SRQ-Dとは?(対象・目的)
SRQ-D( Self-Rating Questionnaire for Depression :東邦大式抑うつ尺度)は、うつ症状の自己記入式スクリーニングです。外来・回復期・地域リハの初期評価や経過観察に適し、所要はおおむね 3〜5 分。回答は 0〜3 点の 4 段階で、合計が高いほど抑うつ傾向が強いと解釈します。診断目的ではなく自己診断には用いないことが前提であり、「自己診断チェックシート」というよりは、医療者が用いる臨床用スクリーニングと位置づけるのが安全です。
SRQ-D は東邦大学の研究グループが作成した東邦大式抑うつ尺度で、国内研究で一定の信頼性・妥当性が報告されています。一方で、身体疾患や高齢によるバイアスの影響もあり、単独ではなく PHQ-9 や HADS、QIDS-J などと組み合わせて総合的に評価することが推奨されます。
項目と実施手順(配布・所要時間)
- 対象者へ目的と取扱い(診断ではない・個人情報保護)を説明します。「最近 2〜3 週間の状態」を思い出して答えてもらうことを共有します。
- 質問票を配布し、各設問を「いいえ/ときどき/しばしば/つねに」の 4 択で自己記入してもらいます。
- 所要は 3〜5 分程度。読み書き支援が必要な場合は読み上げ・指差しで代行し、誘導質問にならないよう注意します。
- 回答後にスコアリングし、面接所見や他尺度( PHQ-9 / HADS / BDI-II / QIDS-J )とあわせて解釈します。
点数の付け方とカットオフ・解釈の注意点
各設問は いいえ= 0 /ときどき= 1 /しばしば= 2 /つねに= 3 と採点します。ただし質問 2・4・6・8・10・12 は逆転(非症状)項目であり、どの選択肢でも 0 点(加点しない)とします。合計は 0〜36 点となり、一般的な判定目安( SRQ-D のカットオフ)は次の通りです(施設ごとに調整可)。
| 合計点 | 目安 | 推奨対応 |
|---|---|---|
| 0〜10 | 抑うつなし | 通常の経過観察。生活リズムやストレス対処の確認。 |
| 11〜15 | 境界領域 | 面接所見や PHQ-9 で補完し、睡眠・活動量・職場/家庭ストレスを整理。 |
| 16 以上 | 抑うつ傾向あり(カットオフの目安) | うつ病・自殺リスクを含めて医師と共有し、必要に応じて専門受診を検討。 |
この点数はあくまでスクリーニングの目安であり、「 SRQ-D の点数=診断」ではありません。特に自殺念慮や顕著な精神症状が示唆される場合は、点数にかかわらず安全確保とチーム連携を最優先します。また、身体疾患による倦怠感や疼痛が高得点の主因になっているケースも多く、生活歴・服薬・身体所見との統合的な解釈が欠かせません。
現場の詰まりどころとよくある間違い
SRQ-D は「東邦大式の自己記入チェックシート」として使いやすい一方、現場では次のような詰まりどころが目立ちます。第一は、合計点だけで意思決定してしまう誤用です。例えば、身体疾患の急性増悪や睡眠障害が主体なのに「抑うつ」と短絡してしまうと、対応の優先順位を誤るリスクがあります。
第二は、逆転項目の採点ミスと、認知症や高齢者で設問理解が不十分なまま記入してしまうケースです。集計表のひな型を用意してダブルチェックする、読み上げ時は一問ごとに理解を確認するなど、運用側の工夫でヒューマンエラーを減らしておくと安心です。さらに、 1 回の点数だけでラベリングせず、経時変化・日内変動・生活イベントをカルテにセットで記録し、チームで共有する流れを習慣化しておくことが重要です。
PHQ-9/HADS/BDI-IIとの比較・使い分け
| 項目 | SRQ-D | PHQ-9 | HADS | BDI-II |
|---|---|---|---|---|
| 主目的 | 抑うつ症状のスクリーニング | 抑うつの重症度把握 | 不安・抑うつの二軸評価 | 抑うつ重症度の詳細評価 |
| 項目数 | 18 | 9 | 14( A7 / D7 ) | 21 |
| 所要時間 | 約 3〜5 分 | 約 2〜3 分 | 約 5〜7 分 | 約 5〜10 分 |
| 臨床での使いどころ | 初期スクリーン・経過観察 | 診療導線・治療反応性のフォロー | 身体合併の多い外来・一般病棟 | 専門外来・研究・詳細な重症度評価 |
場面に応じて尺度を選び、結果は面接所見や ADL /参加状況と合わせて解釈します。関連:QIDS-J(簡易抑うつ症状尺度) / GDS-15(高齢者用うつ病評価尺度)
評価用紙のダウンロード
SRQ-D 評価用(印刷用 HTML)です。ブラウザの印刷 → PDF 書き出しで、文字化けせずに配布用 PDF を作成できます。東邦大式 SRQ-D の構造をそのまま保ちながら、病棟・外来・通所で使いやすい 1 枚もののチェックシートとして設計しています。
- SRQ-D 印刷用 HTML:開く
おわりに
SRQ-D を含むうつ関連尺度は、「スクリーニング → 詳細評価 → 介入 → 再評価」というリズムの中で使うことで真価を発揮します。点数だけに注目するのではなく、生活変化やリハ介入の影響をチームで共有しながら、本人の安全と生活の質を継続的に支えていくことがゴールです。「東邦大式の自己診断チェックシート」ではなく、信頼性のある臨床ツールとして丁寧に運用していきましょう。
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よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
SRQ-D と PHQ-9 はどちらが一般的ですか?
施設や対象によって異なります。一般外来や回復期では PHQ-9 が保険診療との相性もよく普及していますが、SRQ-D も短時間で実施できるため、初期スクリーニングや経過観察には十分有用です。既存運用、職種ごとの役割分担、算定要件などを踏まえて選択してください。
学生・研修目的で SRQ-D を配布してもいいですか?
出典を明記し、原則として項目文を改変せずに使用することが基本です。院外配布や配布物への転載は、所属機関の方針や著作権の取り扱いに従ってください。授業や勉強会では、得点の意味づけやリスク対応(自殺念慮への備え)までセットで解説しておくと安全です。
在宅・通所リハでの再評価間隔はどのくらいが目安ですか?
状態変化や介入内容の変更時はその都度実施し、安定期でも少なくとも月 1 回程度を目安に再評価すると経時変化を追いやすくなります。再評価では、点数だけでなく生活状況・服薬・身体状態の変化をカルテにセットで記録し、チームカンファレンスで共有しましょう。
教育体制に不安があるとき、転職はいつ検討すべき?
うつ傾向のある患者さんを多く担当するほど、指導者やチームの支援体制が重要になります。「一人で判断を抱え込んでいる」「常に時間外で記録を書いている」状態が続く場合は、まず上司や同僚に相談し、それでも改善しなければ早めに職場環境を見直してもよいサインです。判断のチェックポイントは PT キャリアガイドの注意サイン一覧も参考にしてみてください。


