 食べるための口・舌・頬・あごの動きのいずれも概ね良好
  5. 食べるための口・舌・頬・あごの動きのすべてが良好

⑦嚥下

  1. 嚥下できない、頻回のむせ、呼吸促迫、重度の誤嚥
  2. 嚥下は可能だが、むせや咽頭残留、呼吸変化を伴う
  3. 嚥下は可能だが、むせ・咽頭残留・複数回嚥下・湿性嗄声のいずれかを伴うが、呼吸変化はなし
  4. 嚥下可能でむせはない、咽頭残留はあるかもしれないが処理可能、良好な呼吸
  5. 嚥下可能で、むせ・咽頭残留はなく、良好な呼吸

⑧姿勢・耐久性

  1. ベッド上で食事の姿勢保持が困難、あるいはベッド上ですべての食事をしている
  2. リクライニング車いすで食事の姿勢保持が困難で、かなりの介助が必要
  3. 介助によりリクライニング車いすで食事の姿勢保持が可能
  4. 介助により普通型車いすで食事の姿勢保持が可能
  5. 介助なしで普通の椅子で食事の姿勢保持が可能

⑨食事動作

  1. すべての食物を皿から自分の口に運び、咀嚼嚥下する食事動作に相当の介助が必要。自力では食事動作の 25% 未満しかできない、あるいは経管栄養
  2. 介助が必要。自力で食事動作の 25 %以上 50 %未満を行う
  3. 一部介助が必要。自力で食事動作の 50 %以上を行う
  4. 食事動作に間接的な介助のみ(準備や見守り)が必要で、自立している。(食事時間が長くかかる症例も含める)
  5. 食事動作が完全に自立している。(自助具を使用する場合も含む)

⑩活動

  1. 寝たきり、ベッドからの移乗・トイレ・食事・更衣などすべてに介助が必要
  2. 介助で車いすへの移乗が可能で、ベッドから離れて食事が可能だが、めったに外出はしない
  3. 介助で車いすへの移乗が可能で、ベッドから離れて食事が可能。さらに介助でよく外出する
  4. 自力で車いすへの移乗が可能で、ベッドから離れて食事が可能だが、めったに外出はしない
  5. 自力で車いすへの移乗が可能で、ベッドから離れて食事が可能。1 人で外出が可能、あるいは介助でよく外出する

⑪摂食状況レベル

  1. 人工栄養のみ、もしくは間接嚥下訓練のみ
  2. 少量の経口摂取は可能(直接嚥下訓練含む)だが、主に人工栄養に依存
  3. 半分以上が経口摂取で、補助的に人工栄養を使用
  4. 形態を変えた食事や飲料を経口摂取、人工栄養は使用しない
  5. 形態を変えずに食事や飲料を経口摂取、人工栄養は使用しない

⑫食物形態

  1. 口からは何も食べていない
  2. ゼリーやムース食を主に食べる
  3. ペースト食を主に食べる
  4. 咀嚼食を主に食べる
  5. 普通食を主に食べる

⑬栄養

  1. 栄養状態がとても悪い
  2. 栄養状態が悪い
  3. 栄養状態が悪くない
  4. 栄養状態が良い
  5. 栄養状態がとても良い

【⑬栄養の判定方法について】

3ヶ月間における体重減少率とBMIの値によって採点します。

【体重減少率】

  • 3ヵ月で5%以上減少:0点
  • 3ヵ月で3〜5%減少:1点
  • 3ヵ月で3%未満減少or不明:2点
  • 3ヵ月で体重減少なし:3点

【BMI】

  • 18.5未満あるいは不明:0点
  • 18.5〜20.0あるいは30.0以上:1点
  • 20.1〜29.9:2点

以上の方法で体重減少率とBMIの点数をそれぞれ算出して、それらの合計点により⑬栄養の判定を行います。

  • 評価1:合計 0〜1点
  • 評価2:合計2点
  • 評価3:合計3点
  • 評価4:合計4点
  • 評価5:合計5点

KTバランスチャート 結果の解釈

KTバランスチャートの5段階評価は以下のように判定します。

  • 1点:かなり不良もしくは困難
  • 2点:不良もしくは困難
  • 3点:やや不良もしくは困難
  • 4点:概ね良好
  • 5点:かなり良好

KTバランスチャートの基本的な考え方としては、点数の高い項目は維持に努め、点数の低い項目に対して1点ずつでもステップアップする方法を検討します。

注意点として、KTバランスチャートは点数の向上だけを意識する評価法ではありません。がん、神経難病、終末期にある人は、点数が下がる場合も考えられます。その変化をもってアセスメントし、どのようにすればQOL向上につながるかを検討することが重要になります、

まとめ

最後までお読みいただきありがとうございます!

この記事では「KTバランスチャート」をキーワードに考えを述べさせていただきました。

こちらの記事でKTバランスチャートにおける理解を深め、臨床における摂食・嚥下リハビリテーションの一助として活用して頂けると幸いです。

理学療法士ならではの摂食嚥下評価については、他の記事で詳しくまとめています!《【摂食嚥下の理学療法評価】相対的喉頭位置、GSグレード、RSST》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️

参考文献

  1. 小山珠美.多職種・包括的サポートで患者・家族の「食べたい」を叶える.在宅新療0-100 .第2巻,第8号,2017年8月,p682-683.
  2. 小山珠美.高齢者の口から食べる幸せを守るために.日本老年医学会雑誌.58巻,4号,2021:10,p561-569.
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